8話
我慢する事は昔から慣れていた。
家が貧乏でいつも兄のおさがりを着ていた。
周りの子が誕生日プレゼントを買っている中、私は買えなくて手作りのもので笑われた。
だから、好きな子の両親にも嫌われて当然で
それらを嘆けば自分の両親を傷つける事になる
だから、自分さえ我慢していれば周りは円滑にまわるなら、何も言わないでおく。
それが出来ているのは、萌がいるから。
萌が私の場所に来てくれるから。
でも時々思う。
もし萌が他の誰かに傾いてしまえば
もし萌に嫌われる事があったら
私はもろくも壊れてしまうのではないかと・・・
「けい!放課後買い物いこーぜ!俺、新しいバッシュ欲しいんだ。」
正樹はワクワクした表情で雑誌を見せながら誘って来た。
「いーよ。」
興味はなかったが、正樹は男同士でいくよりも私と買い物にいく方が楽しいらしい。
数少ない友達の誘いなら断わる事もなかった。
駅二つ先のその店は、よく考えれば萌の学校の近くであった。
放課後と言う事もあり、学生姿の生徒が目立つ。カラオケやゲームセンターが多いからもあるが、かっこうの寄り道場所だった。
「ラインはやっぱ赤がいいよなー。情熱の赤!」
だいぶ温度差はあるが、正樹は非常に楽しげにバスケットシューズを選んでいる。
自分はというと、適当にざーと店内をみていただけだが、ふと顔をあげれば何やらあー!と言う声をあげて駆け寄ってくる女子生徒がいた。
「練習試合に出てた子だ!」
「・・・・・・。」
特に記憶にもなかったから、無視しようとすれば思いっきり肩をつかまれた。
「はいはーい、無視しなーい。」
「私は知らないから。」
「でも私は知ってる。実際、一緒に戦ったじゃん。」
「まったく全然覚えてない。」
意地悪でなくて本当に。
だからこれ以上話す事もない。
再び去ろうとすれば、また引き止められた。
「待って待って!」
「・・・・・・。」
ぶすーとした表情で振り返ると、彼女はやれやれとあきれ顔で笑った。
「萌ちゃんの話じゃ、もっと優しい人だって聞いてたんだけどな。」
「萌の・・・友達?」
「同じクラスメイトよ。」
萌の知りあいなら、話だけはきいてやるか。
そんな態度を全面に押し出しながら、正面を向いた。
「で?なに?」
「私にコーチをして欲しいの!」
「断わる。」
迷う時間もなく、きっぱりと断った。
むしろ何を言われても引き受ける気などなかったが。
が、彼女はにやりと勝機の笑みをうかばせ、携帯画面をみせた。
そこには体操服姿、授業中、ランチタイム、家庭科実習のエプロン姿の萌が撮り溜めされていた。
「してくれたら、今ある分全部あげるし、これからも横流ししたげる。」
「・・・これ、全部あんたが?」
「そ。よく撮れてるでしょ。一筋縄ではいかないと思って準備したのよ。」
これはとても有効な賄賂だった。
「と、ゆーわけで、萌ちゃんの友達ちょっと借りるねー。」
ニコニコと笑顔で報告してきたクラスメイトの小雪に、萌はまったく事態を読めないでいた。
「けいがオッケーしたの?」
「うん。で、やっぱ親友を独占するのは萌ちゃんも複雑だろうから、これレンタル料であげるね。」
見せられたのは、携帯で撮られたけいのシュート姿
他にもジュースを飲んでいる喉元や、ふて腐れている表情など
中学にあがってからは、写真にうつる事がなくなったけいの貴重な品物だった。
「また撮れたらあげるね。」
「う、うん。」
「・・・・・似たもの同士。」
ボソッと呟いたが、萌は写真に夢中で気づいてないようだった。