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13】悪の帝王 IN 歯医者

 これまで穏やかだった待合室の空気が一変した。


 大人たちは青ざめ、子供達は大声で泣き出す。

 そんな雰囲気の中、騒ぎの張本人はいたってノン気である。



「今日はずいぶん子供達がうるさいなぁ」

 履いていたショートブーツからスリッパに履き替えながら、そんな事を呟いた。


 いきなり現れた悪の帝王に、待合室にいる親も事務員も、どうしたらいいか分からない。


 と、言うか近付きたくない。



 どうにもならない状況で、泣き叫ぶ子供の数だけが増えてゆく。

 新たに来院した子供や治療を終えて出てきた子供が、加奈の姿を見たとたんに泣きわめくのだ。


『ここは動物園のサル山か?』と、言いたくなるほどの騒がしさ。


 いや、サル山のほうがまだ静かかもしれない。

 それほどまでに加奈が引き起している騒動は大きい。


 加奈はそんな子供達をチラリと見て、心の中でそっと漏らす。


―――ママさんたち、躾がなってないよ!!


 加奈は腕を組んで、ふぅ、とため息をついた。


―――こういう人が集まる所では、静かにするのが常識なのになぁ。



(おそらく誰もが『お前に常識どうのこうのと言われたくないわい!!』と、突っ込むであろう。

 みやこもそう思う)






 いっこうに騒ぎが収まらない待合室を、ゆっくりと見回す加奈。

 ここでようやく、自分が注目されている事に気が付いた。


―――みんな、何でジロジロ見てるんだろう……。


 首をかしげながら、すぐ横の壁に備え付けられている鏡を覗き込んだ。

 鏡に映った自分の姿を見て、加奈は思わず声を上げる。


「……あっ」

 そこでようやく気が付いた。


「そっか、そっか。室内でこんな格好は変だよね」


 加奈はそそくさと脱いだ。



 コートを……。



(いや、変なのはコートじゃなくてマスクだよ!!誰か、この人に常識を一から叩き込んでください……)





 加奈は脱いだコートを小脇に抱え、スタスタと受付に向かった。

「こんにちは~」


「きゃっ!!」

 悲鳴と共にのけぞる事務員。


「診察券と保険証、出しておきますね♪」

 加奈はバッグの中から取り出して、受付台に載せた。


 恐ろしい暗黒マスクから聞こえてくるのは、あまりに不似合いな可愛らしい女性の声。

 そのギャップが余計に不気味だ。




「は……、はい」

 顔面蒼白の事務員。

 震えて仕方がない手で、診察券を受け取った。


 そんな彼女の様子に気づく加奈。

「大丈夫ですか?顔色、よくないですよ?」 


(顔色が悪いのは、お前のせいだよ!!)


 加奈は受付台にグッと身を乗り出して、事務員の顔を覗き込む。

 更に間近に迫ってくる悪の帝王。


 いっそう大きく震え出す事務員。


(余計な事すんな。離れろ!!かわいそうに。事務員さん泣きそうじゃん……)



 すっかり顔色の悪くなった事務員は唇をどうにか動かして、口を開く。

「あ、いえ……。ひ、ひ、貧血気味なので。いつもの事ですから……」


 気の弱い彼女は、目の前にいる暗黒マスクが原因だとは言えずにいる。


「そうなの?私も普段から顔色悪いねって言われるんだ。ほら、見て」


 今の加奈の顔色は青白いどころか、暗黒色。


「え、ええ。そうですね……」

 遠くなる意識を必至につなぎとめている事務員。 


(頑張れ事務員さん!!)


「で、では、そちらのお席に座ってお待ちください……」


 その言葉を最後に、事務員さんは白目をむいて倒れた。



(残念。頑張れなかったね……)



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