21話 答え合わせ
——とある遺跡にて
そこは、グランシア王国からも程近い、見通しの良い草原にある古びた遺跡。
この辺りには狂暴な獣も出現せず、ほかの魔物に二人でいるところを見られる心配もない。
昼下がり、俺はレイスさんとここで落ち合い、そこらに転がっている手ごろな瓦礫に腰かけて談話をしていた。
この密会の日取りについては、俺の肩に座っているクレースが、何度か伝言を往復して決まった。
「へぇ~、エイト君は本当にグレイト・ソウルズをやり込んでるんだな~! アルテミスの涙は、確かドロップ確率1%ほどに設定したはずだぞ」
「はい! もう何回トライしたか分かりませんよ~! でもドロップした時は本当、脳汁ドバドバでしたっ!」
「はははっ!そりゃあ良かった。製作者冥利に尽きるってもんだ。 でも知ってた?クローネ村の鍛冶屋で100回買い物すると、レアアイテム貰えるんだぞ」
「ええ~~!?マジっすか?! それって発売から数十年経ってから見つかる系のやつですよー! 他には?!もっと知りたいですっ!」
グレイト・ソウルズの話題で盛り上がってきたところ、俺の肩に座っていたクレースが「コホンッ!」と、わざとらしく咳払いをして会話に割り込んできた。
「はいはいっ、雑談はそこまで! エイトさんは夕方までに帰らないといけないんでしょ? レイスさん、早く本題に入ってちょうだい」
それを聞いたレイスは真剣な顔つきになり、先ほどとは打って変わって神妙なトーンで話し始めた。
「じゃあ、約束通り魔王討伐に向けて相談させてもらうよ。 エイト君、“暗黒の図書館”の場所は分かるかい?」
「はい。 グレイト・ソウルズと同じ場所なら、もう何百回と行ったので分かりますよ」
それを聞いてレイスはニコッと笑い、俺のグレイト・ソウルズに関する知識を信頼している様子が見て取れた。
しかし、レイスは少し曇った表情に変わりこう言った。
「……実を言うと、グレイト・ソウルズのフィールドマップは正確なんだが、ダンジョンの内部はオレの想像で作ったものが多いんだ」
つまり、レイスさんが一人で旅をしていたあの頃、世界中を巡ってどこに何があるかは把握していたが、ダンジョンは踏破していないので、ゲームにも同じダンジョンがあるけど内部のマップは当てにならない…ということか。
なるほど…と、頷く俺を見て、レイスさんは話を続けた。
「これはゲームじゃない。敵を倒しても経験値は入らないし、レベリングなんかも出来ない。 当然、死んだらそれで終わりだ。リセットなんて出来ない。 だからこそ、常に万全を期して挑まないといけないんだ」
確かにその通りだ。ここはグレイト・ソウルズにそっくりな世界だが、ゲームではなく現実に存在している世界。
物理法則などは俺がいた現世と同じようだが、違う点があるとすれば魔法が存在したり、魔物がいる点だろう。
当然、攻撃を受ければ“痛み”を感じるし、打撲や出血だって生じる……
回復魔法に関しても、ゲームのように即座に回復するというわけではなく、時間をかけて当て続けることで徐々に傷口が塞がるようなものらしい。
そしてレイスさんは、さらにこう続けた。
「そこでエイト君には、ダンジョン内部の地図を作成してほしい。 それと、もし罠などが仕掛けられていたら、解除できるものは解除しておいてくれ。 ……できそうか?」
確かに今の俺はスケルトンという魔物の一種だ。
グランシア王国の城下町にだってオークやトロールが生活してるが、俺のことを仲間の魔物と判断して接してくれる。
あの北の灯台でも、4階の展望室に上がるまでに2階・3階の魔物たちは俺に敵意はなかったし、3階にいた亡霊系のハロウレイスでさえ俺に「ヒョォオ~」と笑顔で挨拶してくれた。
ただ、いくら俺が魔物だからといって完全に危険がないというわけでもない。この世界には獰猛な獣や、野生の魔物だって出現する……
それでもレイスさんに協力すると約束した以上、俺も出来る限りのことをしてあげたい。
これは魔王討伐のためであり、俺個人の“佐伯さん”への感謝の気持ちでもある。グレイト・ソウルズを生み出してくれた佐伯さんへの……
しかし、なかなか時間がかかりそうな内容だ……もし丸一日の休暇をもらえたとしても、一日で終わらせられるだろうか?
すると、横からクレースが手を上げてまた横から話に割り込んできた。
「はーいっ! 私が先にダンジョンの中をぐるっと偵察して、地図を書いてあげるっ! エイトさんはその地図を見ながら罠の場所へ行って解除すればいいわ」
なんと、クレースが手伝ってくれるらしい。確かにその方法なら罠の解除だけに専念でき、ひょっとしたら朝食後の空き時間だけでも間に合うかもしれない。
「本当かい? ありがとうクレースちゃん、助かるよ。 もし少しでも危険を感じたら無理しないでね」
そう言ってレイスさんは、クレースに優しく微笑んだ。クレースは照れ臭そうに「世界平和のためよ」と返した。
“暗黒の図書館”には、“白聖の古代書”という七聖宝が眠っている。
これをレイスさんが手に入れたら、4つ揃ったことになり、残すところ後3つだ。
“封魔の匣”は、山岳地帯の切り立った崖にある“断崖の魔神殿”に安置されている。
“世界樹の根”は、魔王城からもほど近い闇の森の中にある“黒脈洞”の最深部に隠されている。
どちらもグレイト・ソウルズではゲーム後半に攻略するダンジョンで、中に潜んでいる魔物も上位クラスばかりだ……
そして最後のひとつ“輪廻の輪”だが、ゲームでは魔王の側近である魔将ヴァルク・デュランが持っていたが、どうやらこの本当の世界ではエクレア司祭が持っているらしい。
「オッケー♪ じゃあ私は一足先に行って偵察しておくね。 二人とも、おしゃべりし過ぎて遅くならないようにねー」
クレースはそう言ってさっさとエイトの肩から降り、暗黒の図書館へと向かって飛び去って行ってしまった。
俺はこの世界に来てから疑問に思っていたことを解消しようと、時間の許す限りレイスさんに質問することにした。
「あっ、あの…… グレイト・ソウルズの勇者パーティーと、この世界の実際のパーティーが、何だか別の人物に見えるんですが……」
「あ~、それね。 魔王使いの爺さんは同じだぞ。ちょっと10年経って老けちゃったけどな。 でも、ゲームの僧侶と女戦士は確かに別人だな」
ゲーム内の僧侶はもっと若くて好青年な感じだったが、あれはレイスが一人旅をしていた時に助けてくれた森に住む青年らしい。
だが、ただの青年だったので魔法などは使えないため、この世界ではザハルが正式な僧侶としてパーティーに加わっているとのことだ。
「えっと、じゃあ女戦士は? 確かゲームだと、もっとこう、お淑やかで可愛い印象でしたよね」
それを聞いた途端、レイスの顔が少し赤くなり、何か口ごもったように言葉を詰まらせ始めた。
「いや、そ、それはまぁ、別にいいだろそれは……」
その時、ふっと俺が“星詠みの水鏡”で見たレイスの過去に、グレイト・ソウルズの女戦士と同じ顔をした少女がいたことを思い出した。
その少女は、レイスさんがロックと一緒に狩りをしていた頃、いつもクローネ村で傷の手当をしてくれたマリアという少女だった。
「あ、もしかしてレイスさん…… マリアって女の子のことを……」
俺がそこまで言いかけると、レイスさんは真っ赤になって否定した。
なるほど、そういうことか…と俺は思った。
それにしても、なんだか今まで疑問に思っていたことが、まるで答え合わせのように明かされていく。
しかし、レイスさんに聞いても分からないこともいくつかあった。
例えば、なぜ俺がこの世界に転生してきたのか……
そしてなぜ勇者やその仲間ではなく、ただの下級スケルトン兵士として転生したのか。
レイスさん曰く、父を殺したのはダン・スカルニルで、異世界に飛ばされたのもエクレア司祭のせいだから、どちらもスケルトンなので、スケルトンに対して特別な感情があり、その強い思念のようなものが、知らず知らずのうちにグレイト・ソウルズに込められしまったんじゃないか、とのこと。
さらに、これもレイスさんの推測ではあるが、グレイト・ソウルズをやり込んだ人ほど、自分の想いとリンクして、この世界に“魂”が引き込まれてしまったのではないか、と。
もしそうだとしたら過去にいたという2名の“青いソウル”を持つスケルトン兵士も、グレイト・ソウルズを相当やり込んだやつらだったのだろう。
そこで俺はもう一つの疑問についてレイスさんに聞いてみた。
「ということは、今後も俺のようにスケルトンとして転生してくる人が後を絶たない……ってことでしょうか?」
するとレイスさんは少し間を置いて、こう返してきた。
「いや、オレの予想が正しければだが、おそらく君が最後だと思うよ」
レイスさんが言うには、佐伯たつるとしての最後を迎える時、ゲームのソースに暗号化して打ち込んだ文字が鍵だそうだ。
その入力した文字とは——
『もう一度あの世界に帰りたい』
……という内容だった。
さらに、あの亜空間の中を彷徨っている時、2つの“青い魂”が空間から抜け出し、その後、強く共鳴する3つ目の“青い魂”が現れた時、空間が弾ける感覚があったという……
そして気が付いた時には、レイス・グランシアとして逆転生に成功していたらしい。
おそらく、あの世界に帰りたいという願いが叶ったことと、自分の魂が転生を果たしたことにより、亜空間が消滅したのだろう。
だが、あの空間が弾ける寸前、3つ目の魂も自分のすぐ後に空間からギリギリのところを抜け出すのが見えた、とのこと。
おそらく、その3つ目の魂こそが俺のソウルだったのだろう。
つまり、あの亜空間はもう存在しないので、俺より後に転生してくる者はもういないはず、という理屈だ。
なるほど…と納得した表情の俺を見て、今度はレイスさんが気になっていたことを俺に質問してきた。
「ところで、あの後オレの会社ってどうなったんだ?」
俺は、レイスさんにあの後のことについて、ニュースなどで知った情報をもとに順を追って説明してあげた。
佐伯たつるは、あの後すぐに救急車で運ばれ、数分後に搬送先で死亡が確認された。死因は、過労による急性心不全での突然死として処理された。
その後に発表されたニュースでは、有名ゲーム会社サエキネクトの社長“佐伯たつるの死”と“遺作の完成”を同時に伝えた。
世間では「グレイト・ソウルズは命を燃やした男の遺言」などと言われて話題となり、ゲーム自体の面白さも相まって、瞬く間に世界中で大ヒットを記録した。
日本国内では主に、働き盛りのサラリーマン世代に受け、仕事帰りの疲れた顔で商品を受け取る男の姿も……
その後、会社は副社長が継ぎ、今も世界的なゲーム会社として繁栄している。
続編のグレイト・ソウルズ2と3も高い人気を誇ったが、やはり1の無印こそが至高とマニアの間で好まれている。
……と、ここまで説明したところでレイスさんが口を開いた。
「ありがとう。 それを聞いて安心したよ」
レイスさんは何か、ひとつ吹っ切れたような表情で俺に笑顔を向けた。
思えば、俺がグレイト・ソウルズを買うきっかけになったのも、このニュースを知って「どんなゲームだろう?」と興味を持ったためだ。
それがまさか、俺の人生で一番好きなゲームになるとは…もとい、人生の宝物のような存在になるとは思いもよらなかった。
そう、グレイト・ソウルズは俺にとって人生そのものと言っても過言ではない。
この作品を生み出してくれた佐伯さんには、感謝してもしきれない。つまりレイスさんへの感謝だ。
きっと俺がこの世界に転生したのも、レイスさんに恩返しをするため……
俺が魔物としてこの世界に転生したのも、よく考えれば魔物でなければ知り得ない情報を、レイスさんに提供することができるからじゃないか?
そう考えると全てに合点がいく。きっとそうだ。いやそうに違いないっ……
俺は改めて佐伯さん…いや、レイスさんにこう告げた。
「レイスさん…… 一緒に魔王を討ち取りましょう!」
そして、固い握手を交わし、レイスさんはカローネスで拠点の町へ。
俺は、骨の馬に跨ってグランシアの城下町へと帰還した——
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