お嬢様とクズな婚約者
公爵令嬢エレオノーラシリーズのタグに、公爵令嬢エレオノーラとつけました!
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「エレオノーラ。結婚後のことについて、いくつか話しておきたい」
王都でも有数の高級料理店。
周囲には王国の有力貴族たちが集まり、静かな音楽が流れていた。
その中で、エレオノーラ・フォン・グランディアは、目の前に座る婚約者を見つめていた。
「はい。何でしょう、アルフォンス様」
「まず、私の交友関係についてだ」
アルフォンス・フォン・レイヴァン。
レイヴァン侯爵家の嫡男。
そして、エレオノーラの婚約者だった。
「結婚後も、私は今まで通り自由に行動する」
「……自由に、ですか?」
「ああ」
アルフォンスはワインを口にした。
「友人との付き合いもある。女性との交友もな」
エレオノーラの表情が僅かに固まった。
「女性との……交友、ですか?」
「そうだ」
悪びれる様子はない。
「君も知っているだろう。私は女性に人気がある」
「存じております。嫌というほど」
王都では有名だった。
レイヴァン侯爵家のアルフォンスには、常に女性の影がある。
劇場の女優。
商会の娘。
下級貴族の令嬢。
そして、エレオノーラが知っているだけでも、数人の愛人。
「結婚すれば、グランディア公爵家の娘として相応しい振る舞いをしてもらう」
「……はい」
「余計なことには口を出すな」
「余計なこと、とは?」
「私の女性関係だ」
エレオノーラは黙った。
「私は次期侯爵だ。妻一人だけを見て生きるほど暇ではない」
「……そうですか」
「理解してくれて助かる」
アルフォンスは満足そうに笑った。
「君は優秀だ。グランディア公爵家の財産も、領地もある」
その言葉に、エレオノーラはゆっくりと顔を上げた。
「……今、何とおっしゃいましたか?」
「だから、君は優秀な妻になると言った」
「その後です」
「グランディア公爵家の?」
「はい」
アルフォンスは少しだけ眉をひそめた。
「財産と領地がある」
「それが、どうかしましたか?」
「どうも何も」
アルフォンスは笑った。
「私と結婚すれば、レイヴァン侯爵家とグランディア公爵家は強固な関係になる」
「……」
「悪い話ではない」
エレオノーラは微笑んだ。
「そうですね」
「分かってくれたか」
「はい」
彼女は静かに頷いた。
「とてもよく分かりました」
その笑顔を、少し離れた場所から見ていた人物がいた。
エレオノーラ付き侍女長。
マリアンヌ・ローデリア。
彼女は笑っていた。
笑っていたが、目が笑っていなかった。
そして、その隣に立つ侍従長、ヴィクトル・アルディスが静かに呟いた。
「……聞きましたか」
「ええ。一語一句、漏らさず」
マリアンヌの声は柔らかかったが、妙に冷たかった。
「どうします?」
「まだです」
「まだ?」
「お嬢様のお気持ちを確認しておりません」
マリアンヌは扇を閉じるように、指先をゆっくりと握った。
「ですが」
「ですが?」
「私の個人的な感想を申し上げるなら」
彼女の笑顔が深くなる。
「埋めましょうか」
ヴィクトルは眉一つ動かさずに尋ねた。
「どこに?」
「庭に」
「却下です。お嬢様が悲しまれます」
「では、生きたまま遠くの国へ」
「それも却下です。外交問題になります」
「難しいですね」
「ええ。実に困ったものです」
二人は同時にため息をついた。
「とりあえず」
ヴィクトルが眼鏡の位置を直しながら言った。
「屋敷に戻りましょう。情報を整理します」
「そうですね。会議です」
「十人全員を?」
「もちろん」
「騎士団長も?」
「呼びます」
「騎士団三千人は?」
マリアンヌは少し考えた。
「……待機」
「それだけですか?」
「今のところは」
その言葉が、この日、王国最大級の騒動の始まりだった。




