1話
いつも男物の服を着ている女の子がいた。
活発で、よく笑い、いつも友達に囲まれているその少女。
近所に住む事になってからは、自分もその輪に入るのは自然な事に思えた。
「萌ー!みてみて!でっかい魚釣れたよー!」
私の名前を大声で呼びながら、誇らしげに魚を掲げる少女に、私は誰よりも彼女のそばにいたいと願った。
「手を繋げば、隣でずっと歩けるよ。」
そういって、歩くのが遅い私の手を繋いでくれる少女。
「萌、もう少し遊ぼ?」
両親の帰りが遅い私に気遣って、いつも家の近くで日がくれるまで遊んでくれた。
「けい!大好き!」
「私も萌が大好きだよ!」
毎日笑顔でそう伝え合った。
子供だったから。
遠慮なく、あなたが大切で大好きだと伝えた。
「けい、また学校さぼったの?」
小さな公園の真ん中で、バスケットボールをつきながら無表情の彼女に問いかけた。
「あーまた正樹が言ったんだろ。」
「心配してるのよ。中学の時は良かったけど、高校じゃ進級できなくなるよ?」
「別にいーさ。いつ辞めても。」
シュパン。唯一ある公園のバスケットゴールに綺麗にシュートするけい。
いつ見ても綺麗なフォーム。
小学校からの幼馴染のけいは、中学に入ってから学校をサボり気味だった。
それでも中学では自分も一緒に登校していたので欠席はなかったが、しょっちゅう授業は抜け出していたようだけど。
しかし、高校にあがってからは、学校にもいかなくなっていたけい。
進んだ高校が違った為、同じく小学校からの親友、正樹が情報をくれるのだ。
「つまらないの?」
「つまらない・・・。」
後の言葉を飲み込むような言い方だった。
しかしけいは、ちらりと腕時計を見てからボールをつくのをやめた。
「あきたや。萌、帰ろ。」
けいは気づいていないと思っているのだろうか。
帰りが遅くなると心配する私の両親に気遣って、いつも定時には帰り着く様に家まで送っていることを。
昔より無愛想で、あまり笑わなくなった彼女だが、私への心配症はまったく変わっていない。
「ねぇけい、部活入らないの?」
「部活入るくらいならバイトするかなー。」
「えー。それじゃあ、週末会えなくなるの?」
「夜だけにしたら、昼間は会えるよ?」
いつも期待してしまうこういう返事。
けいは高校が別になると知っても表情を変えなかった。
淋しいのは自分だけかと悩んだが、毎回普通にあってくれる。
「今夜は両親遅いの?」
「わかんない。でもまだ帰ってないみたい。」
「そか。じゃあ、少し勉強教えて。」
「いいよ?なに?」
「数学。サボった分、萌に習う。」
本当はわざとサボって、私に教えて欲しがっているのかも。
1人が淋しいの知っていて、理由をつけてそばにおいてくれてるのかも。
いろいろ考えたがやめた。
けいは優しいから。
もし先に両親が帰っても心配させないように、制服をきがえ指定の靴も履き替える。
これをしておけば大丈夫。
中学からの癖。
机の上に飾っている写真を見つめる。
幼い頃のけいと私。
今では想像もつかないほどの笑顔のけい。
いつからか笑わなくなり、友達とも一緒にいる事が減った。
「大好きって、言ってもくれなくなったね。」
もうそんな歳でもないのかもしれないけど。
やっぱり淋しいな・・。
贅沢かな。
離れても相手してくれてるのに。
ねぇ、けい
私、けいの事大好きだよ
今もずっと・・・