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ダークエルフ忍法帖~津軽弘前女騎士始末~迫る氷河期ぶっ飛ばせ  作者: 上梓あき
第二部 八兵衛、江戸へ行く 元禄十四年(1701年)四月~五月
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15、八兵衛、聖女に出会う。

今回から登場する聖女に違和感を感じる人がいるとは思いますが、次回か次々回でネタが割れる見込み。



翌朝、大谷(おおや)宿を出たあたし達は気仙道(けせんみち)を南に下って小泉宿を抜けた。

昼にはまだ早い、海からの日差しを浴びて海道(かいどう)を歩いていると、前方から男女の言い争う声。

近付いてみるとそれは柄の悪そうな駕籠(かご)()き二人組が村娘と(おぼ)しき少女を相手に押し問答をしている場面だった。


「そんな……。戻り駕籠(かご)だっていうのは嘘だったんですか」


「ああ、確かに戻り駕籠だな。もっともそれはお前ェを送ってからの話だけどな」


絶句する村娘を見てにたりと笑った男二人が少女ににじり寄る。

村娘は年の頃は15歳くらいだろうか。

娘は身窄(みすぼ)らしい身なりをしてはいるものの、どことなく気品のようなものを雰囲気として感じさせた。


「悪いことは言わねぇ。このまま送って欲しかったら五両払いな」


「そんなの無理です。そんなお金なんて手許にありません」


言葉を詰まらせた少女が両手を口元に宛がい、震えるような声を絞り出して俯く。


「へへっ。じゃあよ……」


駕籠(かご)()き二人が(やに)下がった笑顔で少女に迫った刹那、顔を上げた彼女は(まなじり)を決して見つめ返す。


「お願いします。戻って父にこの薬を渡さないといけないんです。だからどうか」


頭を下げて懇願する少女の腕を駕籠(かご)()きが掴んだ。


そのまま道を外れて藪の中へ連れて行こうとする。


「五両払えねぇってんなら、その身体で払って貰おうじゃねぇか」



「それでも足りなきゃ宿場女郎だァ。兄貴ぃ、オラぁ、金髪のおなご(・・・)とするのは初めてなんでェ」


腕を掴んだ駕籠(かご)()きの相方はそれを見て面白がって囃し立てる。


「ああ、金髪の女子(おなご)とするのは(オラ)も初めてだ」


少女を掴まえたまま、兄貴と呼ばれた方が器用にも自分の褌を外してみせた。


……そんな場面を見ていてあたしは気分が悪くなってきた。

思わず飛び出そうとするあたしと南部の女騎士呂久之輔(ろくのすけ)(しょう)さんが止める。


――わたし達は水戸の御老人ではない。


(しょう)さんの目がそう語っていた。


唇を噛む。



「駄目です。そんなことをしてはいけません」


悲鳴を上げた少女は捕らわれの身にも関わらず、気丈にも二人を諭そうとする。

その声に恐怖は確かに混ざってはいたが、少女の声はどこまでも澄んで綺麗なものだった。


「連れ無ぇことを言うなって」


兄貴と呼ばれた方の男の手が少女の股間に伸びる。


「お願いです。やめてくださ……きゃあっ」


少女の哀願は途中から悲鳴に変わった。

見れば弟分の方が娘の懐に手を入れて(まさぐ)ろうとしている。


「お願いします。正気に戻ってください。

 夫婦(めおと)でもない男の人とこういうお付き合いをするのは決して許されません。

 私だけではなく、駕籠(かご)()きさんも不幸になってしまいます」


「何言ってやがる。こんな上玉の金髪娘で果てられる(オラ)たちは随分と倖せ者じゃねえか。なぁ」


「違ぇねえ」


兄貴の問いかけに同意した弟分が恍惚とした表情でよだれを垂らし笑い出す。釣られるように兄貴とやらにも笑みが浮かぶ。


「そんな……」


息を詰まらせた少女は運命に抗うかのように声を上げた。


「許してください。

 お願いします。

 夫婦(めおと)になるまでは守らないといけないんです。

 ……こんなことは絶対に許されません」


少女は抵抗できない姿勢のまま、男二人を諭そうと言葉を続けた。

(しょう)さんの雰囲気が変わる。

あたしの肩を掴んだ手から力が抜けた。


「待ちなさいッ!!」


駆け出したあたしは声の限りに叫ぶ。

駕籠(かご)()き二人は少女を虜にしたまま、駆け寄ってくるあたし達に身構える。

あたしの背後を見た駕籠(かご)()きはにいっと笑った。

自分以外は女しかいないからか。



「天下の往来でお前達は一体何をしておる」


酒手(さかて)を払わずにただ乗りしようっていう太ぇ客におしおきしようってだけで。へぇ」


あたしに追い付いた呂久之輔(ろくのすけ)が居丈高になって詰問すると兄貴分が下手に出た。


「ちがいます。私は二分で良いって聞いたから乗ったんです」


「と、斯様(かよう)にこの娘は()っておるがどうなんだ」


「へ、へぇ。この娘には嘘を吐く癖がありやして……」


駕籠屋の兄貴は汗を掻きながら答える。


「ほう。どうしてそのようなことがお前達にわかるのだ」


呂久之輔(ろくのすけ)が腰を落としながら問うと駕籠(かご)()き二人は深々と頭を下げた。

そして夫々(それぞれ)に謝罪を口にする。

南部の女騎士はその言葉を軽く受け流して問いかけた。


「その言葉は私ではなく他に向けるべき相手が居るのではないのか」


()われた二人は少女に向き直るとばつの悪そうな表情で謝る。


「この(たび)のことは忘れます。

 気にならないと言えば嘘になりますが、

 ……それでも、私はこのことは忘れます」


硬い口調だったけど、

紅潮した頬を震わせながらも、

この金髪の少女は断々固(だんだんこ)として、そう、言い切った。



今回の話の流れをどうするかではさんざん悩みました。

ストック使い切りそうな七月頃から五か月以上悩み続けてようやくこの形に収まった次第。、

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