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第十話

 放課後。個人的に言えば今日も瀬能せのうと遊びに行きたいが、今日は朝からつきまとったに等しいので自重した。

「押してダメなら引いてみろとね」

 人もまばらな学校の廊下を、無目的に歩きながらつぶやいた。

 多目的に使用される四階は、主に文化系の部活が使用している。活発な所はそうそうないので、人の気配もあまりしていない。

 そもそも、ここ事態が普段から使うわけではないので来るのも初めてかもしれないな。

 万が一にでも出会えたら、それはもう運命ということで一気に突貫するが。

 しかし、まだまだ僕と彼女の間には運命と呼べるだけの絆はないらしい。

 出会ったのは、おそらくは片割れを待っているだろう友人の井沢祐一いざわゆういちであった。

 祐一は。片手に持っていた携帯をポケットにしまい、こちらに向かって手を上げる。

「よう。こんな所で、何やってんだ」

「こちらのセリフ、と言いたいが彼女待ちか」

「そっ。今日はミーティングだけって言うし、そんなにかからないらしいからな」

 顎をしゃくって示すのは、しっかりと閉じられた扉だ。見た目には、僕らの教室と同じように見える。

「さすがに、部外者がミーティングに参加するのはダメだってさ」

「当たり前だろうに」

 それで、律儀に扉の前で待っているのは愛ゆえにということか。

「で、そっちは? 生徒会長の視察かい」

「視察?」

「そっ。サボっている部活がないかーとか、予算を無駄遣いしていないかとか、ね」

「その程度のことで、僕が動くとでも」

 予算をどう使うかは、各部に一任している。僕が口出す余地はない。

 が、追加となると別だがね。

 きちんと使い道を吟味ぎんみした上で、決めさせてもらう。

「へぇ、じゃあ何しに来たんだ?」

「少々、自分の運命を試していたところだ」

「よし、病院と保健室のどっちがいい」

「僕が運命を信じるのは病気だと?」

「違うのか?」

 ふむ。

「まあ、草津の湯でも直せない病ではあるな」

「……ちょっとまて」

 祐一は左手をこちらに向けて、右手で眉間の当たりを軽く揉む。

「その言い回しだと、つまり……」

「つまり、僕に好きな人ができたということだね」

 何を考え込んでいるのかわからないが、はっきりと教えておく。

「えっと、おめでとうでいいん?」

「まだ正式に付き合えていない、僕の一方的な想いだがね」

「ああ、告白がまだなんだ」

「いや。想いを自覚した瞬間に、告白したがまだ返事はもらっていない」

「予想以上に電光石火でんこうせっかな不意打ちだな」

「その時も言ったな。兵は拙速を尊ぶと」

「恋愛は戦争とも言うが……いや、まあ早い方がいいんだろうけど」

 それは僕のセリフだったな。

「はぁ、驚きすぎて何がなんだかわかんねえよ。

 相手って、オレも知ってる人?」

「以前に相談した、朱色の髪の子を覚えているか」

「――ああ。へぇ、あの子か」

 少しの時間をおき、得心がいったと言うように祐一が頷く。

 そういえば、この男は学校一のバカップルでもあるな。せっかくだから恋愛相談、してみるか。

「それで、相手に惚れさせたいのだがどうすればいい」

「オレに聞いちゃうかー、それ」

 祐一は深く、ため息をつく。

「ぶっちゃけさ、オレって告白されてから自覚したんだよ。だから、相手を惚れさせる方法って言っても、正直わからん。

 得意なのは、まあアイツだ」

 再び、顎でドアの方をしゃくる。つまり、彼女に聞けということか。

「いいのかい」

「惚れてる相手がいるんだろ。なら、余計な心配は……あー、駄目だ。オレが嫉妬する」

「そういうものか」

「逆を想像してみろって」

 逆。つまり、祐一が瀬能と仲睦まじくしていると。

 ああ、考えるまでもないな。

「腕……いや、いっそ舌か」

「怖いこと言うなよっ! てかっ、何をする気だっ」

「折るか、抜くか」

「わー、この会長もう独占欲を発揮してるよ」

「ふん。付き合う前から盗られてたまるか」

「盗らへん盗らへん。彼女いるっての」

 まあそうだが、やはりいい気分ではないな。

 ううむ、恋愛も楽しい事ばかりではないか。

「まあ、予定が合うならこのあとにでも恋愛相談会ってのは、どうよ」

「勝手に予定を決めて良いか?」

「まあ、説得してみるよ。前に相談乗ってもらったし、友人の恋路こいじだ。応援くらいはするさ」

「そうか……ありがとう」

「お礼は、上手く言った後にダブルデートってことでいいぜ」

「気が早いな」

 それがお礼になるかは分からないが、実らせたいものだな。

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