5話
まだ夜中は肌寒い季節。
萌はけいの部屋の前で立ちすくんだ。
けいの部屋は、玄関から入らないでもいいように裏口のすぐ横にあり、私と正樹だけがそこからの入室を許されていた。
けいのお母さんもしかり。
が、今この窓はとてつもなく遠くにあるように見える。
きっとけいは笑ながら許してくれる。
でもそれに甘えてはいけない。
でもいますぐ逢いたくて。
けいの胸で泣きたい。
懺悔したい。
でも今そんな資格私にはない。
だから、だからここからでも思わせて欲しい。
顔がみたいなんて言わないでから。
「なんて顔、してんだよ。」
「神様の・・・馬鹿。」
神様は私に甘過ぎる。
なんでけいに知らせるのだろうか。
突然開かれたカーテン
一緒に今にも泣きそうなけい
温かな手で招かれた部屋の中。
何も聞かず、抱きしめて、けいは頭を優しく撫でた。
駄目だとあれだけ思ったのに、けいはとても優しくて
けいに包まれたら何も隠せなくて
ただただひたすら泣いた。
頭が痛くなるほどに
声が枯れるくらいに
鼻水もきにならないくらいに
「なぁ、萌・・・。」
萌の涙や鼻水を優しくティッシュで拭き取りながら、けいは目をじっと見つめた。
「・・・・。」
返事をしたかったが、のどがカラカラで声が出なかった。
「他のやつの胸で泣くなよ?」
「・・・・?」
泣き過ぎてけいの言葉が理解出来なかった。
首を傾げると、けいは少し苦笑いしながら頬に手を当てた。
手の温もりが気持ちよ過ぎてつい目が細まる。
「萌の落ち着く場所が、いつまでも私であればいいのに。」
チュッ
おでこに柔らかな感触と熱を感じた。
目を開けると、けいは顔を隠すように力をいれて抱きしめる。
「いつまでもけいだよ。」
とても小さな声になったが、けいは聞こえたのだろう。
さらにしっかりと腕に力がこもった。
このまま一つに溶けてしまえばいいのに。
ぼんやりとした思考回路の中、萌は急激な眠気にあがらうことは出来なかった。
でもけいを抱きしめる手だけは、しっかりと力がこもったままだった。