3話
「えっ⁉けいが練習試合にうちにくる?!」
それは、まったく予期せぬ正樹からの報告だった。
「そーそー。俺もビックリしたよ。入部じゃなけど、数合わせの助っ人?そんなのでいくらしいよ。だから、来週の月曜日俺とけい行くから。応援こいよ?」
「もちろん行くけど。でもけいが信じられない。」
「なんか、たまたま気分がのっただけとか言ってたけどな。わかんねーけど、いいきっかけだよ。これで昔みたいに戻ってくれればさ。」
正樹もまた、けいの変化に戸惑いを隠せない1人。
電話を切ってもなお、信じれなかった。
あのけいが自分から人と交流を図ろうとするなんて。
「私には、何も言ってくれなかった。」
一番何でも話してくれると思ったのに。
あんなにそばにいたのに。
私は知らなくていい事だったの?
萌はいてもたってもいられなかったが、取り乱してけいに詰め寄ることができなかった。
怖かった。
関係ないだろと言われるのが。
平日の月曜日
本来なら授業優先だが、全国でも強豪といわれるバスケット部は、親善試合という事で部員以外は練習を許された。
試合はギャラリーを増やす為に昼休みに行われる。
「すごいねー、相変わらずさ。」
「う、うん。」
1人で見に行く事もできず、友達の佳代子を誘ってきたものの、やはり複雑たった。
男子の部が先に行われ、女性徒、おもに先輩が騒ぎ出した。
男子バスケ部は、実力はさることながら、ルックスもいいのだ。
「あー、キャプテンかっこいいー!ね、萌!」
「え・・・、うん。」
「ふーん、萌はああいうのがタイプなのか。」
「け、けい⁉」
何故かジャージ姿のけいが通路側に屈みこんでいた。
どうりでさっきから探してもいないと思った。
「年上が好きなの?」
「ち、違う!」
「そか。」
短くつまらなそうに返事をし、けいはコートを眺めた。
「萌、誰?」
「えっと・・幼馴染の子で・・。」
「けいです。初めまして。」
「初めまして。萌と同じくクラスの佳代子です。」
元々人なつっこい佳代子は、けいに興味しんしんだったが、とうの本人は無関心。
挨拶を終えると、けいは萌しかみなかった。
「驚いた?」
「ま、正樹から聞いてたから。」
「そか。私補欠だから、出ないと思うけど。」
「じゃあ何ででたの?」
そう、それが一番聞きたかった。
が、けいはたいした理由でもなさそうに特に表情も変えず、すらりとこたえた。
「萌がどんな所に通ってるのか、知りたかったから。後で案内してよ。」
「・・・・・・。」
「ん?用事ある?」
ぶんぶんと頭を横にふると、けいは本当に微かに口角をあげた。
心なしか優しい目元。
「じゃあ、またね。」
必死にいつもと変わらない表情でけいを送ったが、もううるさいほど心臓は波打っていた。
あの誰とも関わりたくないけいが、団体競技にでて、その理由が私を知りたかったから。
しかも笑顔つき。
反則すぎる。胸が壊れる。
「なんか、彼氏みたいだね。」
「な!なわけないでしょ!」
「なにムキになってるのよ。あ、さっきの人ベンチにいる。」
すかさずベンチに目をやると、けいは本当に興味ないのか眠る体制に入っていた。
思わず笑みがこぼれる。
なれない早起きをしたからだろう。朝は苦手のくせに。
私の為に。
にやにやしてしまう頬を必死に隠しながら、子供みたいにうとうとするけいを見つめていると、開始10分後ぐらいに隣の人に無理矢理起こされた。
肩に触れるだけで嫉妬してしまう。
「あれ?でるみたい。」
「え!?」
すこぶる不機嫌なけいは軽く準備体操をしながら、たらたらとコートに入った。
女子バスケ部は、男子ほどではないが強豪にはかわりない。
部活も入っていないけいがやれるか心配だったが、趣味がバスケットのシュートを綺麗に決めることのけい。
まあ何とかなるだろうと思い直すと、けいは想像にはんして凄くいい動きを見せた。
走り回るわけではないが、必ず欲しい所にいる。
シュートはだせばほぼ入る。
点差はどんどん開いた。
が、練習試合でも負けるわけにはいかない我が校。
レギュラー人を総出にだしてきた。
「あーあ、本気だしちゃった。こりゃ、負け確実。」
「あーー。」
佳代子と私のあーの違い。
佳代子は残念の意味。
しかし萌は期待の意味。
けいはかなりの負けず嫌いな所がある。
めったに出さないが、出てしまうと収めることが難しい。
今まさに、その負けず嫌いが全面にでているけいに、ワクワクし始めた。
あんなに楽しそうなけいは久しぶりだったから。
結果は大差でけいのチームが負けた。
レギュラー人の活躍はまさに怒涛の追い上げで、あっという間に点差はひろげられた。
が、とうのけいは悔しそうな表情は一切みせず、すずしげにタオルで顔をふいていた。
まぁ、そうだろう。
けいを徹底マークし、まったくボールを回さない様にして勝った結果なのだから。
試合後の練習などする気もないけいは、さっさとかばんを持ち、手を振っていた。
「萌ー。とりあえず食堂。喉かわいた。」
「お疲れ様。」
何事もなくそばにくるけい。乱れた髪を直してあげながらいたわると、払いのける事もなく頷いた。
「楽しかった?」
「まぁまぁかな。でもやっぱ団体競技は苦手だ。1人でシュートする方がいい。」
「けいらしいね。」
練習をつめば、きっとけいならレギュラーに入れる。
なのに部活にも入らないのは、きっと面倒だから。
けいはスポーツ飲料を飲み干すと、大きく息をついた。
「はぁ。しかし広いな。」
「うん。でも私は教室で食べる方が好きだな。ここは広すぎるや。」
「友達と?」
「え?うん、けいに紹介したことかと食べてるよ。」
「そか。」
やっぱり今日のけいは変だ。
いつもはそんなに笑わないのに。
「け、けいも友達と食べてるの?」
「んー。正樹とはたまに。後は誰もいない所で寝ながら。」
淋しくはないかな、と一緒頭をよぎったが、言わないでおいた。
友達と仲よくしている話をきけば、きっと嫉妬してしまうから。
自分だけに懐いてくれるのは、けいだから特別に嬉しい。
「かっこよかったよ。」
「ん。萌が見てたからね。」
けいはずるい。
いつも勘違いしてしまいそうな事ばかり言う。
萌はぎゅっとけいのスポーツバックを握りしめながら、少しでも近くを歩いた。
けいは嫌がる事もなく、照れる事もなく、自然体。
お願いです、神様
私とけいを離ればなれにしないでください
けいの隣は私にしてください