25話 因縁の対決
——翌日
レイスたちは、手はず通り断崖の魔神殿にやって来た。
四人はカローネスから降りると、風と共にフワッ…とカローネスは消えていった。
レイスはダンジョンの入口に立ち、クレースにもらった地図を広げた。
「ここが“断崖の魔神殿”だ。 今回もエイト君が内部の罠を解除してくれているから、安心して攻略できるだろう」
そう言って中へと入ろうとするレイスだったが、慌てた様子でセラが後ろから呼び止めた。
「待ってレイス…! 何か、殺気を感じる……」
セラは親父さん譲りの勘を持つ。彼女がそう言うのなら警戒すべきだ。
それを聞いたグリモアとザハルも武器を取り、周囲に気を張り巡らせた。
——シュッ!
近くの茂みから何かが飛んできた。
ガキィィンッ!!
セラが巨大ハンマーを盾に、その何かを弾き返す。
地面に転がったそれは、鉄製の矢だった。
それを見たザハルは、すぐにセラの後ろへ隠れて文句を言う。
「ちょっ…どういうことだよ!? まさか、あのスケルトンが僕らを裏切ったんじゃ…!?」
ザハルはエイトの裏切りと考えたが、レイスはそうは思わなかった。
「いや、これはきっとエイト君も想定外の事態だろう…… きっとオレたちがここへ来るのを待っていたのさ」
すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「ご名答…… それにしても、我々スケルトン斥候小隊の気配を感じ取るとは、なかなか良い仲間を手に入れたようだな、レイス・グランシアよ」
ガサッ… ガサ……
その声をきっかけに、魔神殿の入口付近を囲む茂みから、ぞろぞろとスケルトン兵士が姿を現し、レイスたちはあっという間に取り囲まれてしまった。
その数、ざっと50名ほど……どの兵士も相当な手練れだ。まともにやり合えば、レイスたちが不利なことは明らか……
しかし、これはレイスにとってまたとない機会でもあった。
先ほどの声の主と思われる男……それは、この斥候小隊の中でも、最も邪悪なオーラを纏う細身のスケルトン剣士。
ヤツこそが、父アルバートの仇、ダン・スカルニルだ。
見間違うはずもない。そこらのスケルトン兵士とは比べ物にならない程の禍々しい魔力と、あの右手に握られたレイピア……
あの日、父の胸を貫かれた映像は、何度も夢に出てうなされた……
怒りと憎しみが入り交じり、レイスの身体が小刻みに震えだした。
それを見たグリモアが、レイスにそっと近づき肩に手を当て、こう言った。
「落ち着け、レイス君。 何か策を考えるんだ」
それを聞いてレイスは、ゆっくりと深呼吸し、頭の中で現状を整理し、どうすべきかを考える。
背後にある魔神殿に逃げ込んだところで、中も魔物だらけだ。そのうえ斥候小隊が突撃して来れば逃げ場を失うだけ……
かと言って、周りを囲むこの荒れ狂うアビスリア海に飛び込んで生還できる確率など相当に低い……
レイスは、再びダンを見つめた。
そして何を思ったか、単身でダンへと歩み寄るレイス。
「レ、レイス君、何を…?!」
慌ててレイスに声をかけるグリモアだったが、レイスはダンだけをまっすぐ見つめて歩き続ける。
ダンの周りにいた兵士たちが、一斉にレイスへ武器を向けて威嚇するが、レイスは怯むことなくダンへと近づく。
そして、ダンのすぐ手前で足を止め、レイスはダンに話しかけた。
「お前が、ダン・スカルニルで間違いないか?」
それを受けてダンも名乗りを上げる。
「如何にも。我が名はダン・スカルニル。 ……なるほど、確かにあの雑魚アルバートの面影があるな」
亡き父への侮辱を受け、レイスの怒りは頂点に達した。
しかし、冷静を欠いてはいけない。
レイスは爆発しそうな感情をぐっと堪えて、ダンに提案を持ちかけた。
「オレと、一騎討ちをしろ。 もしオレが勝ったら、この場から退け」
少しの間を置いて、ダンが答える。
「ふむ…… ならば、我が勝った場合、あの娘を頂くとするか」
そう言ってダンが指差した先には、セラの姿があった。
レイスは「承知した」と即答した。
「はあッ!? ちょッ、なに勝手に承知してんの?!」
そして、ダンとレイスは向かい合い、剣を抜く。
互いに、右手には剣を持ち、左手には盾を握る、剣士のスタイルだ。
「皆の者、決して手出しは無用だぞ」
ダンは仲間たちにそう言って、この一騎討ちに水を差すことを禁じた。
固唾を飲んで見守るスケルトン兵士たちと、勇者一行。
緊迫した時が流れる……
ジリ… と一歩、互いの足元が近付く。
次の瞬間、ザッ!と勢いよく飛び出したのはレイスだった。
一気に間合いを詰め、ダンの懐に入り込んで一撃を与える作戦だ。
しかしダンは、つま先をバネにして華麗に後方へと下がり、レイスの間合いから距離を取る。
そして、ダンは着地と同時にレイピアを前へと突き出した。
——ピュンッ!!
その突きは、目にも止まらぬ疾風のごとし速さ。
とっさにレイスは顔を左に反らし、ダンの攻撃を避けることができた。
しかし、レイスにはそのレイピアの切っ先が見えておらず、ほぼ勘で避けたようなものだった……
シュパッ!
即座にダンの突き攻撃は袈裟斬りに転じ、レイスの右頬にレイピアの刃が触れた。
「……うッ!」
レイスは慌てて後ろへ下がり、体勢を立て直す。
右頬から血が流れ、たった一撃で明らかな戦闘能力の差を見せつけられてしまった……
「くくく…… 親父より弱いんじゃないか? 次の一刀で確実に仕留めてやる」
レイスはそれでも冷静に、相手の動きに目を凝らし、ゆっくりと左足を引いて、体勢を低く構える。
一呼吸の間を置いて、ダンが仕掛けてきた。
——ピシュンッ!
またしても視認することすら叶わないダンの突き攻撃。
だがレイスは、避けるという選択肢は選ばなかった。
ビュオオンッ!!
得意の“ハイ・スラッシュ”を豪快に放ち、辺りに砂煙を上げてダンの攻撃を迎え撃つ。
ガギィィッ!!
ダンのレイピアは、偶然にもレイスのルミナスソードと噛み合い、互いの刃が交差した。
ギギンッ…! ギギ……ッ!
細身のレイピアに比べ、鍔迫り合いならルミナスソードに軍配が上がる。
このまま押して、ダンのレイピアを弾き飛ばせば、勝負は一瞬で決まるだろう。
すると、レイスは左手に持っていた盾を手放し、地面に落とした。
ゴワァァン
その音にダンが気を取られた、次の瞬間……
——ザガッ……!!
ダンの右脇腹には、レイスの左手に握られた短剣が、深く突き刺さっていた。
「なッ…!? ゴハッ……!!」
それは、あの“王家の短剣”だ。
レイスは鍔迫り合いを制すのではなく、鍔迫り合いの途中に隙をつき、腰に装着していた短剣を抜いて、見事ダンに一撃を与えたのだ。
その刃は、ダンの胸に灯る“真っ赤なソウル”にまで届いていた。
——ズサァァ……
ダンは、そのまま地面にうつ伏せで倒れた。
レイスはすぐに剣を天高く掲げ、勝ち名乗りを上げる。
「オレの勝ちだーッ! 約束通り、この場から退けーッ!!」
彼らにとって予想外だったのか、スケルトン兵士たちは一様に呆気に取られて動けずにいた。
少しして一人のスケルトン兵士が前へ出て、レイスに向かってこう言った。
「わ、わかった…… 今回は退くとしよう」
すると、そのスケルトン兵士はダンの元へと歩み寄り、ダンの身体を抱き上げ、仲間たちの元へ戻った。
そして、ダンは骨の馬に乗せられ、斥候小隊と共にこの場から去って行った……
ドドドド……
50体ほどの斥候小隊が響かせる骨の馬の足音は、徐々に小さく遠くへと去って行き、ようやくレイスたちに安堵の表情が戻る。
ザハルは早速、レイスの頬に付いた傷を治療する。
「レイスさん、あんまり無茶しないでくださいよ」
苦笑いを浮かべて治療を受けるレイスだったが、その背後から途轍もない覇気を感じた。
「ちょっとレイスーーッ! 勝手にウチを取引に使ってんじゃないわよーッ!!」
ガゴォォオオンッ!!
巨大ハンマーが未だかつてないほどの勢いでレイスの頭上に振り下ろされ、間一髪のところで横に逸れて地面に深くめり込んだ。
いやいやいや、もし当たっていたら確実に、冒険終了だったぞこれ……
その後、レイスは何とかセラの機嫌を取り戻し、断崖の魔神殿を攻略した。
魔神の封印とやらを解かないよう、慎重にダンジョンを踏破し、七聖宝“封魔の匣”も手に入れ、ついに残すところ後2つに迫った。
——グランシア王国にて
俺は、兵舎の食堂でネルトと一緒に昼食を食べていた。
ドラガリアの兵士たちは、基本的に昼食は採らず、夕飯の時間まで鍛練に励むため、今この食堂には俺とネルトの2人だけだ。
「エイトくん、昨日はなんであんなに帰りが遅かったの?」
「ああ~、ちょっとね…… モルゴスの群れに襲われてさ」
昨日はあの後、俺とコパンは門限を破ったことをドラガにこっぴどく怒られ、一週間の外出禁止令を食らってしまった……
これでは、レイスさんに協力するのが難しくなってしまうので、何か方法を探らないといけない。
すると突然、食堂のドアを勢いよく開けて、コパンが飛び込んできた。
「大変だァ~! ゆ、勇者だちがッ、次は黒脈洞に、向がってるっでよォ!」
それを聞いた俺とネルトは、コパンに出鱈目じゃないだろな?と問い質した。
コパンが言うには、ついさっき “断崖の魔神殿”から戻ってきたダン率いる斥候小隊の一員から聞いた確かな情報だと言う。
すると、ネルトはそそくさと昼食を平らげ、俺とコパンにこう言った。
「勇者たちは近いうち、このグランシアの城下町にも攻めて来るかもしれない。 僕たちも、戦闘に参加できるように、自主トレに励んでおこう!」
そして弓矢を握りしめ、一人で食堂から出て行った。
俺とコパンはその様子を見送った後、顔を見合わせて軽く頷き、ネルトの後を追った。
ネルトは足早に城下町の中を通る。俺とコパンも背後から付かず離れずの距離を保ち、ネルトを尾行する。
すると、ネルトはまたしてもエクレア司祭のいる司祭室に入って行った……
俺とコパンは、司祭室の窓に近づき、そ~っと顔を近付けて中を覗く。
すると、少しして中からエクレア司祭の声が聞こえてきた。
「そうか、次は黒脈洞か…… ネルトや、でかしたぞ」
やはり……ネルトのやつ、まんまと俺がでっち上げたガセネタを、エクレア司祭に報告したようだ。
そう、これは全て俺が書いたシナリオ。
コパンにも協力してもらい、わざと俺とネルトしかいない食堂に、まことしやかな情報を持って駆けつけさせたのだ。
この事は、クレースを通じて事前にレイスさんにも伝えてあるので、当然、“黒脈洞”にレイスさんたちは向かってない。
これでネルトがエクレア司祭と繋がっていることは明らかになったが、一体なぜそれを俺に隠していたのだろう?
それだけが未だに気がかりではあるが……
「今回は、わしとドラガの二人で討伐に向かうとしよう…… 手柄を上げて魔王様にわしの実力を示す良い機会じゃ」
どうやら今回、ドラガリア部隊は待機、ドラガとエクレア司祭だけで行動するらしい。
エクレア司祭は、壁に立て掛けてあった魔法の杖を手に取り、部屋を出る間際にネルトへこう言った。
「ネルトは引き続き、あの青いソウルを持つ男…… エイトの監視を続けておくれ」
……なッ!?
エイトって、俺のことだよな……青いソウルって言ったし……
えっ、ネルトは、今までずっと俺のことを、監視していたのか……?
思えば、初めてネルトが声をかけてくれたのは、あの新人歓迎会の夜だ……
右も左も分からない俺に、この世界のこと、スケルトンのこと、手取り足取り教えてくれた。
そして……何度も共に死線を乗り越え……友情のような……俺が現世で手にすることのなかった感覚を……俺はネルトに感じていたのに……
絶望する俺の横で、コパンが心配そうに顔をカタカタ揺らしている。
「おいコパン…… お前、まさか最初から知ってたのか?」
コパンは俺の目をじっと見つめ、小さく頷いた。
さらには、あの詰所にいたスケルトン兵士たちも、全員がネルトをエクレア司祭の右腕だと知っていたそうだ。
最初からずっと、何も知らなかったのは俺だけ……
そして、コパンは俺に更なる事実を暴露した。
「ネルトはよォ…… ミミックっちゅう魔物なんだァ」
……えッ?! ミミック!?
そう…… レイスさんがルミナス王国に続く山道で、エクレア司祭と対峙したあの日……王妃エリシアの姿に化けて、レイスさんに騙し討ちを掛けたのは、紛れもない、あのネルトだったのだ——
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