7.ダークホース現る。
「よし!アップ終了!円陣組むぞ!」
キャプテンが高らかに叫ぶ。
部員全員で大きな円を作る。
「目指すは優勝。今日の試合で俺達の名を轟かせるぞ!
勝つぞ!」
「おーーー!!!!!」
気合いの入った叫びが、体育館に響く。
「おーーー!!!!!」
相手チームも気合い十分の様だ。
ピー。
笛の音と共にコートの中心にボールが投げられる。
バスッ。
「高い?」
ジャンプボールに自信のあったキャプテンだったが、軽々と相手に負け、ボールは相手チームに渡る。
「戻れ!」
ドン、パスッ。
気付いた時には、ボールはゴールのネットを揺らしていた。
「は、早すぎだろ?」
キャプテンは、あっけにとられながらも切り替える様に、走ってボールを拾う。
「雅!やり返すぞ!」
「はい!」
雅は、渡ったボールを、すぐにパスで回す。
相手の守りは想像を絶する物だ。
「くっそー、崩せない。
弱小校じゃないのかよ?」
ポイントガードの先輩は、ボールのキープにさえ苦しんでいる。
「先輩!下さい!」
雅は、スリーポイントラインで、叫ぶ。
「やってみろ!」
バスッ。
雅にボールが渡る。
雅は、得意の攻めを繰り出す。
切り込むと見せかけて、その場に飛び上がる。
「ちっ、最高到達点までが早い!」
相手の選手は揺さぶられながらも、雅のシュートを防ごうと飛び上がる。
パスッ。
雅のシュートは、綺麗な弧を描き、ゴールのネットを揺らす。
「よっしゃー!」
雅は高らかに叫んだ。
「雅!早く戻れ!」
バスッ、バスッ、バスッ。
相手チームは、的確なパス回しで速攻を仕掛けてくる。
パスッ。
雅が戻る間もなく、相手チームのシュートは決まる。
「早すぎだろ。」
「雅!切り替えろ!お前から崩せ!」
キャプテンが雅にパスを出す。
相手チームは、雅を警戒せざる終えない様で、守りにほころびが生じる。
キャプテンは、そこを的確に突く。
ブー。
第一クウォーターが終わる。
「ハァハァハァ。」
あいつら何者だよ。
こっちはフラフラだってのに、ピンピンしてやがる。
スタメン選手は、ベンチに座り満身創痍だ。
「先輩、相手チームの事、少し調べたんですが、どうやら中学生史上最強の選手といわれてた5人ともが相手チームの学校に入学したって。」
一人の部員が、スマホをかざす。
「史上最強か。」
道理で強い訳だ。
「あー!くっそー!相手チームの事、ちゃんと調べておくべきだった!」
キャプテンは、弱小校と聞いていた一回戦は、難なく勝ち進む腹づもりでいた自分を悔やんだ。
「関係ない!」
雅は立ち上がる。
「絶対勝つ!」
雅の闘志に共鳴する様に、キャプテン達も立ち上がった。
「涼、どうした?」
祈る様な部員達を尻目に、涼は客席を見ていた。
「いや、すまん。あれ、池下だよな?」
涼は客席を指さした。
「・・・そうだな。」
一、ニ回戦は必ず勝つから、三回戦を観に来て欲しいって言ったのにな。
来てくれたんだ。
これは、いよいよ負けれんな。
雅が、見ている事に気付いた花蓮は、小さくガッツポーズをする。
雅は、小さく頷いた。
この後も、1点、2点の差で、苦しい攻防が続く。
雅は、1年生とは思えない活躍を見せた。
「ハァハァハァ。あいつらも1年だよな?どんな練習したらあんな体力つくんだよ。」
雅は、ディフェンスに下がり構えながら、涼しい顔をしている相手チームを迎え撃つ。
最後まで攻防は続き、1点差で負けている中、残り時間は10秒。
「雅!お前にかける!」
ゴール下から投げられたパスは、雅に渡る。
雅には、二人が攻め寄せてくる。
「うぉーー!!!!」
雅は、ドリブルで二人を抜き去り、開いたスペースで高く飛んだ。
「いけー!!!」
チッ。
雅は放ったシュートを放った瞬間、決まると確信したが、走り寄りながら飛んだ相手チームの選手の爪先にボールがかする音がした。
ガンッ。
ボールは、ゴールに弾かれ宙を舞う。
ブー。
「・・・負けた?のか?」
雅は、その場に崩れた。
「俺のせいで・・・負けた。」
キャプテンが駆け寄り、雅の腕を掴み立ち上がらせる。
「良くやった雅。」
「キャプテン、すいません!俺のせいで!」
雅の頬には、涙がつたっている。
「お前のせいじゃない!
とりあえず挨拶だ。」
フラフラと歩く雅をキャプテンが引きずる様にコートの真ん中に引っ張る。
「ありがとうございました。」
キャプテンに頭を押されなが、雅は礼をする。
コートには、涙がポツポツと堕ちる。
「さぁ、切り替えるぞ!
夏の大会に向けて練習だ!」
キャプテンは、雅の腕を肩に回し、ベンチに戻る。
「グスン。うわぁーん!」
客席では、花蓮が一人泣いていた。
ザワザワ。
花蓮は注目の的になっている。
お構い無しに、花蓮は泣いた。
大好きな人が悲しいと、こんなに悲しいの?
辛いよ〜。
「励ましたい!私が励ましたい!」
花蓮が、叫ぶと、また周りがザワザワしている。
ふと、我に返った花蓮は、辺りを見回し、顔を赤くして走り去った。
「おい、そこのイケメン。」
体育館の入り口。
花蓮は、俯いて一人トボトボと歩く雅に声をかけた。
「池下。負けちゃたわ。」
冗談めかしく言うと、雅は俯いた。
「何で一人なの?」
花蓮は辺りを見回した。
「一人になりたかったから。」
「そう。」
花蓮は、雅の手を握ると引っ張る様に歩き出した。
「えっ?池下?」
「この体育館、隣りに公園があるんだよ〜。」
「そ、そう。」
「手。」
「ん?」
「落ち込むイケメンを元気付けようと、手を握ってあげてるんだから、もっと嬉しそうにしてくれないかな?」
「・・・あぁ、試合に負けてなかったらすごく喜んだと思うわ。」
「な!・・・足りない・・・のね。
そこのベンチに座ろ。」
「えっ?うん。」
二人は、ベンチに座った。
「佐藤雅!」
「何だよ。」
叫ぶ花蓮に、雅は力無く答える。
「負けは負け!くよくよするな!
次の大会は絶対勝って!
私に悲しい思いさせないで!」
花蓮は、叫びながら雅の顔を胸元に抱きしめた。
「おっ!おい!池下!」
雅は、驚いてバタバタしている。
「大人しくしなさい。
・・・私も・・・客席で泣いちゃった。
周りの人に変な目で見られて恥ずかしかったんだ。
だから、次は勝ってね。」
「ゔ、ゔん。」
雅は、柔らかい花蓮の胸元で心地よい気分になった。
「癒される。何だか前向きな気持ちが少し湧いてきた。」
「じゃ、じゃあおしまい!」
花蓮は、雅の顔を押しのけた。
「痛いって。酷くないか?」
「・・・。」
雅が不満気に見ると、花蓮の顔は真っ赤になっていた。
「池下・・・ありがとう。」
「う、うん。」
花蓮は俯いて小さく呟いた。




