保健室の女神、再来。
キュッキュッ。
ダムダム。
トンッ。
「よっしゃ取ったー!走れー!」
放課後のバスケ部は、最後の仕上げとばかりに、今日も試合形式の練習に明け暮れている。
「よっしゃ!」
ゴール下にいた雅も、キャプテン達を追いかける。
2軍部員チームも負けじとディフェンスに戻る。
「ちっ、戻りが早いな。」
「当たり前だろ!負けるかよ!」
ゴール前で睨み合いになっている。
ダムダムダム。
キャプテンはドリブルしながらコートを見回す。
・・・おっ。いいとこに走るじゃねーか。
敵のいない所を目掛け、雅は走る。
「あっ、また池下。」
またしても雅は、窓の外の花蓮に気付き、走りながら目で追ってしまった。
「雅ー!」
「えっ?」
雅が視線を戻すと、ボールが足元に。
ダメだ!間に合わない!
ドスンッ。
雅は、ボールにつまづいて、派手に転んだ。
「雅!」
「すいません!」
雅はすぐに立ち上がる。
「お前、どうした?
マジでスタメン降ろすぞ?」
キャプテンは怒っている。
「すいません!」
「はぁ。とりあえず保健室。」
「えっ?」
「コートに血が堕ちる。バンソウコウ貼ってもらってこい。
お前、足くじいたりしてないだろうな?」
雅は、足首をクルクルと回した。
「大丈夫です。すぐ戻ります!」
血を落とさない様に注意しながらコートを出る雅を、キャプテンは頭を抱えて見送った。
ダメだ。
なんで俺は池下が気になるんだ。
試合中によそ見なんてした事なかったのにな。
「失礼しまーす!」
雅は保健室に入った。
「あっ、どうも。」
「?誰?」
「この間、デコの手当てしてもらった者ですが。」
「あ、あぁ。私、視力良くないから。」
またこのタイミング?
狙ってんの?
花蓮は、メガネを外し、髪を結い直そうとしている所だった。
「先生いる?」
「いないわ。今日はどうしましたか?」
「膝を少々。」
「スポーツマンなんだから、怪我はきおつけなさいよ?座って。」
「うん。」
雅は大人しく椅子に座る。
「・・・それ、やっぱり受け狙い?」
救急箱に顔を近づける花蓮を見て、雅は笑いそうにしている。
「だから、視力が悪いのよ。」
「メガネとかコンタクトすれば?」
「そうね。」
花蓮は、消毒液を見つけると、雅の膝に顔を近づけて、手当する。
「なあ。」
「何?」
「怪我して毎回手当してもらうのも悪いし、ちょっと相談してもいいか?」
「いいけど。」
「俺さ、こないだも、今日も、試合中にクラスの子が通ったのをさ、気づいたら目で追ってて、怪我したんだ。」
「・・・それで?」
「俺、その子の事好きなのかな?」
「はっ!はい?」
花蓮は驚いて、雅の顔を目を見開いて見つめる。
「なんで君が驚いてんの?」
「べ、別に。」
「俺、人を好きって言うのが分からなくてさ、まぁ多分俺のラブは全てバスケに注がれてるから仕方無いんだけど、このままボーっとするのが続いたら、スタメン降ろされるかもしれないし、何とかしたいんだよ。」
「う〜ん。バスケの事考える時と、その子の事考える時、ワクワクしたりドキドキしたり、同じ様な気持ちになる?」
「・・・う〜ん。なると言えばなる。」
「じゃあ、その子に会いたい?」
「・・・会いたい、と言うか、話したい。話しかけても、あんまり話してくれないんだ。」
「それは・・・私の経験上。」
「経験上?」
「秘密。」
「おぃ。」
雅は、膝の手当をしている花蓮を睨む。
「私からは言えないかな。
自分で考えたら?ヒントはあげたでしょ?」
「ゔん。まぁ、話の流れからすると、俺は少なからず池下が気になっているって事だな。」
「池下さんね〜。」
「知ってんの?」
「えっ?知らない。」
花蓮は、バンソウコウを強めに貼り、叩いた。
「いってー!ちょっと打ち身になってんだから優しくしてくれよ。」
雅は、自分の膝を優しくなでる。
「まぁ、好きかどうか分かった所で、恋をすると色々考えちゃうものだし、集中したいなら、その子をモノにすれば?
試合観に来てもらったりしたら、いいとこ見せたいって、集中できるかもね。」
「簡単に言うよな。
あいつは、ガードが刑務所並みに硬い。」
「ふふっ。何それ。」
「笑い事じゃない。俺は本気で悩んでる事に今気付いた。多分、俺は好きになったんだ。」
「あら〜。羨ましい。
精々頑張りなさい。」
「ところで、君の名前は?」
「秘密よ。」
「名前くらいいいだろ?後は聞かないから。」
「・・・花蓮。」
・・・バレるかな。
「・・・池下と同じだな。
花蓮!二度も手当してくれてありがとうな!じゃあ、俺っ試合に戻るわ!」
「いってらっしゃい。」
花蓮は、手を振り、雅を見送った。
・・・わぁーーー!!!
なんで?なんで!なんで?!
私の事好きって!
夢?!
花蓮は頬をつねってみた。
・・・ちゃんと・・・痛い。
私、両想いになれたってこと?
奇跡!奇跡、奇跡、奇跡ー!
でも、地味っ子、メガネの私を好きになるなんて、不思議な人。
花蓮は、諦めていた恋が実りそうになり、心をときめかせた。




