4.何故だろう?君と話したいのは。
「ハァハァハァ。」
朝練終わり、雅は階段を駆け上がっている。
ガラガラ。
「ハァハァハァ、おっ!いるな。」
教室の入り口で小さく呟くと、雅は自分の机に向かい、カバンを置く。
「池下、おはよう。」
「・・・おはよう。」
相変わらず花蓮は、本から目をそらさずに挨拶する。
「だから!」
雅は、花蓮の視線の先の本を隠す様に手を差し込んだ。
今日は顔近づけてくれないんだ。
残念。
そう思いながら、花蓮は雅に視線を移す。
「おはよう・・・これでいいのかしら?」
「うん!良くできました!」
満面の笑みで見つめられた花蓮は、ドキッとして本に視線を移した。
「また本かよ〜。」
雅は目を細めて花蓮を睨む。
「昨日から何なの?どうしたの?」
花蓮は呆れながら言う。
「だ、か、ら!池下と話したいんだよ!」
「・・・私に友達いないから?私は一人でいいの。お気になさらず。」
「違うよ。俺が話したいだけだ。」
う〜。この人は。
私はまだ免疫が精製されてないのよ。
少しづつお願いしたい。
なんて言えないけど。
「本当は違うんでしょ?私が一人だから、可哀想だからでしょ?
あなたは昨日、杉下君がいる時は話しかけて来なかった。
私と話すのが恥ずかしいなら、無理しないで大丈夫だから。
もう一度言うけど、私は一人でいいの。」
・・・私のバカ。何を言ってるの。
「・・・本当に違うんだけどな。」
池下は、涼がいても話しかけて欲しかったのか?
良くわからん。
「あのさ、他の奴がいる時に話しかけられたくないかなと思って昨日は自重したんだけど。
なんとなく、池下はわざと一人でいる気がしたから、俺が話しかけるのも申し訳ないと思ってる所に、涼まで入ってきたら迷惑かと思ったんだよ。
だから、俺が話したいと言うのは本当なんだけど。」
雅は、いつになく真剣な顔をしている。
「そ、そう。不本意ではあるけど、大体正解よ。」
「・・・それだけかよ。」
「・・・。」
なんて言えば正解?
神様!コミュ力を下さい!
「池下こそ、昨日のトイレ、嘘だろ?
逃げたよな?
・・・俺の事、嫌いか?
・・・・嫌いなら、もう」
「き、嫌いじゃない!」
花蓮は、雅に視線を移し、珍しく大きな声を出した。
「・・・嫌いじゃない。話しかけてくれても別にいい。私は、色々あって人と話すのが苦手になっただけ。
佐藤君と話すのは嫌じゃない。」
花蓮は、本に視線を移しながら、少し顔を赤くして呟いた。
「良かったー!」
雅は嬉しそうに笑う。
「でもさ、ならなんで昨日トイレとか嘘ついたんだよ。
それに、消しゴム貸してくれた日も、何か用事があって急いで帰ったのかと思ったら、学校にいるし。」
「えっ?」
保健室の事気付かれた?
まずい。
一年間隠し通したのに、またあんな事になるのは嫌。
「いや〜。何でだろうな?バスケの試合中にさ、池下が歩いてるのが窓から見えて、気づいたら目で追ってて、ボールが顔面に直撃してさ、で、この怪我。」
雅は、笑いながら前髪を上げ、バンソウコウを見せた。
「えっ?そのケガ、私のせいだったの?」
「池下は悪く無い。俺がよそ見したのが悪い!」
「・・・痛くない?」
「あぁ、もう痛くない。」
「良かった。」
「そんなに心配してくれるんだな。」
「べ、別に!」
花蓮はまた本に視線を戻した。
「あっ!そう言えばさ、池下って保健委員だよな?」
「えぇ。」
「この怪我した時に、保健室に行ったらさ、すごい美人がいてさ!」
「そ、そう。」
それ、私で〜す!
美人だなんて。
嬉しい。
「池下、その子知ってる?
名前も学年も教えてもらえなくてさ。」
「し、知らない。そんな美人いたかしら〜。」
花蓮はとぼけた表情で天井を見つめる。
「知らないのか〜。」
「も、もしかして、その人が好きになったとか?私と話すのは、その人とお近づきになるため?」
雅は、目を細めて花蓮を睨む。
「お前、相当卑屈だよなー。
別に美人だと思ったけど、何とも思ってないし、ただ、手当してくれたから、お礼をちゃんと言いたいんだよ。
それに、俺は今、その子よりも池下と話したい。」
「な、何言ってんの?それは世間一般から見ると、口説いてるわよ。」
「そ、そんな事は!」
少し照れた表情で雅は否定する。
な、何だ?
なんか変だ。
ドキッとした。
池下を口説いてんのか俺は?
「私の事が好きなのかしら?」
花蓮はニヤリと笑い、雅を見つめる。
「ば、バカ!何言ってんだよ!」
「ごめん、ごめん。
・・・そんなわけ無いよね。」
「ふふ、あはははっ!」
雅は、こらえきれずに笑い出した。
「何で笑うの?」
花蓮は不思議そうだ。
「だってさ、池下って以外と面白いな。」
「以外とって言うな。」
「すまん、すまん。
そう言えばさ、消しゴム貸してくれた日、俺達話した事あるって言ったよな?」
「おー!いたいた!雅ー、先に行くなら言えよ!探しただろ!」
涼が教室に入ってくる。
「ふふっ、また今度ね。」
花蓮は雅に微笑むと、本に視線をうつした。




