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ダークエルフ忍法帖~津軽弘前女騎士始末~迫る氷河期ぶっ飛ばせ  作者: 上梓あき
第二部 八兵衛、江戸へ行く 元禄十四年(1701年)四月~五月
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2、八兵衛、ノルディックを教わる。



「……あんっ!……ああん~っ!!」


「そりゃ、そりゃ、そりゃ」


晶さんに散々たっぷりとかわいがられたあたしは筋肉痛になってしまい、蘭さんにマッサージしてもらっている。


「ここがええんか~。ええのんかぁ~?」


「……いいのっ!……いいのっ!……気持ちいいのっ、あはぁんっ!!」


「……うるさいぞ八兵衛。庶民の女子(おなご)が出すようなおかしな声であえぐな」


我慢ができなくなった晶さんが、足音を立ててあたしに近寄り、治癒魔法を掛けた。

脇に避けた蘭さんがにやにやと笑いながらあたしの方を見ている。


「まったくお前達は何をやっているのだ?」


野辺地行きの時のホモ談義であたしと蘭さんは意気投合してしまった。

ウマ(・・)が合うというのだろうか?

何となくだけど互いにお互いが気の置けない相手だということがわかってしまう。

お互いに相手が異性だということはわかっているけれど、

蘭さんとあたしの関係性に「性」という要素を混ぜ込んでしまうのは、

極上のコニャックに泥水をぶち込むようようなものとしか感じられなかった。

あたしに言わせれば、「性」という要素の入り込む余地の無い異性の親友は人生で最も大切な宝物だと思うから、

正直、そんなのはものすごく不純なことだと思う。

蘭さんは晶さんよりは小柄で丸顔っぽい、ショートカットの栗毛で、まるで鞠が跳ねているような雰囲気の明るい人だった。

たぶんその明るさは蘭さんが芯の強い人だからなんだと思う。

智慧とか思慮とかがあって、き○ぎょ注○報のわ○こっぽい感じって云えばぴったりくるかな?



晶さんの問いかけに、思わず二人揃って「遊んでます」と言ってしまった。


「あらあら」


牛若さんが笑う。

半蔵さんは明日の準備をしている。

あたしと蘭さんも明日に備える。




「ふぁ~っ……」


翌朝、晶さんに引率されてお城の馬屋へと向かうあたしは欠伸(あくび)を噛み殺しながら歩いていた。

夏至まであと一ヶ月足らずのせいもあり、早朝だというのに空は既に明るい。

お城の門番も欠伸を噛み殺しながらあたし達を通してくれた。

ご先祖様の役宅へ先ず(まず)は向かう。ご先祖様はすでに朝餉(あさげ)を終えられてあたし達を待っていた。

この時代にあたしが持ち込んだ一切をご先祖様に預かってもらう。

ご先祖様は長持(ながもち)に仕舞って土蔵に入れておくと云った。


御馬屋からは馬を四頭出した。お城の外に出てから騎乗する。

晶さんが鞍上からあたしの手を引いて馬上に引っ張り上げた。

あたしが晶さんにぴったりとしがみ付いた時には蘭さん達も馬上の人になる。

晶さんを先頭にして並足で進む。

浅虫の本陣に一泊すると、翌日の昼には狩場沢の口留番所(くちどめばんしょ)に着いた。

番所に馬を返して徒歩で領境を越える。

馬門(まかど)の番所にはこの前の女騎士が待ち構えていた。


「……三日ぶりだな」


真紅に染め上げられた女騎士の南蛮胴が鮮烈な色を見せていた。


「我々の見届け役とはご苦労なことだな」


晶さんがからかうように云う(いう)と女騎士はむっとする。


「我が南部領で裏切り者の津軽の好き勝手にはさせられん。ついて来い」


そう云って歩き出す。


「八兵衛、これを使え。お前はまだ我らほど健脚ではないからな」


晶さんにまっすぐな長い木の棒をを渡された。

棒の握りらしき部分には人の指の形に合わせて浅い窪みがつけられている。


「杖……ですか?」


「使い方を覚えれば倍の速さで歩ける上に左程(さほど)脚は疲れん。

 歩き方を教えるので覚えておけ」


晶さんがつきっきりで教えてくれたのはノルディックの歩き方だった。


「忍びは早さが命だからな。我らの名である、早道之者もそこから来ている。

 杖を脚代わりにすれば四本足で脚二本の倍となる。

 身体のすべてを使って歩くことになるから疲れはするが四本脚で獣並みだ」


そう云って晶さんは実際にやってみせてくれた。

杖二本を使っての全力疾走は人とは思えないほどに早い。

あっという間に街道の稜線までたどり着いて見せた。



「ざっとこんなものかな」


追いついたあたしに晶さんはちょっと誇らしげな顔をしている。


「――まあ、ここまでは出来なくても慣れればそれなりの早さでは歩けるようになるだろう」


昔の人は健脚だったというけれど、杖の存在も大きかったんじゃないとあたしは思った。

21世紀じゃ杖はお年を召された方専用ってイメージがあるけど、

今、こうやって街道を見渡していると老若男女関係なく旅人は杖を使っているし。


「八兵衛もやってみるがよい」


実際に歩いてみると背筋をかなり使うから、全身の疲労はあるけど足腰にかかる地面からのショックは少ない。

普通に歩くのと違って全身が熱くなる。


「慣れれば汗も掻かなくなる。八兵衛、それまでの辛抱だ」


横を歩く晶さんに声をかけられた。



「……お前達二人は近しいのだな」


南部の女騎士が感心したようにつぶやいた。


「わたしは八兵衛の守り役(もりやく)であり師匠だからな」


晶さんが胸を張って断言する。

ああ、さいですかという感じの女騎士。


「話は変わるが弥栄殿。

 弥栄殿らが追っていた忍びの死体が見当たらんのだ……」



今夜八時過ぎに更新予定。

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