23話 怪しい動き
——暗黒の図書館
ダンジョンの入口には、気絶してロープで縛られているガーゴイルの姿があった。
内部へと続く道にも、至る所に魔物が倒れており、どの魔物もなるべく命は奪わないよう峰打ちで気絶させた後、ロープで縛られている。
そして、通路の各所に仕掛けられた罠には一切引っかかることなく、すいすいと内部へ進んで行っている。
「レイス君、次の角を右だ。 どうやら毒矢の罠があったようだが、装置をOFFにしてあるらしい。 だが念のため用心するようにな」
魔法使いのグリモアが例の地図を片手に、パーティーの進む道を指示している。
「おっ……本当だ。 この壁、矢が飛び出しそうな小さな穴がある。 これは気付かず食らうところだったな……」
レイスは慎重に通路へと足を踏み入れ、矢が飛んでこないことを確認してから先へと進んだ。
「よし、この先はコボルトが出るらしい。 セラが先頭になったほうが良さそうだな」
地図にはダンジョン内の出没する魔物も明確に記されているため、都度、敵との相性のいいメンバーが戦いやすいよう隊列に組み直しながら進んでいく。
「は~い 任せといて。 でも殺さない程度に力を抑えるの難しそうね…… あ、コボルト発見♪」
ガゴォォンッ!!
意表を突かれたコボルトたちが、次々とセラの巨大ハンマーの餌食となる。
残念ながら、セラのハンマーを食らったコボルトは、ほとんどが一撃で絶命してしまった……
グリモアも攻撃魔法を繰り出し、弱ったところをレイスがルミナスソードの柄頭で峰打ちするが、そのまま絶命してしまう場合もある。
だが、なるべくはこの峰打ちで気絶させ、そのあとザハルが気絶した魔物をロープで縛る、という手順だ。
「やれやれ…毎回ロープで縛るの面倒だから、もう全部ヤッちゃえばいいじゃないですか~」
愚痴を溢しながらコボルトを縛り上げるザハルだったが、レイスはすぐにザハルを咎めるようにこう言った。
「いや、これはエイト君との約束だからな。 ここまで完璧な地図の作成と、罠の解除までしてくれたんだ。 しっかりお返ししなくては」
そしてレイスたちは、ついに最深部の図書室へとつながる扉の前までやってきた。
「左から順に、氷・炎・雷・闇・光 だそうだ。 意味は分からんが、その順にそろえると鍵が開くらしい」
レイスは、グリモアに言われた通りの順に、扉に仕掛けられた模様を並べた。
すると、ガシャンッという鍵が開く音が聞こえ、ゴゴゴォォン……と自動的に扉が開いた。
そこには、広い図書館のような場所が広がっており、部屋の奥には祭壇と、あの2冊の本のボス“アルマとリブラ”がいる。
レイスたちに気付いて、左側の本が話しかけてきた。
「おや、勇者かい? 昨日ちょうど警備体制の点検とやらでスケルトンの兵士がここへ来ていたけど、なるほど、そういうことか」
続いて右側の本も話しかけてきた。
「この七聖宝を奪いに来たのね? 命が惜しいなら今すぐ帰りなさい。 断言してもいいわ、アタシたちには勝てないわよ」
するとレイスは、グリモアに目線を送ってから猛スピードで2冊の魔物に向かって突っ走る。
そして左側の本に目掛けてルミナスソードを振るった。
ビュオンッ!!
本はひらりと空中で身を翻し、レイスが振り抜いた剣は宙を切る。
そこへ、グリモアが放った火炎系の魔法が命中し、本は空中で炎に包まれた。
ゴォオオオッ……
しかし、本は バサッ!と空中で一回転し、纏っていた炎が一瞬で消えてしまった。
「なるほど…… エイト君のメモに書いてあったように、こいつら紙だけど炎は効かないらしい。 闇の属性でもなさそうだ…」
レイスがそう言った次の瞬間、真横から何かが風を切る速さで飛んできた。
シュッ! ドゴッ!
その何かは、レイスの顔面に直撃し、床にバサッと落ちた。
それはこの部屋を取り囲む本棚に並んでいる分厚い魔導書の一冊だった。
気が付くと勇者一行の周りには無数の魔導書が宙を舞っており、全方位から攻撃可能な状態に取り囲まれてしまっていた。
「まずい…ッ シールド張りますッ!! ハァァァッ!!」
ザハルが一瞬のうちに物理攻撃を弾くシールドを、パーティー全員に付与する。
そこへ間髪をいれず一斉に飛び掛かってくる魔導書。
ドババババッ!!
バサバサバサーーッ!!
魔導書による攻撃は全て魔法のシールドによって弾いているが、次から次に飛んでくるのでこのままでは埒が明かない。
そこでレイスは一つのひとつの賭けにでた。
「グリモアさん! 闇属性の攻撃魔法は使えますか?!」
それを聞いたグリモアは困惑しながらも“使える”と答え、早速、魔法の詠唱を始めた。
すると、闇の本の1冊が驚いた表情を浮かべてグリモアに一斉攻撃を仕掛ける。
シュババババーーッ!!
グリモアの魔法が発動するまで、少しでも気を散らすため、セラが2冊に戦いを挑む。
「ウチのハンマーで叩き潰してやる! おりァーーッ!」
セラの大振りな巨大ハンマーが当たるはずもないが、休む間もなくハンマーを振り回し続け、2冊の本を翻弄し続ける。
レイスは、グリモアに襲い来る魔導書をルミナスソードで次々に斬り捨て、グリモアの魔法シールドの耐久力低下を防ぐ。
そしてついにグリモアの攻撃魔法の詠唱が完了した。
「今だッ!食らえッ! ハアァーーーッ!!!」
アマラとリブラの2冊が、ちょうど対角線上に重なったところを狙い、グリモアの漆黒の波動が一直線に放たれた。
ボアォオアアアアアアッ!!
「「ギャアアアッ!!」」
どす黒いオーラを纏って“闇の本”という異名を持つが、実は光属性。それがこの魔物の強みだったらしい。
2冊は黒煙を上げながら飛び回り、祭壇の近くの床へ落下して燃え続けていた。
レイスは、アルマとリブラが息絶える様を見下ろしながら呟いた。
「ふぅ~…… エイト君が書いてくれたメモに助けられたな」
こうして2冊を同時にやっつけ、勇者たちは祭壇へと向かう。
祭壇には特に罠も仕掛けられておらず、難なく七聖宝“白聖の古代書”を手に入れた。
——それから数時間後
カローネス4体が暗黒の図書館へ向かっているという情報が入り、エクレア司祭はドラガリアに出撃を命ずる。
部隊長のドラガを先頭に、ドラガリアの面々が大急ぎで暗黒の図書館へと骨の馬を走らせる。
俺とネルトとコパンは最後尾を走り、置いて行かれないよう必死に付いて行く。
そして、現場に到着。
入口には激しい戦闘の痕跡と、深手を負って気絶しているガーゴイルの姿があった。もし意識を取り戻しても勇者たちに反撃できないよう、丁寧にロープで縛られている。
中に入ると通路にも気絶した魔物たちがロープで縛られ、そこらじゅうに転がっていた。
絶命してしまった魔物もいるが、レイスさんたちが犠牲を最小限に抑えてくれたことが分かった。
ドラガは急いで内部へと侵入し、勇者のあとを追ったが、最深部の図書室に入って愕然とした。
「くッ……遅かったか」
そこにあったはずの七聖宝はすでになくなっており、祭壇のすぐ横には丸焦げになった2冊の本が落ちているだけだった……
俺も後から駆け付けそれを確認し、心の中で「上手くいった!」と思いつつも、なんだか悪い気もして複雑な心境に陥った。
ドラガは「帰るぞ…」と小さな声で呟き、皆でダンジョンの出口へと向かう。
すると、ドラガリアのラッセルさんが、俺たちに指示を出す。
「あ、君たち。 彼らのロープをほどいておいてくれ。 私たちに怪我の手当てはできないが、後ほど施療院の者を向かわせる」
最後尾を歩いていた俺とネルトとコパンは、新人ということもあってか、ロープをほどく役割を与えられた。
しかし、この魔物たちは俺のことを認知している……
もし俺が昨日ここに居たことがバレたら、何て説明すればいいんだ……
あまり長居はしたくないので、俺は大急ぎで、尚且つ起こさないよう慎重に、彼らのロープをほどいていく。
「どりゃぁ~~ それぇぇ~い!」
謎の掛け声が聞こえて振り返ると、コパンがめちゃくちゃ乱暴にロープをほどいており、1体のゴブリンが目を覚ましてしまった。
そして、そのゴブリンは俺と目が合い「あ、あんたは、昨日の…」と掠れた声で話してきたが、「いいえ、人違いです!」と言って乗り切った。
「おいコパン! もっと優しくロープをほどけよっ」
俺はコパンを怒鳴りつけ、それを見たネルトも「そうだよー」と同調した。
こうして何とか出口までたどり着き、ガーゴイルのロープもほどいて、骨の馬を停めていた場所まで行くと、もう部隊はみんなグランシア王国へ向けて出発した後だったが、ラッセルさんだけ俺たちが出て来るのを待っていてくれた。
「おお、意外と早かったな。 皆はもう先に帰還している。俺たちも後を追おう」
そして俺たちは4人で骨の馬を走らせ、グランシア王国へと帰還した。
——グランシア王国にて
先に帰還していたドラガリアの皆さんが迎える中、ラッセルさんと俺たち3人も遅れて兵舎に帰還した。
俺たちは厩舎に骨の馬を停めて兵舎の前に戻ると、ドラガが兵舎の前の広場で隊員の収集をかけていた。
「え~、お前たちも分かってると思うが、今回現れた勇者はレイス・グランシアとういう男だ! やつは今までの勇者たちのように一筋縄ではいかぬらしい。 では、俺たちに何が足りないか分かるか? まずは気合と根性、それから~…」
何やら反省会のようなものが始まった。
迷いの森ではあと一歩のところで取り逃し、今回はあっという間にダンジョンを攻略されて七聖宝だけ奪われたのだから、ドラガとしても口惜しい限りなのだろう……
しかし、あれだけの罠と謎解き要素のあるダンジョンだ。
本来なら、レイスさんたちはもっと攻略に時間がかかり、きっと今頃ドラガリアたちと遭遇してバトルになっていただろう。
ここまで早く攻略できたのは、レイスさんがダンジョン内の地図を持っていたことと、すべての罠を俺が解除しておいたから……
こんなこと、もしバレたら俺は即骨粉にされることだろう……
「…というわけで、次に出動するまで各々よく鍛錬しておくように! 解散ッ!」
ドラガの説教は約30分ほど続き、ようやく解放された。
兵舎へと入っていく者、厩舎のほうへ骨の馬を取りに行く者、城下町のほうへ繰り出す者、ドラガリアの皆はそれぞれに散らばって行く。
俺はネルトとコパンにこの後どうするか聞いてみた。
「オデ、もっど強ぐなりてェから、これの練習しに行ぐわァ」
コパンは長槍を見せてそう言い、厩舎のほうへと走って行った。
「あっ、僕もちょっと一人で自主トレするよ。 またねっ、エイトくん」
ネルトもそう言って城下町のほうへと走って行った。
なんだか最近、3人で行動する機会が減ってきた気がする。
まぁ、ドラガリアになったんだし、これが当然なのか……
ん?
ネルトは“自主トレ”と言いながら城下町のほうへ走って行ったのはなぜだ?
弓矢の特訓なら、川辺の訓練場に的が置いてあったはずだが……
あっ!あいつまさか……エリンちゃんと逢引きでもしてるのか?!
そんな下世話な興味をそそられて、俺はついネルトの後を尾行することにした。
ネルトは一目散に城下町の中を走り抜け、俺たちが前に寝泊まりしていた詰所のほうへと向かって行く。
ふふふっ やはり、お目当てはエリンちゃんか?
しかし、方向が逸れた。
ネルトが向かった先は……
エクレア司祭のいる司祭室だった。
司祭室のドアの前、周りをキョロキョロと伺いながらドアを開けるネルト。
俺は、サッと身を隠す。
どういうことだ?
ネルトはエクレア司祭に用事でもあるのか?
しかも、あんな挙動不審に……
俺は、ゆっくりと司祭室へ近づき、腰を落として窓の近くへと忍び寄る。
そして少しだけ腰を上げ、窓から中を覗き見る。
「ええいッ!何たる失態じゃッ! これではカッツォと同じではないかッ!」
エクレア司祭はそう言ってバンッ!と机を叩き、それをなだめるネルトの姿があった……
俺はすぐに腰を落とし、司祭室の外壁に背中をつけて座る。
何か見てはいけない物を見てしまったような気がして、ないはずの心臓がドキドキと脈を打っていた。
すると、目の前の空からキラキラと光る物体が舞い降りてきた。
「あ~、いたいた! こんなとこで何してんのよ~」
それはクレースだった。どうやら俺のことを探し回っていたらしい。
そして、いつものように俺の肩にちょこんと座ってこう言った。
「次は、断崖の魔神殿を攻めるそうよ」
なんと、もうレイスさんから次の依頼が来た。
きっと休む間もなく一気に攻めて、魔物たちの意表を突くつもりなのだろう。
ネルトとエクレア司祭のことも気がかりではあるが、今はとにかくレイスさんが攻略しやすいよう、事前にダンジョンの地図作成と罠の解除に専念しよう。
俺は、そう自らに言い聞かせた……
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