表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

16話 新しい朝

 今朝の俺は、ネルトよりも早く目が覚めた。


「おはよう、ネルト!」


 俺は、ベッドの上の段で寝ているネルトに、元気よく朝の挨拶を告げる。

 やはり、スケルトンになってから寝起きが最高に気持ちいい!


「エイトくんおはよー。 布団を畳んで朝ごはん食べに行こう」


 そして俺たちは、食堂へと向かう通路を歩きながら話をする。

 ネルトは昨晩の、娯楽室でエリンちゃんとお近づきになれた事がよほど嬉しかったのか、そのことばかり話していた。

 通路の途中、別の寝台部屋で寝ていたコパンが現れ、俺たちに話しかけてきた。


「おめェら早く行がねェと席取られッぞ?」


 そう言うとコパンは、食堂へと向かって走り去って行った。

 食堂に着くと、空いてる席は残り数席になっており、俺たちは急いで空いてる席に座った。

 おかげで今朝は、3人それぞれ別の席だ。


 しかし、不思議だ……今日は満席。

 この間の遠征で多くの兵士を失い、その翌日の朝食には50名ほど座れるこの食堂に、全員が着席しても席が余っていたというのに……

 たまたまあの日、食事に来なかった兵士たちが、今日は食べに来たということだろうか?


 そんなことを考えていると、俺の席に食事が運ばれてきた。知らないスケルトン女子だ。

 ふとネルトの席を見ると、エリンちゃんが配膳していて、何やらネルトと楽しそうに会話していた。


 その後はいつも通り、司祭による聖典の朗読を聞き、美味しい食事を楽しんだ。


「今日は、骨接ぎ場(ほねつぎば)で仕事だよ」


 食器を片付けていると、後ろからネルトが近付いてきて俺にそう言った。

 ……骨接ぎ場? またしても聞いたことのない言葉だ。

 この世界は、ゲームのグレイト・ソウルズにそっくりだが、ゲームには出てこなかった言葉や、獣などが存在する。


 俺は、ネルトに言われるまま一緒に城下町を抜け、グランシア城の裏口に回る。

 見張りのオークに挨拶し、裏門を抜けると、そこには綺麗な小川が流れていた。

 川縁にはスケルトン女子たちが数名、談笑しながら洗濯板を使って衣類を手洗いしている。彼女らがこんな仕事もしていたことを初めて知った。


 川の向こう岸には、鉄でできた案山子が10体ほど立ててあり、それを相手にスケルトン兵士たちが木刀を打ち込んで稽古している。

 "その稽古の指示を出しているのは、あの少数精鋭のドラガリアという小隊を率いる“ドラガ・ボーンヘルト“だ。相変わらず馬鹿デカイ身体をしている……"

 どうやら稽古を受けていたのはドラガリアの兵士たちで、なるほど…確かに普通のスケルトンより身体も大きく骨太で、近付きがたいオーラのようなものを感じる……


 小川の上流へと進んでいくと、少し開けた場所が見えてきた。

 そこにあったのは、なんと骨の山——

 それもビルの2階ほどの高さはある大きな骨の山が、左右に2つ並んでいる。

 さらに、その後ろには車輪付きの大きな木箱と、横で暇そうに座るトロールが一人いる。


 骨の山にはたくさんのスケルトン兵士たちが集まって、何か作業を行っているようだ。

 上にも数名のスケルトンが登って、腰を落とし、足元に落ちている骨を確認している。

 奥のほうには、骨くずを満杯に積んだ木箱をリアカーのように押して、山のほうへ向かっていく別のトロールが見える。


「えっ……何、これ?」


 俺はその異様な光景を目にして、思わず声が出ていた。

 すると、ネルトはただ業務内容を伝えるように淡々と説明を始めた。


「ここが骨接ぎ場だよ。

 右の山は、まだ選別していない骨の山。

 左の山は、再利用できそうな骨の山だよ。

 で、その後ろの木箱は破棄する骨を入れる場所ね」


 ……いったい何の話だ?

 あの骨は、まさか、俺たちスケルトン兵士の骨か……?

 疑問が解けずにいる俺の表情を察したのか、ネルトはもう少し詳しく説明してくれた。


「僕たちスケルトン兵士は、勇者にやられてすぐ数が減っちゃうでしょ。

 だから戦場に散らばった骨を、オークたちに集めさせて、ここに運んで来てもらうのさ。

 後は僕たちが“使える骨”を選別して、接合することで新たな兵士を作り出すんだよ」


 ……な、なんということだ。

 やはり、ここにある骨は、すべて散って逝った仲間たちの骨……

 俺がこの世界に転生してきた時の、あの戦場跡に転がっていたような骨を集めて来て、ここで使える骨と、使えない骨とで選別している…ということか。


「なあ、ネルト……接合するって言っても

 繋げるだけで兵士として復活するのか?」


「あ~、それは後でエクレア司祭がやって来て

 使える骨に向けて、命を吹き込む魔法をかけるんだ」


 なるほど……あんなに多くのスケルトン兵士を勇者に葬られても、数日後には大量に補填される理由が分かった。

 新しい志願兵もいるようだが、それだけではなく、バラバラになった骨を蘇らせていたんだ。

 ひょっとすると、俺がこの世界に転生してきた時も、色んな兵士の骨が組み合わされてこの身体が誕生したのか……?


「じゃあ早速始めようか。

 右の山から、なるべく綺麗な骨を見つけて、左の山に移動するだけの簡単な作業だよ。

 折れてたり、欠けていたり、ヒビが入っている骨は、後ろの木箱に投げ捨ててね」


 確かに作業自体は簡単そうだ。

 しかし…これが全部、仲間の骨だと思うと、何だか複雑な気持ちになる……


 ガララッ… カラッ ガラン… カランッ


 目視による確認と素手による仕分けは、やってみると意外に大変だった。

 できるだけ多く手に持って、使えるほうの山へと歩いて移動し、捨てる木箱のほうにも立ち寄って、また選別前の山へ移動する。

 これを気が遠くなるほど延々と続けなければならない……


「エイトくん、疲れたら休憩していいからね」


 汗をかくことはないスケルトンだが、疲労から動きが鈍くなる俺を見て、時折ネルトが声をかけてくれる。

 しかし俺は、こんな風に身体を動かして作業するのが、なぜか心地よく、働く意義を感じていた。

 こんな感覚は、現世にいた頃にはなかったものだ。


「ありがとうネルト。もう少し頑張るよ」


「そっか。じゃあ僕は、少し休憩してくるね」


 そう言ってネルトは一人で詰所のほうへ戻って行った。

 俺はなぜか“仕事をしている”ということに安心感のようなものを感じ、ネルトがいなくなってからも、黙々と作業を続けていた。


 あの日、エリンちゃんが言っていた“誰かの役に立てる仕事”……

 その言葉がずっと俺の心に残っていた。現世にいた頃には一度も考えたことのないことだ。

 俺は、例えどんな形であろうと、誰かに認められ、誰かに必要とされたかったのだろう——


 気が付くと、俺は時間も忘れて夢中で作業を続けていた。

 すると、城のほうから大きな声が聞こえてきた。


「勇者だッ! 勇者が“迷いの森”に現れたぞーッ!」


 それを聞いて骨接ぎ場のスケルトンたちは一斉にどよめいた。

 俺も作業の手を止め、周りのスケルトンたちと顔を見合わせる。


 皆がどうするのか様子を見ていると、作業に戻って仕事を続ける者もいれば、その場を離れて詰所のほうへ戻る者など、各々に違った対応を取っていた。

 俺は、一応カッツォの部隊に所属しているわけだし、ここはいったん詰所に戻ったほうが良さそうだな……

 そう思った俺は、手に持っていた骨をその場に置いて、足早に詰所へと向かった。


 先ほど、川の向こうに見えた部隊長のドラガと、ドラガリアの兵士たちの姿はなかった。


 そして詰所に到着すると、入口の前にはすでにたくさんのスケルトン兵士が集合していた。


「これより我々ドラガリアは、迷いの森へと進軍するッ!

 何としても七聖宝を守り、勇者どもの首を取れーッ!」


 どうやら、今回はカッツォの部隊ではなく、ドラガの部隊が勇者討伐へと向かうようだ。

 すると、部隊長のドラガがとんでもないことを言い出した。


「あ~、それと、カッツォ部隊の

 コパン、ネルト、エイトって3人いるか~?」


 えっ…… なんで俺たちの名前が呼ばれたんだ……?

 すると、俺のすぐ後ろから声がした。


「はいっ! 僕がネルトです!」


 振り返ると、そこには少し緊張した面持ちのネルトが、真っ直ぐ手を上げて立っていた。

 ネルトと目が合い、お互い「あっ…」と声が漏れた。

 そして、俺もネルトと同じように「はいっ」と手を上げて名乗り出る。


「おお、そこにいたのか。

 あと、もう一人はどこだー?」


 すると、詰所のほうからも大きな声。


「はーーいッ!オデッ! コパンはオデでーすっ!」


 詰所の玄関のほうに立っていたコパンが、甲冑をガシャガシャ揺らしながら、両手を掲げてドラガのほうへ駆け寄って行く。

 俺とネルトは、ドラガリア兵士たちの横をお辞儀しながら通り、ドラガの元へと向かう。

 兵士たちはまるで品定めするかのような目で、俺たちのことを見ているような気がした。


 ガシィッ!


 俺とネルトとコパンは、整列するドラガリア10名の前に立たされ、ドラガの大きな手で肩を掴まれた。

 その周りには詰所のスケルトン兵士たちもずらりと取り囲む中、ドラガは俺たちのことを大声で紹介した。


「お前たち、よく聞けー!

 この3人は、北の灯台で勇者たちの襲撃を潜り抜けた強者たちだ!

 さらに、カッツォを救出してここまで運んだ英雄である!」


 えっ…ちょっ……

 確かに生還は果たしたけれど、ただ勇者たちに無視されただけなのに……

 それに、救出したと言っても骨の馬から何度も落としたし、カッツォが望んだことではないのだが……


 そして、ドラガはさらにこう続けた。


「こいつらはカッツォの部隊に所属しているが、カッツォはまだ療養中のため今日は我々の部隊に同行する!

 お前たちもこいつらに学ぶことは多いはずだ。今日はぜひ互いに良い経験を積んでくれ!」


 すると、ドラガリアの兵士たちはザッ!という音とともに、俺たち3人へ向けて一斉に敬礼をした。

 詰所の兵士たちもそれを見て、同じように拍手しながら俺たちを称賛しはじめた。

 嬉しそうにカタカタと頭を震わせているコパンの横で、俺とネルトは顔を見合わせて絶句していた……


「よし、ラッセル。

 こいつらに装備と馬を与えてやれ。 10分後には出発するぞ!」


 ドラガがそう言うと、並んでいた兵士たちの中から「はッ」と声がした。

 長身でハンサムな顔骨をしたスケルトンが、スッと列から横に出て、俺たちの元へと歩み寄る。


「君たち、私に着いてきたまえ」


 俺たち3人はラッセルの後をついて行く。

 すると、グランシア城のすぐ近くにある大きな建物の前にやってきた。


「ここで待っていろ、すぐに戻る」


 そう言ってラッセルは兵舎の中へと入って行った。

 すると、緊張のせいかずっと黙っていたネルトが口を開いた。


「ここは“魔族の兵舎”と言ってね、位の高い兵士や、部隊長たちが住んでいるんだ。

 きっと、僕たちの装備品を見繕ってくれるんだろう」


 そういえば以前、コパンに町を案内してもらった時にも聞いたが、出鱈目ではなく本当に位の高いスケルトンの住居だったとは……

 外で少し待っていると、中からラッセルが出てきた。

 その後ろにはオークが二名、剣や槍、鎧や兜など、たくさん装備を荷台に積んで押している。


「さあ、好きな装備を選んでおけ。

 オレは裏の厩舎から馬を連れてくる」


 俺はその言葉を聞いて、背筋に冷たいものを感じた……

 またしても命をかけた戦いが近付いている……


 俺はいつも通り剣を手に取り、ネルトは弓矢、コパンは長槍を選んだ。

 鎧と盾、そして兜は同じデザインで、全てにドラガリアの紋様が記されている。


 こうして俺たちはどういうわけか、ドラガ率いる少数精鋭部隊ドラガリアの一員として、勇者討伐へ向かうこととなった——

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

ぜひ、評価や感想などお願いします(優しくね!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ