28話 己に打ち勝て
グランシア王国から数キロ先にある森の中。
補装はされてないが、しっかりとした道が続いている。
黒脈洞へ向かったエクレア司祭とドラゴも、きっとこの道を通ったはずだ。
俺たちは馬の足音を響かせて、その道を真っ直ぐ進んでいく。
先頭はカッツォ。その後ろに勇者一行の四人がカローネスを走らせ、最後に俺とネルトとコパンの3人が続いている。
すると、レイスさんがカッツォに声をかけた。
「待てカッツォ。 お前に少し話がある」
カッツォはそれを聞いて手綱を引き、骨の馬をその場に止めて返事をした。
「ああ? まだ何かあるのか?」
レイスは黙ってカローネスから降り、カローネスは風とともにフワッ…と消えて行く。
そしてレイスは、道のわきに落ちていた小枝を手に取って、カッツォの元へ歩み寄り、こう言いは放った。
「お前の弱点、教えてやるよ」
カッツォは何か馬鹿にされたように感じ、「なんだと?!」と言いながら骨の馬から降りて、レイスの前に立つ。
体格差では明らかにカッツォが上回っており、レイスはカッツォの顔を見上げるようにしてこう言った。
「俺に本気で攻撃してみろ。どうせ当たらないから」
カッツォは脳天に血が上り、先ほど交わした協力関係など忘れて思い切りクラブを振りかざす。
その瞬間、レイスの眼光もキラリと光った。
——シュパッ! パンッ! パシンッ!
それは一瞬の出来事だった。
カッツォが腕を振り上げると同時に、レイスは小枝を3回振ったのだ。
初撃は、右わき腹に一撃。
次に、左の腿へ一撃。
そのまま身体を翻し、背後へ回って背中を袈裟斬りだ。
「ううッ……!?」
レイスは小枝を道のわきに放り投げ、カッツォにこう言った。
「お前は、力いっぱい殴ろうとする余り、クラブを振りかぶりすぎなんだよ。 3回も攻撃する隙がある」
ぐうの音も出ないカッツォ。
すると、後ろからグリモアがこう言った。
「カッツォよ……間もなく奴らがやって来る。 レイスに指南を受けて、今すぐ弱点を克服するのだ」
カッツォは悔しさから怒鳴り散らそうとしたが、ぐっと堪えた。
そして、プライドを捨ててこう言った。
「……レイス。 どうすればいいか教えてくれ」
——それから数十分後……
道の先から骨の馬を走らせる音が聞こえてくる。
この道は、行商の魔物もよく利用するので、近づいて来るまで誰なのか分からない。
俺たちは道の両脇に分かれて、森の木の裏や茂みに身を隠し、その音が近づくのを待った。
そして、現れたのは紛れもなくエクレア司祭とドラガだった。
大急ぎでグランシア王国へと向かって骨の馬を走らせている。
レイスとカッツォは、道を挟んで互いに目配せし合い、同時に道の真ん中に姿を現す。
——ザッ! ザッ!
ドラガとエクレア司祭は驚いた様子で、レイスとカッツォから数メートル手間に骨の馬を止めた。
他のメンバーはまだ茂みや木の裏に隠れている。
そして、真っ先にドラガがカッツォに声をかけた。
「おい……何してんだカッツォ。 横にいるの勇者じゃないか?!」
なぜ二人が一緒に並んで立っているのか、ドラガには理解できない。
だが、エクレア司祭はすぐに状況を察し、カッツォに向かって怒声を浴びせる。
「血迷ったか、カッツォーーー!!」
一瞬、ビクッとたじろいだカッツォだったが、破壊のクラブを構えてエクレア司祭を睨みつけた。レイスもルミナスソードを抜いて戦闘態勢に入る。
するとドラガもようやく理解し、鉄塊のようなメイスを握りしめてカッツォに向かって骨の馬を突進させてきた。
「この裏切り者めーーッ!!」
しかし、ドラガの骨の馬がカッツォの間合いに入る直前、ドラガのすぐ右隣りの茂みから“火炎魔法”が放たれた。
——ボワァアアアッ!!
「ぬおおッ?!」
ドラガは炎から逃れようと顔を覆い、その反動で骨の馬から滑り落ちた。
ズシャァアッ!
そこへ、カッツォは容赦なく破壊のメイスを振りかざす。
——ボゴォォオッ!!
カッツォの攻撃は、見事、ドラガの背骨にクリーンヒットした。
「……ごはぁッ!!」
ドラガは思わず声を上げた。
しかし、すぐに体勢を持ち直し、サッと後ろへ下がってカッツォとの距離を取る。
「おいおい……カッツォォォ……てめぇ、こんなことしてタダで済むと思ってんのかァ?」
ドラガは背中を手で押さえながらカッツォにメイスを向ける。
すると、またドラガの右隣りの茂みから火炎魔法が飛んでくる。
「ちぃッ!!」
ドラガはその体躯を器用に転がし、火炎魔法を前転で避けた。
だが、今度はそこへレイスのルミナスソードの斬撃が放たれる。
——ピシュンッ!
その切っ先はドラガの首を一太刀で跳ねる勢いだったが、ドラガは瞬発的にメイスで防いだ。
ガギィィンッ
そこへ波状攻撃のごとく、またカッツォの破壊のメイスが振り下ろされる。
しかし、エクレア司祭も黙って見てるだけではない。
カッツォの攻撃が届く前にエクレア司祭の“電撃魔法”が飛んできた。
——ビシャァアァアッ!!
カッツォは上体を反らし、電撃魔法を間一髪のところで避けた。
「ほう……避けるとはのぉ…… 単なる馬鹿力だけではなくなったか」
まさに一進一退の攻防。
すると、ドラガは周囲に聞こえるよう大声をあげた。
「汚ねぇ真似すんじゃねぇッ! 隠れてる奴ら出てこいッ!!」
少しの間を置いて、道の左右の茂みや木の裏から、俺たちも姿を現し、武器を構える。
勇者一行のレイス、セラ、ザハル、グリモア。
そして俺、ネルト、コパン、カッツォ。併せて8名。
対するはドラガとエクレア司祭のたった2名。
数では圧倒的にこちらが有利だ。
だが、ドラガの実力を侮ってはいけない……エクレア司祭もまだ本気ではないだろう。
「ネルトッ! お主、このわしを裏切ったのか?!」
エクレア司祭はネルトの姿を見つけて驚いた様子だ。
そして、その感情はすぐに“怒り”へと傾き、魔法の杖に魔力を溜めはじめた。
それを見たレイスは、前方を向いたまま号令をかける。
「行くぞみんなッ!! かかれーーーッ!!」
一番にセラが前へと飛び出した。狙いはドラガだ。
セラは巨大ハンマーを軽々と持ち上げ、物凄い脚力で高く跳躍する。
その後ろからレイスもドラガに向かって突進する。
ドラガはそれを見て一瞬の内に最善の手を考え、その結果ドラガも跳躍し、セラを空中で迎え撃つ形となった。
——ガガァアアンッ!!
セラのハンマーと、ドラガのメイスがかち合って激しい音が鳴り響く。
ドラガの着地点にはレイスが剣を構えるが、そこにエクレア司祭の“氷結魔法”が飛んできた。
——ヒュゴォオオッ!!
レイスは慌ててそれを避け、ドラガの着地点から離れる。
その直後、エクレア司祭の氷結魔法にぶつけるようにグリモアの“火炎魔法”が放たれた。
——ボァワァァアッ!!
互いの攻撃魔法が打ち消しあって相殺された。
その隙にドラガは着地し、距離を取るため後ろへ下がる。
セラも着地し、すぐにドラガに追撃を与えようと前進。
レイスもセラの後に続いて走る。
グリモアは、エクレア司祭に的を絞り、次の攻撃魔法の魔力を杖に溜める。
それを見たエクレア司祭も「望むところじゃ」と、グリモアを睨みながら杖に魔力を溜める。
——ガギィンッ! キィンッ! ガガンッ!
ドラガは、レイスとセラの攻撃をたった1本のメイスで受けながら、隙を見つけては反撃まで行う。
ドラガの反撃は一撃の重みが桁違いで、例えガードできても体の芯まで響いてダメージが蓄積してしまう。
このまま消耗戦のような戦い方を続けていては、いずれこちらが先に限界が……
……ボゴォッ!!
「ぐは……ッ!!」
ドラガの攻撃は、ついにレイスの腹にめり込んだ。
その強烈な打撃によってレイスの身体は吹き飛ばされ、森の中へと飛んで行った。
「あッ…レイスッ!!」
吹き飛ばされたレイスを心配してセラが声をかける。
しかし、その隙をついたドラガの攻撃がまたしてもセラを襲う。
……ボグォッ!!
「がはァアッ!!」
なんとセラまで脇腹を殴られ、森の中へと吹き飛ばされてしまった。
「まずいッ……早く回復しないと!」
すかさずザハルが2人に回復魔法をかけるため、森の中へ駆けて行く。
ドラガは「フンッ!」と鼻息を鳴らし、ザハルを追おうとしたその時——
——ザッ!
ドラガの目の前に、カッツォが立ちふさがった。
「今度こそ、仕留めてやる」
そう言ってクラブの先をドラガに向けるカッツォ。
ドラガもそれを受けて「こっちの台詞だ」と、カッツォに向かってメイスを向けた。
——ガガッ!! ゴッ!! ガンッ!! ガゴッ!!
カッツォのクラブと、ドラガのメイスが、激しくぶつかり合う。
どちらの攻撃も途轍もない破壊力で、もし一瞬でも油断すれば致命傷を受けることは必至だ。
しかし、見るからにドラガのほうがスピードで勝っており、カッツォは次第に後ろへ下がっていく……
——ズオアァアアァァッ!!
その後ろでは、グリモアの“光魔法”と、エクレア司祭の“闇魔法”が、バチバチと激しい音を響かせながらぶつかり合いが始まった。
これは単発の攻撃魔法ではなく、魔力の続く限り放ち続けるタイプの攻撃魔法だ。
「ぐぬぬぉおおッ……!!」
「むぅううんッ…!ぐぐぐ……!」
互いの魔法が押しては引いて、両者の魔力が拮抗しているのが分かる。
だが、次第に、闇の魔法が少しずつグリモアに近づいてきた……
このままグリモアが押し負けて、あの強大な魔法攻撃が直撃したら……おそらくザハルの回復魔法でも復帰するまで数日はかかるだろう。
そう思いながらも、俺とネルトとコパンは、まだこの戦いに参加できずにいた。
「ど、どうしよう…… 僕たち弱いし、戦力外だから参加しなくていいって言われてたけど……このままじゃ……」
ネルトは俺の後ろで震えながらそう言った。
だが、このままではカッツォもグリモアも勝機が薄い……
すると、コパンが少し前へ出て、カッツォのほうをじっと見つめながらこう言った。
「オデ…… カッヅォ様が死んだらヤダぁあ! カッヅォ様を助げるゥ!!」
そしてコパンは長槍を握りしめ、カッツォとドラガが戦闘する森の中へと駆け出して行った。
コパンの実力では、逆に足手まといにもなりかねない……
俺とネルトは大声でコパンを止めたが、コパンの足はもう止まらない。
「カッヅォ様ァァアッ!!」
カッツォがちょうど次の攻撃を放つため、クラブを握る右腕を頭上に掲げた時、カッツォの耳にコパンの叫び声が聞こえ、ふいにそちらに目をやった。
その瞬間……
鈍い音がカッツォの右わき腹に響いた。
——ドゴッ!!
「ぐおッ…!!」
カッツォが視線を戻すと、それはドラガが放ったメイスだった。
痛烈なダメージがカッツォに走り、右膝がガクッと崩れる。
ああ!やはり、足手まといになってしまった……俺とネルトはそう思った。
しかし、それでもコパンは長槍の先を前方に向けたまま、真っ直ぐドラガに向かって突っ走って行く。
「ヲぁァアあああッ!!!」
——ズガァッ!!
「うぐッ!……貴様ぁあッ!!」
なんと、コパンの長槍はドラガの左脚の骨を削るようにして地面に突き刺さった。
コパンはそのまま勢い余ってドラガとカッツォの間をゴロゴロと転がり、奥の茂みの中へと消えて行った。
その一瞬の隙……
カッツォは全身全霊の力を込め、破壊のクラブを大きく振りかぶり、ドラガの頭部に目掛けて振り下ろす。
——ゴガァァアンッ!! ……ゴドンッ
その渾身の一撃により、ドラガの頭蓋骨は大きく陥没し、脛椎から外れて地面に落下した。
頭蓋骨はそのまま地面を転がり、カッツォのすぐ真下で止まった。
まだ意識があるようで、ドラガの頭蓋骨から断末魔の声が聞こえる。
「…そ、そんな……馬鹿な……この……俺……が…………」
カッツォはそれを静かに見届け、破壊のクラブを天高く持ち上げ、勢いよく振り下ろした。
——バガァァアンッッ!!
空中に骨の破片が飛び散り、ドラガはついに息絶えた。
その直後、ガサッ!と茂みから顔を出すコパン。
「カッヅォ様ぁあ!! よがっだ~~!生ぎでだァア!!」
コパンはカッツォに抱き着いて喜ぶ。
カッツォも疲労困憊の様子だが、コパンを抱き返し「お前のおかげだ」と礼をした。
俺とネルトは、ずっと震えながらその様子を見守っていた。
——ズォオオアァァアアッ!!
その後ろで、グリモアとエクレア司祭の魔法対決はまだ続いているが、もう勝負はギリギリのところまで迫っていた。
エクレア司祭の闇魔法が圧倒的に押しており、グリモアの限界は近い。
そして、ついにネルトが覚悟を決め、俺に向かってこう言った。
「よ、よし…… 僕たちも加勢しよう! グリモアさんを助けるんだ!!」
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