第四話
僕、桐原進と瀬能レイアの勝負は、結局のところ僕の敗北で終わった。
どうやらゲーム事態が得意なようで、僕が勝つ事ができたのはエアーホッケーのみと言う散々たる結果だ。
そのため、賭けの代償を支払うために僕たちはゲーセンの一角にある休憩所に来ていた。
休憩所といっても、そうやって区分けされているわけではない。二階にあるコインゲームへの階段近くに、自販機と長椅子が置いてあるだけだ。
「約束通り一本、奢ってもらうよ」
「わかっている。どれだ」
「んじゃ、缶コーヒー。砂糖とミルクありのこいつで頼む」
瀬能が指さしたのは、ホットの缶コーヒーだ。安い物だが、こう負けてから奢ると言うのはそうとうに悔しいものがある。
必ず、リベンジすることを奢るはめになった自販機に誓っておこう。
「へへっ、ゴチになるよ」
ホットの缶コーヒーを渡し、瀬能は先んじて長椅子に座る。
僕もホットの緑茶を買い、後をおうように間隔を空けて隣に座った。
「くっ、まあ負けは負けだ。次は覚悟しておけよ」
「そうそう簡単に勝てると思うな~」
瀬能は意地悪く笑い、缶コーヒーのプルタブを開ける。
「それにしても、ずいぶんと上手かったがゲームは得意なのか?」
「んっ? ああ、兄貴が好きでさ。小さいころから一緒にやってたんだよ」
「漫画のネタも、そのお兄さんが?」
「そっ。いわゆるオタクってやつかねー。まあ、家じゃいい兄貴なんだけどさ。
てか、そういう桐原はどうなんだよ」
「僕?」
「あのむちゃくちゃなエアーホッケーのやり方だよ。それ以外にも、けっこう上手かったじゃないか。
あっ、ワタシには劣るけど」
むちゃくちゃとは心外な。と言うか、そんなオチをつけるなこの野郎め。
「祐一に誘われてきた時に惨敗してね、悔しかったから工夫してたらああなった」
「どうなったら二刀流なんて発想が出てくるんだよ……」
苦笑いされ、なんとなく気恥ずかしくなった僕は手に持った緑茶を軽く一口、飲む。
「そういや、生徒会室のも緑茶だったけど好きなのか」
「甘すぎず、かと言って苦すぎないのが特に良い。君は、コーヒー党かな」
「んー、どっちかって言うとって感じだな。
正直に言えば、そこまで味にうるさい訳じゃないし」
まあ、だいたいの人はそうだろう。僕だって好んで入るが、特別な思い入れがあるわけでもない。
――それにしても、こうして話しをしている限りでは取っ付きにくいと言う印象はないのだが、なぜ友人がいないのだろう。
瀬能が言うに髪の色で忌避――は言い過ぎだろうが――避けられているということだが、実際に話してみればそういった印象は薄れるだろう。
どこかの部活に入っていれば、中心にはなれるのではないだろうか。
「んっ、どうかしたか」
視線を向けていたことを気取られたのか、瀬能が飲もうとしていた缶を止めて聞いてくる。
「んっ――たとえば、部活とかには入っていないのかなと、思ってな」
「部活?」
「ああ。そういった団体に所属していれば、友人も作りやすいだろうと思ったんだが」
「うーん、あんまりやる気はしないかな。広く浅くってやり方が好きでさ。そこまで真剣じゃないヤツが居ても、他の人に迷惑だろ」
それは確かにあるな。
にしても、口調とかが乱雑なわりには真面目だ。こう言っては失礼だけど。
「なら、文化系はどうだ」
「あー、ダメダメ。ほとんど活動してるとこねえもん。ゲームとかは好きだけどさ、別に学校でもやるってほどじゃないし。
桐原はって、生徒会か」
「生徒会だからって部活に入っては行けない決まりもないけど、まあそうだね」
いや、まてよ。
生徒会か。
当たり前だが、生徒会は副会長、書記、会計で構成されている。
この中で、副会長と会計は二年の女子だ。クラスは四組だが、まあ近いと言える。
生徒会の活動以外では接点のない二人だから、この間は紹介しなかったが……うまく瀬能を引き込めれば、交流を作らせやすいか。
そこからどう転ぶかは本人次第だが、生徒会内ならば僕からもフォローしやすい。
「一応、確認しておきたいが何かしらの団体に所属したりする意思は、あるか?」
「毎日、活動があったりしなければ」
「ふむ」
一応、問題はないっと。
「では、一つ提案だが」
「おっ、流れ的にどっか適当なとこ紹介してくれるのか?」
楽しみにしているのか、少しだけ身を乗り出してくる。
「ああ。活動は毎週水曜日の放課後、一時間ほど。基本的には各委員会からの意見をまとめたり、部活動の追加予算申請を審議したりだな」
「あれ、おい。それって」
瀬能が怪訝そうに、眉をしかめる。
「他にもいろいろとあるが、まあ基本的にはお茶を飲みながらダラダラと話すだけの活動だ。
――どうだい、生徒会役員と言うのは?」
「ああっ、やっぱりっ!」
本来なら選挙で選ぶのだが、役職が埋まっているのでする意味もないだろう。だから会長権限でねじ込む。
例えば秘書とかで。
「まあ、返事は何時でもいい。来る気になったら、来週の水曜日にでも僕に言ってくれ」
「えっと、あーわかった。考えとく」
悩んでいるのが見て取れるくらいには、考えてくれているようだ。
生徒会活動というのも、なかなかに堅苦しいと言う印象が強いだろうしな。無理強いはしないでおこう。
「気楽にきっかけの一つとでも、思ってくれたまえ」
それから、最後にクレーンゲームに貯金して僕たちは帰宅した。
思った以上に楽しかったし、できれば瀬能には生徒会に入ってもらいたく思うが、どうかな。