第十一話
「十年間片思いを続け、あげくに自爆したワタシの恋愛指南とな」
と言うのは、井沢祐一の恋人である、斑鳩巴の言葉である。
学校帰り。近くにあるファミレスに入った僕たちは、ドリンクバーとホットスナックの注文をすませて一息をついたところだ。
「つまり、相談の相手に適さないと」
「告白まで済ませてるんじゃねー」
ストローで炭酸とオレンジジュースを魔配合したドリンクを飲みながら、斑鳩が答える。
「まあ、そうだよな。普通ってのも変だけど、告白してじゃあ付き合うかどうかって所だろうし」
祐一が追従する。
たしかに、それはそうだろう。実際、こちらからの最大のアプローチはもうすでに終わっている。
「好感度を稼ぐと言っても、できる事は限られているし、あまり近づきすぎてプレッシャーをかけるのも良くないと思うのよ」
「かと言って、距離を取りすぎるのも不自然だな」
「そうだね。今は、昼休みに生徒会室で昼食をとっているのだが、それでいいだろうか」
「うーん……できれば、何日かに一回は放課後、遊びに行くとか。
二人っきりだとキツイなら、誰かと一緒に」
それくらいなら、できそうだな。井上の他に生徒会メンバーも誘ってみるか。いや、それだと瀬能が孤立するかもしれないな。
となると、目の前の男か。
「彼氏は貸してくれるかい?」
「ワタシがいなくて、バイトがないときならいいんじゃない?」
「オレの意思はっ!」
「別に、手伝うつもりでしょ」
「そうだけど、そうだけどっ!」
何となく悔しそうだが、ここはあまり追求しないでおこう。
「後、僕にできるとしたら……」
「残るは神のみぞ知るってね。祈れ」
けっきょく、そういうところに落ち着いてしまうようだ。
ふむ。
もどかしいね。自分の手で状況を改善できないと言うのは。
「それにしても、桐原君が告白とはねぇ。正直、驚いてますよワタクシ」
「ああ、そりゃあオレも」
少し考え込んでいた僕に、二人の声が届く。
「そんなに以外だろうか」
「まあ、ちょっと前までの進からだと、想像できない」
「……まあ、そうだね」
瀬能レイアと出会う前の僕は、少なくとも一人の女子生徒のために真剣になることは、なかっただろう。
いや、女子に限らずだな。目の前の友人にとて、そこまでやるかどうか。
そう考えれば、変わったのだろう。
他人がどう思うかは別に、僕としては歓迎すべきそれだが。
「でっ、でっ? いったいその子のどんなとこに惚れちゃったの?」
と、斑鳩がうっすらと笑いながら聞いてくる。
「そうだね……」
気づいたきっかけ事態は、祐一が以前に話していた一緒にいると楽しい。そう言う意味合いである。
「まあ、君たちがよく知っていることだよ」
わざわざ言葉にしなくても、それで通じそうだな。この二人の場合。
二人はお互いの顔を見合わせる。
「楽しいってことか」
「そういうこと」
笑って答えた。
恋愛の基本は、きっとそれなんだろう。
相手といて楽しい。嬉しい。面白い。
そうして、愛おしい。
まだまだ、僕の一方通行だけれども。
できれば、この気持ちを瀬能と共有したい。
やれることは、全てやろう。
瀬能の背中はまだ遠い。それでも、近づいているって思いたい。
「あっ、そうだ」
不意に、斑鳩が声を上げた。
「もう一回、告白してみたら?」
「もう一回?」
「そっ。今度は、もっとロマンチックムードでね」
いい場所がある。そう言って、斑鳩は携帯を取り出した。