08 話は聞いた!ギーネの財布は滅亡する
町外れに向かっている途中、カインが道路を歩いていると路傍から怒鳴り声が聞こえてきた。
視線をやると、如何にも荒んだ雰囲気を漂わせた皮服の男たちが、スラムの住人と思しき若い男女を囲んで恫喝していた。
「見せびらかしている心算か?女連れでいい気になりやがって!」
革服たちは口々に罵りながら、容赦なく青年に鉄拳を振り下ろし、泣き叫んでいる娘の体を押さえつけている。
「……やめろ。やめてくれ」
青年は叫んでいたが、腹部に強烈な蹴りを喰らうと、のた打ち回って反吐を吐いた。
悲鳴を上げた娘が抑えていた男の隙を付いて腕を振り払って連れ合いの元へと駆け寄り、懸命に許しを請うが男たちは容赦しなかった。
「誰か!誰か助けて!」
地に伏せた男が顔を上げた。立ち止まったカインと視線が合った。
絶望に濁った暗い瞳を見つめて、カインの心が震えた。
周囲の人々の、咎めるような視線に気づいたのだろう。
「なにみてやがる!」
革服の一人が喚き散らすと、カインは慌てて視線を逸らし歩き出した。
あの男たちは、他所からやって来たハンター崩れの徒党だった。
黒影党と名乗って、黒い革服をトレードマークにしており、最近、とみにスラムで勢力を増しているとは耳にしていたが、どうやら噂は本当のようだ。
まともに変異生物を狩るよりは、弱い者を食い物にする方が楽な生き方なのだろうが。
残念ながら、ハンターのうちにはそうやって身を持ち崩す人間が、少なからず存在していた。
毎日、変異生物と殺しあって身も心も荒んでいる人間の集団に、仲間もいない普通の自由民が中々に対抗できるものではない。
珍しくもない話だ。それに俺にはどうしようもない。
リサやメルの面倒を見ないといけないんだから。
「……ハンターの屑か」
小さく呟いて走り出したカインの背後を、悲鳴が何時までも追いかけてくる。
カインは、町の外れに位置している地下水路の入り口に辿り着いた。
昔の地下鉄の駅にも似たコンクリート製の地下水路入り口では、両脇の椅子に座って二人の自警団員が怪物が出てこないか見張っていた。
コンクリート製の入り組んだ地下水路には、数多の変異生物が棲息して独自の生態系を築いているとも言われていた。
過去に何度か、人喰いアメーバやお化け鼠の群れが町へと迷い込んだ事があるらしい。
実際にお化け鼠の大群が溢れ出たりしたら、たった二人では時間稼ぎも糞もない。何も出来ないうちに骨になってしまうに違いない。
そう思いながらカインが地下水路へと歩み寄ると、クロスボウを手にした自警団員が口を開いた。
「入るのか」
狩りは、間引きの一種として推奨されている。
カインが肯くと、小さな机の上にあるリストを顎で杓った。
「名前を書け。時間もな」
書かれた名前を確認しようとリストを手に取った自警団員が、顔を顰めた。
「おい。三日前の四人組、まだ一人も帰ってきてないぞ」
「またかよ。食い詰め共も哀れなもんだな」
嫌な話をしてくれるな。
子供を脅かそうという意地の悪い魂胆なのか。
其れともただ単に消息不明者が出ているのか。
カインにはどちらでも構わない。やることが変わる訳でもない。
背負っていた手槍を構えなおすと一段、一段と階段を降りていった。
階段を降りきるとコンクリートの廊下が何処までも続いているようにも見えた。
水の流れる、さああという音が何処からか聞こえてくる。
ひんやりした、その癖、湿気を含んだ空気が漂っている中、微かに恐怖と死の気配が感じられた。
町の農業を支える浄水施設は、同時に人食いアメーバやお化け鼠、蟹虫にとっての格好の住処でもあった。
カインが今までに狩った事があるのは、子供のお化け鼠。
まだ甲冑の白い巨大蟻、そしてグリーンジェルと呼ばれる草食性のアメーバ程度であった。
曠野に比べて体が小さいといわれる地下水路で、その時にはマギーが一緒にいた。
前に潜った時に比べて、やけに広く感じた。体は成長している筈なのに。
壁に埋め込まれたライトが薄ぼんやりと闇の彼方を照らしていた。
息を吐くと、カインはゆっくりと歩き出した。
水路脇のコンクリートの歩道は、ぬるぬるとした奇妙な光沢の液体に覆われて滑りやすくなっている。アメーバの体液だの、巨大蟻の分泌液だの言われているが詳細は不明であった。
途中、水路を挟んだ反対側の歩道を疲れた表情をした三人組のハンターが、肩を支えながら歩いてくる姿とすれ違った。
怪我をしている様子で一人は頭部に血の滲んだ包帯を巻き、もう一人は腕がシャツ諸共、ずたずたに切り裂かれている。
「……もう少しで階段だ。頑張れ」
そんな励ましあっている声を耳にして、口元を撫でる。
地下水路も入り口付近にはお化け鼠や蟻、アメーバ、蟹虫が彷徨っている程度であるが、、奥に行くと巨大化したアメーバや変異蜘蛛、それに半漁人や鼠型ミュータントなどが住み着いているという噂もあった。
特に巨大アメーバは、遭遇して生きて帰った者はいない。
何時だったか、家にギイ爺さんがやって来た時。
マギーと酒を飲みながら、爺さんはそんな噂を口にした。
……あはっ、笑える。耄碌したね。爺さんも。
遭遇したハンターが残らず死んでるなら、どうしてアメーバがいるって分かるの?
そんな風に言ったマギーを、爺さんはじっと見据えてから、ぼそぼそと呟いた。
痕跡さ。奥のエリアのコンクリートの床に、巨大なアメーバか、ナメクジが這ったような体液の巨大な痕跡が残されていたんだ。
その時に俺と仲間たちは引き返したから、ナメクジなのか、アメーバなのかは分からん。
結局、後を追った他の連中は一人も帰ってこなかった。
不機嫌そうに鼻を鳴らしてから、マギーは考え込んだ。
深く潜れば潜るほど強敵が出てくる昔のゲームでもあるまいに。
……人の抱く感情のうちで、もっとも強いものは未知への恐怖だと言われている。
恐れが怪物を作り出すこともある。だから私は、この目で目にしたものしか信じない。
マギーを見た爺さんは、それもいいな。って言って笑っていた。
なんで、今、そんな事を思い出すんだろう。
追憶に耽っていたカインの間近で、何かが軋むような不気味な音がした。
同時に奇妙に生臭い香りが鼻を突いた。
深層意識からの警告か。
無意識のうちに足が止まり、警戒するようにカインは僅かに腰を落としていた。
瞬間、凄まじい悲鳴が水路に反響して背筋を竦ませた。
何処から!横!水の中!
ハッと槍を構えたカインの真横の水路。激しい水しぶきが跳ね上がった。ドロドロに溶けた皮膚に六角形の口のミュータントが無数の鋭い牙を剥き出して水中から飛び掛ってきた。
それなりのお酒をそれなりの値段で提供する店というのは、ティアマットのような世界でも常に需要はあるようだ。
ゲートを越えた異世界から樽ごと輸入されたビールは、文明崩壊後の世界で流通の担い手に復権した幌馬車で町へ運ばれてきた後、輸入物の酒を多く扱う壁門近くのBARへと収まった。
「ぷはぁ。うまああい!」
粟立ったビールが並々と満たされた大ジョッキに口をつけたギルド職員の女性。
「他人の金だと思うと上手さ倍増です」
瞬く間に飲み干すと、店員に向かって空のジョッキを差し出した。
「おビール様。もう一杯!」
懇意なギルド職員を作っておくのは、無駄にはならないと思うのだ。
そうギーネが言い出した時、幾らか考えてからアーネイは賛意を示した。
懇意といっても、別に不正に便宜を図ってもらう類の癒着を望んでいる訳ではない。
法律や分かり難い手続きなどについて説明してくれたり、ギルドや町の内外の事情について詳しい伝手が欲しかったのだ。
幸い、二人には都合のいい人物について心当たりが合った。
準公的機関であるハンター協会とは言え、支部でも下っ端職員の給与は安いと聞いている。
美味しい食事で接待すれば、口のすべりもよくなるだろう。
ちなみにレオは用事があるとのことで、会館で別れていた。
「みなの衆!おビール様じゃ!おビール様が降臨なされたぞ!」
ジョッキを片手にハイテンションになっているギルド職員を眺めて、アーネイがポツリと呟いた。
「……人選を間違えたのではないでしょうか?」
「奢りだと思って遠慮なく飲むのだ。この姉ちゃん」
憮然としているギーネ・アルテミスに、眼鏡のギルド職員は笑顔で名乗った。
「シャーリーです」
シャーリーお勧めの店のメニューを眺め、記されたお値段に眉を顰めつつも、ギーネもワインの赤を啜っていた。
アーネイにとっても、久しぶりに口にしたウィスキーを目を閉じて堪能している。
「ギルドでも下っ端は、給料安いですからねー。
で、何か聞きたいことでもあるんですか?なんでも聞いてください」
笑顔を浮かべたまま、シャーリーは三杯目のおビール様を飲み干した。
「件のマギーの身内が住んでいる地区。
あからさまに空気が違ったのですぞ。まるでスラムみたいに」
流石に四杯目のビールはややペースを落としながら、ギーネの質問を耳にしてシャーリーは肯いた。
「ああ、うん。あそこは危ないですね」
おつまみを注文してから、ギーネはシャーリーに顔を近づけた。
「他にも、踏み込まない方がいい街区とか、あったら教えて欲しいのだ」
「在りませんよ。あそこが町で一番危険で治安も悪いです」
町の事情に通じているだろうシャーリーは、事も無げに応える。
知ってる情報をもったいぶる気は無いらしいのが幸いだった。
「他は何処も適度に安全で、適度に危険」
シャーリーの言葉を聞いたアーネイは、注文したナッツ類を摘まみながら肯いた。
この時点の注文で、支払いは下手な下位ハンターの一日の稼ぎを越えている。
「……ふむ。人口が千人の町でも、スラムがあるものなのだな。
この規模の町なら、全員が顔見知りでもおかしくないと思うのだが」
不思議そうにギーネが疑問を挟んだ。
シャーリーは黙り込んだ。少し考えを纏めるように頭だけ仰向けにしてから
「んー、ちょっと長い話になりますけど……そもそもが町ひとつを防壁で囲うのが、無理のある話だったんですよ」
ギーネたちが肯いた。
「どうしたって手薄な箇所は出来ます。
なんで、大事な箇所のみ守って、幾らかは粗末な土嚢やら板切れを立て掛けたりで……」
「お茶を濁した?」
「ええ。特にあの一帯は元々、地下水路の入り口があって時折、怪物が出てくることもあって……怪物に襲われないでも、元々、防壁はぼろぼろだったんですよ」
「塞いでおけばいいのだ」
亡命貴族が当然の疑問を差し挟むが、シャーリーは苦笑を浮かべて首を振った。
「ところが、地下水路の生き物。適当に間引いとかないと面倒くさいことになるんですよね」
五杯目のおビール様攻略に取り掛かりながら、ギルド職員が事情を説明する。
「で、曲がりなりにも防壁が完成して、暫くすると他所から移住希望者がやってきました」
「他所からの移住希望者には、その場所を宛がった?」
シャーリーは無言で肯いてから、つまみに手を伸ばした。
目の前の皿から消えていくアーモンドを、アーネイが哀しげな顔で見送った。
「町の中心部でも、お化け鼠や野犬なんかに襲われて死ぬ市民はいますけど頻度が違います。
だけど、それでも皆、防壁の内側に住みたがるんですよ。
壁が脆い区画でも、曠野を当てもなく流離う生活に比べれば随分と安全ですから」
ギーネは相槌を打ち、アーネイは真剣な表情でメニューを眺めていた。
「そのうち、町の壁の外に住む人たちが現れました。
壁の外にバリケードを築き上げたんです。今の壁外区画の始まりです。
その頃には……最初に危ない場所に住んでいた人たちも他所に移り始めていたんですが」
シャーリーは、此処で少し迷ったように一旦、言葉をきった。
頭の中で言葉を整理しているのだろう。
「最近の他所からの移民だと、最初から外部居留区に落ち着くことが多いです。
で、外町にも自治会とか、規律とかが出来てきて、誰でも住める訳でもなくなって。
むしろ、滞在税を払って住民登録するにしろ、市民の経営するホテルに宿泊するにしろ、普通に防壁の中に住み続ける方が楽なくらいで……」
ふんふんと肯いている亡命貴族。傍らでは帝國騎士が食べたことのない未知のおつまみに挑戦するか否か。真剣な表情で考え込んでいる。
「で、壁の内側とも外側とも付かないあそこの区画。滞在税を払うのは嫌だし、壁外区画の自治会に入るのも面倒だというので、勝手に住み着いた人が多いです」
憤りと同時に蔑みの入り混じった口調だった。
「この町は街道の中継地だから、規模の割りに栄えていることもあって、聞きつけた人が彼方此方からやってくるんですよ」
「栄えてる?これで?」
ギーネが口を滑らせた。
「栄えてるの!これでも!」
「あ、失礼」
「まあ、ゲートを越えた異世界の人から見ればね。野蛮な辺境世界かも知れません。
わざわざ、好みの異性を海賊行為で浚ってくる物騒な出稼ぎ労働者とかいますし。
うちのお爺ちゃんとか。
でも、昔は凄かったんですよ、昔は。人口だって100億超えていて」
ぶつぶつと過去の栄光について語りながら、シャーリーは六杯目のビールを注文した。
「で、今の外町の住人は、大半が他所の町や村から出稼ぎでやってきた人たちです。
元はどこかの定住民ですね」
「ふむふむ」
流し込まれる大量のビールが、一見スリムなシャーリーの何処に蓄えられているのか。
不思議に思いながら、ギーネは安い合成オレンジジュースをちびちびと飲んでいる。
「元々、別の町や集落、居留地に住んでいた人たちが多いから、法律くらいは守ります。
小さな村でも、大抵、親が読み書きくらいは教えてくれますし」
シャーリーの言が正しいならば、教育システムは壊滅に近い状態のようだ。
「子供の頃に最低限の教育受けているだけでも随分と違います。
だけど、スラムに潜り込んだ人たちは家族単位で放浪していた人が多いです」
シャーリーの言葉の響きが変わった。暗鬱そうな、それでいて恐れるような口調だった。
「で、ここからが本題……ティアマットは義務教育がないであります」
何となく言いたい事を理解したギーネが、深刻そうな表情で顎を撫でる。
「義務教育がないとなると、親と周囲の環境が全てを決めるのだ」
「お二人は、映画やテレビを見たことは?本も読めますよね」
「え?」
アーネイには、シャーリーの質問の意味が飲み込めなかった。一方でギーネは、一瞬で問いかけの意味を理解したようだ。
「なるほど……着の身着のままで放浪していた人間。法律なんか糞喰らえ?」
「下手すると、法律の存在そのものを知りません」
お手上げとでも言いたげに手を広げて、シャーリーは首を横に振った。
「曠野で生まれ育った子供だと、字を知らないのは当たり前。
下手をすれば文字の概念も知りません。
想像力が皆無で、出鱈目に頑固。
ぶっちゃけると、別の生き物って感じです」
シャーリーが猛然と愚痴りだした。
「人間、適応力だけは凄いから、一応、町に入ったらそれなりに暮らしていけますが、何かあると爆発して、もう滅茶苦茶やりますよ。
その場その場での儲け話や目先の利益の嗅覚は、凄かったりしますけど……頭はいいけど、理性は皆無って奴も少なくないです。
知性がある分だけ性質が悪いですよ、本当」
シャーリーはため息を洩らした。
「保安官や自警団が目を光らせている限りは、大人しくしていますけど、事があったら暴動とか起こす人も多いです。
で……そういう人は、放浪者だけじゃなくて他所からの定住民の中にも大勢います」
他にも、カルト教団とか、極左とか極右の危ない団体とか、行き過ぎた血族主義の家族とか、そういう物騒な小集団があちらこちらの居留地や集落で根を張っているらしい。
ティアマット人がティアマット人を罵る罵詈雑言のバリエーションの豊富なこと、きっと言語学の貴重なサンプルとなるであろうに違いない多種多様さであった。
定住民が放浪者たちに反目を抱いていることを知ったギーネは、舌先で微かに唇を湿らせた。
何者かによる誘導の結果にしろ、ティアマット人自身の選択の結末にしろ、これほどまでに人々が反感を抱きあい、ばらばらに裂かれてしまったのであれば、連帯は難しく、文明の再建は尚更に困難だろう。
ローマの格言に曰く、分断して統治せよ。
仮に異世界から虎視眈々と機会を窺っている侵略者がいた場合、小規模な共同体や氏族、生活様式によって対立している今のティアマット人たちは絶好の好餌となってしまうだろう。
もっとも今の惑星ティアマットに侵略するほどの価値があるとも思わないが。
此れはもう武力で強引に世界征服するしか、纏め上げる方法はないのかも知れません。
他人事のように考えていると、シャーリーがさりげなく七杯目を注文しようとしてるのでギーネは涙目になった。
「……もう勘弁して欲しいのだ」
愚痴終わったシャーリーは、七杯目のビールに美味そうに口をつけた。
「誰も彼もが生きることに必死な余り、刹那的で衝動的な生き方をせざるを得ないのかな」
アーネイの言にシャーリーはこくんこくんと相槌を打っている。
「今の東海岸で、目の届かない影の部分がある大きな町は何処もそんな感じですよ。
小さな居留地は絶え間なくミュータントや変異生物に脅かされているし、大きな町は大きな町で移民との間に別種の問題を抱えています。
聖レーニンの信奉者や、第三帝國の後継者やら、ジーザスの生まれ変わりが、人類を導くべく、布教活動に励みながら、支配下の町で熱心に異端審問行ってますし。
人間の最大の敵は、機械でもミュータントでもなく、正に人間って感じです」
比較的まともな軍閥や自治体でも、自分のところの民衆を食わせるので精一杯であり、ハンター協会にも、そんな余力はない。
町に住んでいる者も、荒野を放浪している者たちも、大崩壊以前は同じ場所で同じように暮らしていたティアマット人で在ったはずだ。
それが今や、太古の地球の遊牧民と都市民のように疑心暗鬼のうちに恐れ憎み合っている。
荒野を放浪している人々と未接触なギーネには、まだシャーリーの説明が客観的なのか、それとも多分に偏見が含まれているのか、判断がつかなかった。
いずれにしても、ティアマット世界では、物質的な面だけではなく、心理的な側面においても、二度と取り返しのつかない深い傷が人々に刻まれているようにも思えた。
「よくある話だけど、おっかないな。
工業力やインフラだけでなく、社会の規範もまた崩壊したのだな」
ギーネが呟くと、七杯目を飲み干したシャーリーは満足そうにげっぷしつつ肯いた。
「多分ね。そういう意味でも、世界は緩やかに滅びつつあるんだと思います。
それと、もう一杯お代わり」
「……世界が滅びる前に、私の財布が滅亡しそうですぞ」
そのうち、教科書や教材とかを求めての冒険とかもいいかも知れない。




