15話 あの日の戦
レイスは旅の仲間を引き連れ、いよいよ魔王討伐に向けて動き出す。
向かう場所は、“北の砦”——
その砦の先には、北の灯台があり、最上階の展望室には七聖宝のひとつ“星詠みの水鏡”がある。
あの灯台は元々、レイスが生まれ育ったグランシア王国の領土にあり、星詠みの水鏡もグランシア王国の国宝だっだ。
しかし、あの日の襲撃で——
父アルバート、母エリシア、そして大切な国民と家臣たちの命とともに奪われたのだ……
レイスは押し寄せる怒りと悲しみをグッと堪え、新たな仲間のザハル、セラ、グリモアとともにカローネスを走らせていた。
北の砦も、元はグランシア王国のものだが、今は魔物の手に落ちており、スケルトン兵士たちが管轄している。
この世界には様々な魔物がいて、魔王の城に近いほど強力な魔物が配置されており、ここは魔王の城からかなり遠いため、配置されている魔物も弱い部類の下級スケルトン兵士というわけだ。
そのため、これまで魔王討伐を志してきた“勇者”と呼ばれる者たちの多くは、まず最初にこの砦から攻略しようと挑んでいく。
レイスは過去にも旅の途中、この砦に訪れたことがあるが、その時に偶然、5人パーティーの“勇者一行”が砦にアタックをかけるのを目撃した。
盛大にスケルトン兵士を蹴散らし、ついには砦も攻略してしまったが、その後、風のうわさで耳にしたのは「北の灯台で“カッツォ”という部隊長にやられて全滅した」というものだった……
一兵卒のスケルトン兵士は弱くとも、部隊長クラスになると一筋縄にはいかないのである。
しかし稀に、カッツォと対決しても命辛々に生還を果たす勇者もおり、彼らはその後、酒場で武勇伝のようにカッツォの恐ろしさを語る。
「カッツォは強かったぞ~! だけどあいつ、動きが単調でな、あの破壊のクラブってのを振りかぶる時、3回は攻撃のチャンスがあったぜ!」
このような情報も、レイスは幼い頃の旅でも酒場に忍び込んでは耳にしていた。
また、レイスは過去に一度だけ、ユードリア海岸の付近を散策していた時、遠くから北の灯台へ向かうカッツォを目撃したこともあった。
あれは確かに、ただのスケルトン兵士とはまるで違う、近付きがたい覇気のようなものを感じた……
レイスが佐伯に転生していた時に作ったグレイト・ソウルズも、こうした情報をもとにしてデータが作られていたのである。
——北の砦は静かだった
それもそのはず、時刻はもう夜の帳が下りる頃。
曇天の空の下、砦を守るスケルトン兵士の軍団が並んでいる。
その数、およそ50名。
一人のスケルトン兵士が、見張りに疲れて空を見上げた時、ふと前方の丘に淡く黄金に光る4つの光を見つけた。
「なんだありゃ…?」
その光は瞬く間にスケルトン兵士たちに近づいて来る。
速い…!あんな速度で移動する生き物は、この世界にひとつしかない…
およそ200メートル先まで迫ってきた時、スケルトン兵士の一人が大声で叫んだ。
「カ、カローネス! カローネスだっ! 新手の勇者一行に違いない!」
それを聞いて一斉に武器を構えるスケルトン兵士たち。
4つの光は次第に距離を詰め、もうスケルトン兵士の目の前までやって来ていた。
先頭のカローネスに跨っているのはレイス、その後ろからセラ、グリモア、ザハルと続いている。
「ヤァァーーッ!!」
最初に仕掛けたのは長槍を装備したスケルトン兵士だった。
真っ直ぐに突進しながら、レイスに目掛けて槍を突く。
キィィンッ!
レイスのルミナスソードが、薄暗い夜の闇の中にキラリと輝き、スケルトン兵士の槍を弾いていなす。
さらに、その勢いのまま手首を返し、スケルトン兵士の首を一振りで斬り落とした。
ズバッ! ゴドンッ…
それを見た他のスケルトン兵士たちは、一歩後ずさりしながらもギュッと武器を握り直し、隊列を整えて迎え撃つ構えだ。
レイスはそこでカローネスの手綱を引き、ふわりとカローネスの鞍から降り、荒れた地に足を下ろした。
すると、カローネスは風とともにフワッ…と消えてゆく。
その後ろからセラも同じようにカローネスを降り、グリモア、ザハルも続けて降りた。
「この先、騎馬での戦いより、地上戦のほうが多くなるだろう。 ここで戦いに慣れておこう」
レイスが皆にそう告げると、セラが先ほど転がったスケルトンの頭を目掛けてハンマーを振り下ろした。
バガァァンッ!
「賛成っ! ウチが打ったこのハンマーを試すのに丁度いいわ」
その横から今度はグリモアが、手のひらに魔力を集めながら兵士たちに近づいていく。
「スケルトンか…… 久しく戦ってなかったが、どれ、私の魔法は今でも通用するかな?」
ゴァアアアアッ!!
グリモアが得意とする火炎系の攻撃魔法が、一気に辺りを覆い尽くす。
付近にいたスケルトン兵士たちは、瞬く間に炎に包まれ、阿鼻叫喚の光景が広がった。
「うわぁ…… あんたたち、えげつねぇな……」
その一連の流れを見て、ちょっと引いているザハルだったが、しっかりと補助系の魔法を唱えて、パーティーに防御力を高めるバフ効果を付与した。
コォォォ……
バフ魔法によって全身にオーラが纏うのを確認したレイスは、皆に向かって指示を出す。
「よしっ…… みんな、いくぞーッ!」
おおおおおッ!!
その声を皮切りに、スケルトン兵士たちも一斉にレイスたちへ飛び掛かっていき、レイスたちもまた息の合った連携で迎え撃ち、乱戦のような形となって戦いを繰り広げた。
剣と剣がぶつかり合う金属音に、甲冑を打ち砕くハンマーの音。
砕け散るスケルトンの骨が空中に飛散し、地面には折れた刃や骨の欠片、割れた盾などが散らばっていく。
そこへさらにグリモアが放つ火炎魔法によって、まるで全てを焼却するかのように戦火が広がっていった……
気が付けば、辺り一面は焼け野原と化し、殆どのスケルトン兵士を殲滅してしまった。
戦意を喪失したスケルトンには、あえて刃を向けることはせず、その場から立ち去るレイスたち。
しかし、ダメージを負って倒れていたスケルトン兵士の一人が、ガクガクと震えながら立ち上がり、レイスたちの後ろから大声で叫んできた。
「おい!待でェーッ!おめェらァ! オデはまだ生ぎでッぞォオーッ!」
そのスケルトン兵士は、他の兵士と違って胸にネームタグのようなものを付け、歯こぼれした剣を震える手で握り、レイスたちに戦いを挑んでいる。
「変わった子ね…… あんなやつもいるんだ」
セラはそう言いながらハンマーを握り、スケルトンに近付いて行く。
そしてハンマーを振りかざした瞬間…
ガララァァンッ——
そのスケルトンは、地面に倒れて動かなくなってしまった。
セラは拍子抜けしたような顔をして、ハンマーの先で頭を小突いてみる。
「……死んだのかな? ま、いっか」
セラはひょいとハンマーの柄の部分を肩に乗せ、レイスたちの元へと戻って行った。
そして、レイスたちは周りを見渡し、砦のほうへと向かって歩いて行く。
少し歩いたところで、レイスはふと気になる物を見つけた。
「……おっ」
それは、“ただの瓦礫”だが、何かによく似ている。
そのすぐ近くには、倒れたスケルトン兵士……
レイスは、その場に足を止め、じっとその光景を眺め始めた。
「……んっ、レイス君、どうかしたのかね?」
心配になったグリモアがレイスに近づき声をかける。
しかし、レイスは口元に指を当て、「シッ」とグリモアを制する。
グリモアはちょっとショック。
すると、レイスはおもむろに辺りに転がっている瓦礫を拾い集め、先ほど見つけた瓦礫の周囲に並べ始めた。
折れた大剣を見つけると、それを少し離れた場所に突き刺し、また元いた場所に戻って来て確認する。
その様子を、セラ、グリモア、ザハルの三人は、黙って見つめていた。
そしてレイスは最後に、倒れていたスケルトン兵士を担ぎ上げ、先ほど見つけた瓦礫に背中をつけて座らせると、その前に立ってルミナスソードを構えた。
刃の位置をよく定め、慎重に、かつ大胆に剣を一振りする。
ズガッ!
すると、スケルトン兵士の頭蓋骨に大きな刀傷が付き、それを見たレイスは満足気な表情を浮かべた。
「これで、よし…っと」
レイスはこの時、あのグレイト・ソウルズのプロモーションビデオに登場する有名なワンシーンを再現していた。
あまりによく似た瓦礫があったため、どうしても素通りすることができなかったのだ。
何か、こうすることで、あのゲームのエンディングのように、魔王を倒したら世界が平和になる気がして、験担ぎのような気持ちを込めて……
「待たせてすまなかった。
さあ、いったん街へ戻って“霧払いの光”を手に入れよう」
この先の道から灯台まで、深い霧に覆われていることを知っているレイスは、敢えてここで一度街へ戻ることを選択する。
レイスは首に下げたカローネスの呼び笛を吹き、人数分のカローネスを召喚すると、皆、颯爽と鞍に飛び乗る。
そして、レイスたちは街へと引き返して行った……
焼け野原となった戦場跡に、パチパチと舞う火花。
そこには、砕けた兵士たちの甲冑と焼けた骨の匂いだけが残っていた。
——ポォォォゥ……
すると、瓦礫の中に倒れていた一人のスケルトン兵士の胸に、ゆっくりと“青い光”が灯っていく……
全身ボロボロだったその兵士の身体が瞬く間に回復し、左腕の骨に少しだけ傷を残して殆ど修復されてしまった。
そして、その兵士はゆっくりと目を開け、曇天の空を眺めていた——
その後、部隊長のカッツォが現場に駆けつける。
「おぉ……こりゃあひでぇ…… 今回の勇者は、歯応えのありそうな連中だな……」
カッツォは毎度、勇者たちが過ぎ去った後にやって来て、生き残った兵士たちを連れてグランシア王国の城下町へと帰還する。
ほとんどの兵士は勇者たちによって葬られるが、ここで運良く生き延びることができた兵士は、カッツォの本軍と一緒に北の灯台を守りに行くことになる。
つまり、この北の砦の前に配属された兵士たちは、勇者たちの体力を削るために設置された、いわば捨てゴマのような兵士たちなのだ。
少しでも勇者たちに傷を負わせておけば、この後の北の灯台でカッツォが勇者たちを迎え撃つ際に、撃退しやすくなる……そういった思惑もあった。
「整列ーッ! 生き残りは前へ出ろ! ……あ、もともと骨だし生きてねぇか!」
カッツォの号令が焼け野原に響き渡る。
すると、先ほど勇者たちに啖呵を切ってぶっ倒れた兵士が、ちょうど意識を取り戻し、カッツォの元へとふらふら歩み寄る。
他にも、何とか立ち上がることのできた兵士たちは、よろよろとカッツォの元へ集まり、合わせて10名のスケルトン兵士が整列した。
「よーし、進めーーッ!」
こうして、カッツォ率いるスケルトン部隊は、骨の音を響かせながら、暗い夜道を行進していくのであった——
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