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記憶の彼方へ  作者: 山水
3/13

3話

「えっ⁉けいが練習試合にうちにくる?!」



それは、まったく予期せぬ正樹からの報告だった。



「そーそー。俺もビックリしたよ。入部じゃなけど、数合わせの助っ人?そんなのでいくらしいよ。だから、来週の月曜日俺とけい行くから。応援こいよ?」




「もちろん行くけど。でもけいが信じられない。」




「なんか、たまたま気分がのっただけとか言ってたけどな。わかんねーけど、いいきっかけだよ。これで昔みたいに戻ってくれればさ。」




正樹もまた、けいの変化に戸惑いを隠せない1人。

電話を切ってもなお、信じれなかった。



あのけいが自分から人と交流を図ろうとするなんて。




「私には、何も言ってくれなかった。」



一番何でも話してくれると思ったのに。

あんなにそばにいたのに。



私は知らなくていい事だったの?



萌はいてもたってもいられなかったが、取り乱してけいに詰め寄ることができなかった。



怖かった。

関係ないだろと言われるのが。












平日の月曜日

本来なら授業優先だが、全国でも強豪といわれるバスケット部は、親善試合という事で部員以外は練習を許された。



試合はギャラリーを増やす為に昼休みに行われる。



「すごいねー、相変わらずさ。」



「う、うん。」



1人で見に行く事もできず、友達の佳代子を誘ってきたものの、やはり複雑たった。



男子の部が先に行われ、女性徒、おもに先輩が騒ぎ出した。

男子バスケ部は、実力はさることながら、ルックスもいいのだ。




「あー、キャプテンかっこいいー!ね、萌!」


「え・・・、うん。」



「ふーん、萌はああいうのがタイプなのか。」



「け、けい⁉」



何故かジャージ姿のけいが通路側に屈みこんでいた。

どうりでさっきから探してもいないと思った。



「年上が好きなの?」



「ち、違う!」



「そか。」



短くつまらなそうに返事をし、けいはコートを眺めた。



「萌、誰?」



「えっと・・幼馴染の子で・・。」



「けいです。初めまして。」



「初めまして。萌と同じくクラスの佳代子です。」



元々人なつっこい佳代子は、けいに興味しんしんだったが、とうの本人は無関心。


挨拶を終えると、けいは萌しかみなかった。



「驚いた?」



「ま、正樹から聞いてたから。」



「そか。私補欠だから、出ないと思うけど。」



「じゃあ何ででたの?」



そう、それが一番聞きたかった。

が、けいはたいした理由でもなさそうに特に表情も変えず、すらりとこたえた。



「萌がどんな所に通ってるのか、知りたかったから。後で案内してよ。」




「・・・・・・。」



「ん?用事ある?」




ぶんぶんと頭を横にふると、けいは本当に微かに口角をあげた。

心なしか優しい目元。




「じゃあ、またね。」




必死にいつもと変わらない表情でけいを送ったが、もううるさいほど心臓は波打っていた。



あの誰とも関わりたくないけいが、団体競技にでて、その理由が私を知りたかったから。



しかも笑顔つき。


反則すぎる。胸が壊れる。




「なんか、彼氏みたいだね。」



「な!なわけないでしょ!」



「なにムキになってるのよ。あ、さっきの人ベンチにいる。」



すかさずベンチに目をやると、けいは本当に興味ないのか眠る体制に入っていた。


思わず笑みがこぼれる。

なれない早起きをしたからだろう。朝は苦手のくせに。

私の為に。



にやにやしてしまう頬を必死に隠しながら、子供みたいにうとうとするけいを見つめていると、開始10分後ぐらいに隣の人に無理矢理起こされた。



肩に触れるだけで嫉妬してしまう。



「あれ?でるみたい。」



「え!?」



すこぶる不機嫌なけいは軽く準備体操をしながら、たらたらとコートに入った。


女子バスケ部は、男子ほどではないが強豪にはかわりない。


部活も入っていないけいがやれるか心配だったが、趣味がバスケットのシュートを綺麗に決めることのけい。


まあ何とかなるだろうと思い直すと、けいは想像にはんして凄くいい動きを見せた。


走り回るわけではないが、必ず欲しい所にいる。

シュートはだせばほぼ入る。



点差はどんどん開いた。



が、練習試合でも負けるわけにはいかない我が校。

レギュラー人を総出にだしてきた。



「あーあ、本気だしちゃった。こりゃ、負け確実。」



「あーー。」



佳代子と私のあーの違い。

佳代子は残念の意味。

しかし萌は期待の意味。



けいはかなりの負けず嫌いな所がある。

めったに出さないが、出てしまうと収めることが難しい。

今まさに、その負けず嫌いが全面にでているけいに、ワクワクし始めた。



あんなに楽しそうなけいは久しぶりだったから。







結果は大差でけいのチームが負けた。

レギュラー人の活躍はまさに怒涛の追い上げで、あっという間に点差はひろげられた。


が、とうのけいは悔しそうな表情は一切みせず、すずしげにタオルで顔をふいていた。



まぁ、そうだろう。

けいを徹底マークし、まったくボールを回さない様にして勝った結果なのだから。



試合後の練習などする気もないけいは、さっさとかばんを持ち、手を振っていた。




「萌ー。とりあえず食堂。喉かわいた。」



「お疲れ様。」




何事もなくそばにくるけい。乱れた髪を直してあげながらいたわると、払いのける事もなく頷いた。



「楽しかった?」



「まぁまぁかな。でもやっぱ団体競技は苦手だ。1人でシュートする方がいい。」



「けいらしいね。」



練習をつめば、きっとけいならレギュラーに入れる。

なのに部活にも入らないのは、きっと面倒だから。



けいはスポーツ飲料を飲み干すと、大きく息をついた。



「はぁ。しかし広いな。」


「うん。でも私は教室で食べる方が好きだな。ここは広すぎるや。」


「友達と?」


「え?うん、けいに紹介したことかと食べてるよ。」


「そか。」



やっぱり今日のけいは変だ。

いつもはそんなに笑わないのに。




「け、けいも友達と食べてるの?」



「んー。正樹とはたまに。後は誰もいない所で寝ながら。」



淋しくはないかな、と一緒頭をよぎったが、言わないでおいた。

友達と仲よくしている話をきけば、きっと嫉妬してしまうから。


自分だけに懐いてくれるのは、けいだから特別に嬉しい。



「かっこよかったよ。」



「ん。萌が見てたからね。」



けいはずるい。

いつも勘違いしてしまいそうな事ばかり言う。



萌はぎゅっとけいのスポーツバックを握りしめながら、少しでも近くを歩いた。



けいは嫌がる事もなく、照れる事もなく、自然体。



お願いです、神様


私とけいを離ればなれにしないでください


けいの隣は私にしてください




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