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3、初めての戦闘

 まずは、何がともあれ人間のいる島に行く必要があった。

 当面の目標はそこで無事に生活することだけど、それと並行して武闘大会に出場する準備もしないといけない。


 そしてその武闘大会に出場するための条件が、

 ■絶対条件、クランに所属していること■

 1、クランマスターは無条件で参加できる。

 2、一定以上の魔力を持つものは参加できる。

 3、一定以上のお金を払う。

 4、大会1ヶ月前から試験があってそれに合格する。


 以上4つの条件のどれか一つでも合格すれば、何人でも武闘大会に参加できるらしい。

 つまり多くの人数が参加できるクランはそれだけ有利ってことだ。

 そしてこの中で俺が満たせる条件は3つだ。

 2はそもそも魔力がないので無理だ。

 1はどうだろう……いや、クランマスターなんてそう簡単になれるとは思えない。

 3は一定以上がいくらかわからないが……多分無理だろうな。そのうちわかると思うがきっと大手のクランが有利になるに違いない。

 一番無難なのが4の試験に合格することだろう。そのためにはまず強くならなければいけなかった。

 パヨの話だと、俺はいろいろと勿体無いそうだ。磨けば中にホクホクのあんこが埋まってる原石だとなんて言われたけど、正直褒められた気がしない。

 ただパヨのあの幸せそうな表情を見る限り、悪い意味ではないようだ。


 魔王に言われたんだから条件は既に満たしているだろ! とパヨに確認してはみたがなにやら「カガミなら余裕で試練なんてクリアできるから大丈夫」とはぐらかされてしまった。

 大丈夫なんていうからにはそんなに難しい試練ではないのだろうか?

 まあ、今気にしていても仕方のないことなんだが。

 とりあえず、この世界のことを知り、生活に慣れることを当面の目標にしよう。我ながら随分適当な目標だ。

 思わず苦笑しつつ、パヨに教えてもらった説明を思い出す。

 

 この世界の名称はグランドへイムというらしい。

 世界の半分以上は海だという。てか誰も測ったことがないので結構曖昧らしいが。そしてこの魔王城があるこの大陸は世界で一番大きい大陸で、海を超えた東側にある小さな大陸が人間のいる場所という話だ。


 その人間のいる島は4つの街がある。

 1、インフリード

 2、ウンディール

 3、シルフィリア

 4、ノウムラ

 どこかで聞いたことあるような名前の街だと思いつつ、どの街に住もうかなどと心を踊らせていた。


 海を渡るには船が必要だが、あいにく魔族にそんなものは無いということなので、人間のいる島までパヨの転移魔法で行くこととなった。

 てか魔法ってすげえ、便利なんだな。

 魔力があったら俺にも使えたんだろうか……火の玉とかだしてみたかったり。


「準備できたよー、転移魔法使うからこっちきて」

 いろいろ考え事をしている間にどうやら準備が終わったらしい。

 準備といっても荷物があるという訳でも、魔方陣を描くわけでもなく、ただ魔族なりの報告とやらがあるらしい。


「いくよー、あたしにしっかり抱きついててね」

「お、おう」

 一緒に転移するには体の一部に触れなくてはいけないみたいだ。

 とても恥ずかしい、幼女に抱きつくこの姿。

 ……抱きつく必要はあるのか?


「ちょっとぉーどこ触ってるのよーん」

「いやいや、さわってないし言いがかりだし、てか触るも何もでっぱりが無いじゃねーか」


 しかしパヨはいい香りがする。

 それだけはすばらしい魅力だと言ってもいいだろう。

 こんなバカなことをやりつつも無事転移に成功した。瞬きをしている間に到着してしまった。本当に凄いな魔法は。

 周りを見渡してみるとそこは浜辺だった。さっきまでいた魔王の城の圧迫感あふれる空間とは違い、青い海と真っ白い浜辺の開放感あふれる気持ちのいいビーチだ。

 とても気持ちがいい。そういえばこの世界の外にでるのは初めてだな。

 っと、何時までも開放感に浸ってる訳にはいかない。街に向かわなくては。

 パヨの話だと、あとはひたすら東に歩いて行くだけらしい。

 ここでパヨとはお別れとなる。


「それじゃな、いろいろ世話になった」

「うん、頑張って強くなってよね! そだ……カガミが優勝したらあたしと結婚しようよ」

「はっはっは、もっといろいろと成長したらな! んじゃ行ってくる」

「ぶーぶー」

 こうして俺は一人、人間の唯一住む街に出発するのだった。


 そんなカガミの後ろ姿を見送ったあと、パヨは魔王の城に戻る魔法を唱えようとし、はっと気がつく。

「あ、魔獣の存在を教えるのすっかり忘れてた……ま、この大陸には弱いやつしかいないしカガミなら大丈夫だねっ」

 ノーテンキにそう口にしたあとパヨの姿はそこから消えていた。




 


 カガミは歩いていた。

 とにかくひたすら歩いていた。

「なにがすぐ着くだよ……」

 もう何時間歩いただろう。

 東に向かっていけばすぐつくよーと言っていた、ちびっこ魔族の憎たらしい笑顔が思い浮かぶ。

 カガミは手ぶらだったので一息つく水もなかった。

「くそぉ~。旅なんて初めてだから計画性もなにもあったもんじゃないな」

 一人愚痴をこぼし、地面に寝そべった。

 心地良い芝生に身を委ねたとたん、カガミは軽い睡魔に襲われた。

 軽く昼寝でもするか、そう思った瞬間、


 グオォォォォ


 地鳴りのような、そんな音が聞こえてきた。

 そして次には地震のような振動。

 カガミは飛び起き何事かと辺りを見回した。

 

 げ、なんだあれは。

 目に飛び込んできたのは、サイのような動物だった。

 しかしその大きさはサイの比ではない。

 像ほどはある巨体で、頭には一本の鋭い角、しかも猛スピードでこっちに突っ込んでくる。


 ――――ッ!


 俺はすぐさま体制を整え、『サイもどき』の軌道をよみ回避する。

 危なかった……まともにぶつかったらシャレにならないほど俺の姿は変形してしまうだろう。

 ほっとしたのも束の間、サイもどきはドリフトするかのように軌道修正し、またこちらに向かってくる。

「げ、ここはあいつの縄張りなのか!?」


 あのスピードでは逃げられない、かといってこの広い草原では隠れる場所もない――――どうする?

 悩んでいる間にもサイもどきは突進してくる。

 くそっ! とにかく回避するしかないっ!

 俺はなんとか二度目の回避に成功する。しかしこのままではジリ貧だ。


 ――――そうだっ! あのときの力があれば!

 魔王に放った一撃を思い出し、俺は意識を足に集中させる。

 足は脈打ち内側から細胞という細胞が活性化する。そしてそれは外側まで到達し自分の足とは思えないほどまでの違和感を感じる。

 少し動かしてみるが、自分の思い通りに動くことがわかり安堵した。

 あのときのような力がみなぎっているのがわかる。


「よしっ! やはりこの力――――使えるっ!」

 しかし同時にこちらに向かってくるサイもどきの地鳴りが大きくなってくる。


 よしっ! いける!


 俺はすぐさまジャンプをした。

 その跳躍は予想をはるかに超え、ぐんぐんとその距離を伸ばしていく。


 …………高っ!


 眼下には俺のいた場所を通り過ぎるサイもどきの姿が、手のひらサイズで見えていた。

 やべえっ! 俺ってば何十メートル跳んでるんだよ!

 しかし重力には逆らえず、俺は下に落ちていく。

 その感覚で自分が呆気にとられていたことに気が付いた。

(ってなにやってるんだ俺は! 今は戦闘中なんだぞ!)

 そう気合を入れなおしてはみるものの、自分の力の凄さに高揚感があふれでていた。

 

 そして着地も無事成功する。どうやら足の強化によって着地による骨折などの心配はないらしい。もし自分でジャンプして着地で骨折してたらとんだお笑い物だ。

 

 サイもどきは相変わらずこっちに向かってきていた。

 ――――今度はしっかり調節してジャンプしよう。

 ぶっつけ本番なのが怖いがこの際仕方がない。

 サイもどきのスピードが一定なのが唯一の救いだった。


 カガミはタイミングを測りジャンプする。

 その跳躍は丁度、サイもどきの真上を舞うように飛び越える。

 そして見事、サイもどきの真後ろに着地し、俺はそのままサイもどきに向かって走った。

 そのスピードはサイもどきにも勝るスピードで、すぐに追いつくことができ、そのまま後ろから飛び蹴りをお見舞いする。

 サイもどきは更に勢いを増し地面すれすれを滑空する。そして地面に落ち転がっていく。

 まるで凸凹な円が転がるように、バウンドしながら何回転もし、しばらく転がったかと思うとそのまま横に倒れ動かなくなった。

 

 サイもどきのスピードをそのまま利用したとはいえ、それ以上の威力でキックしたのだ。もはや無事ではないだろう。


 俺はサイもどきに近づき、その姿を確認した。

 角は折れていて、動かなくなっている。

 

「ふぅ……どうやら危機は去ったようだな」


 しかし現実の戦闘なんてもちろん初めてだ。ゲームのように戦うコマンドでダメージを与えられる訳じゃない。

 自分の持てる力の範囲で戦うのは大変だ……これは早急に武器を用意する必要があるな……

 そこで俺はあることを思いつく。

 サイもどきの角だ! あれを持って行こう。

 もしかしたら武器にできるかもしれない。できなくても売ることができたりするんじゃないだろうか。

 なんてゲーム脳だよ、なんて言われるかもしれないが、俺は手ぶらなんだ。なんでもいいからアイテムを手に入れたい。

 近くに落ちている角を拾い、高々と掲げ、

「カガミはサイもどきの角を手に入れた!」


 ……自分で言ってて虚しいなんて思わない! 思ったら負けだからな。

 俺はとぼとぼとその場を後にした。


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