2】ファミレスに行こう♪
5人のママさんたちの前に立っているのは、グリーンのワンピースに身を包んだ悪の帝王・ダースベーダー。
変、とか。
怖い、とか。
そんな感覚を突き抜けて、ただ、ただ、異常に不気味である。
「……ゆうママ。何で、そんなモノをかぶってるの?」
加奈と1番仲が良いママさんが5人を代表して尋ねる。
「あ、これ?花粉対策用マスク」
平然と答える加奈。
「花粉対策?!」
ママさんたちの目が点になった。
―――ドッキリかと思ったわ……。
まさかそんな実用的な理由があろうとは、夢にも思わなかったママさんたち。
「そうだよ。イトコのお姉ちゃんに教えてもらったの。全然花粉が入ってこない優れ物なんだよ~」
「へ、へぇ……」
「良いでしょ♪」
加奈は『えへっ』と、小首を傾げて見せる。
語尾を弾むように言ってみたり、首を傾げてみても、結局はダースベーダー。
可愛らしさなど、ミジンコほどもない。
かえって不気味度が増すだけである。
―――それにしても、こんなマスクを勧めるゆうママのイトコって、頭がおかしいんじゃないの?!
ママさんたちは、顔も知らない加奈のイトコに激しく突っ込む。
―――それより、そんな適当なアドバイスを真に受けるゆうママの感性ってどうなってるの?!
ママさんたちは、今後における加奈との付き合いをちょっと考え始めたのだった。
何だかんだで当初の予定通り、加奈を含めて6人のママたちが、近所のファミレスに徒歩で向かう。
近いし、安いし、ということで。
ママ達の集まりは、もっぱらそのファミレスで行われる。
女性はおしゃべりが大好きで。
歩きながらでも、口は止まらない。
だが。
今日のママさんたちはいつもとは違う。
加奈とママさんたちの間に、楽しげな会話がない。
それに気がつかない『第12回全日本ぼんやり大賞 優勝者』である加奈は、1人で話を進めている。
「うちの子は、元気がよすぎてさぁ。ホント、どうしていいか分からないよ」
―――私達はアナタをどうしたらいいのか、まったく分からないわ……。
ママさん達は加奈と会話することなく、心の中で呟いた。
「男の子の母親って、大変だよねぇ」
そんなママさん達にも気にせず、1人でぺらぺらと話を進める黒い覆面。
もとい、加奈。
その後からチラチラと先に歩く加奈の様子を伺い、ビクビクとついて行くママさんたち。
かなり異様な光景だ。
「それでね。……あれ?」
ここで、先頭を歩いていた加奈がくるりと振り返る。
ママさんたちは加奈と距離を取り、3メートルほど後ろを歩いていた。
おまけに、加奈に聞こえないように何やらひそひそと話している。
「みんな、もっとまとまって歩こうよぉ。そんなに離れていたら、話も出来ないし。他の通行人の邪魔になるよ!」
加奈はちょっと怒ったように腰に手を当てて、ママさん達に言う。
―――……邪魔になるのはアナタ1人よ。
誰もが心の中で呟くが、口にする勇気はない。
「う、うん……」
「そうね……」
ママたちの顔が青ざめているのは、気のせいではあるまい。
その様子に、加奈はどうも納得がいかないらしい。
プリプリとした口調で、声を上げる。
「いくら私がめったにスカートはかないからって、そんなに珍しがることないじゃない!」
―――あ、あの……。みんなの様子がおかしいのは、ワンピースのせいじゃないから……。
またしても心の中で呟くママさん達。
しかし。
『THE・ベスト鈍感賞』の受賞経験がある加奈は、まったくもって気がついていない。
口をとがらせ、プンプンと怒る。
例によって、その表情は黒いマスクに邪魔されて見えなかったが……。
そんなこんなで、サイゼ○ヤに到着。
ランチにはまだだいぶ早いため、客のいない店内。
加奈たちが中に入ると、顔なじみの店員がすぐさまこちらにやってきた。
「いらっしゃいま……、ひいっ!?」
手に持っていたメニューをバサバサッと落とす店員。
(客の顔を見て――正確には覆面だが――、慌てふためくとは、まだまだだな……)
(まぁ、泡を吹いて倒れなかっただけ、立派だ。褒めてやろう。)
(*読者の皆様、実際のみやこはこんなに偉そうじゃないですから!!)
加奈は落ちたメニューを拾って店員に差し出す。
「小林さん、こんにちは。はいどうぞ」
にっこりと微笑んで、加奈はあいさつをする。
もちろん、表情は見えていない。
その声を聞いて、おそるおそるメニューを受け取る小林の手が止まった。
「も、もしかして、川田さんですかっ!?」
目の前の加奈の顔(だから、覆面だってば!)を、しげしげと見つめる。
そんな小林に対し、加奈は首をちょっと傾けて、おどけたように言った。
「そうよ~。私以外誰に見えるっていうの?」
―――ダースベーダー……。
小林は、心の中でそっと呟いた。