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廃棄世界物語  作者: 猫弾正
ハンター日誌 ライオット
107/117

先即制人 先んずれば人を制すのだ

 『書記』の説明に拠れば『ホテル・ユニヴァース』に踏み込んだ雷鳴党は、正面と裏門の突入班に一つずつ小型の無線機を持たせているということだった。

 元々、出力の弱い小型無線である為か、内部からの電波が届かずに通信は途絶しているが、最後に連絡があった時には、北から侵入した隊は中央棟を探索中。南側の裏門から侵入した隊は、標的を見つけ、中央棟から渡り廊下を伝って西棟へ移動中だそうだ。


 十字路にいるハンターの主だった者たちを集めて『痩せ犬』がそう状況を説明すると、『火竜団』のマルコがほほ笑んだ。

「つまり、少なくとも賞金首の一人は西棟にいるってことだな」

「そういうことだ。とうの昔に太った砂漠ネズミみたいにとっ捕まって喰われなければだがな」

『痩せ犬』は、ややぶっきらぼうに言ってから、目をパチパチとしばたいた。

「まずは渡り廊下へ行ってみよう」

『痩せ犬』の言葉にドーカーが片目を閉じたまま、顰め面を返した。 

「だが、どうするね。今からのこのこと顔を出しても、フォコンや『始末屋』がおいそれと仲間に入れてくれるとも思わん。それに首尾よく捕まえたとしても、連中と揉めるかも知れねえよ」


「まあ、総取りって訳にもいかないだろうが、そこはそれは交渉次第よ」

 楽観視を崩さない『痩せ犬』は、目尻を細めて笑った。

「だが、思うにね。手当貰うよりも遺物漁ったほうがよっぽど儲かるぞ。14階は『ホテル・ユニヴァース』のスイートルームだ。売れそうなものも結構、残っているだろう。食器でも酒でも漁ってとっとと帰ろう。一人頭4~5クレジットにはなるだろう、もしかしたらそれ以上な」

 ドーカー親父も、こちとらは全てご承知よ、とでも言いたげにくつくつと笑っている。

「『痩せ犬』よ。全く抜け目のない奴だ。お前さんってやつは」


 『痩せ犬』は他のハンターたちの表情を窺った。『火竜』と『伊達男』の一団も納得しているようだ。

「そういう訳で西棟を目指すぞ。ただし、西棟下層は怪物の巣になっている。中央棟で8階まで昇ってから、渡り廊下で西棟へ渡ることになる」

 ドーカーが顎を撫でながら、気づかわしげに呟いた。

「一つ気になるのは『ホテル・ユニヴァース』で生きていた。フォコンの追撃を凌いでいる。であれば、連中。地形を熟知しているか」

 その言葉に『痩せ犬』は顔を上げたが、しかし、大人数相手に何時までも逃げ回れるとも思えず、曖昧に頷くに留めた。


「取りあえず、ここにギルドで映してきた見取り図がある。

 どれだけ頼れるか、怪しいものだが。まあ、ないよりはマシだ。全員、頭に叩き込んでおいてくれ」

 ホテル全域の見取り図を地面に広げながら、『痩せ犬』が一同を見回した。

 未踏領域が殆どだが、今までの探索で使用された幾つかのルートが乗っている。古いホテルのパンフレットの写し図を基に前回の探索隊の持ち帰った記録も書き込んであり、鵜呑みにするのは危険だとしても有ると無いでは大違いだろう。

「助かるな……全14階。六つの棟に分かれているな」

「この連絡通路は、外から見ても崩れているね。書き込んでいい?」

「構わんが、鉛筆にしておけ」

 口々に話し合うハンターたちの顔をドーカーが見回して口を開いた。

「内部に入ったら、まずは連中の痕跡を探す。見つけたら、それを辿りながら少しずつ奥へと進む」

 長年をハンター稼業で生き延びている『親方』だけにドーカーの手順は堅実で、『痩せ犬』も同意を示した。

「それでいいだろう。マーキングしつつだな。」


「痕跡が見つからなかったら?」双子の妹が疑問を口にする。

「さらに踏み込むしかなかろう」双子の兄のほうが答える。

「呆れた。行き会ったりばったりに特Aに潜る気?」

「無論、様子を見ながらだ」

 その後、幾つかの質疑応答と手順の確認をしてから、ハンターたちは顔を見合わせて肯き、ドーカーと『痩せ犬』を先頭にして歩き出した。

 一行の大半が十五、六にもならない若者で、武装も劣悪。しかし、廃墟を歩いた経験は豊富で、素早い小柄な子供ハンターを斥候を出しながら、彷徨う変異獣の群れを遠目に見ては動かずに足音を殺してやり過ごし、ゾンビのさまよう家屋の前では、姿勢を伏せながら素早く通りすぎていく。

 子供であっても殆どが外壁地区の出身者。怪物のいなし方は十分に心得ている。

怪物にはテリトリーがあって『ホテル・ユニヴァース』の面した国道沿いの一帯は、比較的に遭遇率が低いが、餌を求めてか。人の匂いに誘われたか。彷徨う怪物がいない訳でもない。不用意に長時間留まるのは、やはり好ましくない。


 大崩壊前は、白亜や薄緑といった落ち着いた色彩だったのだろう。

 一面に立ち並ぶ灰色にくすんだ民家を細い目で見回してから『痩せ犬』は嘆息した。

「それにしても、昔の連中は、随分といい生活をしていたもんだな。ここら辺、まだまだ稼げそうだが」

『伊達男』が渋い顔を見せた。

「見た目だけはな。内部は、かなり荒らされてるぞ。

 住宅地のちょっと奥なら、酒や本、服に食器。工具に機械部品。探せば結構、残されてるが。警備ロボットやミュータント。ペットのゾンビや変異獣に……訳の分からん変化をした元住人もな」

「うまい話は無いってか」

 本当だろうか?上手い餌場を独占したいだけの嘘かもしれないと、話半分に聞きながら『痩せ犬』は嘆息してみる。

「いや、さっさと漁って、さっさと帰れば、それなりの稼ぎになる。ただ、日が暮れると段違いに危険になるってだけだ。それに百年も漁られたこの辺りは、外れの家も多い。もう、それほど美味しくない」

『痩せ犬』が大きめの邸宅を眺める。彫刻のされた柱などを眺めるが、確かに窓から蠢く巨大な影が見て取れた。小さく舌打ちする。

「中心辺りは、まだまだ遺物が残ってるって話だが、少人数じゃ危険で、大勢で動けば物音も立ててそれだけゾンビが寄ってくる」

『伊達男』の言葉に『痩せ犬』は肩をすくめた。危険が少なくて儲けの多い一角は、すでに殆ど探索済みらしい。


「……金を手に入れたら、どうする?」

「豚肉くいてぇよ。腹いっぱいよ」

「俺は、マリーゼの店で酒を飲むぞ」

 四方に視線を飛ばして警戒しつつも、だが、若きハンターたちも、今回ばかりは興奮を隠しきれない様子で、口々に囁きを漏らしてしまう。なにしろ最低でも2クレジットが約束されている。その上『ホテル・ユニヴァース』のスイートルームを漁れば、どれだけの値打ち物が見つかるか分からない。10クレジット。いや、20クレジットか、それ以上を稼げても不思議はない。


 数人では踏み込むのも躊躇う特A遺構の未踏領域も、ハンターがこれだけ集まれば随分と心強い。

 廃墟の探索には慣れたものだった。大型の変異獣は恐ろしいが、見返りも大きい。

 何度も踏み込めば、遠からず確実に命を落とす巨大遺構も、針鼠のように武装した雷鳴党の精鋭が露払いとなれば、生涯一度あるかないかの千載一遇の好機となって、今回の探索に誘われなかった連中を憐れんでしまうほどに気持ちの余裕も生まれてくる。


「えっと、どうすればいいのかな」

 戸惑いながら、後ろの方を早足についてくるスーだが『痩せ犬』が視線を送ってきたのに気付いた。

「おい」

「ひゃっ……『痩せ犬さん』?」

 怖い男だった。裏稼業の人間に特有の隠しきれない荒廃した昏さが容貌に浮き出ている。スーにはそれが恐ろしい。が、『痩せ犬』は、何をするでもなく、一言告げて離れていった。

「……いや、焦るなよ。それだけだ」

「は、はい?」

 呆気にとられたスーに、耳のおっきなココが笑いかけた。

「お、気に入られたね。ついてきて」

「どんな仕事なの?」

「悪い奴を追ってるんだ。捕まえたら、あとは売れそうなものを漁れるだけ漁ってから撤収!」

 誰もが界隈で必死に生き足掻いた末の成り行きを、子供の残酷な無邪気さで悪と断定して、明快に告げた。揉めたハンターの根城への出入り。身柄の確保。

『痩せ犬』やドーカーの徒弟たちには稀によくある仕事だったが、実入りは結構いいのだ。

「でも、連中。よくこんな危険地帯に棲もうとか考えたね」

「なに、噂ほどは大した遺跡じゃないって事さね」

「或いは、もう死んでるって事も在り得る。死体がすぐに見つかると楽なんだけど」

「油断するなよ」

 徒弟たちの楽観を窘める『親方』に、少年少女の各々が視線と言葉で返答した。


 一人捕えれば、100クレジットが報償として手に入る。

 見張りだけしていても日当で2クレジット。何でも買えるギルド発行の青紙幣ではなく、町発行の緑紙幣ではあるが、牧場や農場で発行してる黄色紙幣や商店街の私鋳銭トークンなんかよりは、ずっと価値がある。食べ物しか買えない下位紙幣と両替すれば、額面を水増しして数日は食べられる。大盤振る舞いだ。『火竜団』の若者も、徒弟の少年少女も誰もが胸を高鳴らせる。


 雷鳴党は当然、相手からそれ以上取り立てる算段を立てている。愚連隊が他者に喧嘩を売るのは、揉め事に利益が見込めるからだと『痩せ犬』は知っている。雷鳴党も、下請けも、地元出身者が多い。例えハンターと揉めたとしても、命懸けの仕事で稼いできた金を全て奪う事は滅多にない。

 が、今回の仕事は例外だった。相手はよそ者。だが、それだけ稼ぐことが出来、変異獣やゾンビの巣に根城を築けるハンターが相手となれば、多少は、手強いかもしれない。


『ホテル・ユニヴァース』の裏門前で『痩せ犬』が懐から数粒の錠剤を取り出した。

 水もなしに口に放り込むと一気にかみ砕き、嚥下しながら、舌に残る苦さに表情を歪めた。

 嗅覚を高めてくれる旧世界産の薬。体には良くない影響を与えているらしいが、

 鼻を鳴らしつつ、首をゆっくりと廻してホテルの裏庭を一望している『痩せ犬』に、ドーカーが頷き掛けた。

「……どうだ?」

 『痩せ犬』は、鼻を鳴らしながら唇を舐めた。瞳孔は開き、顔は汗に濡れている。

「生臭い中に腐肉の匂いが幾らか漂っている。が、ゾンビの数は少ない。此れならいけるぜ」

「そうかよ」

 ホテルを睨みつつ、肯き合う二人の横を、互いに連携できる歩幅を保ちつつ、ハンターたちがホテルの敷地へと駆け込んでいく。


「右手奥だ。ゾンビの匂いがしゅるぜ」

『痩せ犬』が言った。呂律が回らないのか、言葉が覚束ない様子で顔も青ざめていた。

 茂みから現れたゾンビ。20メートルほどの先の距離。観葉植物の葉の狭間から顔を出した瞬間、『伊達男』の一発で脳漿をまき散らした。

『伊達男』を始め、取り巻きの3人の女も持つマスケットは、銃口の先端に、穴の開いた空き缶やペットボトルが取りつけられていた。発砲音を大部分、吸収する消音装置の役割を果たしている。

「すっげえな、伊達男」

 マスケットであっさり仕留めてのける腕前は、流石に一目置かれたハンターで子供たちの幾人は憧れの眼差しを向けていた。

 スーも思わず目を瞠って立ち竦んでいると、前を歩くユニがものぐさそうに手招きする。

「ほら。スー、真ん中を歩いてなよ」


 幸いというべきか『ホテル・ユニヴァース』の裏庭には、殆んど怪物の姿は見かけられなかった。

 庭園のど真ん中には地面を貫いて地下鉄まで到達した巨大な縦穴がぽっかりと口を開けており、念の為に距離を保って迂回する。線路の上に、ねじくれた竜の死骸のように電車が横転しているのが目に見えたが、いかな探索者であっても、闇のうちに変異獣やミュータントが彷徨い、ろくな見返りも望めないであろう地下鉄に踏み込むほど無謀ではない。


 いずれにしてもハンターたちは、何事もなくホテル本棟の入口へとたどり着いたが、いずれもくすんだ色彩のホテルの風景の中、ペンキ塗りたての真新しい看板が異彩を放っていた。

「なんだ、こりゃ?」 

 扉の横に立てかけられた看板の文字を読み上げる。


---------------------------

ティアマットの帝王 ギーネ・アルテミスのお城


営業時間 AM09:00~PM13:00 在室中


御用の方はベルをお鳴らしください。


---------------------------


「ティアマットの帝王?けっ、なーにが帝王だ」

 ご大層な文言が気に入らないのだろう。『火竜』の団員が看板を蹴っ飛ばしていたが、『痩せ犬』は『伊達男』が意味深に笑っているのが妙に気になった。


 真っ先に扉をくぐったのは『痩せ犬』だった。

 両開きになっているガラス製の扉を開いて踏み込むと、豪奢な大理石が敷設された広大なロビーが広がっている。

 彼方此方と見まわしながら時折、目を閉じては、空気の匂いを嗅ぐように鼻を鳴らしては、また歩き回る『痩せ犬』の姿に、スーだけが驚いたように首を傾げるが、他のハンターたちは気にした様子もなく各々がロビーを警戒し、あるいは物色している。

 鼻を鳴らしながら歩き回る『痩せ犬』は、やがて空中廊下へと続く階段を昇って、中途で立ち止まったが、奇しくもそこは庭園を見渡すのに絶好の位置であり、床に顔を近づけたまま停止する。

「スー!ここに来い!」

 促され、戸惑いつつも奥の階段へ駆け寄ったスーだが、『痩せ犬』の指さした床を見て首を捻った。

「見てくれ。ここだ」

「……あれ?さっきまで誰かいた」

 スーの眼にも、実像に加えてオレンジ色の淡い光が重なって見える。

「若い女の体臭。煙草と火薬と……香水。柑橘系の匂いとチョコレート」

 犬のようにふがふがと鼻息の荒い『痩せ犬』の背後に、小走りにドーカー親父も寄ってくる。

「ずいぶんと贅沢なハンターだな、ええ」


『ホテル・ユニヴァース』南館のロビーは、二階へと続く空中廊下も含めれば十以上もの廊下の入り口と面していた。ロビーを中心に複数の回廊が西北東の三方向へと伸びているが、そのうち回り道をせず、崩落もせず、怪物にも遭遇しないで中央階段へと辿り着けるルートはたったの3つに過ぎない。

 その最短経路を発見するまでには、ギーネ・アルテミスもホテルを入念に調査する必要があった。

 なので、新手のハンターたちがホテルに踏み込んで程なくして、中央階段から足音が響いてきた時、帝國貴族は予想外の出来事に一瞬静止してから、腑に落ちないと片眉を上げた。


「彼奴ら、経路を知っている?いや、ギーネさんの痕跡を追ってきている?正確に、しかも早い……しかし、どうやって?犬はいなかったのだ」

 連中がロビーに踏み込んでから僅か八分。その速さでロビーから中央階段に到達できるルートは、ギーネが通行したルート以外に存在しない。いや、走りぬけば、そうとは限らないが、しかし、見知らぬ大遺構で無警戒な速度で移動できるものだろうか?


 足跡を追跡してるにしては迷いが少ない。しかも、早すぎる。しかし、犬は連れていない。

 何らかの測定器?機械は持ってない?サイボーグ?重たい足音はない。だが、明らかに確信をもって追ってきているように思える。


 取り合えず移動しながら、帝國貴族は思考を走らせ、瞬時に決断した。

 ギーネさんを追ってきている可能性のほうが高いのだ。取り合えず、最短ルートでの移動を変更して追ってくるか確かめるのだ。


「6階の302号室……と」

 階段から廊下を西へと進み、断裂している床を飛び越えると、真横の客室に入って窓から外を観察。真新しいロープが、西館の屋上から中央棟の客室の窓口まで斜めに吊るされていた。

「……スナイパー。いる筈もないけど」

 狙撃手はいないと判断して、ロープを解くと窓枠に足をかける。

 ロープに掴まったまま、ふんすと身を乗り出すと、振り子の要領で西館まで一気に移動した。

「よっこいしょ」

 うまく接地すると、そのまま猿のようにするする体を引き上げて窓から入り込み、中央棟の通ってきた経路を観察できる上階へと急いで移動する。


 中央棟の中央階段から姿を見せたハンターたちは、ギーネの通った経路をその儘に辿りながら、断裂している床を乗り越えて姿を消した窓までやってきたが、そこで戸惑いを見せていた。

 何かを喋ってはいるが、至近で隠れながらの観察の為、さすがに気配を沈めざるを得ない帝國貴族には詳細が分からない。


 対面の建物で物陰に身を伏せながら、ギーネはそっと敵の能力を観察し、特定しようと目論んでいた。

(連中は周囲を見回し、探しています。私の位置そのものを把握することは出来ず、なんらかの手段で痕跡を追跡することで移動経路を辿ってきている)


 つまり、動体探知機やギーネが気づかないうちにつけた発信機などで場所を探知しているのではなく、足跡に残された痕跡を犬のように追跡してきている。それはそれで恐れるべき事態であったが、取り合えずは、確定できただけでもよしとした


 (音ではない、ですぞ。埃など地面の僅かな痕跡?或いは、匂い?大気中の匂いの粒子を撹拌含めて追跡できる装置もありますけど、ティアマットの愚連隊ごときが入手できるものだろうか?

 なんらかの追跡装置を所持していることは確かですが、どうにも正体が掴めないのだ)

 今ある条件から敵の能力を憶測し、おそらく機能は限定的だと踏んだギーネだが、どうにも胸中の不安が鎮まらずに、軽く唇を噛んだ。

 なんだろう。胸騒ぎがします。何かを見落としている気がしてならないのだ。

 


 標的の帝國貴族に、庭園を挟んだ対面の建築物。僅か30メートルの位置から観察されているとは露にも思わず、『痩せ犬』たちは踏み込んだ客室をうろうろと彷徨っては足踏みしていた。

「こっちに匂いが通じているな。火薬の匂いも……だが、窓枠で消えてる」

 天井の非常口を『痩せ犬』は睨んでみたが、臭いは全くしない。ベッドの下や衣装棚に隠れた様子もない。

「窓の外に続いている。飛び降りたか?」

「……考えにくいな、ここは六階だぜ」

 首を傾げるハンターたちをよそに、ドーカーは窓枠にしゃがみ込んだ。残された僅かな埃の量、そして西館の屋上から吊るされたロープを眺めてひどく不機嫌そうに歯噛みして唸った。

「一人は西館。もう一人は本館で逃げ隠れか?帝王さまは逃げ回るのだけは得意みたいだな。手間が掛かりそうだぜ」

『痩せ犬』だけが一人、難しい表情を浮かべたまま顎を撫でるとドーカーに向き直った。

「奴ら……奴か、奴らかは分からんな。恐らく、標的は俺たちの動向を窺っている。侮るのは危ういかもしれんぜ」

 ドーカーは、しかし、臆病に過ぎると『痩せ犬』を鼻で笑った。

「お前さんの悪い癖だ。まあ、一人ひとり確実にやっていこう。

 中央の階段は八階まで通じている。取り合えず八階に移動だ」


 本館と西館を繋ぐ渡り廊下では、湿った風が吹くたびに、渡り廊下の手摺りに結ばれた布が揺れている。ハンターたちが姿を見せる。それはギーネも予想していた移動進路であって、渡り廊下に面した西棟12階の窓に寄りかかりながら、ギーネ・アルテミスは4丁のマスケットに火薬と鉛弾を詰めていた。

「確かにお前たちはギーネさんの痕跡を追っているのだ。それは認めましょう。ですが、待ち伏せは感知できまい」


 窓に掛かったカーテンのわずかな隙間から渡り廊下を見下ろして、標的の一団がぞろぞろと姿を見せるのを確かめてほくそ笑んだ。

「ふふふ、来ましたのだ。間抜け面を並べおって。奇襲を食らうとは欠片も思っていまい」

 マスケットを手に取ったギーネは、すんと鼻を鳴らした。

 先頭集団は、四人組。全員がマスケットを担いだ男1人と女3人。

 カーテンの奥から先頭に立つ、マスケットを担いだ小綺麗な服装の男にギーネは狙いを定める。

 と、その時、列の最後尾を歩いていた少女が立ち止まって、ギーネの隠れている窓を指さし、隣の老人に何かを言った。

「……!!」

 ギーネは一瞬の遅滞も遅疑もなく、瞬時にその場に伏せようとする。

 瞬間、帝國貴族の隠れている窓めがけて降り注ぐ銃弾と弓矢の嵐。廊下に鮮血が散った。



物語の構造的には、少年兵含んだ烏合の衆との戦闘って蛇足だった気もしてきた。

強敵との戦いの後に、さっさと町での逆襲に移ればよかったか。

うーん。分からん。面白い話を書きたい。

後で、ここら辺カットして書き直すかも知れない。

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