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6、角の価値

 道具屋に入ると主人が気持ち悪いほどの笑顔でむかえてくれた。

 するとミリーが俺に近づき小声で、

「ここの亭主苦手なのよ、それに女癖が悪いって評判なの」

 嫌悪の表情を隠そうともせずミリーは主人を険しい顔で見ていた。


 俺が主人に近づき、背中の角をカウンターに置くとあからさまに嫌そうな顔をした。どうやら満面の笑みはミリーに向けられていたもののようで、俺は眼中になかったようだ。

「すまんがこの角を買い取って欲しいんだがいくら位になる?」

 俺の事を無視しようとしていた主人の視界を遮るように、カウンターに角を突き立てた。否応なしに主人の意識をこちらに向けさせる。

 

「ちっ、ヤローには興味な……」

 角を見た瞬間、主人の顔が驚きと喜びが交じり合ったような表情になり、すっかり主人の視線は角に釘付け状態となった。

 そしてまじまじと観察し終わった後に、主人は小声で俺に話しかけてきた。

「こ、これはどこで手に入れたんだ?」

「え……いや、魔物を倒したらぽっきりと……」

 突然様子の変わった主人に拍子抜けしてしまい、俺の返答も少しマヌケな感じになってしまった。

 すると主人はこれまた目を丸くして驚き、俺の事をジロジロと観察し始める。

 しばらく俺を観察してたかと思うと、俺のことを手招きした。どうやらもっと顔を近づけろということらしい。

 俺が顔を近づけると、先程よりも小さな声で、

「この角はな、ランナーセラスの角といってだな……普通は薬の強化などに使われるんだが……」

 主人はここで一旦きり、キョロキョロと辺りを見回して、入り口近くにいるミリーを確認したあと、

「精力剤の材料としても使われるんだ」

 そう……悪魔のささやきをした。


「精力剤……だと!?」

 俺はくいついた。

 精力剤といえば疲れた時に飲むアレだ。

 しかし俺はただの精力剤だとはとても思えなかった。

 それは主人の目がそれを物語っていたのだ。

「しかしただの精力剤ではない……わかるか?」

「ああ、わかるぞ道具屋の主人よ」

「そうか、わかってくれるか! 同志よ!」

 カウンターごしにしっかりと固い握手を交わす。今ここに異世界で初めての友情が芽生えたのだった。

 そんな俺達の後ろには呆れたようにジト目で見ているミリーの姿があった。


 ――――それから30分くらいいろいろと語り合った。もちろん男同士のくだらない話だ。ミリーは呆れたのかすでに店の外にでてしまっている。

 主人の名前はカタロフというらしい。なんという男らしい名前だろうか。

 すっかり俺達は意気投合していたのだった。


「んでカタロフ、この角は結局いくらになるかなぁ」

「そうだなぁ……なかなか手に入らないし、これは是非欲しい一品だしな。銀貨7枚で買い取ろうか」

「おお、太っ腹だな。それで頼むよ」

「同志だしな、お前とはこれからもいい関係をたもっていきたい。そのかわりまた手に入ったら……」

「もちろんここに売りに来るさ」

 お互いニヤリと笑い合う。交渉は成功だ。

 銀貨7枚とそれを入れておく硬貨袋をサービスでもらい店を後にした。

 すると店の横に不貞腐れたような顔をしたミリーが立っていた。


「なによあんなやつと仲良くしちゃって、あんたもあいつと同類だったのね」

「待たせて悪かったな、確かに女好きで視線はイヤラシイが結構いいやつだと思うぞ」

「女好きで視線がイヤラシイ時点で最悪よ!」


 ……おっしゃるとおりで。

 まあ確かに女性にとってはそれだけで嫌悪感があるのだろう。てか俺もあの角があったから仲良くなれただけで、なかったらどうなっていたかわからない。


「で、どうするのよ」

「へ?」

「へ? じゃないでしょ! 私と一緒にクランを作るかって聞いてるのよ」


 やばい、すっかり忘れていた。そういえばうやむやになってたけど、そんな話をしていたんだったな。

「そ、そうだなぁ……他にこれといった目的もないしな。一緒に作るか」

 俺がそういうとミリーは嬉しそうな顔をして、「そうこなくっちゃね」と指をパチンと鳴らした。

 こうして俺とミリーはクランを作るための準備を始めるのだった。


 とはいうものの、まずは今後の生活をどうするかという問題のほうが大事だったのでそれを決めることにした。

 ミリーはこの街の生まれではないらしく宿に泊まっている。その宿は値段はそこそこだが、綺麗で安全で料理も美味しいらしい。

 せっかくなので俺もそこに泊まることにした。

 案内されてたどり着いた宿は、確かにそこそこだなぁと思える外観だった。

 しかし内装の方はとても綺麗で、掃除も行き届いており、所々に観葉植物もあって、さながらホテルのロビーを思わせる雰囲気だ。これは女性に人気がでるわけだ。

 家賃は一泊銅貨8枚。これがそこそこの宿賃だとか。

 ちなみにこの世界には、金貨、銀貨、銅貨があり、それぞれ銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚の価値だとか。

 今現在銀貨7枚あるので、しばらくの間は住まいに困ることはないようだ。

 お金に困ったらあのランナーセラスをもう一度倒せばいいかなぁと気軽に考えていた。そうしたらカタロフが喜ぶし。

 

 お金を支払い部屋に向かう。ミリーも後ろからついてくる。そのまま二人で俺の部屋で今後のことを話し合うことにした。

 ミリーはベッドに腰掛け、俺は床に座り込む。

 そこで改めてミリーの服装を見た。

 肩当、胸板、手甲、すね当て、靴などは鉄を使って作られているようだが、他の部分は動きやすさを重視した布でできているようだ。布は清楚を重視した色あいで、女性らしさを引き立てている。特にスカート部分は見えそうで見えないラインを心得ている。

 俺が真面目な顔でミリーを見ていたら、それに気がついたのか急にそわそわしだした。

「そ、それであんたの得意な武器ってなにかあるの?」

 おっと、マジマジと見すぎてしまったか。俺の悪い癖である。

 

 しかし得意な武器か。子供の頃にチャンバラごっこをしたくらいしか経験ないんだが。

「んー、そもそも武器を扱ったことがない」

 正直に答える。これから一緒に戦っていく相棒なのだから嘘をいっても仕方ない。

「……だと思ったわ、剣なら少しくらいなら教えられるけど」

「いいのか?」

「いいも何もあんたが足手まといじゃ私が困るんだから仕方ないでしょ」

 まったくそのとおりで。

 正直な所あの力があれば大抵の敵に勝てるんじゃないかと思ったのだが、いかんせん恐怖は力とは別物である。

 大型の敵に武器も持たずに戦うのは正直かなり勇気がいる。武器があれば多少はそれもやわらぐだろう。

「それじゃ剣のご指導のほどよろしく頼む」

 俺がそう言い頭を下げると、ミリーは、「私の指導はきびしいから覚悟しなさいよね」と満足気にうなずいた。

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