22話 隠密行動
——翌日の早朝
俺は、以前まで寝泊まりしていた詰所ではなく、魔物の兵舎へ拠点を移すことになった。
もちろんネルトとコパンも一緒だ。
「大出世じゃないか!おめでとう~」
「魔物の兵舎は、飯も美味いらしいぞ」
「羨ましいな~!俺も早く出世したいぜ~」
同僚のスケルトン兵士たちに見送られながら、詰所を後にする俺たち。
荷物など大した物を持っていないので、ここへ来た時とほぼ変わらない格好だが、装備はすでにドラガリア部隊から支給されたワンランク上の武器と防具だ。
そして俺たちは、詰所の外に待機させていた骨の馬に跨り、魔物の兵舎へ向けて出発した。
俺たち3人は横一列に並んで城下町の中、グランシア部隊の文様が施された装備を見せつけるように、悠然と馬を歩かせる。
すると、武器屋のオークが俺たちに気づいて一礼し、鍛冶屋のゴブリンも深々とお辞儀をする。
それもそのはず、俺たちが所属するドラガリアは、このグランシア王国を管理するスケルトン部隊の中でも、過去に何度も勇者を撃退して武功をあげている部隊だ。
こうして優越感に浸りながら、魔物の兵舎に到着した。
俺は「もう一周する?」と言ってみたが、真面目なネルトに咎められ、仕方なく馬を降りた。
兵舎の中はとてもきれいに掃除され、通路には観葉植物まで置かれて非常に快適だ。
俺たちは、カッツォからもらった鍵に書かれた部屋番号をそれぞれに確認する。
俺の鍵には1号室、ネルトは3号室、そしてコパンは5号室と書かれている。
それは、先日の“迷いの森”で散って逝ったドラガリアの兵士たちが使っていた部屋だ。
俺たちは「また後で」と言い合い、それぞれの部屋の鍵を開けて入室した。
部屋の中もきれいに整っており、ふかふかのベッドまで用意されている。
本棚には前のスケルトン兵士が愛読していた物か、剣術の指南書や、森での生存方法など、戦うために必要な知識を記した書物がぎっしりと並んでいる。
立派な机と椅子も完備されており、これならレイスさんにいつでも伝言を記したメモを書いて、クレースに渡すことができそうだ。
すると、部屋に1つだけある小窓から、コンコンと窓ガラスを叩く音が聞こえた。
そこにはクレースの姿があった。
俺はすぐに窓を開け、クレースを中に入れてあげる。
クレースは勢いよく部屋の中へ入ってきて、部屋中をぐるぐる飛び回りながらこう言った。
「へぇ~、いい部屋をもらったのね~。 これで隠密行動もしやすくなったじゃない」
なんだかそう言われると、悪いことをしてるような気分になるが、全ては魔王討伐のため、レイスさんへの恩返しのためだ。
ひとまず、クレースには本棚の本を自由に読んでいいよと伝え、部屋で待機してもらい、俺は朝食を食べに食堂へと向かう。
ドラガリアは基本的に、今までのような雑務は一切なく、朝食を摂ったあとは夕方まで自由だ。
昼食を食べたい者だけ食堂に行けば好きに食べられるが、多くの兵士は昼食を抜いて自己鍛錬の時間に費やし、夕方まで兵舎には戻らない。
そんなわけで、俺としても好都合。
自己鍛錬をすると偽って“暗黒の図書館”へ行き、レイスさんのために罠を解除しておくことができる。
しかし問題は、ネルトとコパンの存在だ。
彼らがもし「一緒に訓練しよう!」などと言い出したら、どうやって断ればいいのか……
——魔物の兵舎の食堂
美味い…ッ 美味すぎるぞコレは……
兵舎の食堂で出される食事は、どれも詰所で食べていた物と比べ物にならないほど絶品だった。
信じられない……ドラガリアの皆さんは、これを昼食でも食べられるというのに、わざわざ抜いて自己鍛錬の時間に当てているだと?!
しかし、俺もそうしなければ……いや、俺の場合、自己鍛錬のためではなく、ダンジョンへ行って罠を解除したりするために。
「うおおおんっ!」
ガツガツガツ グビッグビッ ゴクンッ
本当はもっと味わって食べたかったが、俺は涙をこらえて飯を掻き込み、水とともに喉の奥へと流し込んだ。
そして誰より先に食器を下げようと思っていたところ、なんと俺より先にネルトが食べ終え、食器を乗せているお盆を持って立ち上がった。
さらにネルトは、俺の方をキッと力強く見つめ、こう言った。
「エイトくん!もう僕らはドラガリアなんだ。 今日から指示はしないから、各々で鍛練に励もう!」
ネルトはそう言って、そそくさと食器を下げ、弓矢を握り締めて外へ出て行ってしまった……
呆気に取られている俺の横で、コパンはのんびり美味しそうに朝食を頬張っていた。
「……コパンは呑気なもんだな。 俺、先に出てもいいか?」
「ああ~。オデはまだ食うわァ これ、うんめェからよ。 おめぇ、鍛練してェなら一人ですれ~」
よし……これは都合のいい状況になった。
誰にも怪しまれず“暗黒の図書館”へ行って、レイスさんのために作業ができる。
俺はいったん部屋に戻り、クレースに声をかけてから、外の厩舎にいる骨の馬を一体拝借し、一路“暗黒の図書館”へと向かう。
道中、また6本脚の獣や、見たこともない野生の魔物が、こちらに牙を向いて襲ってきたが、何とか振り切って走り続けた。
しばらく馬を走らせていると、後ろからクレースが飛んで追いかけて来た。
「はい、これ渡しておくね。 私が昨日のうちに書いておいた地図よ」
俺は馬を走らせながら地図を受け取り、そのまま開いて内容を確認する。
その地図は非常によく書けており、どんな魔物が何処に潜んでいて、どこに何の罠があるかも丁寧に記されていた。
「クレース…お前、才能あるじゃん」
俺は率直な感想を伝えたところ、クレースはまた照れ臭そうに少し頬を染め「じゃ、あとはよろしくね!」と言って、どこかへ飛び去って行ってしまった。
そして、馬を走らせること約1時間……
俺の目の前に“暗黒の図書館”が現れた。
外から見た感じは、まさにグレイト・ソウルズに出てくる“暗黒の図書館”そのものだ。
だが、レイスさんはこのダンジョンに入ったことがないので、中の様子はゲームとは違うのだろう。
実際、先ほど見たダンジョン内部の地図は、俺の知る“暗黒の図書館”とは全く異なるマップだった。
「よし…… 取り掛かるとするか」
俺は、近くに馬を停め、気合いを入れて暗黒の図書館に近付いて行く。
まず、入口には門番のようにガーゴイルが1体いた。
……うっ、こちらに気付いたようだ。
「おや、ドラガリアの兵士さんかい? こんな山奥に来るなんて珍しいねぇ」
おおっ、やはり同じ知性のある魔物同士なら、仲間として認識し合えるようだ。
とりあえず俺は、昨晩考えておいた台詞を言う。
「や、やあ、今日はちょっと、ここの警備体制に問題がないか視察に来たんだ。 通してもらえるか?」
するとガーゴイルは「ご苦労なこったねぇ」と一言つぶやいて、何も疑う様子もなく、すんなり通してくれた。
俺は、クレースが書いた地図を見ながら慎重に歩を進める。
入口の通路を抜けた先、左右に道が分岐する。うん…地図に書かれている通りだ。
左の道へ行くと通路に“落とし穴”がある、と地図に注釈が書かれている。
俺は、念のためその付近まで行き、近くにいたデーモンに罠について聞いてみた。
「ああ、深さ10メートルの落とし穴で、底には棘がいっぱいだから、まぁ落ちたらどんな勇者でも即死だろうね」
そう言うとデーモンは、落とし穴の手前の辺りで大股を開き、何かを跨ぐようにして、そのまま歩いて行った。
よく見ると、穴の手前に細い糸が張られており、これに足を引っかけると床が抜ける仕組みにになっているようだ。
俺は、その糸をこっそり剣で切っておいた。
この通路をそのまま進むと、先ほどの分岐路とつながっていて、どちらから行っても同じ場所に出るようだ。
というわけで、先ほどの分岐路に戻り、今度は右に行ってみることにする。
ここは右側の壁から、毒矢が飛んでくる罠が仕掛けられているらしい。
確かに壁をよく見ると小さな穴がいくつかあり、通路の先には動力となる装置が置いてある。
どうやら魔物が通っても矢が飛ばないよう、魔力を込められているらしい。
俺は、周りに誰もいないことを確認し、装置のスイッチをOFFにした。
他にも、吊り天井、転がる岩、毒ガス噴射、などの罠を一つずつ解除して回った。
そして、ダンジョンの最深部に続く扉には、5つの模様を並べて揃える“謎解き”の要素を含んだ仕掛けが施されていた。
すると、扉の近くにコボルトがいたので、答えを聞いてみた。
「えっ、謎解きの答えですか? 左から順に、氷・炎・雷・闇・光ですが…… 一応ですね、この図書館には5つの部屋がありまして、勇者たちがここへ来た場合、まずは各部屋でその模様のヒントとなる本を……」
コボルトはその理由についても詳しく説明しようとしてきたが、理由は別にどうでもいいので答えだけメモし、さっさと扉の謎解きを解除した。
そして扉を開けると、そこには大きな図書室が広がっていた。
ここが“暗黒の図書館”と呼ばれる所以か、その室内は壁一面が本棚になっており、並べられている本はどれも黒魔術や魔界に関する書物ばかりだ。
部屋の奥、どす黒いオーラが漂う一角に、このダンジョンのボス“闇の書・アルマとリブラ”がいた。
そこには祭壇があり、“白聖の古代書”が置かれているのが見える。
どうやら、ここの七聖宝には罠が仕掛けられていないようだ。
アルマとリブラは、それぞれ分厚い魔導書のような見た目をした魔物で、常にページを羽のように開いて空中にふよふよと漂っている。
だがその見た目とは裏腹に、破壊的な魔力とオーラを感じさせる。
俺は、恐る恐る近づいて話しかけてみた。
「ど、どうも~、こんにちは~。 えっと、今日はこの図書館の警備体制のチェックで……」
すると、どっちかアルマで、どっちがリブラか分からないが、何やら2冊が話し合いを始めた。
「おいアルマ、警備体制のチェックなんて、今日来るって聞いてたか?」
「いいえ、知らないわ。 そういうのアンタが担当でしょ、リブラ」
すると、2冊のうち1冊がこちらへ飛んできてこう言った。
「ああ~、点検か何かに来たのか? 悪いけどね、ここは俺たちがいるから万全なのね。 ほかのダンジョンはどうか知らんけどさ。 ま、そういうことだから、お前の上司によろしく言っといてくれや」
そしてクルッと進路を変えて、また元の位置へと戻って行く。
何か一つでもこのボスの弱点を知りたいところだが、もし少しでも癇に障るようなことがあったら、俺なんて抹殺されてもおかしくない……
だが、レイスのためにも何か、何か一つ……
「あ、あの! 祭壇にあるのは七聖宝のひとつ“白聖の古代書”ですよね? 罠も仕掛けないで本当に大丈夫でしょうか?」
すると、もう1冊のほうが俺にこう言った。
「え、何?アタシたちが守ってるから平気って言ってんでしょ。 アタシらの属性を見破れるわけないんだから。 ここの警備は満点って評価付けといてね~」
もうこれ以上はしつこく質問もできそうにない……
俺は、足早にダンジョンを出て、骨の馬を停めていた場所まで移動した。
すると、どこからともなくクレースが飛んできて、俺の肩に乗る。
「お疲れ様♪ ちゃんと罠は解除できた?」
俺はクレースに地図を返却しようと思った時、ふとあることが頭をよぎった。
それは、あのもう1冊のボスが言っていた『属性を見破れるわけない』という言葉だ。
もしや、紙だから火属性に弱いわけでもなく、闇の本だけど闇属性でもない…ということか?
まぁ、どちらの意味でもないかもしれないが、可能性の一つとして一応メモに書いておこう。
俺はメモ書きを添えてクレースに地図を返却した。
「じゃ、レイスさんに届けておくね~! エイトさんは早く兵舎に戻って怪しまれないように過ごすのよ~」
そう言ってクレースはまた大空へと飛んで行った。
これで、きっと翌朝にはレイスたちがこの“暗黒の図書館”を攻略しに来ることだろう。
本当にこれで良かったのか……
今更、葛藤の念が押し寄せてきたが、もう後には引き返せない。
俺は複雑な気持ちを押し込めて、グランシア王国に向けて馬を走らせた——
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