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26話 裏切り

 魔王城からも程近い闇の森——


 陽光を拒むかのように生い茂る木々の中、冒険者たちを待ち構える“黒脈洞(こくみゃくどう)”……

 その内部の岩肌には、黒い動脈のような模様が走っており、まるで洞窟そのものが鼓動しているかのような、異様な雰囲気を醸し出している。


 そこへ、馬の足音が2つ近付いて来た……


「ふぅ~…… ようやく黒脈洞に到着したのぅ」


「はい。 しかし、奴らの馬などは何処に……?」


 それは、エクレア司祭とドラガの二人で、勇者たちがこの黒脈洞に向かったという情報を得て、急遽、骨の馬を走らせてここへやって来た。


「ああ、当然じゃ。 カローネスは降りると消えるからのぉ」


「なるほど…… では、すでに到着して中にいるかもしれませんね」


 そう言ってドラガは何の躊躇もなく黒脈洞へと足を踏み入れた。

 エクレア司祭もそれに続き、いつでも魔法を使えるよう杖を構えて歩く。


 しかし、勇者たちの姿が見当たらない。それどころか、来た形跡すらなかった。


 洞窟内に配属された魔物たちは、しっかり今日も出勤して洞窟を守っており、どの魔物に尋ねても「勇者など見てない」と証言する。

 最深部の祭壇にある七聖宝“世界樹の根”も無事だった。


 エクレア司祭の頭に、3つの考えがよぎる。


 まだ勇者が到着していないだけか、それともまさかネルトの裏切りか、あるいは……


「計りよったか、勇者どもめ……!」


 急に恐ろしい表情に変わったエクレア司祭を見て、ドラガは血の気が引いた。

 するとエクレア司祭は、慌てて踵を返し「帰るぞドラガ!」と言ってその場を後にした。


 ——その頃、グランシア王国では……


 俺とコパンは詰所の娯楽室でカードゲームや骨を積んで遊ぶ玩具で暇をつぶしながら、ネルトがやって来るまで待機していた。


 ほかにも、読書をしてるスケルトン兵士が1名と、同じくカードゲームで遊んでいる2名の兵士がいる。


 ちなみに、レイスさんから聞いた話だが、あのサエキネクト社が販売したカードゲームや骨を積んで遊ぶ玩具は、この世界からアイデアを拝借して開発したらしい。

 だからグレイト・ソウルズのゲーム内には存在しないそうだ。


 するとそこへ、ネルトがやってきた。


「あ、ごめん、待った?」


 先ほど司祭室を覗き見た後、俺は急いで兵舎へ戻り“用事が済んだら娯楽室に来てほしい”と書いたメモを、ネルトの部屋のドアに差し込んでおいたのだ。


 俺は、単刀直入にネルトへ質問してみた。


「よおネルト。 司祭室で何してたんだ?」


 ネルトは驚きのあまり少し後ろへ飛び跳ね、明らかに動揺した様子で俺に答える。


「えなッ、何って、別に…… えっ、なんで知ってるの? もッ、僕の後をつけたのかい?」


 普段の冷静なネルトと違い、まるであの日のエリンちゃんとの慣れない会話のように、たどたどしい口調になっている。


 そして俺の後ろからコパンも顔を出し、頭を震わせながらネルトにこう言った。


「ネルト、すまねェな…… ぜんぶエイトに喋っぢまったァ」


 それを聞いたネルトは、一瞬きょとんとした表情を浮かべ、すぐに「はあ~……」と深いため息をつき、何か吹っ切れたような顔で俺にこう言った。


「そっか…… じゃあ、もう隠す必要はないね」


 するとネルトは、突然、にゅるにゅる……と、まるで液体のように全身の骨が溶け始めた。


 その光景に俺は思わず「うわッ…」と声が漏れた。


 だが、驚いているのは俺だけで、コパンはいつも通りカラカラと頭を揺らし、周りにいるスケルトン兵士も特に何も変わった反応は示さず、じっと見守っている。


 そうか、やっぱりネルトがミミックだったんだ……

 そして、それを知らなかったのは俺だけ……


「元の姿に戻ろうと思ったけど、もう僕、元の姿なんて忘れちゃったんだよね……」


 ネルトはそう言って、液体化した部分をもとに戻し、またいつものネルトの姿になった。

 そして、エイトのことをじっと見つめ、深々と頭を下げた。


「エイトくん、今まで騙していて本当にごめん」


 そして、ネルトの独白が始まった。


 ネルトは元々、エクレア司祭の右腕のような存在で、いつもエクレア司祭をサポートしていたという。

 この頃からずっとスケルトン兵士に化けていたので、もう宝箱などに化けるよりスケルトンの姿がしっくりくるらしい。


 レイスさんが異世界に…つまり俺がいた日本に飛ばされた時、王妃エリシアに化けてレイスさんを騙したのもネルトで間違いないそうだ。

 もしネルトがあのミミックだったとレイスさんに知られたら、きっとタダでは済まないだろう……


 ある日、青いソウルを持つスケルトン兵士が2度現れ、2人ともこの世界に馴染めず発狂して骨粉の刑に処されたが、このことについてエクレア司祭が関心を持っていた。

 その後、3人目の青いソウルを持つスケルトン兵士となる俺が現れ、その知らせは“カッツォ”から届いたのだという。


 そう……俺が初めてこの世界に転生して来たあの日、カッツォも俺の青いソウルに気付いていた。

 あの時、城下町へ帰還してカッツォが“デュラン様に報告へ行く”と言っていたのは嘘で、じつは青いソウルを持つ男が現れたことをエクレア司祭に報告へ行っていたのだ。


 そして、発狂もせずに順応している俺を見て、エクレア司祭は強い興味を示し、ネルトを俺の監視役としてしばらく近くで観察するよう命じたのだという。

 ちょうど俺がコパンに城下町を案内されていた時、詰所のスケルトン兵士たちに「この者はわしの助手だ。青いソウルを持つ男には内緒にするように」とエクレア司祭から直々に通達していたらしい。

 コパンにはその翌日に、改めてエクレア司祭が説明したのだそうだ。


 ネルトはそこまで話した後、急に声を詰まらせ始めた。


「でもね…… 僕、ずっとエイトくんを騙すのが辛くて……」


 俺は、ネルトの頬骨に伝う涙と、その言葉に偽りはないと感じた。

 この世界で見つけた俺とネルトの間にある“友情”のようなもの。それは紛れもなく存在している。


 ネルトも魔物として生き残るために選んだ道であり、エクレア司祭に逆らえるはずもない。

 誰がネルトのことを咎めることができるだろうか。


 俺は震えながら涙を流すネルトの両肩に手を置き、「話してくれて、ありがとう」と言い、続けてネルトにこう呟いた。


「なあネルト…… エクレア司祭のことを、裏切れるか?」


 するとネルトは、ドキッとした様子で体を震わせ、回答に困ってしまった。


 ネルトのことを信用しないわけではない。

 だが今のネルトはまだ、エクレア司祭の右腕であることに変わりない。


 コパンと俺が協力関係を結んでいることもネルトに話し、そのうえでもう一度ネルトに聞いてみる。


「あの勇者たちは必ず魔王を倒す。 そしたら、俺たちも浄化されて世界に平和が訪れるんだ。 そのために、ぜひ協力してほしい!」


 すると、ネルトは震えながらこう答えた。


「でも、僕ら魔物なのに…… 勇者たちに加担するってこと?」


 そのタイミングで、俺はコパンに目配せして合図を送る。

 しかし、コパンはその合図を忘れており、「はあ?」と返してきたので、扉のほうを指差して思い出させる。

 するとようやくコパンが思い出して、娯楽室の入口のドアまで走り、勢いよくドアを開けた。


——ガチャッ


「ネルトさん、久しぶりね♪」


 すると、そこにはネルトが気になっているあのスケルトン女子、エリンちゃんの姿があった。


 それを見たネルトはさらに動揺する。


「……なッ?! え、エリンちゃん!!」


 エリンちゃんは、すぐに俺たちがいる中央のテーブルへ歩み寄り、ネルトに向かってこう言った。


「話は全部エイトさんに聞いたわ。 アタシも世界が平和になって、浄化された世界で自由に生きたい!」


 エリンちゃんはそう言ってネルトの前に立ち、ネルトの両手を掴んで顔を近付ける。


「ネルトさん…… お願いっ」


 ネルトは顔を真っ赤に染め、ついに覚悟を決めた。


「わかった…… 僕も協力するよ!」


 そう言うとネルトは、早速その証しにエクレア司祭が持っている七聖宝を奪ってみせるという。

 まさかここまで急にやる気を見せてくるとは思わなかった……ネルトめ、エリンちゃんの手前、格好つけてやがる。


 というわけで、俺とコパン、ついでにエリンちゃんも一緒に、司祭室へと向かうことになった。


 ——司祭室の前


 エクレア司祭は今、ドラガと一緒に黒脈洞に向かっている。

 ネルトが言うには、あの七聖宝のひとつ“輪廻の輪(りんねのわ)”を持って行かず、司祭室に置いて行ったという。

 これは、またとない機会だ。


 だが、司祭室の前には屈強なオークが2体、見張り役として立っていた。

 この時ばかりは、司祭の右腕たるネルトでさえ、中に入ることは許されないという。


「あのオークたちに通してもらえるのは、エクレア司祭だけなんだ。 つまり……」


 そう言うとネルトは、また身体をにゅるにゅる溶かし始めた。

 今度は何かに化けるつもりのようだ。瞬く間に形が整っていく。そして……


「つまり、エクレア司祭になっちゃえばいいんじゃよ」


 なんとネルトは、一瞬のうちにエクレア司祭の姿に化けてしまった!

 俺は思わずネルトの顔を触って確かめる。


「うわぁ……すっげ…… 本物と見分けが付かない」


 ネルトは、「ふふん♪」と自慢げな笑みを浮かべると、司祭室へ堂々と正面から向かって行った。


 すると見張りのオーク2体は、バッ!と足を揃え、ピシッと脇を閉めて手に持った槍を床に立てた。


「お疲れ様です! もうお戻りだったんですね」


 オークの一人がエクレア司祭に…いや、エクレア司祭に変身したネルトに声をかけた。

 それを受けてネルトは、声や口調までエクレア司祭そっくりに返答する。


「ふむ、ご苦労さん ……おや、鍵が見当たらないのぉ」


 ネルトは司祭室に鍵がかかっている事も知っており、多少わざとらしく鍵を探すフリをしている。

 すると、オークが気を利かせて話しかけてきた。


「あの…… お預かりしている合鍵がございますが……」


 どうやら普段、見張りのオークに合鍵を預けていることもネルトは把握していたようだ。

 その鍵を使って、難なく司祭室の扉を開けさせることにも成功した。


「お~、すまんのぉ、おかげで助かったわい。 またすぐ出かけるから、見張りを続けておくれ」


 そう言ってネルトは、何食わぬ顔をして司祭室に入って行った。


 司祭室の中……


 ネルトには見慣れた光景だが、いつもエクレア司祭が座っている場所へ踏み込むのは初めてのことだった。


 エクレア司祭の椅子がある。その前には大きな机。いつもここでお茶を飲み、背後の窓から外を眺めるのが司祭の日課だ。


 ネルトは、緊張しながらもその机に手を触れ、袖付き三段の引き出しを順に開けていく。


 上段には何やら魔王に提出する帳簿や明細書がぎっしり……


 中段にも何かの書類や筆記用具など乱雑に入っている……


 そして下段の引き出しを開けると、そこに“輪廻の輪”が収納されていた。


 ネルトは、恐る恐るそれを手に取り、腰を下ろして持参した鞄にそっと入れた。


 すぐに部屋から立ち去ろうと腰を上げた時、ふと机の上に置かれた一冊のノートが目に留まる。


「……これは、エクレア司祭の…… 日記帳?」


 しばらくその場で立ち止まり、ネルトはそのノートも手に取って鞄の中に入れた。


 ——ガチャッ


 入口の扉を開けてネルトが現れ、俺たちは「あ、出てきたぞ」と小声で話す。


 ネルトが再びオークたちに挨拶している声が聞こえる。


「では、わしはまた出かけるので、見張りをよろしく頼むぞい」


 オークたちはネルトへ敬礼し、扉の前を2体でふさぐように立った。


 ——詰所の娯楽室


 俺、ネルト、コパン、エリンちゃんの4人は、また娯楽室に戻ってきた。


「ああ~~!本当にエクレア司祭を裏切っちゃったよ~~ もう後戻りできないっ!」


 ネルトはいつものスケルトン兵士の姿に戻って、自分がしたことを少し後悔しつつも、俺には何かすっきりとした表情に見えた。


 そして俺は、ネルトに戦利品を見せてもらった。


「おお~、これが七聖宝のひとつ“輪廻の輪”か…… レイスさんに渡せば、6つ揃うことになるんだな」


 そして、もうひとつの戦利品『司祭の日記帳』だが、なんでこんなものを持ってきたのかネルトにも分からないそうだ。


 だが、俺も何が書いてあるか気になる……


「まぁ、でも…… 一応、読んでみるか?」

「そうね… 読んでみましょうよ♪」

「オデも、読みでェなァ~」


 その気持ちはコパンもエリンちゃんも一緒だった。

 どの世界でも、他人の日記帳ほど背徳的で興味をそそられる物はないだろう……


 そして俺たちは、その日記に書かれたことに驚愕するのだった——

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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