6.約束。
ここ数日の日課になっている。
朝練の後、急いで教室に向かうのは。
「ハァハァハァ。」
俺、息を切らせて走って・・・。
そんなに会いたいのか、池下に。
心が乱れる。
バスケに集中できない。
この気持ちを伝えれば、元に戻れるだろうか。
ガラガラ。
教室のドアを開けると、いつもの様に席に座り、花蓮は本を読んでいる。
「おはよう。」
「おはよう。」
花蓮は、雅を見て挨拶した。
「・・・。」
雅は、黙って席に座る。
「ちょっと。」
花蓮は不満気に雅を見つめる。
「な、何?」
ダメだー!心臓のドキドキが
・・・息がしずらい。
「顔見て挨拶できたな!とかないわけ?」
「お、おぅ。」
「おぅって。
・・・私、何か怒らせた?」
「違う。何も怒ってない。」
「そ、そう。」
「・・・・。」
早朝の学校、物音一つない沈黙が二人を包んでいる。
変な空気に、花蓮もドキドキが止まらなくなった。
お互いに、胸の鼓動が相手に聴かれそうな、そんな心配をしている。
「あのさ!」
「あの!」
二人は満を持して声を発する。
「ふふっ。」
「ハハハッ。」
二人は、顔を見合わせて笑った。
「お先にどうぞ。」
花蓮は雅を見つめる。
「じゃ、じゃあ。
・・・今日で授業終わりだし、明日は式だけだろ?」
「えぇ。」
「しばらく会えなくなるだろ?」
「何か支障が?」
また、そんな事を口にする。
・・・私・・・私が嫌になる。
「支障しかない!」
「・・・何が言いたいのかしら?」
「だから、その、連絡先を。」
「・・・はい。」
花蓮は、カバンからスマホと取り出すと、コードを表示させ、雅に差し出した。
「いいのか?!」
雅は嬉しそうに笑う。
「え、えぇ。」
「やったぜ。断られると思ってた。」
「別に連絡先くらい。」
「あ〜、俺だから教えてくれたわけじゃないのな。」
雅は少し残念そうに、花蓮にスマホを返した。
「誰にでも教えようとは思わないけどね。」
花蓮はスマホを受け取ると、カバンにしまった。
「なぁ!」
本に視線を戻した花蓮に、雅が大きな声で呼びかけると、花蓮はビクッとした。
「声大きいよ。びっくりした。」
花蓮は再び雅を見る。
「すまん。だから、その、あれだ。」
「何ですか?」
「試合、観に来てくれないか?
俺、スタメンなんだ。」
「えっ?
・・・・いいわよ。」
「いいわよ?はどっちだ?
いいよなのか、結構ですなのか。」
雅は固唾を飲んで、花蓮の次の言葉を待っている。
「ふふっ。どっちだと思う?」
「・・・そう言うのマジでやめろよ。」
雅は不機嫌そうにしている。
「観に行くよ、だから、頑張れ。」
花蓮は雅を見つめて微笑んだ。
「・・・やったー!絶対だぞ!」
「分かったわよ。」
「そうか、そうか。
また試合の日時と場所送るな!」
「うん。」
二人とも、顔を赤くしてしばらく俯いた。
「なぁ。」
「何?」
「池下もさっき何か言おうとしたよな?」
「・・・半分は解決しました。」
「半分?」
「えぇ。半分。私も、佐藤君に連絡先聞こうと思ってました。」
「え?・・・そ、そうか〜。そうか。」
雅は嬉しそうに俯いた。
「じゃあ、残りの半分は?」
雅は思い出した様に花蓮を見る。
「秘密。」
「また秘密かよ。最近流行ってんのか?」
雅は、保健室の美人を思い出していた。
「知らな〜い。
・・・じゃあさ、試合に全部勝てたら教えてあげる。」
「なかなか厳しい条件だな。
トーナメントで優勝するのに、6試合勝たないといけないんだぞ?
しかも、三回戦は去年の優勝校。
三年生達は去年、ベスト8までいったみたいなんだけど、その優勝校に負けたって聞いてる。」
「だから?私を呼んどいて、簡単に負けたら承知しないわよ?」
「は、はぃ。
・・・頑張るわ!池下、ありがとな!
本当は、先輩達の試合に出るのビビッてたんだ。でも、何だか吹っ切れた!
俺のプレイを見て惚れるなよ!」
「はぃはぃ。応援してあげるから頑張りなさい。」
もう惚れてまーす。
これ以上好きになるとマズイのですが。
「おー、頑張る!」
嬉しい。楽しい。俺、やっぱり、池下が好きなんだ。
ドキドキとか、ワクワクとか、バスケ以外でこんな感情になるなんて。
不思議だ。
保健室の美人!アドバイスありがとう!
雅は、花蓮の前で、花蓮を思い浮かべて感謝するのだった。




