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廃棄世界物語  作者: 猫弾正
☆ティアマット1年目 その1 ギーネ ティアマットの地に降り立つですぞ
13/117

ACT 12 ギーネさんのお願いでアーネイが一日お姉ちゃんになるのこと

感想がキター(゜∀゜)

すごく嬉しいです

もっとお代わりくれてもいいんやで?(ニッコリ

 ティアマットの夜では、防壁に囲まれた町中でさえも完全に安全とは言い切れない。

 餓えた野犬の群れやお化け鼠などが、防壁の穴を嗅ぎ付けては、どこからともなく深夜の街路まで侵入してくるという事例も珍しくはなかった。

 無用心な住民が徘徊中の怪物に襲われて命を落とすことも、希によくある事件で在った。

 その為、ティアマットでは無宿者でさえも、夜を過ごす際には戸締りの厳重な屋内に寝所を求める傾向があった。

 

 ギーネとアーネイが根城にしているホテルの一階には、雑多な人種が泊まっている。

 無免許や下位のハンター、旅人、行商人、農夫、如何な事情があって廃棄世界に流れ着いたのだろうか。時折、明らかに人種や種族が違う外国人らしき旅行者や難民たちの姿も見受けられた。

 町の中心近くに位置している地理条件もあってか、ホテルは宿泊料の安価な割りに安全と清潔感を兼ね備えていることでは定評があった。

 客層が多種多様でありながら、暗い雰囲気が漂っていないのは、上階に少なからぬ人数の高位ハンターが宿泊している為、ポン引きや娼婦、盗賊の類などが出入りを躊躇う緊張した雰囲気が漂っているからかも知れない。

 

 ベッド一台を借りるだけにしては、料金はやや高いものの居心地はいい。

 長期滞在する宿泊所としては、案外、出物であったかも知れない。

 他の宿泊所を見て廻った後は、尚更にそんな感慨を抱きながら、ギーネ・アルテミスはホテルのベッドに寝転んでいた。

 

 もう朝も近い。隣の寝台では、アーネイが穏やかな寝息を立てて眠っていた。

 身を横たえてまどろんでいたギーネだが、ふとホテルの壁に目をやった時、色々と細かな文字でいたずら書きが残されているのに気づいた。

 大半はティアマット語であったが、ホテルの客層を現すような様々な国の様々な言葉の羅列を物珍しそうにギーネは眺めている。

 太い文字、細い文字、力強い文字、弱弱しい文字、汚い文字、綺麗な文字。解読できる文章もあれば、未知の文字もあった。

 ホテルが何時から経営しているのかは分からないが、幾つかの文章は薄れ掛けていた。

 相当に古いものだろう。恐らく半世紀以上は経過しているように思える。

「ん……もしかしたら」

 何かに思い至ったギーネは、半身を起こしてなにかを捜しだした。

「あー、在った。帝國語のが在りましたぞ。

 なになに、我ら三人の出会いと永遠の友情を祝して。か。先客殿だな。うふふふ」

 楽しそうに笑ったギーネは、懐からペンを取り出した。

「よし、ギーネさんが田舎を訪問したことの記念に、何か書き残してやろう

 アーネイ、ギーネ。傘。ハート。よし」

 書き上げたギーネは、ちょっと嬉しそうに微笑んだ。

 暫くしてから、もう一度ペンを取った。

「お嬢さま、愛してますbyアーネイ、と。よしよし」

 かなり満足げに肯いた。それから

「お嬢さまを裸に剥いて、思い切り抱きしめたい。byアーネイ・フェリクス。よしよしよし」

 と書き足して、大変満足に笑い出した。

 それからペンを掴むと流麗な筆致で長文を書き始める。

「皆さま。今日、皆さまに、私は家臣の身で高貴なるお方に対して邪で隠微な感情を抱いていることを告白させていただきます。

 わたしには愛する方がいます。そのお方は、生まれたときから仕えるべく宿命付けられた私のご主人さま。ですが、わたしは仕える身でありながら、ご主人さまを見るたびに胸に高鳴りを感じていたのです。そう、これはきっと……」

 呟きながら壁に向かって書き込んでいたギーネの頭蓋を何者かががっしりと後ろから掴みあげた。

「うぬう、何奴!」

 頭を掴まれたギーネが短く叫ぶ、とその耳元で、聞き覚えのある声が怒りを湛えた調子で小さく囁いた。

「ええ、高鳴っておりますよ。怒りがね?」

「ひあああ!アーネイ!何時からそこに!」

 数年後。別の泊り客が、帝國語で書かれた壁の落書きに気づいたものの、最後の方が赤黒い染みに塗れていて読むことが出来なかったそうだ。

 

「お嬢さま。狩りの時間ですよ?」

 ギーネは寝台に身を横たえたまま、アーネイを見ようともしなかった。

「んー、今日は休むー」

「昨日、鳥のから揚げを食べて浪費したばかりでしょう?今日は稼がないと」

「だって、アーネイにビンタされて鼻血が出たんだもん。痛かった」

「申し訳ありません」

 渋い顔をした謝るアーネイが、ついで反論も口にした。

「ですが、お嬢さまもあんまりです。人の名前を使ってあんな落書きするなんて。

 冗談でも、人の気持ちを騙るような真似を。

 私がそういったことが嫌いなのは一番、よくご存知の筈ですのに」

「んむー」

 不貞腐れているギーネだが、確かに此の侭、不貞寝している場合でもない。

 仕方がないので身を起こした時、近くの寝台にいた姉弟の仲睦まじい会話が目と耳に入った。

 

「じゃあ、姉ちゃん働いてくるから。大人しく待っているんだよ」

 こくんと肯いた弟と、笑いかけて頭を撫でる姉の美しい姿。

 これだ!その時、ギーネに霊感が走る。

「んんー、アーネイ。アーネイ。見ましたか。感心な姉ですね」

「まことに」

 姉妹の別れの情景を目にして肯くギーネと、微笑むアーネイ。

「ところでアーネイ!私は貴方を姉とも思っているんですよ」

「え……そ、それは勿論、わたしもお嬢さまをいも……いもう」

 頬を染めて言いかけたアーネイに、ギーネがのたまった。

「姉ちゃん稼いでくるから、待っているんだよって優しくて素敵な、魔法みたいな言葉。私に掛けてもいいんですよ?ほら、今日一日は、私を実の妹だと思って!遠慮なく!」

 ニコニコと微笑んでいるギーネ・アルテミスをアーネイ・フェリクスは能面のような無表情で見つめた。

 

 

 昼頃になってセシルがホテルに戻ってくると、ホテルの寝台の傍らに見覚えのある人影を発見した。

「……あ」

 先日、ギーネにちょっと弄られたばかりなので、避けようかと悩んだセシルであったが、どうにも二人の様子が奇妙なことに気づいて目をごしごしと擦ってみた。

 何が起こったのだろうか。主従が逆転しているように見える。

 

「あの……アーネイさ……」

 ギーネ・アルテミスが上擦った声で、ベッドに腰掛けたアーネイ・フェリクスに呼びかける。

「お姉ちゃんでしょう?」

 足を組んだアーネイが冷たい目でギーネを見下ろした。

「お……お姉ちゃん。私は何時まで正座していればいいのかなー?

 かわいい妹のギーネさんが、そろそろ足がしびれてきたんだけどー?」

 正座しているギーネが苦しそうに脂汗を浮かべて、アーネイに可愛らしく尋ねてみた。

「それに、今日の狩りに行く必要もあると愚考する次第ー。宿代も払わないと」

「大丈夫よ。今日の支払いはお姉ちゃんの蓄えからちゃんと払っておくから、今日一日、ギーネは余計なことを考えずにちゃんと反省していなさい?」

 アーネイに足で床を蹴られて、ギーネはビクリと体を震わせつつ、上目遣いに見つめた。

「でも……」

「黙れ……考えている。考えているんだ……少し口を閉じていろ、いいな?」

「何をお考えなのでそうか……」

 恐る恐る尋ねたギーネに、アーネイがガラス玉みたいな瞳を向けた。

「本当に聞きたいですか?懲りるということを知らない妹の性根を矯正する為の諸々の躾について?」

「ひっ、なんでも御座いません。お姉ちゃん」

 ごくりと喉を鳴らしたギーネが、慌てて正座に戻った。

 

 幼い頃からのお付である上、当時の当主のお墨付きもあって体罰の行使も許されていた年長のアーネイが本気で怒ると、ギーネはどうしても逆らえなくなる。

 いわゆるパブロフの犬であった。

 叡智と理性を持って本能を凌駕しようとしても、植えつけられた幼少時の体験が元で躰が勝手に震えてくるのだ。

 こんなのっておかしいよ。私は主君なのに。

 

 古来、日本の大名家などでは、主君が道を誤ると家臣団に押し込められたり、馬鹿な若殿が枯井戸に閉じ込められた挙句、老臣に延々とお説教されたりと罰を喰らうことがあったとギーネは聞いたことがあった。

 反省した若殿は後に名君になったとも伝わっているが、最初から完璧であるギーネさんには全く関係ない話である。

 個人的に日本文化は好きですけど、そんなところまで帝國が真似する必要はないのだ。

 むしろ帝國は帝國。もっと主君は絶対の権威と権力を確立してもいいのですよ。

 そう。思い返してみれば、他の貴族の子女たちも、何時も横暴な家臣共に苦しめられていたではないか。

 家臣が主君を諌められなければ、特権を持つ者は限りなく自我が肥大して、腐敗の限りを尽くすのがオチなのだが、人間、特に我が侭な性根の持ち主は、都合の悪いことからは目を背ける傾向があった。

 

 ギーネは誓った。かならず邪知暴虐の家臣たちを懲らしめねばならぬと思い至った。

 本来は、アーネイこそ、犬のように這い蹲って私の差し出した人差し指を舐める立場のはず。

 そうペロペロ。あの赤い舌で私の指を。いや、アーネイなら私が舐めてもいいけど。

 にゅふふ、あの美肌を一度でよいから味わってみたいものよ。じゅるり

 ともかく……そろそろ、関係をあるべき姿に矯正しなければ。主導権を握るのだ。

 

 涙目で正座させられているギーネは、目の前に仁王立ちしているアーネイを睨み付けた。

 何かを言おうと口を開きかけて、先にアーネイが

「おい、今、何を考えていた?

 まさかお姉さんのお説教の最中にいやらしい妄想になんか耽ってないだろうな?」

「ひぁぁッ!……めっ、滅相もないのだ!」

 長いこと無言で首を傾げていたアーネイが、獣のように輝く瞳でじっとギーネヲミツメテイタ。

 ギーネがこれまでの比ではないほどに、脂汗をだらだらと垂らし始める。

 通りかかった知人に気づいたギーネが、助けを求めるように哀しげな視線を向けてきたので、セシルは礼儀正しく無視することにした。

 アーネイが足を伸ばして、ギーネの痺れている太股の上に乗せた。

 セシルが通り過ぎた後、背後からギーネの哀れっぽい悲鳴が響き渡ってきた。

 

 寒風吹きすさぶ廃墟の水路跡を、白い息を吐きながらシャルはずっと歩き続けていた。

 足は棒のように感じられる。すぐ傍を流れている浅いが冷たい水流の中を時折、小さな影が泳いでいく。

 文明の全盛期には、豊富な水流がなみなみと満たしていた農工業用の巨大水路も、今は泥と堆積物で半ば埋もれ、所々が断裂して奇怪な水棲生物の棲みかとなっている。

 水路を歩くシャルの前方で小さな生き物が跳ねていた。

 途端、シャルは弾かれたように慌てて駆け寄ると、のんきな声で鳴いていた蛙に似た小動物を手でつかみ取った。

 小さな悲鳴を上げてる両生類を腰に付けた小さな袋へと放り込むと、フウっと息をついた。

 腰の二つの袋には、他にも捕まえたトカゲや小魚っぽい小動物やらが仕舞われている。

 町近くの農地跡を張り巡らされた水路に沿って、半日近くを費やして歩き回ってようやく袋に重みが感じられるようになった。

 今日は、これで帰ろう。

 途中、見つけて収穫した食べられそうな草を噛みつつ、小動物やらを市場で売り払って日銭を稼いだが、宿泊代を払ってみれば、もう幾らも残らなかった。

 疲れきってホテルへと戻る途中の街路で、シャルは悲しくなって空を見上げた。

 途中で立ち寄るのは、探し回って見つけた市場でも安い食べ物の露店である。

 ギルドやらの食堂の売れ残りを買い取って、もう一度、暖めた食事が売られている。

 この蛙を焼いて食べるとしても、弟には足りるだろうか。お椀に一杯のあったかい粥があると、あの子も喜ぶだろうな。

 そう思って足を止めたシャルは、しばらく逡巡していたが、やがて屋台へ向かって歩き出した。



 一方、ギーネたちはギルド近くの屋台で食事を取っていた。

「足が痺れるぅ。罪のない冗談なのに。笑わそうと思ったのに。酷いよ。アーネイ」

 アーネイが鼻を鳴らした。

「本当に懲りるということを知らない方。そうやって嘘泣きしても無駄です。

 散々、人の気持ちをもてあそんでおいて、何時までも敬われると思ってる方がおかしい」

 冷たく家臣にあしらわれて、今度は本気で涙が滲むギーネ・アルテミス。

「うう、アーネイが凍ったバナナみたいに冷たい。反抗期です」

「その心は?」

「釘を刺された」

「……呆れた。足が痺れたくらいでなんですか。

 どうせ、心停止しても自動で蘇生する出鱈目生命体の癖に」

「死に難いだけで別に不死身ではないんですよ。最近、遠慮がなくなってきたぁ」

 最近のアーネイの瞳には、主君に対する不信の念が滲んでいるように思えて気が気でないが、幾ら考えても原因がトンと分からぬギーネ・アルテミスであった。

 

「よう、お二人さん。元気かい?最近、上手くやってるみたいじゃあないか」

 そんなギーネたちに横合いから声を掛けてきたのは、マケインという町の女衒であった。

 微かに警戒の色合いを強めた視線を向けるギーネたちに、怯んだ様子もなく人懐こい笑顔を浮かべながら、マケインは親しげに語りかけてきた。

「知り合いが上手くいってるのをみると、こっちまで嬉しくなってくるねぇ」

「貴方の商売は、上手くいかないほうが世の為、人の為、女の子の為ですな」

 のたまうギーネと眉を顰めるアーネイ。

「別に上手くいってませんよ」

 警戒しつつ向き直ったアーネイではあるが、マケインは近寄ってくると遠慮なく隣の席に腰掛ける。

「この間、レストランで飯食っていただろう?

 稼いでいるみたいじゃないの?」

「あれは、偶々です。今日からは、また蟹虫の塩茹でです」

 アーネイが自分の食べている皿から白身肉を摘むと、まずそうに口に運んだ。

「それでも、調子はぼちぼち見たいだな。お二人さんの前途に乾杯させてくれ」

 酒瓶を掲げて大げさに振舞うマケイン。

 派手な原色帽子を弄りながら、本当に善人なのではないかと錯覚しそうな笑顔で二人を祝福する。

 喰えない奴。微かに瞳を細めたギーネは、鼻を鳴らしつつ尋ねてみた。

「ふむ、では、わたしたちへのお祝いで此処の払いでも受け持ってくれるのかな?」

「それはない。図々しい女だねえ。

 だけど、どうだい?俺の店で働けば、毎日、白いパンが食えるぜ」

 露骨に舌打ちしてから、ギーネは安い芋スープにご飯をいれる。

「別にパンは好きではありません。ご飯食べたい。

 でも、此処のライスは美味しくないですぞ」

 

 強い視線を感じたギーネが振り返ってみれば、街路を挟んだ位置に若い娘が一人、立ち尽くしていた。

 色褪せた天幕を張った露店の前に佇んでいたシャルは、何やら思いつめたような表情でギーネたちを見つめている。

 

 怪訝そうなギーネの様子に同席のマケインも振り返り、シャルの姿に気づいた。

「知り合いかい?疲れ切った顔をしているな」

「知り合いというほどの相手でもない。

 ホテル1Fの簡易宿泊所泊まりで、寝台が近いというだけかな」

 唇を噛んだシャルは、頭を振った後に目の前の露店に向き直って主人と話し始めた。

 ギーネは屋台の椅子に腰掛けたまま、奇妙な居心地の悪さを覚えた。

 ふむ、あの娘。悪感情は感じないが、なにやら思いつめたような表情をしているぞ。

 

 沈黙したままシャルを見つめて、どこか戸惑った様子のギーネの傍らで、マケインが顎を撫でて肯いた。

「向こうの彼女は……そうか、水路巡りか」

 一人合点したように肯いてからマケインが口を開いた。

「同じ虫捕り稼業でも、仮にもハンターに類される蟹虫狩りと、小銭にしかならん水路巡りでは稼ぎも大分違うからな。あの子も、きっと羨ましかったんだろう」

「水路巡り?」

 聞きなれない言葉がまた出てきたと思いつつ、アーネイが尋ねた。

「町の外の涸れた水路跡にはね。足元にちょろちょろ流れている水流に食べることができて、小銭で売れる小さな虫や魚が泳いでんのよ」

 マケインは、食べられる虫や聞きなれぬ生業について二人に講釈してくれる。

 マケインにしろ、セシルにしろ、ティアマット生まれのティアマット育ちだけあって、ギーネたちの知らない語彙や常識を色々と捕捉してくれる相手だった。

 それにしても、すっかり虫を食べるのが当たり前の食習慣になってしまったなあと、ギーネは思った。

「町にも近いから安全で、一年を通して、まあ、それなりに色々といる。

 ただ、その分、稼ぎも悪い。時には当たりもあるが、当てに出来るもんじゃない。

 慣れないうちは一人で食っていくのもギリギリだろうな」

 女衒のマケインは、まるで貧困を憂うかのように深刻そうにため息をついてみせた。

 ここら辺、本気なのか。演技なのか。

 短い付き合いのギーネ達では、判断が付かなかった。

「大変だな。あの子は幼い弟を養っている」

 アーネイの呟きにマケインが顔を上げた。

「弟の年齢は?」

「六歳くらいかな」

「それくらいの子供なら、一人でも食っていけるはずだ」

 マケインが、先刻と同じ言葉を何やら怒りに満ちた調子で吐き出した。

「幼い子供でも、この町には稼げる仕事はあるぜ。だが、まず知らないのか。

 それじゃあ長持ちはしないな」

 吐き捨てるように言ってから、マケインはシャルへと視線を移した。

「どこの村から出てきた?いや、むしろ、どこか別の町の市民が没落したのかねえ」

 幾ばくかの同情と女をものにする貪欲さが入り混じった奇怪な瞳を見て、どうやら単純な人物でもないらしいとギーネも気づいた。

 

 露店の料理を受けとったシャルは、踵を返すと、料理を抱え俯きがちに街路を歩き始めた。

「おっといけねえや」

 マケインが慌てて、屋台の席を立った。

 シャルの背中を足早に追いかけていって、なにやら話しかけているが、相手にされてない様子だった。

 躱されたらしく、すぐに戻ってきて頭を掻いた。

「いい仕事を紹介してやろうと思ったが、振られた。

 町の娘さんだな、あれは。市民じゃあないが流民でもない。

 なんでこんな所にいるんだか」

 ぼやくように言ってからギーネ達に視線をくれて、浅く笑みを浮かべる。

「まあいいさ。姉ちゃんたちと同じホテルに泊まってるんだよな?

 姉ちゃんたちも気が変わったら、何時でも来いよ」

 名刺を差し出してきたマケインだが、ギーネたちは鼻で笑って受け取らなかった。

 受け取られなかった名刺を懐にしまいながら、マケインは苦笑した。

「ま、そのうち俺のよさも分かってくれるさ。

 遊ぶだけでも、気軽に連絡くれな

 可愛い女の子からの誘いなら、いつでもデートに応じるぜ」


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