4話
「萌、またけいちゃんの所にいってたの?」
「そうだけど、何?」
母は私がけいの家に行くのを好ましく思っていない。
昔から、けいに対して冷たく、遊びにきたけいに対してだけお菓子を出さなかった事もある。
誕生日会はけいをわざと玄関でかえした事もある。
家中の皿を割りまくって、激怒した私に事の重大さに気づいた母は、今はそんな事はしないが、私は母の事が大嫌いである。
「遊び過ぎてたら成績落ちるわよ。」
「けいに勉強教わってたのよ。」
母はバカにした様に笑った。
この人はいつまでもけいという存在を認めない。
「お母さんには一生けいのよさは分からない。」
もう何回も話した。
でも母には伝わらない。
分かろうとしないから。
なのにけいはそんな母をせめたことはない。
泣きながら頭を下げて謝る私に対して、けいは笑ながら慰めてくれた。
許してくれた。
だから、私は誓ったのだ。
二度と母にけいを傷つけさせないと。
「たまに早く帰るとこれだから。あ、お父さんも帰ってきた。」
母との2人の空気には耐えられないが、父は大好き。
部屋に入った途端、玄関のドアが開いたのが聞こえた。
挨拶しようと下におりて行くと、いつもの母の愚痴がまた長々と話されていた。
よく父もこんな話を長々聞いていられる。
「私は嫌なのよ。あんな貧乏で、頭の悪いこと萌が遊ぶのは。もっと同じレベルのこと付き合えば、あの子も変わると思ったのに。やっぱり近所なのがダメなのよね。」
誰の事かすぐにわかった。
一体自分が何様だと思っているのだろうか。
萌は怒りで震える手を深呼吸で抑えるようにしたが、次の言葉に愕然とした。
「高校受験に差し障るから、あの子に近付くなって言ったのに。ほんと、頭悪い子って理解が足りないんだから。」
誰が、誰に言ったのか。
理解するまでに時間がかかった。
知らなかった。母とけいが顔を合わせていたなんて。
接触させないよう、気をつけていたのに。
「けいちゃんは、いい子じゃないか。いい加減やめなさい。」
「あなたはわかってないんですよ!レベルが低い子がそばにいたら、あの子もそう思われるんです!あんな貧乏くさい子がいたら、品格をとわれるんですよ!あぁもう、苛立つわ。あの子の母親も母親で、うちの子は表にだして恥ずかしい子ではないとかわけ分からない事ばかりいうし。ほんと、カエルの子はカエルね。」
「けいのお母さんに何をいったの?」
我慢の限界だった。
が、怒りに反して頭は凄く冷静で。青ざめる母の顔がおかしく感じた。
「今更隠しても駄目。早く言って。」
「萌、落ち着きなさい。母さんは・・・。」
「お父さん、私は冷静よ。聞いてるの。私の大切な友達のお母さんに何を言ったのか。」
私の笑顔は相当怖いらしい。
父はすぐに黙った。
とうの母は落ち着かない様子でテーブルクロスを握り締める。
「また、食器割られたい?お母さんのお気に入りのあれからしようか?」
使いもしない大きな皿をたいそう立派にたてかけている母。
どこかの有名なものらしいが、そんなの知った事はない。
あれを割ったら母はどんな顔をするだろうか。
「娘に近づかないように忠告しただけよ。」
「やっぱり、このカップからにしようかな。」
「うちの子とは不釣り合いだから、そばによらないでっていったわ!だからやめて!」
不釣り合い?
近付くな?
私はそんな人間じゃない。
けいのそばにいる為に必死になのは私の方で。
けいのお母さんはいつも笑顔で迎えてくれていて。
「ほんと、嫌になる。あなたから産まれたと思うだけで、虫唾がはしる。」
がしゃーん
「やめて!」
「あなたがどんな素晴らしい人間なのかしら。」
がしゃーん
「あぁ!」
「神とでも勘違いしてるの?ただの下衆なくせに。」
がしゃーん
床にしゃがみこむ母に対して憐れみなどなかった。
昔のように家中はしない。
大切そうなものだけを壊す。
そうでしょ?だって母も私の大切な人を傷つけたのだから。
「お父さん、私お父さんの事は好きよ。でもあなたの事は、嫌い。ううん、いらないわ。」
何も言わない2人。
黙って家を出た。