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第六話

 夕飯終わりから、寝るまでの数時間ばかり。僕が完全に自由に使える一時だが、大体は予習復習と言った優等生の模範的な使い方で消費されている。

 しかし、この頃はどうにもお気に入りのシャーペンは使われず、筆箱の中で休業中だった。

 というのも、メールをしているからだが。

『今何してるー』

『ありきたりだが、勉強中だ』

『さすが会長ッ! 予想を全く裏切らない!』

 などという感じだが、これがなかなかに楽しい。

 会話と違い、返事まで多少の時間が空くのだが、なんて返事が来るのか。それを考えるのが楽しくて仕方がないのだ。

 だから、携帯を片手に机に向かい、結局はメールばかりと言う日々がここの所、続いていた。

 さすがにこれはマズイ気もするのだが、なかなかに止め時が見つからない。

 メールが来たら返事を返す。それが気になって、勉強に集中できないと言う悪循環。

「そもそも、なぜこんなに楽しんでいるんだろうな」

 今も、ちょっとした雑談の返事を作りながら考える。

 もともと筆まめと言う程でもない。メール機能とて、瀬能と友人になる前までは、事務的な連絡手段としてしか使用していなかった。

 だから文面を考えるのが下手で、相手が返事を返してくるまで微妙に不安だったりもする。

 けれど、それが無性に心地よかったりもするあたり、重症だろうか。

「っと、これでいいか」

 返信の文面に誤字がないかを確認し、送信ボタンを押す。

 紙ヒコーキが飛んでいくアニメーションが表示され、送信しましたと言う文面に切り替わる。

 今、送ったのは先程の返事と次の休日に関する予定だ。

『それじゃ、今度の休みに井上さんも誘ってカラオケでいいか?』

 会話の流れから、そろそろカラオケに行かないかと言う提案。瀬能からの返信はこのようなものだった。

 もともと、二人でカラオケボックス内は嫌だと言うのが瀬能の言い分だ。

 なら、行く人数が増えれば問題は解消される。

『あー、でも緊張する。ワタシ、カラオケって初めてなんだよ』

『カラオケは、一人で行くものでもないからな』

 返信の合間にペンをわずかにでも走らせる。本格的に、勉強をしないですでに二時間が経過しているのだ。

 別に試験が近いわけでもないし、成績を維持していなければ生徒会長を降ろされるわけでもない。

 ただ、僕が誘惑に負けたと言うのがなんとなく、むかつくのだ。

 なんて考えて、数式を解いていたのに。

 メールの受信を知らせる短い音楽がなれば、すぐに頭の中にあった解は霧散むさんして消える。

 代わりに浮かぶのは、相手の文面を早く読みたいという欲求。

 もしかすれば、手紙でのやり取りが好きな人は今の僕のような気分が好きなのだろうか。

 相手の言葉を待つ。

 口頭でやり取りしていては、味わえない醍醐味だいごみではなかろうか。

 なんて、ほっこりした気分に浸っていたが、送られてきた文面に僕は驚愕してしまった。

『うっせーo(`ω´*)oプンスカプンスカ!!』

 かっ、顔文字だと……っ!

 開かれたメールには、簡単な言葉と一緒に顔文字が一つ。バカな、この数日で作れるようになったというのか。

 クッ、僕と同じレベルの技能だと思っていたというのに。いったいどこで学んだんだ。

 考えるが、すぐには思い至らない。当たり前だ、わかれば自分で使っている。

 聞いてみるか? いや、だめだ。なんかすんごい負けた気分になる。

 ひとまず、ここは簡単な文面を返信して様子を見るか。

 いや、あえて挑発するのも一手だな。

『僕は二度ほど、経験があるがね』

 こんな所だろう。

 まさか、祐一に引きづられて行った事がアドバンテージになるとはな。

 返事を送り、僕はさっきのメールから届いた顔文字をノートに写しとる。

 が、括弧かっこ以外の文字の読み方がわからない。そもそも、この文字を小さくする方法すら、知らないのだ。

 いったい、今時の女子高生などと呼ばれる人たちはどうやってこれらを作っているのだろうか。

 疑問は尽きない。だが、没頭していた思考はやはりメール受信の音楽に邪魔される。

『ふふん、そんな程度の経験で勝ち誇ろうなんざ、十年速い┐(´∀`)┌ヤレヤレ』

 またかっ!

 覚えたてのを使いただるのはわかるが……くそっ、僕をからかって遊んでいるのか、アイツはっ!

 だが、必ずや見返してやるからな。

 ……祐一に教わってっ!


 ちなみに、やり方だがそれなりに新しい機種の携帯ならば顔文字で変換すれば、出てくるらしい。僕のも、やってみたらズラリと候補が出てきた。

 科学の進歩を喜ぶべきか、こんな簡単なことを見つけるまで徹夜した僕が馬鹿なのか。

 悩ましく、そして非常に眠い。

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