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ダークエルフ忍法帖~津軽弘前女騎士始末~迫る氷河期ぶっ飛ばせ  作者: 上梓あき
第二部 八兵衛、江戸へ行く 元禄十四年(1701年)四月~五月
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13、八兵衛、三陸を食べる。

更新の経緯:

今、更新しないと年を越してしまう……やるなら今でしょ!


閑話休題:

押送はたぶん明治以後の用語だと思いますが、他に適当な語を思いつかなかったので使いました。

護送もおそらくは明治以後の現代用語と思われ。



その後、仙人峠を下ったあたし達は女騎士が捕縛した山賊を釜石まで連行した。

今年、元禄14年 (1701年)になってから釜石に設置された海辺大奉行所に賊四名を引き渡しおえると女騎士呂久之輔(ろくのすけ)は「ほぅ」と息をついた。


「何度やっても咎人(とがにん)押送(おうそう)は本当に疲れる」


「まったくだな」


女騎士呂久之輔(ろくのすけ)のつぶやきに晶さんも同意する。


「こんなことを言ってはいけないが、正直、今日は私も疲れた。

 早々に宿を取って、どこぞで三閉伊通(さんへいどおり)の美味いものにでもありつきたい」


「ではどこかよさそうな所を見つくろって夕餉(ゆうげ)にいたしましょう」


牛若さんの言葉に全員が頷く。


その後、あたし達は海辺の料理屋で三陸の美味いものを満喫したのはいうまでもなかった。

具体的には地場の高級珍味の一つで、平成日本だと市場に出回らず高級料亭直行な食材のマツモ(松藻)の酢の物とかチカの塩焼きとかキチジとかいう魚の煮付けなどなど。

あたしが特に気に入ったのはマツモの酢の物で、見た目は松の葉っぱみたいな海藻なのにやわらかいぬめりとシャキシャキした歯触りが特徴があって味も最高。

さすが高級食材。



翌朝、釜石の宿を発ったあたし達は三陸沿岸の海辺道(うみべみち)を南へと下った。

宿から一里ほど歩いた先に領境を守る南部側の平田(へいた)番所があった。

南部側の番所は女騎士呂久之輔(ろくのすけ)の職権で素通りしてあたし達は領境となっている石塚峠に向かう。


「ここまでの番所は私の力で素通りさせたが、この先の番所は仙台領のもの。

 これから先の関所はどうやって抜けるつもりかな」


峠へと向かう途上で女騎士呂久之輔(ろくのすけ)があたし達に問う。


「うむ。わたし達は座付きの戯作者(げさくしゃ)で噺家の八兵衛について回っている一座の者だ。

 牛若と蘭が三味線と太鼓、わたしは排簫(はいしょう)をやる」


そう()って晶さんが胸元から取り出したのは竹でできたパンフルートだった。

ためしにと少し吹いてみせてくれた。笛の音が広がる。


「わたし達のことはいいとして、お主の方はどうするつもりなのだ」


「私か? 私は南部家の女騎士として関所を通るまでだ」


女騎士呂久之輔(ろくのすけ)は真紅の南蛮胴の中に手を入れて中を(まさぐ)ると道中手形を取り出して見せた。


「……そういえば半蔵さんは」と言いかけるあたしの横を越中富山の薬売り姿で半蔵さんが通り過ぎていく。


「半蔵は水戸の御老人(・・・・・・)について回っていたりもした分、旅慣れておるからな」


晶さんが半蔵さんの後姿を見やりつつ教えてくれる。

あたし達は関所での出し物の打ち合わせをしながら石塚峠を越えて仙台領の気仙郡唐丹(とうに)(むら)に入った。

一緒にいるくノ一三人は音曲の名手で、あたしの口三味線(くちじゃみせん)でお囃子のニュアンスを聞き取るとすぐに演奏に反映させてくれたので助かった。


目の前に伊達家の本郷番所がある。

先を歩く女騎士呂久之輔(ろくのすけ)が南部家の道中手形を見せてさっさと素通りしていく。

半蔵さんも先に関所を抜けたようだ。

あたしは晶さんたちにハメモノをやってもらい、二階(ぞめ)きを口演して関所を通る許しを得る。


二階(ぞめ)きの「(ぞめ)き」とは浮かれ騒いだり、遊郭や夜店などを冷やかしながら歩くことを意味していて、

そこから転じて冷やかし客そのもののことを指すようにもなった。

落語のネタとしては吉原狂いの若旦那が吉原通いを親に止められた寂しさから家の二階に吉原を作って冷やかして歩くという、頭山(あたまやま)にも通じるようなナンセンスを売り物にしている。

たぶん、江戸の吉原が舞台というのも番所役人の興味をひいたのかもしれない。


関所を抜けて女騎士呂久之輔(ろくのすけ)と合流したら何やら彼女は残念そうな表情をしていた。


「お主の噺を近くで聞けず、何やら損をしたような気分だ」


ふと漏らした女騎士の一言に晶さんが次の機会があると()ってなだめた。

半蔵さんも合流してきて、さりげなく距離を取りながら南へと進む。

三陸海岸特有の狭い湾口の奥に小集落が点在する地形を結ぶ峠道の上り下りが続いてる。

鍬台(くわだい)峠を越えると吉浜湾の集落、吉浜の集落を西へ抜けて越喜来(おっきらい)の先にある生江(なまえ)峠を下って(さかり)宿(しゅく)宿(やど)を取った。

その翌日に(さかり)宿(しゅく)を発つ。

いい加減にあたしはリアス式海岸の曲がりくねった道に飽きがきている。

ペロポネソス半島なんかもこういった地形だったから、古代ギリシャでは陸路よりも海上交通の方が発達していたとかいうこの際どうでもいい話を思い出したりした。

高田の宿場を抜けて、近在では栄えているっぽい気仙沼宿を素通りして大谷(おおや)宿に入る。

こんな風に三陸の海の幸を満喫して眠りに就いたあたし達だったが、翌日、思わぬ出来事に巻き込まれることになった。


そして、この出来事の余波がその後の日本の歴史に更なる影響を与えることになるなどとは、

この時のあたしは露ほども思っていなかった。



元旦中には必ず次回更新をします。

刻限は夕方以降の予定。

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