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第十五話

 途中、幾つかの小さな水槽を見た後、僕と瀬能せのうはまた開けた場所にたどり着いた。

 そこは、さながら空の中とでも言おうか。

 こちらは海水なのだろう。一見で名前が出てくるわけではないが、スーパーの鮮魚コーナーで見かけるのと似たのが多数いる。

「コッチはコッチで迫力あるな」

「ああ……」

 私的な好みを言えば、こちらの方が好きかもしれない。

 青を基調した空間。長いトンネルのような形状で、見える範囲にはやはり様々なレイアウトがなされている。

 奥に見えるのは沈没船だろうか。

 もちろん本物ではないだろうが、よく見ると髑髏しゃれこうべなんかが見え隠れしていて、細部に拘りを感じる。

 なによりも、あの悠然と泳ぐ巨体。見るものを圧倒する姿は、畏敬の念すら覚える。

「あはははっ、何だあれ、掃除機みたいな頭をした奴がいるぞ」

「名前はど忘れしたが、たしかサメの一種だったはずだよ」

 水底近くを、悠然と泳ぐ掃除機頭のサメ。よく見ると、なかなか愛嬌のある顔立ちじゃないか。

「へぇ、じゃあアイツも肉食うのかな」

「サメだからって、肉食ばかりじゃないと思うけど」

 僕も詳しいわけではないから、はっきりとしたことは言えないけれども。

「映画の影響か、どうもサメって見ると肉食のイメージしかないんだけどな」

「それは僕もだけどね。あの群れは、イワシかな」

 一個の塊となって泳ぐ小さな魚。統率された動きは、一つの生物のようだ。

「おっ、あれはテレビで見たことあるぞ……アジじゃなかった?」

「どうだろう。そんなような気もするけど……」

 素人の僕達では、残念ながら見た目で名称を当てることはできない。看板と比べるのが一番いいんだろうけども、ぱっと見で見分けがつかない。

「こうしてみると、海の魚ってそんなに差がないんだな」

「たまたま似たような種類と言うだけかもしれないよ。

 ほら、あの当たりにいるカサゴは色とりどりだ」

「どれも、毒持ってるぜっ! って言わんばかりにトゲトゲで派手な色合いだな」

 たしかにカラフルだ。先立っての熱帯魚と比較しても、そう見劣りしないだろう。

 そこから視線を斜め上に動かすと、どことなく見慣れた風貌ふうぼうのサメがいた。

「あっ、あいつは肉食だな。間違いない」

「たしかに、カッコイイ見た目だね」

「えと、そうか?」

「何を言う。周りには目もくれず、ゆったりと回遊する様は王者の風格すら感じるだろう」

「う~ん……」

 瀬能は腕を組んで、考えこんでしまった。

 むぅ、残念ながら同意は得られなさそうだな。

桐原きりはらって、ああいうデカイのが好きなのか?」

「そうだね。やはり、巨大生物と言うのは男心をくすぐるものがある」

 未知のにかぎらずだ。既存の物ながらも、規格外な大きさになっている生物はやはり見ていて興奮する。

「それに、海と言う場所ならば居てもおかしくない気がするだろう。

 例えばシロナガスクジラ。あれはたしか二十メートルに及ぶ巨体だが、近年になって動画サイトにそれに比肩するほどのサメが映像として写っていたことがある。

 しかるに、深海と言う場所ならば百を超えるナニカがいてもおかしくはないだろう」

「えっと……」

 鼻息荒く語る僕に、瀬能はぽかんとした顔を向ける。

 しまった。熱くなりすぎたか。

 少し反省したが、その前に瀬能は吹き出すようにして笑い始めた。

「あははっ。なんだ、いっつもクールな感じだったけど、そう言う所もあるんだな。

 ――ああ、そっちの方が、ワタシはイイと思うぞ」

 ニッと笑いかけてくれた。

「むっ……そうか……」

 頬が熱くなる。なんとなく手持ちぶたさな手が、あちこちをさまよった。

「おっ、今照れてるな。くふふっ。普段、ワタシがどんな気持ちか、分かった。このっ、このっ!」

 ツンツンと、瀬能が赤くなった頬をつついてくる。

 なんだろ、なんだか妙に悔しい。

 結局、海水のエリアを抜けるまでは瀬能はニヤついた顔のままだった。


 まあ、そこまで悪い気分じゃないけれどね。

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