11】オールブラック・クレイジーウーマン:後
「なかなか料理が出てこないわねぇ」
オーダーを入れてから、かれこれ15分は経っている。
お昼時は客が集中するので、厨房も大忙しだ。
「ちょうど混んできた時に注文したから、しょうがないわよ」
「まぁ、いいじゃない。この後、私達は特に急ぐこともないんだもの」
「そうそう。やっかいな覆面も帰ったことだし、ゆっくりしましょうよ」
先ほどまでのぴりぴりしたムードはなく、穏やかな空気が5人の間に流れていた。
会話の途中で笑顔もこぼれる。
加奈が同席していた時とは、まるで表情が違う彼女たち。
「それもそうね。料理が来る前に、コーヒーをお代わりしようかしら」
「あ、私も」
皆が一斉に、カップに残っていたコーヒーを飲み干した。
その時!
なんと加奈が軽やかに自転車のペダルをこぎながら、大窓の前を横切って行ったのだ。
しかも今度は頭の先から足元まで、全てが真っ黒。
先程よりも格段に不気味さがグレードアップ。
悪の帝王、フルバージョンで襲来だ。
「ぐっ!?げっほ。げほ、げほっ」
5人がむせる。
―――な、な、な、何で誰もマスクのこと注意しないのよぉっ?!
―――おまけに全身黒尽くめっ!!
そうは言っても仕方あるまい。
加奈はこれまでに誰とも会わなかったのだから。
こうして、ママさんたちの平穏はつかの間のうちにぶち壊されたのだった。