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1、魔族の支配する世界へ

 俺は今、牢屋の中に置かれた小汚いベッドの上で横になっている。

 どれくらいこうしていただろう。もう随分と長い時間こうしていた気がする。

 体の節々が痛み出してきた。


 それから少し経った頃、遠くから何かが聞こえてきた。

 コツコツと……そう、それはまるでヒールで歩いているかのような音がこっちに向かって近づき、俺のいる牢の前で止まった。

 暗くてよくわからないが、どうやら人のようだ。

「シャイニングフレーッシュ!」

 場違いのような明るい声が掛かるや否や、ボゥと明かりが灯り、辺りを照らした。

 

 俺は急な光の眩しさに一瞬目を閉じかけたが、その場所に立っていた人物を見た瞬間、目を見開いた。

「は、羽が生えてる……のか? それに尻尾も……!?」

 さすがに動揺した。

 それは以前ゲームでみたことがある。コウモリのような羽、尻尾の先には矢印のようなとんがり。

 そう、それはまるで俗に言う悪魔そのものだった。


 しかし俺の知っている悪魔とは違っていた。

 俺の知っている悪魔はなんというかその……


 ボン・キュッ・ボーン!


 なんだが……

 目の前にいる悪魔は、


 つるーん・ペターン・しょぼーん


 なのである。

 なんというか残念だ。

 

 まあ俺は別にそんなことは気にしない。

 用はバランスだ。


「あんた……さっきから失礼なこと考えてるでしょ」

 いつの間にか俺のすぐ目の前に悪魔の少女は立っていた。

 眉間にシワをよせ、ジロリと俺の顔をマジマジと見ている。

 近くで見ると顔は中々に可愛い。 

 

 しかし……何で俺の考えてることが分かったんだ?

 悪魔は心を読めるとでもいうのだろうか。


 そんな俺の考えをよそに悪魔の少女は俺の体と物珍しそうにベタベタと触れていた。

 ち、近いから!

 悪魔と分かっていてもこんな幼い少女の姿をしているとさすがに抵抗がある。

 それに何だか悪魔の癖にいい匂いがする。

 この香りは何だろう……悪魔独特の匂いなのだろうか。

 その匂いに俺は一瞬我を忘れそうになる。


「くそ……まさかこれが噂に聞く魅了魔法テンプテーションか!?」

 俺が一人で悶々としていると、


「いや、あたし魔法使ってないし」


 …………俺の趣味は断じて幼女ではない。そうだ、俺は至って普通の娘が好きなはず……多分……きっと……うん


 またも一人で唸っていると、少女が少し苛立った様子で口を開いた。


「もうどうでもいいから、早く立ちなさい! 魔王様の所に連れて行くから」

「悪いが悪魔の少女よ、少し待ってくれないか。状況を整理したいんだが」

「え、あ……うん、じゃあ3分待ってあげるから早くして」

 

 あれ、なんか要求が通ったな……問答無用で連れて行かれるのかと思ったのに。

 悪い悪魔ではないのだろうか?

 折角だから質問して見ることにした。


「なあ、悪魔の少女……」

「パヨパヨ」


 は? 何の呪文だ。悪魔の交信か?


「あたしの名前! それに悪魔じゃなくて魔族だから!」

 怒鳴りつけるように魔族・・の少女はそう言い放った。

 なるほど、悪魔でも魔族でもどっちでもいい気がするが、こだわりでもあるんだろう。

 しかしパヨパヨか……きっと変な名前とかいったら怒るんだろうな。言いたいなちくしょう。


「変な名前で悪かったね、べーっだ!」

 パヨパヨはぷんすかと怒った口調でそう言い放ち、そっぽを向いてしまう。

 ……やっぱり心読まれてるよな、確実に。


 魔術なのかなんなのか分からないが、あまり変なことは思わないようにしよう。うん。

「んじゃパヨ……でいっか。パヨパヨとか呼びづらいしな。んで俺ってなんでこんな牢に捕まってるんだ?」

 素直に質問をする。本気で気になっていた。

「……あんたの名前は? あたしが名乗ったのにあんたが名乗らないなんて失礼だと思わないの?」

 く……正論だが魔族の癖になんて律儀なんだ!


「確かにな、俺の名前は渡来鏡わたらいかがみだ。鏡でいいぞ」

「カガミ……カガミかぁなんかいい響きだね」

 まあ俺も名前は結構気に入っている。褒められるのは悪い気がしない。


「んで、さっきの質問なんだが……」

「あー、うんとね、んー……なんて言えばいいのかなー。勝手になんか言ったら怒られそうだしなー」

 パヨはあーでもないこーでもないと悩んでいた。

 ……なんだろう。何か言いづらいことでもあるんだろうか。

 

「あーもう面倒くさい、いいから一緒に来てよ、そしたら全部分かるよ! …………多分」

 そう言うとパヨは小悪魔的な微笑みを浮かべた。

「いやいや、多分って! しかも面倒くさいってなんだよ!」

「いいからいいから」

 無邪気に笑うと、俺の腕を引っ張り上げ、強引に連れて行こうとする。その姿はただの小さな女の子にしかみえない。


「ってそうじゃなくて、俺はなんで魔族とかそういうのがいる世界にいるんだ! とかそもそも全ての事についてよくわからないんだが」

「はい時間切れー! 3分たったよ残念だったね? あはは、まあ続きは魔王様の前でね?」


 くそ……なんか遊ばれただけな気がしてきた。

 パヨはなんか笑いをこらえてるし。

 

 まあお陰様で少し落ち着いたけどな。


 しかし俺はどうしてしまったんだろう。

 取りあえず魔王とやらの所に着くまで、できる範囲で思い返し、整理することにした。







 確か施設で変な薬を飲んで……ッ!

 そうだっ! 体! 体は平気なのか?

 俺は体のあちこちをさわってみた。しかし変わったところは何もないようだった。

 夢だったのか……? いやむしろ今が夢なのか?

 俺は頬をつねる。

「いてっ」

 …………どうやら夢じゃないらしい。

 前を歩くパヨパヨに怪訝な目で見つめられながら、俺はこれ以上考えるのをやめ、歩くことに集中するのだった。


 




 俺は魔王の前に立たされていた。

 魔王の周りには様々な姿形、色とりどりの魔族が縦列していた。

 まさに圧巻の一言である。

 この状態はまさに死刑を宣告される寸前の被告人そのものではないだろうか。


 仰々しい玉座から魔王は立ち上がりこちらに向かってきた。

 で、でかい。2メートルは軽く超えているな。

 全身に漆黒の鎧をまとっていて、顔だけはでていたが、何故だろう。まともに見ることができなかった。見たらいけない気がしたのだ。

 それに体格もかなり良い。あの豪腕から繰り出されるであろう攻撃は車くらいなら平気で吹き飛ばすのではないだろうか。

 ……大げさ過ぎただろうか。でも目の前にいる魔王からはどうしようもないほどのプレッシャーを感じ、それくらいのことなら余裕でできそうな気がしていたのだ。

 

 ――――しかし……さっきから息が苦しい。

 まともに呼吸ができていないことに気がついた。

 魔王はその圧倒的な存在感でカガミを全身金縛り状態にしているのだった。


「ほぅ、この俺様を目の前にして生きていられるとは……大したやつだ。それに直感もかなりいいようだ。」

 俺の前に立つ魔王はそう言うと腕組みをし、見下していた。


 何とか顔だけでも魔王の方に向けようと必死で足掻いたが何一つ動かすことができなかった。

「ふむ、しかしこれは人間なのか? 魔力を感じない。人間ならば多少なりとも魔力を持ち合わせているはずなのだが」

 魔王は手を顎に当て何か思考をしている。

 しかしすぐに考えることを止め、面白そうにニヤリと笑う。

「でもこれは好都合だ。『これ』ならばあの門を開けられるかもしれん」


 『これ』だと? 人を物みたく扱いやがって……

 

 ――この時、カガミは不快感を覚えていた。

 それは小さい頃からのトラウマだ。

  

(くそっ嫌なことを思い出した……だが……体が動く! 魔王の呪縛がとけたのか?)

 

「なんだかよくわからないが、お前に協力なんてお断りだ!」


 魔王と呼ばれるくらいだから、俺がわめこうがあがこうが、どうしようもない事だろう。

 だがしかし媚びへつらって、はいわかりました、なんて言いたくない。

 

「ほぉ、物のぶんざいで俺の魔力から逃れたのか。物の割にはよくできたやつだ」

 魔王は解りやすくカガミを挑発していた。


 ……いいだろう、その挑発にのってやるよ!


 俺は右手の神経を活性化・・・させる。

 すると右手に力がみなぎってくるのを感じた。

 こうすれば力が出せると解っていたかのように体が自然と動いていた。

 それを魔王に向け、全身全霊、渾身の力を振り絞って拳を繰り出した。

 

 ガキィィィン!


 金属・・金属・・がぶつかり合うような、独特の甲高い音が玉座の間に鳴り響いた。


 魔王は後方の玉座まで飛ばされていたが、悠然たる態度で立っていた。

 床の絨毯には引きずった焦げ跡あり、煙が立ち昇っている。

 

「へっ! どうだ!」

 

 正真正銘、全力の一撃だ。……正直自分でも驚いている。


「カ! カガミ! お前魔王様になんてことをー!」

 パヨがなんか慌てて青ざめているがそんなの知ったこっちゃない。

 


「くっくっく……アーッハッハッハ!」

 魔王は突然笑い出した。


「まさかこれほどまでの力を秘めているとは――――なんにせよ面白い逸材だ。これは楽しみになってきたぞ、パヨパヨ! こいつを半年後の武闘大会に出場させるんだ」

「え……でも門は?」

「そんなのはいつでもいい。まずはこいつで楽しみたい」

 

 魔王はいつの間にかカガミの目の前へと来ていた。

 そして額にデコピンをする。

「ぐは――――ッ!!」

 カガミは数十メートル吹っ飛んだあと壁にぶつかり停止した。

 その姿を見届け、ふっと笑うと魔王は踵を返し奥の部屋へと入っていった。

 

「く、くそぉ」

 俺が意識を保てたのはここまでだった。






「グレゴル様、いいのですか? あれほど門を楽しみにしておいででしたのに……万が一死んでしまったら……」

 魔王に向かって口を開いたのは、魔王グレゴルの側近だ。ローブをで全身を覆っている。

「ふふふ、これを見てみろ」

 そう言って拳を受けたであろう箇所を見せつける。

「これは……」

 側近は目を見開いた。

 鎧に亀裂が入っていたのだ。


「これに亀裂をいれるのは人間ではなかなかできることではないぞ」

「はい、確かにそうでございます。いくらお飾りの鎧とはいえ人間にこんなことができるとは……」

 

「くっくっく、武闘大会が楽しみだな」


 側近は魔王の目的が分からなくなっていた。あれほど門を開けることに執着していたというのに。

 もしや……あの人間に楽しみを見出している? あの魔王ともあろうお方が人間ごときに……?

 側近はかぶりを振りその考えを否定する。

 ありえない……魔王様は代々の魔王よりも頭ひとつ抜けたお方だ。

 人間ごときに敵う相手ではない――――いや、魔族の中でさえ敵うものはいないのだ。

 ……所詮自分ごときではあずかり知らぬこと。

 側近はそう思い考えるのをやめるのだった。

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