Spiral of death 死の螺旋
今日はもう一回、更新予定。(あくまで予定
人口わずか30名。芋と麦の栽培だけを産業とする貧しい集落がキースの生まれ育った故郷だった。
【町】からのキャラバンに飲料水や生活物資の殆どを依存し、殆どへばりつくようにして存在している小さな集落では、娯楽と言えば、古い漫画本が3冊と壊れたレコードで繰り返されるカントリーミュージックの最初の十五分を繰り返し聞くことくらいしかなく、食べ物と言えば、不味い砂麦の粥に芋のスープ。 畑を荒らす兎と鼠のあいの子みたいな害獣をガタが来たライフルや弓で追い払うのが若い男の仕事の一つで、稀に運よく仕留めた時には肉が追加されることもあったが、手におえない変異獣が出没した時には、乏しい物資を切り崩して、流れのハンターたちに駆除を依頼する羽目に陥ったりもする。
とは言え、そんな事例も滅多に起こらず、総じて日常の全てが退屈な繰り返しのちっぽけな居留地で、馬鹿みたいに懐いて背中についてくる年下の女の子をいなしながらいつの日か、両親の跡を継いで畑を耕して暮らしていくのが自分の人生だとキースは漠然と信じていた。
幼馴染と結婚して、両親と同じように農民として生きていく穏やかな日常。それはけして悪い生活ではなく、むしろ殆どの放浪者や流浪民にとっては、手の届かない上等な暮らしであったのだろう。
それでもキースは心のどこかで満たされないものを感じていた。年に2回ほど麦や芋を青空市に納める取引が故郷の居留地にとっての薬や弾薬、そして噂を入手する為の命綱だったが、取引の手伝いに双首ヤクを引いて同行するたびに、田舎育ちのキースは、憧れとそれに相反する反発を煌びやかな【町】の住人に対して覚えたものだ。
無論【町】の暮らしは、刺激に満ちて便利でもあるが、防壁の内側で豊かさと安全を享受しているのは町の創設者の子孫である一握りの市民たちだけであり、庶民の大半は村人よりいくらかマシだが、さして変わり映えの無い暮らしを送っている。
だから、将来が保障された故郷での暮らしを捨てるなどというのは、どうしようもない愚行に違いない。
分かってはいた。閉塞感もあるが安定した村での生活と、明日をも知れない【町】での暮らし。
本来なら、比べるべくもないその考えが、しかし、キースの脳裏に執りついて彼の心を真っ二つに引き裂いいる。果たして、新たな土地で一から人生を切り開くことを、一度でも夢想したことのない男がいるだろうか。
それでも其の儘、穏やかに時が過ぎれば、キースもいつかは自身の心に折り合いをつけて、農夫として平凡ながら幸せな生涯を過ごしたに違いない。
キースの人生に転機が訪れたのは、地球標準年で16歳になった頃だ。
一言で言うと、集落が滅んだ。変異獣の大群が襲来して一溜りもなかった。
月も星もない真っ暗な闇夜だった。前兆も無かったし、手の尽くしようもなかった。
何時も相手をしていた小型変異獣の十匹やそこらなら村人総掛かりで何とかなっただろう。体毛は黒か茶色、成人に匹敵するほどの体躯に鋭い鉤爪と牙。小型変異獣も伴ったその数は百を遥かに超えていたし、殆どの村人たちは逃げる暇もなかっただろう。
そいつらが突然、家に突然、入り込んできた時、キースは悪い夢でも見ているのかと思った。
噛みつき獣と呼ばれる危険な変異獣だと後で知った。
子供を逃がす為に踏みとどまった両親だけは臓腑を喰われた亡骸を後で見つけることが出来たが、弟や妹は混乱の中で逸れてそれきりだ。手を握って一緒に逃げた幼馴染は、途中で押し倒されて骨も残らなかった。
悲痛な甲高いあの娘の声。もう8年も前の話だ。なんと言われたか、キースは思い出すことが出来ない。
村人の一人が、戻ろうとしたキースの腕を掴んで強引に走らせたが、今でもその時、逃げずに戦うべきだったと悔やんでいる。例え、勝てずとも戦って死ぬべきだった。
助けを求めるその叫びの言葉を、意味は覚えているのに、キースは何と言われたか覚えていないのだ。
【町】が本腰を上げて変異獣の対策に乗り出したのは、それが単なる変異獣の暴走以上のものだと判明してからだった。
それまでに幾つもの集落や居留地が壊滅的な被害を受けており、これ以上の放置は【町】の存亡にも関わると判断したのだろう。
近隣居留地の防衛隊に農園や小村落の民兵、傭兵とハンター、そして其れまでに【町】に流れ込んだ難民から志願者を募って大規模な討伐隊が編成された。【町】へと辿り着いた僅かな生き残りは、生活苦の中で四散して、今はもう誰がどこで何をしているのかさえ分からないが、その時には、村の生き残りからキースを含めた3人が討伐隊に志願した。
議会は、侵攻してくる変異獣への防衛線として、進路上にある街路の幾つかを封鎖した。
兎に角、変異獣の【波】を幾らかでも漸減してくれる役割を期待したのだろう。
派遣された討伐隊は兎に角、人数をかき集めており、その中には昇級を約束された底辺ハンターや、居留地への滞在許可を餌に急遽雇い入れた放浪民も多く混じっていた。
訓練された警備隊や高級の傭兵たちを温存する為だろう。防衛線の外縁。積み上げられた土嚢の最前線に配備されたのは、大半が底辺ハンターや雇い入れた流れ者。粗末な盾やこん棒だけを持たされた連中で、前衛の一翼を担う形で食い詰め者に混ざって配置された難民も、きっと時間稼ぎの肉盾の役目を割り振られたのだ。
前衛の装備からして、変異獣の群れに突入を許せば、哀れな食い詰め者たちがミキサーにかけられたようにズタズタに切り裂かれることは一目瞭然で、その背後に強力な武装を所持した主力部隊が待機している。これらのハンター、傭兵及び守備隊は、最低でもミニエー銃などのライフル火器を所有しており、大抵は、ボルトアクション式ライフルやアサルトライフル、最奥には水冷式重機関銃までも配備されていた。
戦術としては一見、非効率的に見えても、食料紙幣や牛糞燃料と引き換えにできる人命より、修理と保全に手間暇懸かる重機銃と貴重な弾薬を温存する方が、【町】にとっては正しいのだろう。
キース自身は、銃を扱った経験があることから、他の村の民兵と共に本陣と前衛の狭間である中衛に配置されていたが、【町】から連れてこられた若者たちが無残な最期を遂げることは疑いようがなかった
そう思った時、キースは自然と前衛へ向かって歩き出していた。
手近な土嚢に寄り掛かりながら、敵の来襲を待ち構えている少年少女たちに話しかける。
「バイターと戦ったことはあるか?」
「……連中は兎に角、動きが素早い」
「ああ、確実に当たる距離まで引き付けてから、発砲しろって言われたよ」
見すぼらしいなりをした少年が、昏い瞳をキースに向けながら、カットした鉄パイプのマスケット拳銃を見せてきた。
火薬、弾薬と共に貸し出されたそうだが、支給された弾が一人頭、僅か3発というのが【町】の彼らへの期待を如実に示していた。
「バイターを一発で仕留めるのは難しい。引き付けてから撃ったら手遅れになる。
奴らの咬筋力はかなりのものだが、野生動物ほどじゃない。
例えば、ハイエナは人間の頭蓋骨を噛み砕くと言われているが、そこまでは強くない。
代わりにバイターは耐久力に優れている。野生の肉食獣が全力疾走できるのは10秒から30秒程度だが、変異獣には人間と同じく長時間を走り続けることの出来る奴も珍しくない」
「接近戦は不味い、と」と少女、ミリアムがふむふむと頷いている。
「お前たちの体格では、薙ぎ倒されたら終わりだ」
言って、キースは言葉を続けた。
「連中は、纏まって襲い掛かってくるが、囮も使う。正面で引き付けている時に横合いから飛び掛かってくる」
「……どうしろって言うんだよ?」
キースを睨みつける少年の疑わし気な眼差しには、隠しようもない昏い光が宿っている。
不特定多数の相手に野良犬のように痛めつけられ、理不尽に奪われてきた人間特有の猜疑に満ちた瞳。
「俺が戦った時は……家屋に逃げ込んだな。閉めたドアをぶち破ってくる時だけは、流石にバイターも動きを止めた。その時にありったけの弾をぶち込んで、それでも死なないんでテーブルを落として叩き潰した」
キースの良く鍛えられた逞しい農民の腕と、自身のしなやかだが細さの残る腕を見比べて少年が口元を歪めた。
「なるほど」
「兎に角、纏まれ。助け合え」
「……あんた、ふざけてるのか?戦う為に雇われた人間に、敵が来たら家ん中にと言いたいのか?」
傍らでやり取りを聞いていた監督役の傭兵が、少年の吐き捨てた言葉に大声で笑いだした。
「そこの百姓の言うとおりだぜ。バイター相手に5分持つかどうかも怪しいもんだ。戦いが終わるころには、半数は死んでいるだろうな」
嘲笑の響きに少年の顔から血の気が引いた。眼の下に憎悪のどす黒い隈が浮き上がった。
「……止めなよ、グレン。この人は戦いの前に出来る限り知っている事を、私たちに教えてくれようとしているだけだよ」
宥めるように言った少女は、考え込むように傭兵の言葉を繰り返した。
「うーん。生き残るのは、良くて半数か」
少女が立ち上がった。
「出来ることをしよう。このシャベルを借りていいかな?」
自棄になっている者も多い中、しかし、少女は自分が生き残る幸運な半数に入るべく足搔こうとしていた。
結果として、本腰を上げた【町】によって、変異獣の暴走はあっさりと終わりを告げた。
短いが激しい戦いで殲滅に追い込んだ代わりに、殆どの街道では少なからぬ犠牲を払うことになった。
特に前衛は消耗が激しく、多数のバイターと遭遇した街道では、傭兵の予想通り半数近くが死んだのだが、キースのいた街道では、僅かに被害が少なかった。
近くにいた前衛のハンターや流れ者たちは、少女の提案と指示によく従い、落とし穴を掘り、落ちた変異獣に槍や火炎瓶でとどめを刺していった。
無論、犠牲は大きかった。仕留めた変異獣の少なくとも倍の人員が、廃墟の街道に屍を晒すことになっただろう。
それでも、土嚢の前に誇らしげに積み上げられたバイターの骸は、五匹やそこらでは効かなかった。
今も鮮やかに覚えている。自分よりも若い少年少女たちが、まるで歴戦の兵士のように冷静に変異獣に立ち向かい、傷つきながらも撃退した驚くべき光景を。
「貴方のお陰だよ、キースさん」
駆け寄ってきた少女、ミリアムの言葉にキースは渋面で肩を竦めた。
「いや、お前の力だ。俺はなにもしていない」死に損ねたか。そんなことを考えながらも、キースの受けた衝撃は小さくなかった。僅か半刻の間に農民の青年の心には、少女の名が深く刻まれていた。漠然と思い描いていた村への帰還も二度と振り返られることはなかった。幼馴染も実家の畑も無くしたキースは、興味深げにとかく陽気な少女ミリアムと、陰気な痩せた少年グレンを見つめる。
それがハンターチーム『雷鳴』が結成される半年前の出来事だった。
『ホテル・ユニヴァース』の地下駐車場をさ迷い歩くキースとモヒカンは、壁に印された案内図を見つけていた。
「兄貴!近くに出口があるぜ!」
ライターの明かりで照らされた案内図を眺めて、モヒカンが喜びも露わに言った。
はしゃぐモヒカンの横で腕を組んでいたキースが、厳しい表情を保ったまま首を横に振った。
「……此れは当てにはならんな。前回の探索のメモによれば連絡通路は塞がっているし、階段はゾンビのど真ん中に出た筈だ」
「なら!どうしろって言うんだよ!」
思わず声が大きくなったモヒカンを咎めるでもなく、キースは静かな眼差しで闇に目を向けた。
通り過ぎてきた背後の駐車場から、叫び声が響いてきた。
「生き延びたら、次からはでかい声を出すなよ」
ため息と共に一言注意したキースが、荷物を背負いなおした。
「あ、すまねえ……俺は」モヒカンが顔を歪める。
「喋ってないで走れ!」
十中八九、噛みつき獣だろう。駆けてくる変異獣の群れは、恐ろしく速い。
獣の息遣いがすぐに背後まで迫ってくる。
複数のコンクリート製横長柱を横目に駆けているうち、横目にも柱で遮られた空間の向こう側へ下へと続く螺旋スロープを見つけた。僅かな非常灯に薄暗く照らされた空間では、横に止められた幾台もの車が障害となる壁を幾重にも形成している。
「あっちだ!先に行け!行け!」
必死で走りながら、振り切るにはここしかないと、キースは指さしてスロープに向かうよう指示する。
「でっ、でも兄貴!」
躊躇するモヒカンを突き飛ばした。自分は其の儘、噛みつき獣を惹きつけるように派手に走り続ける。
螺旋スロープになっている坂道を転がり落ちるように駆け降りながら、モヒカンは天を仰いで呻いた。
「……兄貴、すまねぇ。兄貴ぃ」
横倒しになった自動車を次々と飛び越え、スロープの最下層まで駆け降りたモヒカンが男泣きしていると、上層から変異獣と絡まり合った男が落ちてきて床にたたきつけられた。
うめき声を漏らしながら、半身を起こした。
「……なにを泣いてるんだ、気持ち悪いな」
痙攣する変異獣の首元に突き刺さったナイフを引き抜きながら、キースが起き上がった。
「兄貴!無事だったのか」
「……少してこずったがな」
言ったキースが床にへたり込んだ。目だった傷は見えないが、激しく疲労している様子だった。
或いは見えない傷があるかも知れない。
動けないキースだが、考えることと喋ることは止めようとはしなかった。
しばらくして起き上がり、スロープの上の方を首を伸ばして見上げる。闇に包まれた高い天井と太い支柱は太古のコロッセオを連想させた。
普通、構造的には、螺旋の中心に柱を置いた方が安定するが、ティアマット文明全盛期のコンクリートの強靭さにものを言わせたのか。地下から天井まで吹き抜けの空間となっていた。
地下にも関わらず中心に柱が存在せず、中空の大穴がぽっかりと開いた巨大な螺旋は、複数の支柱に支えられる奇怪な構造で、天井が開いているならヘリコプターでも離着陸できそうな広さがあった。
変異獣の唸りが闇に包まれた上方から響いてくるが、最下層に近づいてこようとしない
「……奴ら、入ってこないな」
見える位置をうろうろしていた変異獣の一匹。獰猛なバイターが甲高く情けない悲鳴を上げて、闇の彼方へと姿を消した。
バイターの無様な姿を目にして、モヒカンがどこかヒステリックな笑い声をあげた。
「……来ませんね。へへっ、兄貴に怯えているみたいだ」
「連中が怯えているとしたら、それは俺に怯えている訳じゃない」
バイターの消えた闇を見据えながら、静かな声でキースがいった。
地下の最下層か。奥になにかいるかも知れんな。
「何故かは知らんが、兎に角、バイター共は入ってこないようだ」
何かを考えこんでいたキースだが、軽く肩を竦めた。
「丁度いい。飯でも食うか」
地下駐車場の床に、携帯燃料の火で沸かした飯盒が湯気を立てていた。
肉片を入れた麦と芋の粥に固いパンを齧り、そしてブリキ缶で飲む粉末コーヒーを啜っているうちに人心地ついたのか。
くつろいだ様子のキースに対して、モヒカンは食事が喉を通らない様子で、周囲を神経質そうに見回していた。
キースが苦笑した。
「落ち着け、坊主」
「でも、襲ってきたら……」
「その時は、どうにもならん」
「食え」
一声かけると、キースはスプーンで湯気を立てる粥を口へと運び出した。
モヒカンも、湯気を立てる粥をスプーンで掬って口へと運んだ。
気づかないうちに飢えていたのか。塩気の効いた粥が体に吸い込まれるようだった。
何の変哲もない粥が、ひどく旨いと感じられた。
気づけば、意志とは関係なしにガツガツと貪るように粥を喰らっていたモヒカンを前に、キースがぼやくように言った。
「……それにしても、とんでもない小旅行になっちまったな。しばらく遺構探索は、御免だな」
口元を袖で拭いながら、モヒカンは呻くように言葉を返した。
「……しばらくどころか、俺はもう二度と御免ですよ」
キースが苦笑した。
「でかい遺跡は初めてか?だが、『ホテル・ユニヴァース』に潜って帰れるなら、大抵のところは大丈夫だ」
「……その前に気持ちが折れます。俺一人じゃ、きっと生き残れなかった。
今だって、兄貴の前だから、何とか気張ってるようなものだ」
「そういう台詞は、家に入ってから吐くもんだ。
そうだな。家に帰った時のことを考えろ。抱きたい女、美味い食い物。
戦利品を売り払って金が入ったら、何に使うかもいい。
欲しいものを想像するのも楽しいもんだ。
まあ、今回は大赤字だろうが……生きていれば次がある」
「……町に帰ったら、酒を浴びるほど飲みたいですよ」
モヒカンが笑った。キースもふっと笑った。元気が出てきたようだ。
「町に帰ったら、一杯奢らせてください。いい店を知ってるんです」モヒカンが言った。
指についた麦粒を舐めとりながら、キースが頷いた。
「美味い奴よりも、熱い酒を一杯飲みたいな。だが、その為にも、まずここから脱出しないとな。スロープにはバイター共がうようよしている。他に出口があるといいが」
言って螺旋状の通路と地の底から40メートルも遠そうな天井を見上げる。
「ほかの出口?そんなものがありますかね」
尋ねたモヒカンの声は、不安そうに揺れてはいたが、気力を取り戻したようで暗さは消えていた。
「こういう建物の地下には意外とな。核戦争時のシェルターを兼ねていることが多い。脱出経路を複数造っておくのは基本だが。なかったら……どうするかな」
食事を終えたキースが飯盒を仕舞いこんだ。2人は最下層を探索することにする。
駐車場は意外と広がりを持っているようで螺旋状の巨大スロープは本来、各階層へのアクセスとして設計された地下施設の一部に過ぎないようだ。
なぜ、地下駐車場に此れほど広大な面積が必要とされたのか。駐車場にしては広すぎるとキースは思ったが、文明崩壊前の人間にも何かしらの理由があったのかも知れない。東海岸最大のホテルの一つでもあるし、或いは、有事のシェルターとして利用する予定だったのかも知れない。だとしたら、何処かに物資が備蓄されているかも知れない。
無人の駐車場をたった二人で歩き回る。太陽の熱や光とも無縁の広大な地下世界だが、何故か意外と温かい。ほんの少しの肌寒さが肌を刺激するが、気分は悪くなかった。
地下では毒ガスが恐いことをキースが思い出したのは、歩き回っているうちに、迂闊にも壁の上方に未だ動いている換気口を見つけてからだった。
地上へと通じているかも知れないと思いつつ、舌打ちして首を振るう。
「換気口を昇れるか?」
「……どうですかね」
キースが車の屋根に昇ってみるが、辛うじて格子に手が届いたが頑丈で外れそうにない。
「駄目です。リベット……いやネジか。しっかり嵌っていて」
振り返ったモヒカンが口を開いたまま、怪訝そうな表情を浮かべる。
「……なんだあれは。ちょっと待って。非常灯。いや、明かりが見えます」
ホテル・ユニヴァース 地上階
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螺旋 駐車場 =地下鉄 地下街など
螺旋
螺旋
螺旋
螺旋
?=最下層=?
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