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4、金髪の少女


 俺はひたすら東を目指していた。

 草原を超え、林を抜け、岩場も上り、ただ愚直に東を目指した。

 カガミは道を知らない。なので最初に目標となりそうな山を目印とし、ひたすら真っ直ぐ東に進んでいた。


 しかし……この角、邪魔である。

 直径1メートルはあるだろうか。触ってみると意外とツルツルとした手触りで、あのサイもどきが丹念に磨き上げてきていただろうことが分かる。太さは丸太くらいはあるだろうか。

 林に入った時に蔓を引きちぎり角を背中に背負えるように縛った。

 これまでに何度捨てようと思ったことだろう。しかしこれで自由に手が使えるようになった。

 

 途中にあった池みたいな場所で水を飲み喉を潤す。

 普通ならば生水なんて飲んだらお腹を壊しそうなものだが、カガミはその体質のせいか腹を壊すことはないのだ。

 そしてカガミは知らないが、これまで命を繋いできた食べ物の中には毒性のものも多少はあったのだ。しかしそれは体にすぐ適応し、カガミにとっては毒ではなくなっていたのだった。


 幸いにもあれから、サイもどきみたいなデカイ生き物とは会っていない。

 小さい生き物とは何度かあったけど、今はいちいちかまっていられなかった。それだけ自分に余裕がないってことだろう。




 ――――2日は歩いただろうか。俺はついに整備された道へとでた。それは街が近いことを意味している。

 自然と足が軽くなり、駆け足気味で真っ直ぐ道を進む。

 やっと食べ物にありつけるっ! 頭の中はステーキやらハンバーグやら、好きだったメニューが走馬灯のように流れ続ける。


 そしてついに俺は街へとたどり着いた。生きてるって素晴らしい!

 門番には多少怪訝な目で見られたが気にしない。

 でかい角を背負って、街にスキップで入っていったのが奇妙だったからなんて思わないことにする。むしろ追い出されなくてよかった。それだけで万事オッケーだ。

 



 んでだ……どうしよう。

 まったく先のことを考えていなかった。

 ともかくお金がない。パヨは何もくれなかったし。

 持ち物はこのサイもどきの角一本だ。

 …………道具屋はあるのだろうか。むしろ売れるのだろうか。

 何がともあれ俺は街を探索することにした。腹は減っているけど、まだ何とかなる。

 

 歩いていると気がついたことがある。あちらこちらに一回り大きい建物があった。

 その建物にはエンブレムみたいなものがついている。もしかしてこれがクランなのだろうか?

 俺は少し興味を持ったので建物に入ってみようと近づいた。

 

 「もういい! こんな所は私からお断りよ!」

 

 その時、丁度中から女の子の声が聞こえてきた。

 何事かと思い中を覗こうとしたら、戸を勢い良く開ける音がした。


「くぅぅぅ、大手クランっていうのはああも傲慢なものなの!? ただ人数がそろってるだけの烏合の衆じゃない、あんなやつら」

 激しく悪態をつきながら出てきた娘は、綺麗な金髪でその長さは腰まで届いていた。顔は可愛いというより美しいという表現の似あう整った顔立ちで、瞳の色は透き通るように青かった。

 かなりの美女だと思う。

 俺は少し下をちらりと見た。

 うむ、でてるところは控えめながらもシッカリとしたラインを描いている。

 しかしその綺麗な容姿に似合わないのは腰に付いている剣だ。

 どうやらこの女は剣士のようだが……ふむ。

 

 俺が顔をじっと見ていると、その視線に気がついたのか、こちらをキリッと睨みつけて、

「何を見てるのよ! 見世物じゃないわ」

 そう言ってズカズカと俺の横を通り過ぎようとした。

 まずい、せっかく初めて話をした人間だ。ここは気を引いてもう少し話をしたい……いや、下心とかじゃないぞ決して。


「ああ、すまん、しかし見た感じかなり腕は立つのだろう?」

 するとピタッと足を止めた。そして隙のない動作でこちらを振り返る。

「ふーん、あんたは話しのわかる奴のようね……そうね少し喉が渇いたからそこで何か飲みながら話でもしない?」

 彼女はニヤリを笑うと、親指を立てクイッと後ろを指した。

 どうやら彼女の機嫌を取ることに成功したようだ。

 彼女の指した先には酒場らしい建物が。しかし俺の想像していたゲームのような酒場とは違い、少し小洒落た……そう、喫茶店のような雰囲気に似ている。


 実にいい提案だ。俺も聞きたいことは山ほどある。

 しかし問題があった。

「いや……俺もそうしたいのは山々だが……」

「なに? なんか都合でも悪いの?」

 いや、ここでかっこつけてても仕方ない、背に腹は変えられん。

「……実は金がない」


 一瞬、娘は意味がわからないといったふうな顔をしていた。

 そして俺の姿を改めて確認した……なんだか俺を見る目が少しキツくなってる気がする。

「あんた……何その装備」

 ですよねー

 背中に角を一本だけ背負ってる俺はそりゃもう奇妙奇天烈な姿に見えるだろう。

 うん、彼女の俺を見る視線が痛い。目がすわってるぞ! 目がっ!


 ――――しかし俺があまりに真面目だったのかすぐ、気を取り直したようで、

「あーそうだったのねーうん……大丈夫、そもそも私から誘ったのだから、ここは私がもつわ。だから安心して」

 そして彼女の目は可哀想な物を見る目になっていた。


 ……うぅ、正直かなり情けない。

 俺は絶対いつかお金持ちになる。そう心に誓うのだった。





「私の名前はミリー・クラークよ」

 席につき、いの一番に彼女はそう名乗った。

「俺の名前は渡来鏡わたらいかがみだ」

「ワタライカガミ? 変な名前ね」

 ミリーは純粋に不思議そうに聞いてきた。嫌味とかではないらしい。

 確かに、日本人の俺から見たらミリーは外国人だ。反対に彼女から見たら俺はどうみても人種の違う人間なわけで……まあ、それは俺の世界での話なんだけどな。

 きっとこの大陸ではミリーみたいな名前の人が多いんだろうな。


「そうか? 俺のいた場所ではこれが普通の名前だったんだがな。」

「ふぅんそうなの、でもワタライカガミって言い難いわね」

「カガミでいい」

「あっそ、それじゃカガミ、そろそろ注文しちゃいましょう」


 酒場にきたのだ、そりゃ何か注文しないわけにはいかないな。


「オススメはあるか?」

「知らないわ」

 即答だった。まあいいんだけどな。

「じゃあ水でいい」

 そういうとミリーはメニューを見ていた視線をこちらに向け、

「馬鹿にしないでよね! 私が奢るって言ってるんだからもっといいの頼みなさいよ」

 いやいや、俺はこの世界のこと何も知らないんだよっ!

 と言いたかったがきっと面倒くさくなりそうなので黙っておく。

 

 というのもメニューを見てもどれも知らない名前の飲み物ばかりだったのだ。

 唯一知ってるのは水だけだった。

「んじゃこのピリ辛ゲバボォアジュースってやつにする」


 …………………………


「いや……それだけはないと思うわ」

「どないせいちゅーねん」

 つっこまずにはいられなかった。





「それで、話をしたいのだけど……そのまえに」

「なんだ?」

「それ美味しい?」

 ミリーが指さす先にあるのは当然先程頼んだピリ辛ゲバボォアジュースである。

「ああ、すげー美味いぞ。ミリーも飲んでみるか?」

 ピリ辛ゲバボォアジュースを差し出す俺。

「ううんいらない、てか私にそれを近づけないで」

 手のひらを俺の前に差し出しストップ宣言。

 完全に拒否られたようだ。


 ……まあぶっちゃけクソまずい。

 唐辛子を飲んでいるみたいだ、これピリ辛どころじゃねーぞまじで。

 しかも味がない! いやあるかも知れないが、わからない辛すぎて。

 半分意固地になってピリ辛ゲバボォアジュースを頼んでしまったが……

 水にしておけばよかったと今は後悔している。

 

「まあそんなことはどうでもいいわね、んでカガミは何してたの?」

 俺の辛辣なこの表情をみてどうでもいいとは……まあ確かにどうでもいいのかもしれないけどな。自業自得だし。

 それより今は情報収集をしなければいけないのだ。


「実は俺もクランを探していたんだ。でもまあぶっちゃけ選ぶ基準なんてわからんから街を探索して情報を集めようと思ってたんだ」

「ふーんなるほどね、ちなみに銀の翼はクズクランよ! あんなところ入らないほうがいいわ」

 先ほどのことを思い出したのか、本当に腹立たしそうだ。あ、歯をギリギリし始めた。

「なんかあったのか?」

 周りの目を来にせず、あれほどあけすけに怒っていたのだから余程のことだったのだろう。


「聞いてよ! 私がせっかくこのクランに入ってやってもいいわよって言ってやったのにあいつらときたら、お前みたいな世間知らずのお嬢様には無理だから帰ってママのおっぱいでも吸ってな! ですって! きぃぃぃ私はもう17歳だっていうのにそんな子供みたいなことするかっちゅーの! てかそうじゃなくて! それでね……」


 ……どうやらどうでもいい話しだったようだ。

 しかも自分でノリツッコミまでしている。


「ねえ、聞いてるの!? んであのハゲたおやじがね……」

 こ、これはやばい。このパターンは早く話を変えないと、このままずるずると長い話に付き合わされるに違いない。

 

「あー……ミリーはさ、それでクランどうするつもりなんだ?」

 俺が無理やり会話の流れを変えると、

「え…………あーそうね。なんか大手のクランって私の性に合わないみたいだし、こうなったら自分で作っちゃうのも一つの手ね」

 ミリーはそう言って、人差し指を下唇にそっとあて、考えるような仕草をする。


 ちょっと可愛いらしい。考えるときの癖なのだろうか?


 ……ってそんなことどうでもいいじゃないかっ!

 今はその新しい情報に集中しよう。


 正直これからクランに入るとなると、すでに出来上がってる組織というものは上下関係があるし、いろいろ面倒な規約とかあったりするだろう。

 それに比べて新規ならばそんな面倒なことを気にしないですむ。


「それって誰でも作れるものなのか? なんか条件とかないのか」

「基本誰でも作れるわよ。もちろんソロクランでも構わないわ。しかしクランを作るときに必ずしなくてはいけない試練があるの……」

「試練?」



「それはね、魔族と戦って勝つことよ」

 

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