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ダークエルフ忍法帖~津軽弘前女騎士始末~迫る氷河期ぶっ飛ばせ  作者: 上梓あき
第二部 八兵衛、江戸へ行く 元禄十四年(1701年)四月~五月
63/131

29、八兵衛、仇討ち姉弟に出会う。(上)


長いので三分割



(しょう)さん。どうかしましたか?」


「……この先で待ち伏せている者達がいるようだ」


あたしの問いかけに視線をそらすことなく晶さんが答えた。

海道は道の先にある丘の狭間に向かって伸びている。


「待ち受けている者らの気配から見るに我らを狙っておるようだ。

 数は十一。気配から読み取るにあちらに弓はなさそうだ。

 素人崩れの野盗の類いのようだが、油断はするな。

 八兵衛はわたしの後ろに居ろ。碧どのはお蘭が守れ。

 半蔵と牛若は前を、呂久之輔(ろくのすけ)殿は後ろを頼む」


「……相分かった」


呂久之輔(ろくのすけ)さんが刀の柄に手を添えながら言う。

半蔵さんと牛若さんが前に出た。

気付かれたことを悟った野盗の群れが物陰から姿を現し、押し出してくる。


「あの、やっぱり殺生は……」


逡巡の後に碧さんが口を開いた。


「いいだろう。捕まえたところでどうせ獄門だが、碧どのの言う通り生け捕りとしよう。

 半蔵、牛若、できるだけ生きて捕まえろ。だが、危ういのなら仕留めても構わん」


「……承知」


視線を動かさずに二人は答える。


呂久之輔(ろくのすけ)殿も」


「うむ。それでいい」



駆け寄る野盗を待ち受ける。

野盗は刃物を抜いた。

そのまま半包囲の態勢に入ろうとする。


「鶴翼の陣……」


「あれは講釈師が(こしら)えた作り話だがな」


あたしのつぶやきに(しょう)さんが言葉を添える。


鶴が広げた翼に半蔵さんと牛若さんが喰らいついた。

半蔵さんは突き出された刃を避けてその腕を取る。

すかさず引き寄せて肘を顎に打ち込むと野盗はその場に倒れこんだ。

みるみるうちに二人によって翼が折られていく。



「うぉらあぁぁぁぁ」


焦った盗賊が中央突破を狙って二人がかかりであたしに向かってきた。

晶さんが前に出るとすれ違いざま両手で手首を掴んで二人をひねり上げる。

賊二人が地面に倒れ込むとそのまま鳩尾を足で踏んで黙らせる。

最後の一人は背後に回って碧さんを狙ったが、呂久之輔(ろくのすけ)さんが投げ落として終わらせた。



意識を失った野盗が地面に落ちている。

襲撃はあっという間に片付いた。


「さて、こやつらをどうするかな」


晶さんが口を開く。


「役人の突き出すのが常道ではあろうが、まだ残りがいるかもしれん。さっさと吐かせて盗人宿(ぬすっとやど)を押さえるべきだ」


「では、起こすとするか」


呂久之輔(ろくのすけ)さんの意見に首肯して、晶さんが賊の一人を起こす。

目覚めさせられた賊は少しの間呆けていたが晶さんを見て身を固くした。

得物(えもの)を探してだろうか、懐に手を入れて中を(まさぐ)ろうと手を動かす。


「お主の探しているのはこの金の匕首(あいくち)かな。それともこの銀の匕首であるかな」


言いながら男の匕首(あいくち)を顔の前でチラつかせると、いきなり無言で拷問を始めた。


(以下自主規制)


野盗が声にならない悲鳴を上げるのを見て碧さんが顔を強張らせる。


「さて、どこまでもつかのう。

 正直なところ、わたしとしてはお主が黙っていてくれる方が喜ばしいのでな。

 ここは一つ素直になって、わたしと共に男の身体の神秘を調べ尽くしてみようではないか」


心の底からの喜色を(あらわ)にして晶さんが華が咲いたような笑顔を見せる。


「なぁ……お主」


たまらず野盗は自供した。




盗人宿とは盗賊が寝泊まりしたりする拠点というかアジトのことで、

盗賊を専門に宿泊させている宿屋業者の意味ではない模様。

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