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第二話

 店内に入ると、様々なゲームの音楽や効果音が鼓膜こまくをゆさぶった。

 置いてある機種は変わっているだろうが、この喧騒けんそうだけはいつもかわらない。

 街にゲームセンターはいくつかあるが、学校から近いのは駅前のアーケードにあるそれである。

 雨があがるまでは二日を必要としたが、今日は快晴とあいなったので放課後に連れ添ってやってきたのだ。

「さって、まずは何から遊ぶかね~」

 視線をあちらこちらと彷徨わせながら言うのは、先日から友達となった瀬能せのうレイアだ。

 その特徴的な朱色の髪が、顔の動きに合わせて揺れているのはどこか犬の尻尾を思わせるな。

「ゲームセンターにはよく来るのか?」

「わりとな。そういう桐原はどうなんだよ」

「頻繁、と言うほどではないな」

「ふ~ん。なら、ここはワタシの独壇場だな。

 お前には、屋上で恥をかかされたし、ここでしっかりと返してやるよ」

 自信満々に笑う瀬能。どうやら、腕に覚えがあるようだな。

「なら、最初のゲームは僕が決めてもいいかな」

「ああいいよ。どれ選んだって、ワタシの圧勝は間違い無いだろうしな。

 へへっ、なんだったらハンデをつけてもいいんよ?」

「お手柔らかに頼もうか」

 こちらもわずかに笑って返し、初めのゲームの前へと移動した。




 ゲームセンターにある遊技の中で、個人的にここでしかできないと思っているものがある。

 だいたい、どこのゲームセンターにも置いてある定番の対戦ゲーム。

 卓球台と同じくらいの面積に、青い盤。そこには無数の小さな穴が開いていて、中央はプラスチックの板で仕切られている。

 だが、その敷居の下にはわずかながらに隙間があり、両端にはゴールに見立てた穴が開いていた。

「エアーホッケーか。また、なんとも予想外のがきたな」

 そう。

 この、エアーで円盤を浮かせて打ちあうゲームは間違いなくこういった施設でなければ、することはできない。

 おそらくは騒音などの問題からだと思われる。

「まずはワンプレイ、こちらが誘ったからね。これくらいは奢ろう」

「百円だろ。まあいいや、さっそくやろう」

 コイン投入口のあるほうにお金を入れると、駆動音を響かせてエアーが排出され始める。

 残念ながら、円盤は相手側にあったようだ。瀬能が自身で打ちやすいだろう位置へとセットしていた。

「さぁて、お手並み拝見っ!」

 言って、瀬能が手にしたハンマー――と言うかは知らないが――で、円盤を斜めに叩く。

 円盤は盤上を高速ですべり、まず壁に一回。跳ねてもう一度と、斜めにこちらに向かってくる。

 が、見え透いたコースだ。

 まっすぐにゴールを狙うそれを、カウンターで弾き返す。

 わずかに軌道をつけ、バウンドさせるように相手側のゴールを目指していく円盤。

 加速するそれは、簡単には対応出来ない速度のはず。

 しかし、ゲームには自信ありと言ったふうだった瀬能はことも無げに円盤を上から抑えて止めてしまう。

「そうそう簡単には通さないっての。

 あっ、そうだ。提案だけどさ、最終的に勝利数が多いほうが後でジュース奢るってのは、どうだ?」

「これ以外のゲームもふくめて、ということかな」

「あったりまえよ。そういや、このエアーホッケーは何点で終わりなんだ」

「十点か、時間だな」

「そうかい。で、乗るのか?」

 挑発するかのようにふんぞり返る瀬能。こちらも不敵に笑い、言ってやる。

「乗ってやろう。しかし、僕に勝てるかな」

「そう言う自信満々な態度は――フラグだっ!」

 叫ぶようかの声。

 腕が振るわれる。

 今度も左右を跳弾する軌道。しかし、これはっ。

「さっきよりも速いっ!」

 まさか、眼を慣れさすためにわざと弱く打ったと言うのか。

 狙っていたよりも速かった円盤に、予測を崩された僕の手は虚しくも空振りし、円盤がゴールへと吸い込まれる。

「まず一点ってね」

「――なるほど、なかなかに上手いじゃないか」

「負け惜しみを言うにはまだ早いっての。さぁて、このまま完封してやろうか」

 まだ一点を取っただけだというのに、勝利を確信した笑み。

 ふむ。

 ならば、劇的な逆転劇と言うのを演出してみようか。

「くっくっくっ」

「おっおい、なんだよ……」

「いや、楽しくなってきたなと思ってな」

 さて、まずは追い詰められてみようか。




「またまたいただきっ!」

 何度かの応酬。しかし、一瞬の隙をついた瀬能の一打が円盤を僕のゴールへと叩きこむ。

「どうよ~。これでリーチ、かかっちまったぜ」

「そのようだね……ああ、ではここから逆転と行こうか」

 完全にあと一歩で負けると言う状況。

 だというが、しかし。

 これでこそ、逆転の意味があるというものだ。

「負け惜しみ言っちゃって。

 まっ、可哀想だしそろそろ終わりにしてやるから、早く打ってこいよ」

 左手でこちらをあおる瀬能。

「なら、お言葉に甘えようか」

 円盤をセットし、右手を構える。左は台の横、二人プレイ時に使うハンマーのすぐ近くに。

 カンッと、力強く円盤を叩く。

 軌道はとうぜんジグザク。さながら稲妻のように。

 だが、読みきられた。

 瀬能は自分の叩きやすい位置に来る瞬間を狙い、返してくる。

 狙いは僕からみて右。

 角度が浅く、これならば反対には行かずにまっすぐに僕側のゴールへと迫る。

 読みやすい軌道。しかし、かなりの速度だ。まず止めたほうが無難であるようにも思う。

 だが、ここはあえて空振りを一つ。

 この一瞬。瀬能は勝利を確信しただろう。

 そうなるように、目に見えてわかる空振り。

 僕の右手は何にふれることなく、虚空を切って。

 しかし円盤を叩く音が一回。

 即座に、ゴールへと入った円盤が一つ。

「はっ?」

 中央の仕切。その上にあるディスプレイには『9対1』の表示。

 この試合始まって、初めての得点だ。

「えっ、嘘だろ。お前、空振りしたじゃないか」

「ああ、右手はね」

 言いながら、左手で握ったハンマーを見せてやる。

 空振りした円盤を、こちらの手でまっすぐに返してやっただけだ。

 勝利を確信し、油断した隙を狙って。

「ずっけぇ!」

「ずるくないさ。これは、意外と練習が必要なのさ」

 いわゆる二刀流。適切に円盤の動きを判断できなければ、左右の腕が邪魔しあってまともに戦うこともできないだろう。

「さぁて、ここからの逆転劇。どれだけ耐えられるかな」

 両腕を交差させ、ハンマーをそれぞれの手で弄ぶ。

「ぐっぬぬぬっ――ふんっ! だが、後一点だ。すぐに終わらせてやるよっ!」

 円盤をセットする瀬能。やっきになっているのか、叩きつけるようにしてだ。

 ああ、だが言ってやろう。

「そういう自信満々な態度は、フラグだ」

 左右の手による鉄壁のガード。負ける通りなどないのだっ!


 もちろん、僕が普通に逆転した。

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