プロローグ
地下の壮大な広間に重々しい雰囲気が漂っていた。
「またダメか。一体どうしたらこの『古の門』を開けられるというのだ……」
「魔王さま、やっぱり魔力を少しでも持っていたらダメっぽいですねー」
魔王と呼ばれた長身の男は、腕を組みながら目の前の『古の門』ににらみをきかせていた。
隣には、一際明るい声で魔王に意見する少女の魔族が一人。
その周りには綺麗に整列している様々な魔族がいた。
そして門の横には丸焦げになっている、人間だと思われる死体が一体。
たった今、この門に触れ、焼死体となってしまったのである。
「この世界の生物ではどうすることもできないという訳だな?」
「はい。だけど魔力を持たない生物なんているんでしょうかね?」
「見つけるしかあるまい……そうだな……召喚の儀式をする! 準備をするんだパヨパヨ」
らじゃと軽く敬礼をして、パヨパヨと呼ばれた小さな魔族はそそくさと門の間からでていく。
魔王はその姿を見送り再び『古の門』へと視線を移した。
「くっくっく、楽しみだな」
笑うその顔は純粋に楽しみで仕方ないとばかりに無邪気な笑みをしていた。
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――――俺の名前は渡来鏡。
突然だが、俺は普通の人間ではなかったりする。
どう普通じゃないかと言うと、一般の人より少し身体能力が高かったり。風邪を引かない健康な体だったりして、今現在、皆勤賞なのが自慢だ。
ただ頭の方は特に変わらない……どころか平均より少し悪いかもしれない。俺としてはこっちが優れていて欲しかったかも。
これだけじゃ普通の人間とあまり変わらないと思うだろうが、ぶっちゃけ俺もそう思っている。
身体能力が高いといっても上には上がいるもので、全体的な平均が高いってだけなのだ。
まあ決定的に普通ではないと言えるのが、俺の中にナノマシンというものが入ってることだ。
詳しいことはよくわからないんだけど、人類の進化のための世紀のなんたらこうたらとか……ごめんやっぱり全然わからない。
ようは実験体ってことだ。
…………まあこれでも一応小さい頃は悩んだもんだ。人と違うってだけでそれはもう苦労したもんさ。
でもそんなことで何時までも悩んでなんかいられない。
気に入らないやつはどこにでもいるもので、それこそ気にしていたらキリがない。相手にするだけ無駄だから、そういう奴は無視するに限る。
この研究は人類の存続のために必要なものだ――――そう言われて育てられてきた。そして俺は成功者だとか。
別に人類のためとか、そんな自覚はこれっぽっちも無い。
だけどある日、突然俺はこんなことを言われたんだ。
――――お前たちの存在は許されることではない――――
そしてその人から、色々なことを聞かされた。
俺は多くの犠牲が産んだ産物らしい。
正直かなりショックだった。今までそんな話を聞いたことがなかったし、考えたこともなかった。信じていたものが壊れた瞬間だった。
信じたくなかったけれど、俺には心当たりがあった。
そもそも俺のいる施設は怪しすぎたのである。
そこに住んでいる者としては、その『情報』は信じるに値するものだったのだ。
それから俺は毎日ある検査をサボるようになった。これが反抗期ってやつだろうか。一度感じてしまった疑心感は膨らむばかりだった。
そんな時、たまたま新しい実験をしていることを俺は知った。
俺は真相を知りたいと思い、施設内を探索することにした。
もともと顔なじみなので歩いていても怪しまれることはない。
そして俺は試験中の薬を手に入れてしまったのだ。
これをどうするのか、散々迷ったがこれが新しい実験に使われるのなら、自分が実験台になるべきだ。そう思った。
半ばヤケクソだった。
俺はその薬を自分の体に打った。
……俺は自暴自棄になっていたのかもしれない。
――――体が熱い、そして細胞が疼く――――
次第に体の所々が変化していくのに気がついた。
激しい痛みに頭痛や吐き気、これまで感じたこともない激痛が体の所々を、まるで虫が這うかの如く全身を駆けまわった。
表面上では何も変わっていないようだが、内部でなにかが変わっているのがわかった。
――――俺は一体どうなってしまうんだ、このまま死んでしまうのか?
そんな考えが一瞬よぎったかと思った瞬間。俺は意識を失った。