表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消しゴムを貸しただけで。  作者: 蓮太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/10

7.ダークホース現る。

「よし!アップ終了!円陣組むぞ!」

キャプテンが高らかに叫ぶ。


部員全員で大きな円を作る。

「目指すは優勝。今日の試合で俺達の名を轟かせるぞ!

勝つぞ!」


「おーーー!!!!!」

気合いの入った叫びが、体育館に響く。


「おーーー!!!!!」

相手チームも気合い十分の様だ。



ピー。

笛の音と共にコートの中心にボールが投げられる。


バスッ。

「高い?」

ジャンプボールに自信のあったキャプテンだったが、軽々と相手に負け、ボールは相手チームに渡る。

「戻れ!」


ドン、パスッ。

気付いた時には、ボールはゴールのネットを揺らしていた。


「は、早すぎだろ?」

キャプテンは、あっけにとられながらも切り替える様に、走ってボールを拾う。


「雅!やり返すぞ!」


「はい!」

雅は、渡ったボールを、すぐにパスで回す。

相手の守りは想像を絶する物だ。

「くっそー、崩せない。

弱小校じゃないのかよ?」

ポイントガードの先輩は、ボールのキープにさえ苦しんでいる。


「先輩!下さい!」

雅は、スリーポイントラインで、叫ぶ。


「やってみろ!」


バスッ。

雅にボールが渡る。

雅は、得意の攻めを繰り出す。

切り込むと見せかけて、その場に飛び上がる。

「ちっ、最高到達点までが早い!」

相手の選手は揺さぶられながらも、雅のシュートを防ごうと飛び上がる。

パスッ。

雅のシュートは、綺麗な弧を描き、ゴールのネットを揺らす。


「よっしゃー!」

雅は高らかに叫んだ。


「雅!早く戻れ!」


バスッ、バスッ、バスッ。

相手チームは、的確なパス回しで速攻を仕掛けてくる。

パスッ。


雅が戻る間もなく、相手チームのシュートは決まる。


「早すぎだろ。」


「雅!切り替えろ!お前から崩せ!」

キャプテンが雅にパスを出す。


相手チームは、雅を警戒せざる終えない様で、守りにほころびが生じる。

キャプテンは、そこを的確に突く。


ブー。

第一クウォーターが終わる。


「ハァハァハァ。」

あいつら何者だよ。

こっちはフラフラだってのに、ピンピンしてやがる。

スタメン選手は、ベンチに座り満身創痍だ。


「先輩、相手チームの事、少し調べたんですが、どうやら中学生史上最強の選手といわれてた5人ともが相手チームの学校に入学したって。」

一人の部員が、スマホをかざす。


「史上最強か。」

道理で強い訳だ。


「あー!くっそー!相手チームの事、ちゃんと調べておくべきだった!」

キャプテンは、弱小校と聞いていた一回戦は、難なく勝ち進む腹づもりでいた自分を悔やんだ。


「関係ない!」

雅は立ち上がる。

「絶対勝つ!」


雅の闘志に共鳴する様に、キャプテン達も立ち上がった。


「涼、どうした?」

祈る様な部員達を尻目に、涼は客席を見ていた。

「いや、すまん。あれ、池下だよな?」

涼は客席を指さした。


「・・・そうだな。」

一、ニ回戦は必ず勝つから、三回戦を観に来て欲しいって言ったのにな。

来てくれたんだ。

これは、いよいよ負けれんな。

雅が、見ている事に気付いた花蓮は、小さくガッツポーズをする。

雅は、小さく頷いた。


この後も、1点、2点の差で、苦しい攻防が続く。

雅は、1年生とは思えない活躍を見せた。


「ハァハァハァ。あいつらも1年だよな?どんな練習したらあんな体力つくんだよ。」

雅は、ディフェンスに下がり構えながら、涼しい顔をしている相手チームを迎え撃つ。

最後まで攻防は続き、1点差で負けている中、残り時間は10秒。

「雅!お前にかける!」

ゴール下から投げられたパスは、雅に渡る。

雅には、二人が攻め寄せてくる。

「うぉーー!!!!」

雅は、ドリブルで二人を抜き去り、開いたスペースで高く飛んだ。

「いけー!!!」

チッ。

雅は放ったシュートを放った瞬間、決まると確信したが、走り寄りながら飛んだ相手チームの選手の爪先にボールがかする音がした。


ガンッ。

ボールは、ゴールに弾かれ宙を舞う。


ブー。


「・・・負けた?のか?」

雅は、その場に崩れた。

「俺のせいで・・・負けた。」

キャプテンが駆け寄り、雅の腕を掴み立ち上がらせる。

「良くやった雅。」


「キャプテン、すいません!俺のせいで!」

雅の頬には、涙がつたっている。

「お前のせいじゃない!

とりあえず挨拶だ。」

フラフラと歩く雅をキャプテンが引きずる様にコートの真ん中に引っ張る。


「ありがとうございました。」

キャプテンに頭を押されなが、雅は礼をする。

コートには、涙がポツポツと堕ちる。


「さぁ、切り替えるぞ!

夏の大会に向けて練習だ!」

キャプテンは、雅の腕を肩に回し、ベンチに戻る。


「グスン。うわぁーん!」

客席では、花蓮が一人泣いていた。


ザワザワ。

花蓮は注目の的になっている。

お構い無しに、花蓮は泣いた。


大好きな人が悲しいと、こんなに悲しいの?

辛いよ〜。

「励ましたい!私が励ましたい!」

花蓮が、叫ぶと、また周りがザワザワしている。

ふと、我に返った花蓮は、辺りを見回し、顔を赤くして走り去った。



「おい、そこのイケメン。」

体育館の入り口。

花蓮は、俯いて一人トボトボと歩く雅に声をかけた。

「池下。負けちゃたわ。」

冗談めかしく言うと、雅は俯いた。

「何で一人なの?」

花蓮は辺りを見回した。

「一人になりたかったから。」


「そう。」

花蓮は、雅の手を握ると引っ張る様に歩き出した。

「えっ?池下?」


「この体育館、隣りに公園があるんだよ〜。」


「そ、そう。」


「手。」


「ん?」


「落ち込むイケメンを元気付けようと、手を握ってあげてるんだから、もっと嬉しそうにしてくれないかな?」


「・・・あぁ、試合に負けてなかったらすごく喜んだと思うわ。」


「な!・・・足りない・・・のね。

そこのベンチに座ろ。」


「えっ?うん。」


二人は、ベンチに座った。

「佐藤雅!」


「何だよ。」

叫ぶ花蓮に、雅は力無く答える。


「負けは負け!くよくよするな!

次の大会は絶対勝って!

私に悲しい思いさせないで!」

花蓮は、叫びながら雅の顔を胸元に抱きしめた。

「おっ!おい!池下!」

雅は、驚いてバタバタしている。


「大人しくしなさい。

・・・私も・・・客席で泣いちゃった。

周りの人に変な目で見られて恥ずかしかったんだ。

だから、次は勝ってね。」


「ゔ、ゔん。」

雅は、柔らかい花蓮の胸元で心地よい気分になった。

「癒される。何だか前向きな気持ちが少し湧いてきた。」


「じゃ、じゃあおしまい!」

花蓮は、雅の顔を押しのけた。


「痛いって。酷くないか?」


「・・・。」

雅が不満気に見ると、花蓮の顔は真っ赤になっていた。


「池下・・・ありがとう。」


「う、うん。」

花蓮は俯いて小さく呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ