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記憶の彼方へ  作者: 山水
10/13

10話

「ねぇ、小雪ちゃん。」



小雪はやれやれと、腰をあげ無表情の萌に笑いかけた。



「けいは隙だらけね。あれじゃすぐつけ込まれるわ。」



「つけこんだの?」



「はっきりしてないなら、別にいいでしょ?」



小雪は気づいている。

萌の表情がいっそう険しくなった。



「わざとけいに近づいたの?」



「遅かれ、早かれね。」



どうりであの練習試合後、やたらけいの事を聞いて来ると思った。


萌は一歩歩み寄った。



「けいは、渡さないわ。」



「本人は、手放そうとしてるのに?」



「どういう事?」



「まだ、教えてあげないわ。」



余裕の表情でボールをつきだした小雪。

問い詰めようとした時、けいが戻ってきた。



「早く小雪もかえれよ?」



「うん。またね、けい。」



それだけの会話に嫉妬する自分がいた。

萌はけいの手を握り、見せつけるように手を引く。




「けい、早く帰ろ。」



「うん。じゃあね、小雪。」



「またね。」




絶対わざとだと思った。

次また会う


それを当たり前のように約束するように。



けいの部屋までついていくと、部屋に入るなりベットに倒れこんだ。



「無理してない?」


頭を撫でながら聞いてみた。

弱ってるけいは珍しい。



「してない。けど疲れた。」



「もうコーチやめたら?」



「・・・・まだ、する。」



眠くなったのか、瞼が重くなるけい。

ゆるゆると頭を撫でていた手を握りしめ、けいは完全に目を閉じた。



「30分したらおきる。」



それだけ言うと、すぐに静かな寝息が聞こえてきた。

必ず家まで送ってくれるけい。

待ってろという事らしい。



こんな間近で寝顔が見れるのは、私だけだよね?

少なくとも、特別だよね?



萌はけいのさらさらの前髪をわけ、顔を近づけようとした時、



「けいー、あんた帰ったなら・・って?あれ?」



「か、薫さん⁉お、お邪魔しています!」



けいのお母さん、薫が突然扉をあけた。




「あぁ、萌ちゃん。ごめんね、いつもけいが迷惑かけて。」



飽きれながらいう目線の先は、しっかり握られたけいと自分の手。

離そうにも離せなかった。




「適当なとこで離していいからね?」



「は、はい。」



と、いつもならここで終わる会話だが、薫はしばらく萌を見つめながら困ったように眉毛をさげた。



「ねぇ、萌ちゃん。」



嫌な予感がした。

いつもなら明るくてよく笑う彼女。

それが今は何かをとても言いずらそうにしている。



「けいをしばらく放っておいてくれないかしら。」



胸を刺されるような痛み。

頭が一瞬真っ白になった。



「萌ちゃんが嫌いで言ってるんじゃないの。ただ、けいは萌ちゃんに依存し過ぎてるから。お互い、少し距離をおいた方がいいわ。」




「依存したら・・駄目なんですか?」



「・・・お互い、離れる時がきたとき、寂しいわよ?」



「離れるなんて・・・・。」



考えられない。


泣きそうな顔になっていたのだろう。

薫はけいを起こさないようにゆっくり扉をしめ、萌の肩に手を置いた。



「けいの事、好き?」



「・・・・はい。」



友達としてか、それ以上か


それは聞かれなかった。


薫はけいによく似た優しい笑みを浮かばせながら、そっと髪を撫でた。



「ありがとう、けいも萌ちゃんの事好きよ。でもね、今のままじゃ駄目なの。」



何故

萌は言いかけたが、薫の言葉を待った。

それだけ、真剣な表情だったから。



「今のけいじゃ、駄目なのよ。この子はもっと強くならなくちゃ駄目なの。けいには小さい頃から我慢させ過ぎたわ。萌ちゃんのお母さんの件も、私は本人から言われるまで何も知らなかった。だから、けい自身がみずから手を伸ばすまで待っててくれない?」



「もし、手が伸びなかったら・・・。」



「その時は、けいの事を諦めて。それだけの覚悟を背負えないような子には、萌ちゃんを幸せに出来ないわ。」




友達としてもいちゃ駄目なのか。

そう言いたかったが、無理だと思った。


もうひき戻せないほど、けいの事が好きなのだ。



そっと、繋いでいた手を離し、萌はカバンをとる。



「待ってるから、けい。」



泣きたいのをぐっと我慢し、立ち上がる。

何度も振り返りそうになったが、なんとか靴をはけた。



「ねぇ、萌ちゃん。なんでけいだったの?あの子、そんなに魅力あるかしら?」



「薫さん、けいがいなかったら、今の私はいないです。」




もっと語りたい事があったが、それでやめた。

萌は扉をこえる。



初めて、この扉を重いと思った。

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