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廃棄世界物語  作者: 猫弾正
☆ティアマット1年目 その4 ギーネ ティアマットの地で戦うですぞ 後編
32/117

06 尋ね人の時間なのだ

 翌日。まだ外には朝靄が漂っている時刻。ホテル『ナズグル』の裏庭で、柔軟体操を済ませたギーネとアーネイは、タオルで汗を拭きながらその日の予定を話し合っていた。

「今日はいかがなさいますか、お嬢さま」

 家臣の質問に、亡命貴族が胸を張って手を伸ばした。

「もう一度、公園に行きますぞ!」

 

「……公園ですか?」

 やる気満々の主君に対して、アーネイは不思議そうに首を傾げる。

「僭越ながら、昨日、アメーバの大群から命辛々逃げ出したことをお忘れですか?」

「あれは、誘引があったからです」

 タオルを首に掛けたギーネは、気にした様子もなく気楽そうに告げた。

「アメーバの習性はある程度、調べました。

 恐らく件のマギーさん。奥まで入り込んだはいいものの、そこで手に負えない大群に遭遇。

 周囲に注意を払う余裕もなく逃走する過程で、多くのアメーバの注意を引いたのでしょう」

「あの大群は、マゴーネさんが引き連れてきたと?」

「ええ。だから、私たちは公園の入り口付近でウロウロするだけです。

 それなら、大群には遭遇しない。さあ、準備が整い次第、公園に行きますよ」

 

 

「という訳で公園にやってきました」

 1時間後、ギーネとアーネイは公園の噴水付近に到着していた。

「で、如何なさるおつもりですか?」

 ギーネは、ポーチをごそごそして何やら機械を取り出した。

「ギーネさんの秘密探険セットぉ!その1!(昭和放映版の青狸ロボ風な裏声で)

 自動地図作成プログラム。撮れトレボウくん!」


 ト○ボーではない。トレボウである。間違ってはいけない。

 

「これさえあればどんな地下迷宮も余裕でクリア!

 ギーネさんの科学力は帝國一ィィィィ!できないことなど、あんまりなぁいィィ!」

 何処からか取り出した旧ドイツ軍の軍帽をビシィッと被りながら、ギーネが宣言した。

「なんです。その帽子?」

「どうだ。格好いいだろう。

 市場で見つけたのだ。掘り出し物です」

「……また無駄遣いして。

 普段使っている携帯端末とは……あれ?ちょっと仕様が違いますね」

 ギーネの手にしている装置を眺めたアーネイは、首を傾げた。

「予備の部品を使って、組み立てました。

 地磁気の数値を入力してと。これでよし、と。後は微調整を自動でしてくれます」

 

 ギーネ・アルテミスとアーネイ・フェリクスは、なんかすっごい遺伝子工学とバイオ工学の盛んなアルトリウス帝國の出であり、さらに次代の大貴族とその腹心として肉体と電脳に高度の調整が為されている。

 肉体も網膜も特別製であり、日常生活を便利に送れるという以上の改造がなされていた。

 装置と網膜をリンクさせると、思い浮かべるだけで脳裏に公園の全体図と位置関係の画像が映し出された。

 ギーネとアーネイが胸につけた携帯の撮影画像もリンクして、リアルタイムで立体的な地図を作成していく。

「んー、便利です。チートなのだ」

 自画自賛するギーネに、アーネイも賞賛を惜しまない。

「これは便利ですね」

「この機械。内蔵された方位磁針とカメラの映像に移った被写物との距離や大きさを割り出し、自動で地図を作ってくれる優れものなんですよー」

「えー、でも、お高いんでしょう?」

「大丈夫。そこは信頼の現地アマルガム重工の工場で製造された部品、元々の設計は地球は日本国の……」

 どうでもいい会話を交わしながら、二人は薄暗い木立の中へと踏み込んでいった。

 

 

 町でも一番のホテル『ナズグル』では、客の予算に応じて様々な部屋を用意している。

 最上階のロイヤルスイートを貸しきれば、一晩で40クレジットが吹っ飛ぶこととなるが、一階の壁際に並んでいる簡易寝台に一晩寝るだけなら小銭で済む。

 レオが寝泊りしているのは、ナズグル二階隅にある大部屋に設置された寝台であった。

 床での雑魚寝や簡易寝台よりはましだが、見ず知らずの人間と近くで寝泊りしていることに変わりはない。

 一階の簡易寝台に泊まるよりも料金的にかなり割高だが、気分はさして変わらなかった。

 

 突然に連続した破裂音が鳴り響いて、レオは眼を覚ました。

「今の音は……銃声か」

 殺風景な大部屋には鉄パイプのベッドが六つ並べられていて、埋まっているベッドは四つ。

 疑いすぎか。隣の男が、レオの鞄に探るような視線を向けたような気がした。

 どうにも落ち着かないぜ、と起き上がりながらレオは顔を顰める。

 筋肉を解すように上半身をゆっくりと動かしながら、ロッカーから衣服を取り出す。

 壁際には設置されたロッカーは鍵付きだが、防犯の面ではさして期待できない。

 大事な荷物は、隠すか、自分で持ち歩くのがティアマットの鉄則だった。

 

 着替えて一階に下りたレオは、ロビーへと向かった。

「昨夜はお休みになれましたか?」

 赤い制服をきっちりと着込んで白い手袋を嵌めた少女が、受付でにこやかに微笑んでいる。

 その手には硝煙の昇る小型拳銃が握られており、床には刃物を手にした血塗れの男が倒れて呻いていた。

「……なんだ、一体?」

 レオが訊ねると、少女は困ったように微笑んだ。

「このホテルを売れって言ってきたんです。

 代金は、わたしの身の安全と引き換えだそうで」

 レオは、床で呻いている男を見た。貪欲で、しかも頭の悪そうな顔だった。

「ゆるさねえ。ゆるさねえぞ。てめえ……こんなことして、ただで済むと思うな」

 今は口の端から涎を垂らしながら、怒り狂った表情で少女を睨みつけ、脅し文句を吐いていた。

「……大規模な商会やギャング団なんかの手先にも見えないな」

「頭の沸いたチンピラだと思います」

「それにしては着ているものが綺麗だ」

 

 年端も行かない子供に見えるが、受付の少女はホテルのオーナーかつ町のれっきとした市民である。市議会がその地位と資産と安全を保障している。

 愚かな強盗や詐欺師が組み易しとみて財産を奪おうとすれば、町の市民からなる自警団や保安官が、容赦なく武力を行使する。

 安全で繁栄している町の中で既得権益を持つ市民たちは、他の市民と強い繋がりで結ばれている。

 一定の限度を越えたよそ者への排斥と、住民の相互補助の仕組みが、例え、閉塞感と引き換えにしても機能しているからこそ、何の変哲もない町も辛うじて法秩序が維持されている。

 

 微笑んでいる少女の後ろの壁には、猟銃が掛けられていた。

 きっと、以前に使用したことがあるに違いない。

 銃把には、四本の縦線に横線一本を引いたマークと、三本の縦線が刻まれている。

 今までに八人撃ち殺しましたという刻印。

 レオからすると、動物の牙や爪と同じ威嚇の印に感じられる。

 ……なにを考えていたら、あれを見てナイフ一本で脅かせるんだ。

 レオが眺めていると、受付の少女が猟銃を手にとって、受付の前に廻った。

「多分、バテリア郡か、キャルディスの出ですね。或いは中央から落ちてきたのかな?」

 淡々と呟きながら、青ざめている男の顔面に狙いをつけた。

「どうして、そう思う」

「この状況で、まるで、まだ自分には後があるみたいな言い方をしているってことは、どこか法律とか人権が機能している土地からやってきたんですよ」

 瞳は冷静なまま、少女は歌うように綺麗な声で囀った。

「裁判もなし、弁護士もなし」

「まっ、待て!」

「東海岸にようこそ。そしてさよなら」

 銃声と共に、脳漿が床に撒き散らされた。

 

 町などで暮らす富裕な市民は、敵に廻した場合にかなり危険な相手となる。

 良質な武装を所有し、高品質な銃弾も役場から優先的に配給される。

 滅多に不発のない弾薬に加えて、その気になれば、強装弾(マグナム弾)やライフル弾も購入できるし、最低でも一通りの訓練を受けている。

 ホテルのオーナーも、危険が迫れば躊躇なく引き金を引けるだけの胆力は持っていた。

 

「片付けてくれたら、お昼ご馳走しますよ?」

 暢気で陽気な調子で、少女はレオに声を掛けてきた。

 多分、汚れ仕事を押し付ける相手は誰でもいいに違いない。

 偶々、傍にいたから、レオに押し付けてきたのだ。

 市民にとって、よそ者の強盗など、塵芥程度の価値しかないのか。

 人を殺したのに、少女に動揺した様子は微塵も見えなかった。

「……他の奴に頼んでくれ」

 朝っぱらから不快な光景を目にしたレオは、顔を掌で撫でながら断った。

 見た目に反して、神経が細いな。少女はそう思いながら、どこか呆れたように言った。

「……もう、お昼過ぎてますけど」

「なに?」

 レオは思わず太陽の位置を確認すると、確かに中天よりやや傾いていた。

 糞ッ、俺はどれだけ寝たんだ。ティアマットは一日29時間なんだぞ。

 思いながら、渋い顔で言い訳するようにいった。

「……昨夜は遅かったからな」

 

 強盗の死体を面倒くさそうに眺めていた少女が、ため息を洩らした。

 清掃用具の仕舞ってあるロッカーからモップとバケツを取り出して戻ってくるが、途中で思い出したように立ち止まると、レオに振り返った。

「ところで、宿泊を延長いたしますか?」

「うん?」

「マギーさんが亡くなって、残された子供たちが気になるんでしょう?

 暫くは大人が付いていてあげたらいいと思いますよ」

 少女の問いかけにレオは慌てた。らしくもなく恐怖に背筋がゾッと冷たくなった。

「待て待て」

 変異生物と遣り合ってる時にも滅多に覚えがない、得体の知れなさへの強い反応だった。

「……なんで知っている」

 手を振ったレオは、眉根を指で摘まんで沈黙し眠っている頭を回転させる。

「……耳が早いな。マギーなんて三下ハンターのことも知っているのか」

「え?マギーさんは、三下じゃありませんでした。

 お化け鼠や巨大蟻を退治してくれるハンターは、此れくらいの町だと貴重です」

 呆気に取られた少女はネタばらしした。

「それに何しろ、狭い町ですからね」

 くすくす笑いながら、モップを差し出してくる。

「そうだ。死体を片付けてくれたら、二階の大部屋。一週間分割引ますよ!」

 

 

 

 1時間後、死体の掃除と床のモップ掛けを終えて、天井を眺めつつ紫煙を蒸かしているレオの耳に、横合いから聞き覚えのある声が入った。

「……疲れましたのだ」

「ですが、その価値はありましたよ」

 ロビーの方に目をやると、マギーの最後を看取ったという二人組の女ハンターが受付に並んでいる。

 少し迷ったレオだが、立ち上がると挨拶を送った。

「おう、アルテミスさん。フェリクスさん。奇遇だな」

「……誰ですか?すまないけど、度忘れしたのだ」

 言った銀髪のアルテミスに、アーネイが耳打ちした。

「レオさんですよ」

「……毛皮の印象強すぎて、頭巾姿では分からないのだ」

 

 肯いたレオは、アルテミスとフェリクスの手荷物を見て肯いた。

 ポーチや背嚢には、あふれそうな位にアメーバの細胞が詰まっていた。

「二人も、狩りの帰りかい?」

「大猟でしたのだ!」

 得意げに胸を張るアルテミスは、邪気の少ない人物に見えた。

 少なくとも裏表はなさそうだな、とレオは思った。

 

「此れからハンター協会へ行って清算するのだ」とギーネ。

「……奇遇だね。俺も協会に用件があってな。

 マギーのお袋さんに今回の顛末を知らせないとならねえ」

 疲れたため息を洩らしながら、レオが嫌な用件を思い出した。

「……知らせるのにハンター協会?お悔やみの手紙などを手配してくれるのですか?」

 アーネイが疑問を口にすると、レオは肯いた。

「ああ、異世界人だったな。

 この土地だとハンター協会が郵便局を兼ねているのさ」

「へえ、それは知らなかった」

「だけど、ちょっと気が重くてな……一緒に行っていいかね?」

 提案してみると、顔を見合わせた帝國人たちはあっさりと肯いた。

「レオもハンターなのですか?」

 レオの服装や体つきを眺めながら、アーネイが訊ねてきた。

「ハンター。まあ、ギルドライセンスも持ってるが、本業は狩人さ。

 本来の意味でのハンターだよ。

 変異生物や、怪物を狩って馴染みの商人に持ち込んで売るんだ」

 

 変異生物の習性や土地ごとの取引価格。時節によっても、買取り値段が変動するとの話。

 何処の部位が高く売れるか。毒を持った生物とその対処方法。

 道々、そのような話を語りながら、三人はハンター協会の会館まで連れ立ってやって来た。

 郵便を依頼するレオが、買取り窓口とは別の受付へと向かうとのことで、文明崩壊後の郵便事情に興味を覚えたギーネも同行してみた。

 

「ロングポートの南西。ハラバの村のムーナさん当てに手紙を出したい。

 郵便屋を頼めるか」

 ギルドの受付で、手元の料金表と睨めっこしながらレオが郵便を依頼していた。

 料金表は何重にも書き直されており、条件によって値段が跳ね上がったり、格安になるようだ。

 

「定額料金だと、ロングポートに付くのは半年ほど先になりますよ?」

 対応している職員が、手元で器用にペンを廻しながら暇そうに言った。

「……ハラバルでまあ9ヶ月も在れば届くかと」

 職員の言葉を耳にしたギーネは、壁に掛かっている大きな地図を眺めている。

 地図の縮尺が正しければ、ロングポート市は、現在地から僅か50キロほどの距離である。

「……随分とまあ、のんびりした郵便なのだ」

 ギーネが思ったことを其の侭に口に出していると、レオが身を乗り出して訊ねた。

「急ぎだと幾らになる?」

 

 ギーネの眺めている大地図には、郵便業者の巡回ルートが赤い数字で記されていた。

 点と点の間を結ぶ線が複数あるのは、場合によって経路を変更するからだろうか。

 数字だけが振られて、経路が記されていないところは、道筋を強盗に知られて待ち伏せされることを恐れてのことかも知れない。

 後で知ったのだが、町の郵便を託されたのが誰か、何時に出発するのかも秘密だそうだ。

 

「この青の曠野というところは、通行不能なのだろうか?」

 壁に掛かった地図を眺めていたアーネイが、ふと疑問に思って呟いた。

 町とロングポートは直線距離にして50キロほどだが、その間には真っ白に塗りつぶされた空間と『青の曠野』という文字だけが記されている。

 ギルドの郵便担当職員が、不快そうな表情を浮かべて唇を舐めた。

 とは言え、質問そのものがと言うよりは、青の曠野の存在が職員の負の感情を刺激したようであった。

「青の曠野は、ミュータントの勢力圏。変異生物も多く彷徨っていましてね。

 鈍足の郵便馬車なんか、連中の絶好の好餌です」

 変異生物が彷徨う曠野を大きく迂回することで、直線にすれば5日掛からない距離に三ヶ月近い時間を掛ける代わり、郵便業者は比較的に安全にロングポートまで進めるそうだ。

「まあ、腕に覚えの旅人なら通れない場所でもない。俺も何度か抜けたことはある」

 事も無げに言い放ったレオも、別に自慢する態でもない。

 人類に敵対的なミュータントの勢力圏とは言え、生きて帰れない危険地帯でもないのか。

 

「まあ、足に自信があるか、武装が良いなら、突っ切るのも有りですね。

 足が早い旅人なんかだと、五日かも掛からずロングポートに着きますから」

 暇しているのか。面倒くさいのか。

 どちらとも付かない態度のギルド職員は、熱意のない口調で丁寧に説明してくれた。

「ただ、青の曠野のルートだと、無事に着くという保証もありません。

 第一、郵便を引き受けてくれる旅人が都合よく見つかるとも限らんですよ」

「心当たりはないか?」

 探るようなレオの目線に、ギルド職員が考え込んだ。

「前は足が早くて信頼も出来る旅人がいて、20クレジットも出せば、ロングポートまで届けてくれたんですけどね……」

「その人は?」

 レオが訊ねると、職員は皮肉っぽい表情を浮かべて首を振った。

「今は『船』が来て街道筋に旅人狙いの強盗も増えてるし、人喰いアメーバが増殖しているでしょう?しばらくは休業だそうで」

 

「よしんば、郵便を引き受けてくれるハンターや旅人がいたとして。

 まず、ハラバルまでの場所を知っている人がいるかどうか」

 今のティアマットでは、正確な地図は貴重品。測量技術や機器さえ遺失技術。

 凶悪で知性の高い変異生物が世界を彷徨ってる中、大きな居留地なら兎も角、誰も知らないようなちっぽけな村を訪ねてくれる奇特な人間が果たしているのか。

「ロングポートの郵便局で、改めて近隣のハラバル宛に出すよう頼むべきでしょうね」

 

「曠野を横切れる旅人なら、最低でも30クレジットは手間賃を欲しがりますよ。

 多分、50クレジットからの報酬が必要で、しかも確実に届けてくれる保障はないです。

 普通の郵便の方が時間はかかっても何ぼかマシです」

 ギルド職員の説明には嫌な説得力が篭っていて、レオは舌打ちせざるを得なかった。

「糞ッ。だが、取り合えず引き受け手を探してくれるかい?」

「はい。では、手数料で3クレジットいただきます」

 書類を書きながら職員が説明してくれる。

「提示版に配送募集の張り紙を張っておきますが、頼りになるかどうかは其方で見極めてください。

 ギルドの保証はつきません。保証付きのハンターとなるとさらに手数料が掛かります。

 それ以前にまず、僻地への郵便を引き受けてくれる人がいるかどうか」

 普通郵便の手続きを終えたレオは、手紙の配送も別途に依頼する。 


 うわあ、滅茶苦茶に不便なのだ。電報もないとか、中世みたいなのだ。

 横で聞いていたギーネだが、想像以上の惨状に硬直していた。

 考えてみると、中世より条件が悪いのだ。

 変異生物は、熊や狼よりはるかに知性が高くて凶暴ですぞ。

 体系的な学術知識や科学技術だって途絶えているし、資源は枯渇している。

 大地は荒れ、海は枯れ、凶暴な変異生物が地上を彷徨っている。

 民衆はかつての純朴さを失い、イデオロギーや宗教、政治への根強い不信を抱いているから、統治機構の再構築も、人々の連携も難しいのだ。

 ぬぬ、この惑星、詰んでいるのだ。

 

 滅びる。ティアマットは滅びますぞー。

 突然、ギーネの脳裏に、鎌倉幕府に反抗的なお坊さんが例によって終末を叫んでいるイメージが浮かんだ。

「……日蓮……日蓮が」

 急に吹き出したギーネが、顔を真っ赤にしながら俯き加減でぷるぷると震えている。

「おい、どうしたんだ。こいつ?」

 レオが怪訝そうな視線を向けた。


「お気になさらずに。病気の発作のようなものです。ところでムーナさんという方は?」

 主君の奇行は常のことなので、いい加減慣れてしまったアーネイは全く気にせずにレオに訊ねた。

「マギーのお袋さんさ。ハラバって僻地の村で農業を営んでいる」

 言いながら頭を掻いたレオだが、難しい表情を浮かべていた。

 留守の最中、子供たちの世話を頼める相手はいない。

 そして子供たちの精神状態も安定を欠いている。

「往復で十日から2週間……自分で行った方が早いには違いないんだが。

 少しは餓鬼どもが落ち着いてからだろうな」


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