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ダークエルフ忍法帖~津軽弘前女騎士始末~迫る氷河期ぶっ飛ばせ  作者: 上梓あき
第一部 八兵衛、江戸時代に巻き込まれる。
33/131

25、八兵衛、くノ一忍法を目撃する。

今回で敵味方のメインキャラが揃いました。

明日は午前七時更新予定。



月が雲に隠れ、草木も眠る丑三つ時に馬門(まかど)を出たあたし達は南部家間盗役(かんとうやく)の先導で天魔舘(てんまだて)に向かった。

先導するのは南部の女騎士。

九戸の乱当時、天魔舘(てんまだて)を宰領していた七戸(しちのへ)家は、女騎士の久慈家共々九戸政実(くのへまさざね)方だったことからこのあたりの土地勘はあるのだという。


丘陵地の陰になった場所に公儀隠密の隠れ家はあった。間盗役(かんとうやく)の者達が稜線に隠れて観察する。

体調を整えた後で手短に打ち合わせを済ませ、彼らは丘を駆け下る。抜刀して先陣を切るのは南部の女騎士。

音を立てずに接近する。


「八兵衛、蘭、牛若、我らも行くぞ」


月明かりのない中を忍び装束の蘭さんと牛若さんが若衆姿の晶さんを追っていく。あたしもはぐれないように急いだ。


あたし達が隠れ家に近付いた頃にはもうすでに斬り合いは始まっていた。

敵の数がちょっと多い。ざっと見て15人ほどいるように思えた。

公儀隠密の伊賀者が餓えた獣のように目を爛々と輝かせて白刃を振るう。

意外と手練れ(てだれ)が多いようで間盗役(かんとうやく)の人達も梃子摺って(てこずって)いるようだった。


「これは手出し無用という訳にはいかぬようだな。

 蘭、牛若、我らも参るぞ。八兵衛はわたしが守る。

 八兵衛、わたしから決して離れるな」


瞬間、あたしに飛んできた手裏剣を晶さんが居合いで撃ち落とした。

蘭さんと牛若さんが抜刀して手近な相手と切り結ぶ。


周囲を見渡すともう乱戦状態だった。

蘭さんと牛若さんは間盗役(かんとうやく)の人達の支援に回っている。

南部の女騎士はというと三人の伊賀者を相手に余裕で大立ち回りをしていた。

晶さんはというと言葉通りにあたしの護衛に徹している。

彼女は息一つ乱さず流れるように動いていた。まるで箸の上げ下ろしをするようにごくごく自然な動作で。

三つ編みに結った金髪が肩口でほとんど揺れていない。


形勢不利と見た公儀隠密の生き残りが散り散りとなって逃げ出していく。

殲滅せんと追いすがる間盗役(かんとうやく)のあとを追ってあたし達もついて行く。


「蘭、わたしから見て右手のやつを追え。牛若はわたしに続け。八兵衛も遅れるな」


晶さんの指示でお蘭さんが離れていく。

あたし達は残りの隠密を追った。

苦無が飛んでくる。

牛若さんが弾いた。

晶さんが小柄(こずか)を打つ。木に刺さる。

カンと音がして木の枝が隠密の足元に落ちた。

忍びの注意が一瞬それる。

その隙間を見逃さずに牛若さんが肉薄した。

刃が交わされ二人はすれ違う。

晶さんとあたしが追いつく。

隠密があたしに苦無を投げる素振りを見せると晶さんがあたしを庇うように前に立つ。


あたし達の様子を観察した伊賀忍者はにやりと笑い、時折、あたしを狙う素振りを見せた。

晶さんも伊賀者を牽制する動きをするけど、ほぼ、牛若さんが一人で相手をしている状況に近い。

公儀隠密の剣の冴えは牛若さんよりも上だ。身体の軸がまったくブレないから彼女も攻めあぐねているように見えた。

徐々に牛若さんが追い込まれていく。


「牛若さん、押されてますね……」


あたしの感想とは裏腹に晶さんの態度は落ち着いている。


「……どうやらここまでのようだな。

 やられた相手の名も知らず、死に逝くのも不憫ゆえ、冥土の土産に聞かせてやろう。

 俺の名は霞の才蔵。この名を聞いて迷わず地獄に落ちるがよい」


牛若さんの動揺を誘うためだろうか、にたりと笑った公儀の忍びが低い声で話しかける。


「あらあら、これはこわいこと。私は牛若と云いますわ」


押されているにもかかわらず、牛若さんは余裕の構え。

何かあるんだろうか?


牛若さんが刀を逆手から順手に持ち替える。

霞の才蔵は正眼に構えて動かない。

二人は間合いを探るようにしている。


「……Pectus!!」


牛若さんが叫ぶと才蔵の胸が突然、光りだした。

みるみるうちに光は強くなっていく。あたしは思わず観察した。

見ていると才蔵の忍び装束の合わせ目が徐々に膨らんでいき、ついには胸を肌蹴(はだけ)させる。



霞の才蔵という男の胸から巨乳が生えていた。

生えていたとしか言いようがない。


大きかった。


それはもう、大きかった。


別にあたしは胸の大小に大した興味もないけれど、


それでも、


大きかった。



霞の才蔵はこの異常事態に慌てはしたもののすぐに冷静さを取り戻すが、牛若さんはにやりと笑った。


あたしは今、混乱している。


「落ち着け、八兵衛」


晶さんがあたしの肩をゆすぶった。


「あれはダークエルフのくノ一が忍法『ちちもたせ』だ。

 あの忍法を受けるとどんな男でもとんでもない大きさの胸の持ち主となる」


「え!?」



一気に形勢は逆転した。

身体を動かすたびに大きな胸が揺れるせいで霞の才蔵は体の軸が乱れる。

牛若さん以上の剣術の腕前も、突然生えた胸の膨らみに足を引っ張られている。

霞の才蔵は突然に変わった身体のバランスに対応できていない。

決着はいとも簡単に付いた。


牛若さんはただの一言、

「これも経験の差ですわ」と云って涼しい顔でその赤毛を掻き揚げて見せた。


晶さん曰く、

「揺れる球が四つではバランスが取りにくかろうて。

 ここは女としての経験の差が勝負を分けた」って……


忍法「ちちもたせ」

ごく一部を除いた普通の男にとっては怖い忍法かもしれない……



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