●イトコの長男 ゆう
イトコの長男のゆうも彼女の遺伝子をものの見事に受け継いでおりまして。
これは、彼が小学一年の頃に行われた授業参観での話です。
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その日の授業参観は国語で、その内容は
「小さな“よ”を使った言葉を探そう」
といったものである。
子供達は
「給食(きゅうし“ょ”く)」や、「チョコレート(ち“ょ”これーと)」、「金魚(きんぎ“ょ”)」 など、次々に言葉を見つけては発表する。
そのどれもが、子供らしく可愛らしい着眼点だ。
子供達の生き生きとした発表を見守る担任と親たちの視線は、とても優しくて温かい。
和やかな雰囲気で授業は進む。
そして、時は満ちた。
ほとんどの子供達が発表をし終えて言葉も出尽くしたであろうその時、まだ発表していなかったゆうがおもむろに右手を挙げる。
「次は、川田ゆう君」
先生に名前を呼ばれ、バンッと机に両手を着いて立ち上がった彼が自信たっぷりに口にしたのは……。
「北朝鮮(きたち“ょ”うせん)」
なんだよ、その子供らしからぬ言葉は!
確かに小さい“よ”は使われているけれど、それにしたって北朝鮮はないだろうが!
担任の先生をはじめ、その場にいた父母達は唖然とするしかなかった。
その日の授業参観終了後、すぐさまイトコからみやこに電話がかかってきて、ものすごい勢いで上記のことを報告された。
「ありえないよね、北朝鮮なんて!もう、なんなのあの子。恥ずかしかったよ!」
ブチブチと愚痴るイトコ。
『なんなのあの子』って、お前の息子だろう。それはもう、100%間違いなく。
その後に聞いた話では、この時の授業が話題になり、授業参観になるとゆうのクラスは他のクラスの父母達が彼を見学しようと訪れ、廊下まで人が溢れていたという。