第十二話
斑鳩が見せてくれたのは、オープン十周年を記念している水族館のホームページだった。
「ホントは後夜祭でやってるキャンプファイヤーとかが、一番いいんだろうけど、もう終わっちゃったしね」
文化祭は先月の話だ。残念ながら、その当時は瀬能とは知り合っていない。
それはさておき、この水族館。記念ということで色々な催し物をやっているようで、値段も据え置きと、軽く行くには十分なように思える。
「祐一と行く予定だし、なんだったらダブルデートでもいいんじゃない?」
「おおっ、そいつはいいかも知んないな。中でバラければ二人っきりにもできるし」
ふむ。
「そうだね。個人的にはありだが、少しだけ確認したい」
「んっ、なんだ」
祐一が答える。
「嫌われてはいないと思うが、今はやや警戒されているようにも思う。
なにせ、告白したばかりだ。距離感を掴みかねているだろう相手の誘い。それも、二人っきりになるのが目に見えている所に来るだろうか」
「そうねぇ……誘い方しだいかな」
「誘い方?」
「そっ。
例えば、この機会に僕という人間を見定めて欲しい。私欲としては、色よい返事が欲しいが、それは差し置いても君に楽しんでもらえるよう、全力を振るうよ。
なんて、どう?」
以外と上手い声真似を披露して、斑鳩が歯の浮くようなセリフを言ってのける。
さすがの僕でも、そこまで気障じゃない――
「ああ、なんか進っぽい」
と思ったが、他人からはそう見えているらしい。
全く、失礼な話だ。
しかし、そういった切り口からの方が瀬能も来やすいだろう。
「そうだね、その方向で誘ってみようか」
善は急げと、僕はまず携帯から瀬能のアドレスを呼び出す。
文面は……さて。
『今度の日曜日、水族館に行かないか?』
シンプルにこれくらいか。まずは相手の反応を見てみよう。
「おいおい、この男さっそく誘ってますよ」
「ふふっ。君たちを見ていれば、彼氏彼女の関係が悪くないものだと、よくわかるからね」
僕もそうありたいものだ。
「やんっ、会長ったらわかってるー」
頬を両手で包み、斑鳩が身悶える。横で、祐一も照れてる当たりが、バカップルと呼ばれる所以だろう。
などと思っていると、携帯が着信を知らせる。
以外にもメールではなく、通話で返事が来たようだ。
「ちょっと失礼……もしもし」
『あー、その、ワタシだ。
なあ、これって、その……デートの誘いってヤツで良いんだよな』
「僕としては、そのつもりだよ」
受話器越しということを差し引いても、緊張気味の様子が伝わってくる。
しかし、すぐに返事をくれた当たり、嫌がってはいない。と、思う。
と、思いたい。
『……その、さ。ワタシ、まだ告白の返事もしてないんだけど……あっ、もちろん、すぐにはするつもり。するつもり、だけど……。
あ、あれ、何を言いたいんだっけ。
そうそう、つまり、このでっ、でデッ、デェトで答えを出せって、ことか?』
ああ、そう受け取ったか。
「私的には、そうしてくれると嬉しい」
『だよ、な……』
電話越しに、何かを言おうとするかのように息を飲む気配がした。
「だがね」
それをさせじと、僕は先んじて言葉を送る。
「告白した時も言ったが、決めかねているのならば、返事は後で構わない。
僕は、君を悩ませたいのではないんだ。
ただ一緒に遊び、楽しんで過ごしたい」
『別に、それだったら友達としてでも……』
それはそうだ。
だけど、友情と愛情は違う。
限りなく似て非なるものだ。
何が違うのかと言われれば、この胸に宿る情熱とでも言うべきものか。
これを思うがままにぶちまけたのが、先日の告白なわけだが。さすがに、これをこの場でもう一回と言うのはナンセンスだな。
機を見るに敏。狙い目は、デートの後だろう。
「僕も正確な違いはわからない。そのどちらかに優劣があるわけでも、ないだろう」
どちらも尊いものだ。べつに友人同士であったって、遊べば楽しい。
『うん。だったら――』
言わせない。瀬能のセリフにかぶせるように、早口で続ける。
「だから、一緒に確かめよう。
僕と、友達としてやって行きたいのか。それとも、恋人として過ごしていけるのか」
『確かめるって……それでデートってことか』
「もちろん、僕が純粋に君といたいというのもあるがね」
これは本当に、そう思う。
『……はぁ、わかった。その、ワタシもやきもきさせてるし、な』
「お詫びとして、でなく楽しみにして貰いたいが」
『あー……その、わかるだろ』
「できれば、聞きたいね。君の口から」
『……あ、うー……ええっと、な?
その……あー、えっと。
――たっ、楽しみに、して……るからっ!」
言い切られると同時に、耳には通話終了を示す音が聴こえるようになった。
「と、いうことになった」
ほったらかしになってしまった二人に謝りつつ、携帯をポケットにしまう。
「アタシの予想を裏切る気障っぷり」
「そこにシビレルーアコガレルー」
熱い熱いと、二人揃って手で身体を仰いでいた。
「ともかく、次の休みはデートだ。アドバイスを頼むよ、先輩方」
「了解。頑張ってきてくれ」
「応援してるからね」
――ちなみに、アドバイスと言うなの惚気を聞かされたのは、ご愛嬌だ。