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記憶の彼方へ  作者: 山水
12/13

12話

「なに?その酷い顔。」



小雪は眉間にシワをよせて怪訝そうにいった。



「昨日、初めて酒飲んだら、見事に酔った・・。」



「ばっかじゃないの?」



やれやれ冷たい台詞だな。

とりあえず座り、冷たい水を飲んだ。



「萌といい、あんたといい。早く仲直りしなさいよ。」



「萌・・・が、どうした?」



自分から萌の話をした事はない。

あえて、話題にはしなかった。




「喧嘩でもしたんじゃないの?あの子も元気ないし。どんどん痩せていってるし。」




昔から萌は、悩み事があると食べ物が進まなくなるタイプだった。

じゃあ、やはりメールが返ってこないのも、電話にでないのもわざとだったのだろう。



萌も私から離れようとしている。




「小雪が・・・悩み聞いてやってくれよ。」



もう関わる事は出来ないから言ったのだが、小雪に思いっきりボールを頭にぶつけられた。



二日酔いの頭にはかなりきつい。



「あんたにしか解決出来ないの、分かってるでしょ!」



「そう思い込んでるんだよ、萌も小雪も。」



「馬鹿じゃないの?」




傷口に塩をすりこむかのような、小雪の言葉に激しく胸が痛んだ。




「そうやって逃げて、手放して。淋しさ紛らわす為に飲んで。あんたの大切ってそんなものなの?」



「・・・いつか、萌に彼氏が出来て、結婚したら、私は邪魔な存在だから。」



「萌自身は望んでるの?それを。」



「私がいるから、考えられないだけだ!」



そう、私がいるから。

私がいなくなれば、うまくいく事。

今辛いのは、仕方ない事。



そう言い聞かせるのに、小雪はいとも簡単にその壁を壊した。




「萌は、けいがいれば何もいらないのよ。何でそれから逃げるの?」




「萌のお父さんと約束したから・・萌を見守るって。」



「ふーん。じゃあ、萌の味方は最初から誰もいなかったわけだ。」



「違う!」



私は萌の味方だった。

萌と一緒にいたかった。




「萌はさ、ずっと不安だったと思うよ?けいの気持ちを聞けないで。」



「私は・・・。」



「周りなんて関係なくさ、言ってやりなよ。もし駄目だったら、私が慰めてあげるから。」




ぽんぽん。

小雪はボールが当たった場所を優しくたたき、微笑んだ。




「いい奴だな、お前。」



「今更。」




やっと、心から笑えた。










「萌、いますか?」



自分から萌の家を訪ねたのは、中学になってから初めてだった。

もう9時と言う事もあり、両親は帰っており、その表情は複雑そうで。



「部屋にいるよ。帰ってからは、出て来ないんだ。」



それだけで、両親ともうまくいってないのがわかる。

懐かしい階段をあがり、萌とローマ字でかかれた部屋をノックした。



「萌、けいだけど。」


応答はなかったが、近くにいる気配はした。



「会いたいんだ、開けてくれない?」



ガリ・・


扉をひっかくような音が聞こえた。

間違いなく萌は近くにいる。




「萌・・私ね、ずっと悩んでたんだ。私がいる事で萌の人生を狂わしているんじゃないかって。萌のお母さんに嫌われて、お父さんからも萌に普通の家庭が築けるよう見守ってくれって言われて。いつか、萌から離れなきゃってずっと思ってた。」




こつん

ドアに額をつけた。

少しでも萌に近づきたくて。




「でもいざ離れたら、やっぱり駄目だったよ。私はやっぱり萌が好きだ。」




冷たい扉に両手をつける。

萌に触れるように。




「萌、大好きだよ。一緒に、いよ?」



扉は開かれない。

けれど、扉の向こうからは小さな泣き声が聞こえた。

声は届いたようだ。




「萌の返事、聞かせて。」



ガチャリ

鍵が空いたかと思えば、扉がゆっくりと開かれ、そこには制服を着たままの萌が泣き腫らした顔で立っていた。




「やっと、好きって言ってくれた・・。」



存在を確かめるように顔に手をやる萌。その手は酷く冷たかった。




「大好きだよ。・・・いや、愛してる。」



萌はにっこり笑い、抱きついたかと思えば、そのまま力が抜けた様に気を失ってしまった。



「萌⁉」



焦ってゆすったが、萌の父親に肩を叩かれた。



「ほとんど、寝てなかったようなんだ。ご飯もろくに食べてない。ゆっくり寝かしてやってくれ。」




「・・・・はい。」



「家には、私から連絡しておく。泊まっていきなさい。」



「あ、あの!」



「だが、君を認めたわけではない。でないと、妻が1人になってしまう。」




真剣な表情の父親に、頷くしかなかった。

この人も悩んでいるのだ。




シワにならないよう制服を脱がし、ハンガーにかける。

下着姿の萌をみても、興奮より嬉しさが募った。


やっと、そばにいれるのが。

自分も服を脱ぎ、布団に入り込む。



人肌の温もりが、最近なかった心地よい眠りを誘った。



昔、萌がいった言葉を思い出す。

「大きくなったら、結婚して。」



まだ小学校低学年の話。

けれど、指切りして誓ったあの約束。



「結婚は無理かもしれないけど、2人で幸せになろう、萌。」



少し大人になった契りのやり方。

触れるだけのキスをし、抱き締めた。




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