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2、魔族っ娘パヨパヨ

「おーい、カガミー、起きてよー! ねーってば!」


 ……ゆさゆさ……ゆさゆさ……


 心地良い揺れを感じる。ああ、なんか気持ちいい。しばらくこのままで……


「うーん、起きないなぁ。そうだ、悪戯しちゃおうかなぁ~にしし」


 ……さわさわ……さわさわ……


 なんだか心地よい感触が……ん? なんだ?

 俺は一気に目が覚醒する。


「ってどこさわってんだーーーー!!!」

「ちっ……目覚めたか」


 すかさず服の乱れを正す。てかまじで勘弁して下さい。

 初めてはもっとちゃんとしたいんです……って俺はなにを考えてるんだ。


「……てかマジでなにしようとしてたんだ。俺を裸にしてどうする気だったんだ?」

「いやぁ、カガミの体どうなってるか純粋に興味あったからさ……ほら、魔王様にあんな攻撃をしたわけだし」


 確かにあれは自分でも驚きだった。

 あんな力があったなんて思わなかった……いや、なかったはずだ。

 あの薬を打ったことによって何かが変わった……そうとしか思えない。


「ふぅん、クスリねぇ……薬草とかそういうのなのかな? まあ何がともあれカガミもよく分からない訳なんだね」

「ああ、まあな…………てかずっと思ってたんだがパヨは人の考えてることがわかるのか?」

「うん、考えてることが単純ならわかるよー、特にカガミの考えてることはわかりやすい! でもなんか難しいこと考えてたりするとわからないかな」

「つまり俺はバカだって言いたいのかな?」

「そうかも」

 悪気もなく笑みをこぼす。

 あっはっはっはー、いやぁ本当に正直なまぞくだぜ。しかし素直な分だけ悪気がないのがわかるから怒るに怒れないな。

「笑うか怒るかどっちかにしなよー気持ち悪いよ?」

「ほっとけ」





 ……とりあえず今は自分の状況を理解したい。

 魔王やら魔族やらでもう意味がわからない。

 実際に魔王とやらと面と向かって対峙し、あのプレッシャーを受ければこれは本物で現実なんだと認めざるを得なかった。

 しかし何故、俺はこんな場所にいるのだろう。その疑問が頭に引っかかる。


「なあ、結局魔王に会ってもわからないことばかりだぞ。ここはどこなんだ?」

 俺がそう聞くとパヨは困った顔をしてしまった。

 うつむきがちに、うーんだとか、どうしようだとか悩んでいたが、結局教えてくれた。

 古の門と呼ばれる門を開けるために異空間から召喚されたこと。

 そして何故か魔王に気に入られて、武闘大会にでるように言われたこと。


「ふぅん、なるほどなぁ。魔力を持つものは触るだけで一瞬にして燃え尽きてしまう門か……」

「うん、だからその条件に合うカガミが召喚されたって訳」

「しかし、そう考えると魔王たち魔族には俺が必要ってことになるんだよな」

「んー、どうだろう。死んじゃったらまた召喚すればいいって思ってるのかも」


 確かにその通りだ。一瞬、自分の存在が有利になるんじゃないかと思ったが、そうは問屋が卸さないってことか。

 

「その古の門とやらはどこに繋がっているんだ?」

「さあ?」

 パヨは即答だった。しかもそれが当然であるかのごとく、なんの疑問も持っていないようだ。

「いや、さあって……それが目的なんだろ?」

「うーん、魔王様の考えてることなんて、あたしにはわからないよ。多分、面白がってるだけなんじゃない? だってずーっと昔、初代魔王様がいる時代からそこにあるって話だし」


 魔族も暇なんだろうか。それとも何か裏があるのか?

 ……まあ今は考えても無駄だろう。現状の把握に専念しよう。


「という訳でカガミは武闘大会にでてよね!」

「何が、という訳なのかわからんが……その武闘大会とやらはなんなんだ?」


 魔王に言われた時は頭に血が上ってしまったので深く考える時間がなかった。

 普通に考えれば、戦いの大会だよな、そのまんまだけど……


「魔王様が趣味で年に一度開催している。お祭りのことだよ」

 パヨは楽しそうに右手でジャブをしてみせた。

「趣味……だと?」

「うん、アンタたち人間が唯一輝ける場所だよ。優勝した人の所属しているクランには『優先権』が与えられるの! あたしたちも結構楽しみにしてるんだから頑張ってよね。魔族は賭けて遊んでたりするし……あ、そうだ今回はあたし、カガミに賭けるわ!」

 

 なんかパヨのやつ一人で盛り上がってやがる。

 ……なるほどな。どの世界にもコロッセオみたいな闘技場はあるんだな。

 

「魔族にとってはただの道楽なんだな」

「そうだよ。それにあたしたちがもし武闘大会にでたって人間じゃ弱すぎて相手にならないしねー。人間はどれも同じような実力だから誰が勝つか予想するの難しいんだぁ、それを予想するのが楽しいってものあるけどね、でも今回はカガミがいるから予想は楽勝だね!」


 そう言って目をキラキラさせながら俺を見上げるパヨ。

 

「いや、期待して貰っても困るんだが……そもそもなんで俺のことをそんなに持ち上げるんだよ」

「だってあたしカガミのこと好きだもん」

 少しの恥じらいも見せず、満面の笑みでそう告げる。 

「い、いやぁそんな突然告られても心の準備ってやつがだな……いやいやそもそも幼女は犯罪だろ! てか魔族となんていいのか?」

「うんうん、平気平気」

 

 いや、まてまて、なんか変な流れになってきたぞ。確かにパヨは可愛いとは思うし、愛嬌もあって笑顔も魅力的でついつい頭を撫でてしまいたくなる……ってあれ? この気持って……

 俺は試しにパヨの頭を撫でてみる。

 パヨは気持ちよさそうに喉をゴロゴロしながら俺に擦り寄ってきた。


 ……うん間違いない、これはペットにたいする気持ちと同じようだ。

 

 俺は撫でるのをやめ、パヨの肩に手を置き今の気持ちを正直に告げることにした。

「パヨ……残念だがお前の気持ちは受け取れないようだ」

 するとパヨは夜の猫の目のように動眼を丸くして、

「え? 別に人間と魔族が仲良くしたっていいでしょ。そりゃ魔族の中には人間を物と思ってたり、家畜と思ってたり、まったく興味がなかったりするのもいるけどさ……」

 しまいにはシュンと泣きそうな表情になってしまい俯いてしまった。そしてベッドに指でのの字を書いている。

 

 え、あれ? なんか変な感じになってきたな。てか仲良くってことはもしかして……俺勘違いしてた? パヨは単純ににんげんのことが好きってことでLOVEという意味ではないってことか。

 そう思ったらなんだかとたんに恥ずかしくなり顔が熱くなるのを感じた。


「あ、いや! 俺もパヨのことは好きだぞ、人間にそんな好感を抱いてくれているなんて俺は嬉しい、感動した!」

 そう言ってパヨの頭を優しく撫でてやる。

「本当?」

「ああ本当だ、パヨのこと大好きだぞ」

 するとみるみる笑顔になっていき、俺に抱きついてきた。


 ああ、本当に猫みたいで可愛いじゃねえかこんちくしょう。



 ――――しばらくじゃれあった後、話しを戻すことにした。

「それじゃ武闘大会の質問はもうない?」

 もう答えるの面倒くさいって雰囲気をバリバリだしながら、パヨはベッドに腰掛け大あくびをしていた。

 本当に猫みたいなやつだな。でもあれ? なんか武闘大会とやらに出ること前提で話が進められてる?


「……いや、俺はでんぞ! 武闘大会とやらには!」

 断固拒否する。

 別に興味がないわけではない。ただ参加しろと言われて、ハイそれじゃ参加します。なんて言うのが癪なのだ。

 ただの我儘だと言われたらそれまでだが、他人の敷いたレールに自分から乗っかる真似はしたくない。乗るなら自分で意志を持って乗る。何となくその場の流れでなんて目も当てられない。これは俺の生い立ちが生んだ一つの矜持なのだ。

 まあ、最近できたばかりの矜持なんだけどな……


「えー! なんでよ! いいじゃんでよーよー! ねってば!」

「子供かっ!」

 てか俺の腕に絡みつくなー! 胸があた……らないな。

「ええい、とりあえず離れてくれ話が進まん」

 ペリッとパヨを引き剥がす。

「ちぇ、けち」

 ぶーぶー頬を膨らませ、抗議の声を上げるパヨ。

 いちいちかまっていたんじゃ日が暮れるので、俺はそれを無視することにした。

 ――ってかわからないことがまだまだある。

 ひとまずそれを聞いてみることにする。


「まあ、出る出ないはひとまず置いといて、クランってなんだ? それに『優先権』って?」

 実はさっきから気になっていたのだ。パヨが変なことを口走ったから脱線してしまったし。


「んーと、クランは魔王様が作ったシステムの1つで、武闘大会にでるにはどこかのクランに所属しないといけないの。もちろん自分で作ってもいいよ」

 ふむ、クランか……ギルドとかコミュニティとかそんな感じか。

「で、お互いに『せっくくたくた』して強くなれということらしいよ」

「なるほどな、『せっくくたくた』か、なんだかイヤラシイ響きだな……って切磋琢磨だろうがバカチン」


 ぽてっとパヨを軽くデコピンをかます。

 てへへと舌をだし笑うパヨ。


 なにやってんだ俺。むしろよくわかったな俺。



「それで『優先権』ってのは、優勝者のクランに与えられるもので……まあ称号みたいなものかな? 何をやるにしても優先順位が上なの」

「優先順位が上?」

 ついオウム返しで聞き返してしまった。言葉の意味通りなのだろうか。

 パヨはなんて言ったらいいのかよく分からないようで、うーんうーんと唸っている。

「例えば酒場が混んでいて人が並んでたりするでしょ? そんなときその『優先権』があるクランは並ばなくていいんだよ」


 なるほど、わかりやすい例えだ。どうやら本当に言葉通りの意味らしいな。

 つまりこういうことか……その日発売のゲームを開店間近にいっても並ばずに買うことができたり、限定のライブチケットは必ずゲットできたり、ワゴンセールで同じ商品を手にとってしまった場合引っ張りあうこともなく譲ってもらえると…………なんだか発想がしょぼすぎて悲しくなってきた。

 

 でも一応他にも何かあるかもしれん。こういったものには何か裏があるはずだし、きっとものすごい使い方があるはず。事例を聞いておこう。

 

「聞いてみたいことがあるんだが、今までにその優勝して『優先権』を得たクランがその優先権を使ってやったことはなんかあるのか?」

 パヨは腕を組みしばらく思考したあと真剣な表情になり、

「他にもいろいろな事あった気がするけど……忘れちゃったテヘ☆」

 そう言って舌をだしウインクするパヨ。


「……いや、可愛らしく言われても。さすがに覚えておいて欲しかったんだが」

「もうーいいじゃんそんなこと! カガミが優勝したら万事オッケーなんだよ」

 パヨは俺の腕に絡みつき、目を輝かせながらそう言った。

「わーだから引っ付くなって、てか俺の反応みて面白がってるんだろうそうだろう」

「えっへへー」


 まったくパヨにはかなわんな。


「まああの魔王は気に入らないけど、目標は必要かもな。現実に戻りたいとも思わないし……ならばいっそのことこの世界で高みを目指してやる」

 俺は勇者でもなんでもない、しかしこの世界に来たのにはきっと意味があるし……それに何より面白そうだ。

 それならばいっそ、俺の出来る範囲で頑張ってみるのはいいんじゃないだろうか。

「あの魔王にもデコピンの借りを返さないといけないしな」

「いよっカガミ王!」


 ――――俺はすっかり魔王の敷いたレールにまんまと乗せられていたのだった。


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