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ダークエルフ忍法帖~津軽弘前女騎士始末~迫る氷河期ぶっ飛ばせ  作者: 上梓あき
第一部 八兵衛、江戸時代に巻き込まれる。
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23、八兵衛、腐る。

今回で主人公側のメインキャラが全員揃いました。



翌朝、兵は拙速を貴ぶということで、すぐに動くことになった。

お城の馬屋から馬を三頭借りてくる。


「掴まるがよい」


差し出された手を掴む。

鞍上(あんじょう)にいる若衆姿の晶さんがあたしの手を掴んで馬上に引き上げた。

晶さんのお腹に手を回して両手でホールドする。あたしの目の前に彼女のうなじがある。

(はた)から見たらどう見えるだろうかと思った。

西暦2010年代だったら事案発生扱いなのかもしれない。

16歳の少女を大の男が背後から抱え込んで抱きついているように見えるんだろうなぁ。


「手を離すでないぞ、八兵衛。では、父上、行って参る」


晶さんが声をかけると馬が歩き出す。

先行するのは蘭さんの馬で、殿(しんがり)に牛若さんがつく。

蘭さんと牛若さんも若衆姿で、あたしはというと人間国宝の桂歌丸師匠みたいな格好をしていた。

速歩で馬は進む。蘭さんは軽快に乗りこなし、牛若さんは大きな胸が揺れて乗馬してるのも大変そう。


「案外と酔わないですね」


側対歩(そくたいほ)だからな。騎射をするにはこちらの方が揺れが少ないので都合がいい」


「――そうだ、八兵衛。お主、痔にだけは気をつけておくようにせよ。痔は騎士の見えざる敵だからな」


晶さんがからからと笑う。


「馬上での上下動がお尻に響くということですか?」


「ああ、脳天まで一瞬で大きな針に貫かれるような痛みだぞ。

 (ついで)に言うと、痔は文字通り病だれ(・・・)に寺と書くように、仏教の寺とは深い関係がある。

 だから八兵衛、お主も衆道(すどう)の趣味はほどほどに――」


「ありませんっ!!」


ホっ……ホモだなんてとんでもないっ!

上野の駅前にホモ映画館があったり、あのあたりがホモのハッテンバだったりするのは、

元々、あのあたりの陰間茶屋(かげまじゃや)で上野近辺の寺の若い僧が遊んでいた歴史に由来するってことは知ってるけど、

あたしにそんな趣味はありませんからっ!!


「ほう。やけにくわしいではないか」


晶さんはにやりと笑う。


「ちーがーいーまーすーっ! 落語の勉強をしてて憶えただけですっ!! 」


「わかった。わかったから八兵衛。わたしよりも高い声で怒鳴るな。耳が痛くてかなわん」


牛若さんが馬足を速めてあたし達に並ぶ。牛若さんはくすくすと笑って言った。


「八兵衛さんはお嬢様とは仲がよろしいのですね」


「うむ。わたしは八兵衛の守り役であり師匠であるゆえな」


「はい。はい」


ここからしばらくの間、大釈迦峠を越えた頃合まで、蘭さんも混ざっての、くノ一三人にあたしを交えてのホモ談義になってしまったのはあまり言いたくない。

ホモはいいのよ。対岸から鑑賞してるだけなら……だけど。

それにしても、後世の弟子の有様にはお釈迦様も泣いてるんじゃないかとは思ってしまう。



青森に入る。

善知鳥神社(うとうじんじゃ)横の青森町奉行所で馬を換えたあたし達は浅虫温泉の本陣で一泊する。

翌朝、ぐっすりと眠ったあたし達は馬に鞍を乗せると再び馬上の人となった。

陸奥湾を左手にして夏泊半島の基部にあたる峠を越える。

国境(くにざかい)を守る狩場沢の口留番所(くちどめばんしょ)には昼過ぎに到着した。

番所に馬を預けて津軽家側の関所を徒歩で出る。

津軽側にある藩境塚の間を抜けると目の前に国境の二本又川(ふたまたがわ)が流れていた。

川を挟んで南部側の藩境塚が二つ並んでいる。


南部家の馬門(まかど)番所では一昨日に会った南部の女騎士が待っていた。

赤い南蛮胴に具足を着けて仁王立ちで腕を組んでいる。

女騎士はあたし達をみると仕種でついて来いと云って歩き出す。

番所の役人が女騎士に「いいのか」と問うと「構わない」と答えていた。

どうやらあたし達は馬門(まかど)温泉に行くらしい。

晶さんが野辺地で一緒に温泉に入ると云っていたのを思い出す。


温泉には南部家間盗役(かんとうやく)の人達が待っていた。

総勢で12名ほどだろうか。


「もう承知のこととは思うが、私は南部家家中の者で久慈呂久之輔(ろくのすけ)

 この度御目付方(おめつけがた)から御役替えで間盗役になった。現地まで同道する」


「わたしは弥栄大吉(いやさかだいきち)、連れの者は蘭と牛若、それに戯作者で噺家の八兵衛。

 此度の件ではわたし達が津軽家側の見届け人となる」


南部の女騎士が名乗りで嘘を言うなと睨んでいるけど、晶さんはそ知らぬ振りをしている。

打ち合わせが始まった。


「……敵は江戸から入ってきた伊賀者の公儀隠密が10人。天魔舘(てんまだて)に忍んでいる。

 南部領にいる公儀の草によれば『今回の件は我らとは何の関係もない』とのことだ。

 すべて斬り捨てても関知せぬとも言っている」


「――襲撃は払暁(ふつぎょう)とする。私からは以上だ」


女騎士がそこで言葉を切った。



第二部は弘前から奥州街道を歩く江戸下りの道中記になる予定なんですが、

岩手宮城福島の名所旧跡人物、元禄期からの名物とかで題材になりそうなものがないかと探している途中です。

飛び地の津軽藩領が群馬県太田市尾島にあるので太田には行かせようかなと思ってます。

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