最終話】暗黒マスクよ、永遠なれ!
夕飯の下ごしらえを済ませた加奈は、趣味の書道を始めた。
驚くべき事に、こう見えて加奈は書道2段なのだ。
(まったくもって、無駄な才能である)
心を落ち着かせて、丁寧に墨をする。
使い慣れた筆を持ち、静かに、かつ滑らかに手を動かしてゆく。
やがて真っ白な半紙に、艶やかな漆黒の文字が書きあげられた。
「うん、よく出来てる」
満足げな顔で、自分の作品を眺める加奈。
「せっかくだから、見えるところに飾ろっと」
日本中が花粉の猛威に襲われている今日。
川田家の床の間に、加奈による書が飾られた。
本当に無駄なほど達筆で書かれているのは
『花粉対策にはダースベーダーマスク』
知らない人が見れば、猛烈な勢いで首を傾げたくなる内容だ。
掛けられた自筆の書をしげしげと眺める加奈。
「我ながら、自分の才能に惚れ惚れしちゃうよ~」
エヘヘと笑いながら、加奈は右手の人差し指で鼻の下を擦った―――知らないうちに墨の付いた指で。
しかし加奈はそれに気付いていない。
鼻の下を黒く染め、至極ご満悦な彼女の姿が何となく哀れだ。
「そうだ!!ママ友のみんなに、この作品を見てもらおう」
加奈はダースベーダーマスクをひっつかみ、みんなを呼ぶために外へ飛び出していった。
(その前に顔を洗え!)
何はともあれ、当分の間、加奈とダースベーダーマスクは切り離せないようだ。
《後日談》
その年の9月初旬、秋の防災訓練が加奈の住む地域で実施された。
各人は安全確保のためのヘルメットを着用し、防災グッズを詰めたリュックを背負い、集合場所である近所の小学校へと集まる。
この辺りはベッドタウンということで、人口がかなり多い。
校庭は近隣住民で溢れている。
そんな人々のもとに、一際異様な家族がやって来た。
言わずと知れた川田ファミリーである。
大抵の人が一般的なヘルメットを被っているのに、川田家の面々はなんと揃いのダースベーダーマスクを着用していたのだ。
加奈はもちろん、パパと息子2人も暗黒マスクで登場。
よく子供用のサイズを見つけてきたものだと、ある意味感心する。
どうやらダースベーダーマスクは花粉の時期以外でも活躍(?)していたのだった。
【完】
●ふざけにふざけまくったこの作品も、とうとう最終話を迎えました。
もう少し書き続けたかった気もしますが、ここで完結とさせていただきます。
ここまでお付き合いくださった方、わざわざコメントやメッセージを寄せてくださった方、本当にありがとうございました。
そしてダースベーダーファンの方、イメージぶち壊しでごめんなさい。
●さて。
暗黒マスク伝説はここでおしまいですが、みやこの周りにはネタに事欠かない人物が多いので、番外編としてエッセイ風に彼らのことを書こうかと考えています。
もちろん、ネタに事欠かない人物NO.1は加奈ですが。
ホント、彼女の日常はおかしいです。
たけのこアレルギーだって自分でも分かってるのに、たけのこ食べてぶっ倒れるような30過ぎのイトコを持ったみやこは、彼女とリアルに血が繋がっている事に目をつぶって生きていこうと思います。