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6話 勇者の襲来

 ——スケルトンたちの行進は続く


 指揮官のカッツォは、相変わらず一切疲れた様子もなく、休憩を取らずに歩き続ける。

 もう3時間は経っただろうか…前から5列目辺りのスケルトン兵士が、ふらふらと横に逸れたり、ガクンと膝を付きそうになっているのが見える。


 そして、ついに…… ガララァンッ!と盛大に骨の音を響かせて、正面から倒れてしまった。

 カッツォは、すぐにその音に気付き、苛立った様子で5列目辺りを見に来る。


「くぉらぁぁッ! 誰だ勝手に寝ているのは?! 今は一刻を争うのだぞッ!」


 倒れた兵士はもはや呼吸するのもやっとの状態で、しばらく休まないと立てそうにない。

 カッツォはその様子を見て、冷ややかな視線を送りながらこう言い放った。


「…リッケルトか。 もう歩けないのか? そうか、歩けないのならば… 即・骨粉!」


 またしてもカッツォは、破壊のクラブを大きく振りかぶり、何の躊躇もなく勢いよく振り下ろす。


 ゴガァアアンッ!!


 骨が砕け散る音と、飛び散る様子が、最後尾にいる俺にもはっきりと分かった。

 そして、また何事もなかったように行進が始まった……


「改めて言うが、我が部隊に足手まといは要らぬ! 戦場では情けが隙を生み、命取りになる。 もし俺がこの部隊にとって足手まといになったら、その時は容赦なく俺を殺せ!」


 やはり、カッツォという男は部下思いであるわけがない。

 昨日、一瞬でも理想の上司だなんて思った俺が馬鹿だった…。

 ネルトの言う通り、魔物には魔物の考え方があり、人間の価値観とは大きく違うのだ。


 しかし、俺はもうスケルトン兵士として彼らと寝食を共にし、人間だった頃には味わえなかった“温もり”のようなものを体感してしまった…。

 たった一日の出来事に過ぎないけど、正直、俺にはもう彼らを“敵”として見ることはできない…。


 俺に優しくしてくれるネルト——

 ちょっと阿呆だけど憎めないコパン——

 温かく歓迎してくれた詰所のみんな——


 もし勇者のほうに肩入れするなら、スケルトン兵士たちみんなを裏切ることになる…

 かと言って、勇者たちを倒してしまったら…

 つまり、魔物たちの勝利となった場合、世界は浄化されず、俺は一生スケルトン兵士として生きることになってしまう…。

 これがもしゲームなら何度もリセットすればいいけれど、どうやらここは実在する世界のようだからリセットなどできない。セーブやロードも存在ない。


 一体、どうすればいいんだ…?

 こうして悩んでいる間にも、俺たちスケルトン部隊の行進は、着実に“北の灯台”へと歩を進めていく。


 そうだ……!


 なんとか勇者を説得して、俺と、俺の親しいスケルトンだけでも見逃してもらって……

 いやいや、ダメだ! そんなことして何になる?


 ネルトやコパンだけでなく、詰所のみんなにも家族がいて、親友がいて、俺がこの世界にやってくる前からずっと、彼らの生活は営まれていたんだ。

 それに、カッツォのことだって、別に憎いわけではないし、浄化できるならそれに越したことはない。


 戦ってはいけない……


 そうだ、勇者一行と戦わないのが一番!…なのだが、そういう訳にもいかないだろう。

 ならば、できるだけ血を流さず、できるだけ戦闘を避けて、それでも世界が平和になれる方法は……


 ——魔王だけ倒す


 これは、無謀かもしれないが… 勇者が魔王だけを討伐すれば、他の犠牲者は一切出さずに、この世界に平和が訪れるのでは…?

 でも、そんなことが果たして可能なのか?


 うーむ……どうすれば……


「伝令ぇー! 北の灯台、周辺に勇者の姿なしッ!」


 前方から、伝令使のスケルトンが戻ってきて、最後尾の俺にまで聞こえる声で叫んだ。

 スケルトンたちは基本的に徒歩で行進するが、伝令使だけは骨の馬“スカル・ホース”に跨り、先行して目的地周辺の状況を調査をする。


 どうやら、やはりまだ勇者一行は、北の灯台に到着していないようだ。

 俺は少しほっとしたが、不安な気持ちは一切ぬぐえない。


 あの灯台には、七聖宝の一つ“星詠みの水鏡”がある。


 七聖宝とは、グレイト・ソウルズのメインストーリーを進める上で重要な7つのアイテムで、この世界の至る所に配置されている。

 7つ集めると願い…は叶わないが、多く集めるほど魔王の力を弱めることができる。

 この世界でも魔王の力を弱める効果があるとしたら、是非とも勇者には手に入れて欲しいアイテムではあるが…

 北の灯台は、グレイト・ソウルズで多くのプレイヤーを苦しめた最初の難関だ。


 ひとつ前の北の砦までは、ゲームが苦手な人でもゴリ押しで何とか踏破できる仕様だが、北の灯台はそう甘くはない。

 1階から4階まであり、それぞれ異なる魔物が出現し、属性なども上手く見極めながら戦わないと、あっという間に全滅させられてしまう。

 中でも、3階の霧が立ち込める階層では、ハロウレイスという亡霊タイプの魔物が、必中率の高い即死系魔法を使ってくるのだが、ここでコントローラーを何度も床に叩きつけたというプレイヤーも少なくはない。


 そして、最上階の4階では“星詠みの水鏡”を守るようにして、部隊長のカッツォが待ち構えている。

 グレイト・ソウルズでは、これがシリーズ初となるボス戦だ。

 カッツォの攻撃力は非常に高く、攻撃魔法もデバフ魔法も何一つ通らない。

 それでいて守りも固く、体力もあるため、いつまで戦えば倒せるのか不安になることから、このゲームの開発者はちゃんとデバッグしたのか?と苦情のDMが開発元のサエキネクト社に何通も届いたらしい。


 …それから更に1時間歩き、ついに北の灯台が見えてきた。

 スケルトン兵士たちの表情にも安堵の色が広がる。


「さあ、あと一息だ! 皆の者、気合を入れて歩けーーいッ!」


 ゴールが見えてきたことで、スケルトン兵士たちの足取りも先ほどより軽く、俺も恐怖感が和らいで意気揚々と歩き続けた。


 辺りが薄暗くなってきた頃、遂に俺たちは北の灯台の真下にまで到着した。


 悠然と聳え立つその白い塔は、船乗りたちの道しるべとなり、海からの敵の侵略に対する見張りも兼ねて、かつてアルバート王が建てたのだという。

 グランシア王国が健在だった頃は、町から技師を送り定期的に修繕を行っていたが、魔物の支配下に落ちた今となっては、少しずつ朽ちてきて、外壁が所々剥がれ落ちている。

 ゲームの中でもこの灯台は同じような有様で、プレイヤーが老朽化した床を踏むと、そのまま床が抜けて下の階に落っこちるトラップがいくつかある。


「よーし、お前らは1階だ! 2階はこのグループで守れ! 3階はお前たちに任せたぞ」


 到着早々、カッツォは迅速にスケルトン兵士たちに指示を出し、勇者を迎え撃つための配置を決める。

 しかし、最後尾の俺たちは、グルーピングから漏れてしまい、俺たちは恐る恐るカッツォにどこを守ればいいか尋ねてみた。


「ああ…お前たちは4階だ。 俺と一緒に七聖宝を守れ!」


 なんということだ…。俺とネルトとコパンの三人は、どういうわけか4階に配置された。

 本来、グレイト・ソウルズのゲーム内では、4階にはカッツォ1人が待機して勇者を迎え撃つのはずだが… こうも次々にゲームとは違う展開が起きると不安になってくる……

 だが、最後まで勇者と戦わずに済むので、下にいるより安全ではあるかもしれない…。


 ——数時間後


 もう夜も更け、辺りは真っ暗になってしまったが、まだ勇者たちは攻めてこない。

 4階の展望室、俺とネルトとコパンは、奥にある祭壇の石段に仲良く腰を下ろし、束の間の休息を取っていた。


 ネルトが甲冑の隙間に隠し持っていた、キノコと野草を取り出し、三人でシェアする。

 スケルトンは毒性のない食べ物なら、生でもへっちゃらなのだ。


「これ、うんめェな~! なんづー名前のキノゴだァ?」


 こっそり食べていたというのに、コパンが大声でネルトに質問してしまった。

 それを横目でギロリと睨むカッツォ。


 …あ、ヤバイ… 殺されるかも。


 しかし、カッツォは黙って前に向き直し、胡坐の姿勢のままクラブを地面に立て、また精神を集中し始めた。

 この4階の展望室に入ってから、カッツォはずっとこの調子だ。

 俺とネルトは、フゥー…と胸をなで下ろした、その時……


「…来るぞ」


 突然、カッツォの眼光がカッと見開かれ、何かの訪れを告げた。


 外の様子が騒がしくなり、何やら叫び声のようなものも……


 俺とネルトは、慌てて灯台の窓へ駆け寄り、下の様子を確認してみると、遠くのほうに淡く黄金に輝く光の点が4つ見える。

 それを見たネルトは、慌てた様子で声をあげた。


「カ…カローネスだ…ッ! カローネスが4体、こちらに走ってきている!」


 ついに来たッ!間違いない、あれがこの世界の勇者たちだ!

 すると、1階の外に待機していたスケルトン兵士たちが剣を抜き、黄金の光に目掛けて突撃していく。


『ウオオォーーッ!!』 ドドドドド・・・!!


 雄叫びを上げながら挑んでいくその姿からは、スケルトンたちの決死の覚悟を感じる。

 待機していた兵士たちは、数にして20名ほど。そのうち5名だけ灯台の入口付近に残し、他はすべて突進していった。


「ま、待てッ! いったん引いたほうがいい!」


 俺の声は届くはずもなく、スケルトン兵士たちと黄金に輝く4つの光が近づいていく…。


 ズバンッ!!!

 暗闇の中、キラリと光る剣の一振りによって、一気に3体のスケルトンが真っ二つに両断された。


 ボゴォオオンッ!!

 そこへ馬鹿でかいハンマーが振り下ろされ、両断された骨に追い打ちの一撃を与えている。


 コッォオオ・・・・ カッ!!

 間髪を入れず、眩い光の粒子が一点に集まり、激しい閃光が辺り一帯のスケルトンを粉微塵と化した。


 ポワァァァン

 後方からは、魔物に防御力を落とすデバフ魔法をかけながら、パーティ全体には攻撃力を強化するバフ魔法をかけている。


 とんでもない連携だ…

 まるで、何百、何千回とプレイしたゲームのように、一分の隙も無いチームワークで勇者たちが動いている。


 突撃していった兵士たちは瞬く間に敗れ、残されたのは傷ついた甲冑と剣、そして散らばった骨だけ……

 まるで、俺が昨日この世界に転生して初めて見た、あの戦場と同じ光景のようだった。


 黄金に輝くカローネスに股がった勇者たちは、散らばった骨の間をゆっくりと通り抜け、ついに北の灯台の入口付近にまでやってきた。

 彼らは優雅にカローネスから降り、入口に向かって歩き出すと、4体のカローネスは風と共にフワッ…とその場から消えた。


 一歩、一歩と接近し、入口の目の前まで来て、ザッ…と4人は立ち止まる。

 これ以上は一歩も先へ進ませまいと、待機していた残り5名のスケルトン兵士たちは剣を抜き、勇者たちにその切っ先を向ける。


 扉の左右に設置してある松明の明かりが、勇者たち4人の姿を照らし出した――

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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